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守護遣い-騙り探偵と癒しの守護-  作者: 長峰永地


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7/9

ヒメゴモムラ⑦腹探り

 七


 目を開けるとそこは真っ白な雪景色だった。

 嘘だ。

 それにそもそも小説の引用になっていない。

 その本を読んだこともない。

 目に見えたのは土くれの壁。

 寝ていることに気付いたので天井と改めようか。

 かちゃかちゃと金属音が響き、揺らめく光源はロウソクだろう。

 要するにあの座敷牢に似た場所に戻されたと言うことだ。

 身体をほぐす伸びをしようにも、手が縛られている。足もだ。

 わかりやすい拉致監禁、そういえばなんで気を失っていたんだっけ。

「お目覚めですか」

 視界に入ってきたのは猫目の男、相変わらず胡散臭い顔をしていやがる。

「どうなってる?」

「森の中で倒れていたのでお連れした次第ですよ?」

 そうだった、ゴリJKに棒で追い立てられてあほちゃんの突撃をくらって。

 そう考えたらこの猫目さん、一切悪くないな?

「助けてくれてありがとう、この縛っている物を解いてくれるとキチンとした救助扱いになるんですが」

「本当に救助したとお思いで?」

 わかってたよ、こんちくしょう!

「準備できました」

 猫目の隣にいた白衣の男が低い声で伝えている。

 準備、準備。健全な行為の準備で無いことは縛られていることからも明白だった。

「あなた、何者ですか?この村に何の用で?」

 その前にお聞きしたいのはその手に持っている注射器ってなんですか、昔から注射苦手なんですよね。

 僕の思いなど知らぬように猫目は白衣の男に顎をしゃくる。

その指示を受けて腕に針を差し込んだ。

「少しお話をしましょうか、なに時間稼ぎですので」

 こいつ性格悪いな!?

「何を注射したのか、教えてもらえませんかねぇ」

 精一杯の強がりでイヤミを言いたいがこんな仰向けに縛られた状態じゃ様にならないだろう。

「大丈夫、死にはしません」

 さっきの言葉通り、時間稼ぎなのだろう。

 で、死ぬ訳じゃないなら大方自白剤か何かか。

 予想通り視界が視界が歪んでいく。

 まるで水の中に頭を突っ込まれたように焦点が合わない。

「あなた、どこから来たんです?」

白衣の男が目の前で指を振りながら猫目が尋ねる。

 猫目は一切こちらには近寄らず、白衣を盾にして安全圏から見下ろしている。

「T都」

 自分のテキトーな性格が幸いした。

 嘘は、言ってないからな。

 その答えをお気に召さなかったのか、猫目は低く「おい」とだけ言った。

 顔に飛んでくる白衣の拳。

 よし、お前も殴リスト入りだからな。

「ふざけないで下さい。あなたは情報だけ出してくれれば良いんです。時間を掛けさせないで」

 さっきの薬が効いてきたのか、視界だけでなく音声まで乱れていく。

 言葉が聞き取り辛いったらありゃしない。

「何言ってるか、わからねぇ」

再び振るわれる拳。お前指示受けてねぇじゃないか!

「同じことを何度も言わせないでくれます?」

 言ってない!聞こえにくいから素直に言っただけなのに!

「あの男、いったい誰です?」

「誰って誰?」

 口開く度に殴られてるんですが!?

「言うまでも無いでしょう、あなた方が掘り返した男です」

「こっちが聞きたい。あのゴリJKに聞いてくれ」

 誠の名前を口に出した途端、猫目の眉がピクリと動いた。

「そうだ、あの子は何です?あんなモンスター連れ込んで」

「ずいぶんな言い方だけど何かしたの?」

 自白剤の影響か、思ったことが口に出てる。

 むしろ僕も聞きたかったことだ。

「質問するのはこちらです」


 何なのだ、この男は。

 自白剤が効いているのは明白。

 元々のやり取りだけで口を開けば軽薄なことしか出てこないのは知っていた。

 しかし口から出てくるのは質問を質問で返す言葉ばかり。

 もしかして何も知らないのか?

 考えてみれば行動の端々であの女に引っ張られているような点があった。

 こちらの情報をどこまで与えるべきか。

 本来であれば情報など与えず始末してしまえばいい。

 だが、今手がかりはこの男だけ。

 まさか気を失っている状況の女が逃げるとは思っていなかった。

「無様な仲間割れに心当たりは?」

「それもあのゴリに聞いてくれ」

 やはりあの仲間割れも一芝居打たれたということか。

 こちらが仕掛けた致命の毒虫で処理が終わると思っていた。

 しかしあの女は暗闇の中で小さな虫を見つけて始末した上でこちらに対して油断を誘う芝居を仕掛けてきた。

 その見え透いた策に引っ掛かり取り逃がしているという失態、あまりにも無様だ。

「ええ、あなたの次にちゃんと聞きますよ」

 手元にあの女がいないことを告げる必要はない。

 かと言ってこの男から聞ける情報はあるのか?

 ここまでの数言のやり取りで何の情報も価値も無いことはわかった。

 あの女に対して人質の価値があるか、それすらも疑わしい。

 だとしたら確認して女の捜索に労力を回す、これがベストか。

「あの男と、面識は無いんですね?」


猫目が改めて尋ねてくる。

 つまりこれは最後通牒か。

 さて、どう答えたものか。

「知らないよ、連れてこられただけだから」

 自白剤と言っても完全に思考ができない訳じゃない。

 慣れてくれば嘘を吐けないだけで答えることは選べる。

「そうですか」

 まぁそうなるよね、情報を出さないじゃなくて出せない。

 そんな奴に構う程ヒマじゃないよね。

「仕方ない、こっちも反撃に移ろうか」

 この言葉は自白剤の影響じゃない、時間稼ぎだ。

 視界の端に見えているピンクの固まり、あほちゃんがこっそり覗いているのが見えたからだ。

 猫目は僕の言葉を聞くと一瞬鼻白む顔を漏らしたがすぐに顔が引き締まる。

 よしよし、こっちに注意が向てくれた。

 そろりそろりと足音を立てないように歩いてくるあほちゃん。

 猫目と白衣の視界から外れつつ、僕が寝かされている台の下に潜り込んだ。

「もういい、始末しろ」

 身構えていたところで何も起きない。

 そのことに堪忍しきれなくなった猫目は振り返り部屋から出ていこうとする。

 その隙にあほちゃんがまず足を解放してくれた。

「さんきゅ!」

解放された足を大きく振り上げて白衣の顔面を蹴り上げる。

 3回も殴ったんだから物足りないが仕方ない。

「身体検査したのにどうやって抜けた……!」

 猫目ちゃんの目が開いて、入り口近くにあった手斧を取った。

 手斧!?

「あほちゃん、急いで!」

 蹴り上げるの、もう少し待てばよかった!

 足は両方OK、あと両手。

 そんなの待ってくれるわけもなく目を開いた猫目が手斧を振り上げた。

 下ろされる手斧を足で捌いて肩を押し返す。

 かといってこちらの動ける範囲は限られている。

「うぱっ!」

 取れたね!ありがとう!

 再び振り下ろされた手斧を後ろ回りで避けると勢いそのまま立ち上がる。

「拘束が甘かったですか。どれだけ杜撰なんでしょうね」

 猫目にはいきなり抜け出したように見えるだろうな。

「残念、日頃の行ないがいいからね。大層な守護が一緒にいるんだよ」

「うぱっ!」

あほちゃんは余裕のブイサイン。

「抜かせ!」

 目を開きアイデンティティを失った猫目はしつこく手斧を振るってくる。

 振り下ろされる斧を正面から受ける理由はない。

 こっちはすでに自由の身、降りてくる腕に横払いを叩いて軌道をズラす。

 そこから先は半歩でいい。

 向かってくる勢い、そしてこちらの前進。

 威力は、倍だ。

「か……はっ」

 鳩尾に肘をめり込ませると息もできない様子でその場に崩れ落ちる。

 吐き出したよだれはギリギリかからなかった。

「全く、弱い弱い」

 いくら因習村の長の側近とはいえ特別なトレーニングなんかしてるわけないからな。

 手斧くらいで逆転できると思うなよ!

「うぱ……」

 あほちゃんは細い目を向けているけど、本当だからね!

「とりあえずこいつらはここで放置、カギ掛けとけば問題ないでしょ」

 拘束・拷問を行なうにはうってつけ、さっきまで泊められそうになっていた座敷牢と同じ作りだろう。

 カギを拝借すると格子を閉めて施錠、これでこいつらは2度と出てこないだろうよ。

「うぱる」

 フラグとか言うんじゃありません。

「それよりあほちゃん、薬って抜ける?」

「うぱー」

 あほちゃんの取り出したるは、どこから出したかわからないチョコ。

「さんきゅ」

 口に含むとじんわりとした甘さが口に拡がった。

 そして視界の歪みが戻り、耳の反響も普通になっていく。

「よし、行こうか」

 反対側の牢に目をやると薄ぼんやりとロウソクの炎。

 そこに横たわる男の姿。誰だかはわからない。

 しかし似た服を見た覚えがある。しかもほんの数時間前に。

「……やべぇな、この村」

 今更な言葉が口から出たのはまだ自白剤が残っていたせいだろう。

 アイデンティティを失った男がもうひとり。

 この姿ではもうリヤカーを引くこともできまい。

 首から上が無くなったリアおじに手を合わせ、薄暗い座敷牢をさるのだった。

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