第8話 星のような砂糖菓子―ゴアで出会った金平糖
ゴアの町は、四人の少年たちにとって、驚きの連続だった。
港には、さまざまな国の船が集まっている。
市場では、香辛料や布地、宝石、そして見たこともない品々が売られていた。
コーチンで魚の揚げ物や豆のドーナツに夢中になった千々石ミゲルは、今度も市場を歩きながら、あちこちに目を向けていた。
「ねえ、マンショ。あれは何だろう?」
ミゲルが指さした先には、小さな箱が並んでいた。
箱の中には、白や赤、黄色の、小さな粒が入っている。
いや、粒というより、星のような形をしていた。
「お菓子でしょうか?」
原マルチノが、興味深そうにのぞき込む。
店の人が、箱を一つ開けて見せてくれた。
小さな突起が、いくつも外側に伸びている。
四人は、顔を見合わせた。
「これは、何でできているのですか?」
伊東マンショが尋ねると、店の人はポルトガル語で答えた。
砂糖を使った菓子だという。
「砂糖!」
ミゲルの顔が明るくなった。
甘いものと聞けば、試してみたくなる。
店の人が、四人に一粒ずつ渡してくれた。
マンショは、まず手のひらに載せて眺めた。
「ずいぶん不思議な形ですね」
マルチノは、指先でそっと転がした。
「どうやって、こんな形にするのでしょう」
ジュリアンは、白い粒を光にかざした。
星のような突起が、光を受けて小さく輝いている。
ミゲルだけは、観察よりも味見が先だった。
ぽん、と口に入れる。
カリッ。
小さな音がした。
「……甘い!」
ミゲルは、目を丸くした。
口の中で砂糖が溶けていく。
ただ甘いだけではない。
外側の硬い感触と、少しずつ消えていく甘さが、不思議だった。
「これ、もう一つ食べたい!」
「ミゲル、まだ一つしか食べていませんよ」
ジュリアンが笑った。
「だから、もう一つ食べたいんだよ!」
その言葉に、マンショも思わず笑ってしまった。
四人は、それぞれ菓子を口に入れた。
マルチノは、食べ終わってからも、空になった手のひらを見つめていた。
「砂糖を、こんな形にできるのですね」
「日本にも、甘いお菓子はあります。でも、これは見たことがありません」
マンショが言った。
ジュリアンは、店の人に尋ねた。
「このお菓子は、どこで作られているのですか?」
店の人は、ポルトガル語で説明してくれた。
四人には、すべてを理解することはできなかった。
それでも、この小さな菓子が、遠い国の人々の手によって作られ、海を越えて運ばれてきたことはわかった。
ミゲルは、箱の中をのぞき込んだ。
「ねえ、これ、日本にもあるのかな?」
「さあ。少なくとも、僕たちは見たことがないね」
マンショが答えた。
「だったら、日本に持って帰ろうよ!」
ミゲルの提案に、マルチノがうなずいた。
「持ち帰ることができれば、みんなにも見せられますね」
ジュリアンも、うれしそうに笑った。
「この形を見たら、きっと驚くでしょうね」
マンショは、もう一度、小さな砂糖菓子を見つめた。
海を越え、国を越え、人の手から人の手へ。
この小さな菓子にも、長い旅があるのだ。
自分たちもまた、遠い日本から、はるかなヨーロッパを目指して旅をしている。
そう考えると、手のひらの砂糖菓子が、少し特別なものに思えた。
「よし。日本に持って帰ろう!」
ミゲルが、もう一度言った。
「ただし、食べてしまわないように気をつけないといけませんね」
ジュリアンが冗談めかして言った。
「それは難しいなあ」
ミゲルは、真剣な顔で答えた。
三人は、とうとう声を上げて笑った。
ゴアの市場に、少年たちの笑い声が響いた。
その日、四人が出会ったのは、小さな砂糖菓子だった。
けれど、その小さな菓子は、彼らに異国の味を教えただけではない。
遠い国の文化が、海を越えて人々を結びつけていることを、そっと教えてくれた。
そして、四人の旅は、まだ続いていく。
いつか日本に帰ったとき、この星のような菓子を、誰かに見せることができるだろうか。
ミゲルは、最後にもう一度、箱を振り返った。
「……やっぱり、もう一つ食べたかったな」
マンショは、笑いながら答えた。
「次の港でも、何かおいしいものが見つかるかもしれないよ」
「本当?」
「さあ。それは、行ってみないとわからないね」
四人は、次の目的地へ向かって歩き出した。
星のような砂糖菓子の甘さを、まだ口の中に残しながら。
【史実との関係】
金平糖の名称はポルトガル語の confeito に由来するとされ、16世紀の南蛮交流と結びついています。
ただし、四人がゴアで金平糖を食べたという直接の記録を確認できているわけではありません。
また、現在の金平糖の特徴的な形が、当時すでに同じ形で作られていたかどうかも、慎重に扱う必要があります。
本文は、当時の交流を背景にした創作としてまとめました。




