表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護遣い-騙り探偵と癒しの守護-  作者: 長峰永地


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

ヒメゴモムラ⑧炎

 八


 地下の座敷牢を抜けて屋敷に戻るとまだ暗いまま。

 どうやら僕が気を失っていてそれほど時間は経っていないようだ。

「うぱー」

 あほちゃんも這い出して来ると周りをきょろきょろと見回している。

「さ、帰ろうか」

「うぱっ?」

 あほちゃんは目を丸くして僕の背中をぽこぽこ叩いてくる。

 わかってるよ、ちゃんと覚えてるから。

「大丈夫、あのゴリちゃんを探すよ」

 そうは言ってもあの猫目が誠のことを酷くビビっていた。

 僕はまだ同じ霊長類扱いしてるけど猫目はそれ以上に酷い言いざまだった。

(クリーチャー、ねぇ?)

 誠がどこにいるのかも気になるところだがそれよりここから抜け出す手段を探すのが優先だろ。

 あれだけ猫目が怯えているなら無事ではあるんだろうど。

「居たか!」

「いいや、見つからん!」

「ガキ1匹に何手間取ってるんだ!」

 よし、無事がわかった。こっちはこっちでできることをしよう。

 そうは言っても考えたら僕がこの村に来た理由は無いんだよな。

 1番目指すべきはさっさと誠を見つけてこの場所から去ることなんだが。

「そっちも探せ!」

 やべ!そっちってこっちだ!

 どたどたと近付いてくる足音を躱すため、目の前の扉にすべりこむ。

 目の前を通っていく男。

 今、刀持ってなかったか!?

 もはや暴力を隠すつもりないじゃないか。

 耳をすましてみるが周囲に足音はない。

 しばらくここで過ごした方がいいか。

 入った部屋はどうやら書斎のようだった。

 本棚に書き物机、机の上にはすずりに筆。

「……なんだ?これ」

 すずりの隣に紐で綴じられた本が置かれている。

 あまりにも古く、表紙に書かれている文字も達筆過ぎて読めない。

 不用意に触れると崩れてしまいそうなボロボロの本。

 崩れても構わんと表紙をめくる。案の定何枚か紙がちぎれた。

「うーぱるっぱうぱるっぱ」

 あほちゃんから絶妙にいけないんだと言われている気がする。

 言われてしまったのでばらけた1枚の紙を拾うと中にははっきり「首」と書かれていた。

 首……?

 そういえば誠のストーカーもリアおじも、頭の骨が無かった。

 この紙に書かれている首意外の言葉は紙が黄ばんでいたり敗れていたり。

 そもそも字がぐにゃぐにゃで読めなかったり。

 そんな中、いくつか気になる単語が目に留まる。

『首』『若返り』『贄』『首』『首』『首』

 どれもこれも物騒な言葉が並ぶ。

 首ばかりなのは仕事でも無くしたのか。

「あほちゃん、どう思う?」

「うぷー?」

 興味なさそうに首を傾げる。

 そうだよね、それはわかる。

 他に情報は無いかと本を手に取ると更に1枚、何かが落ちる。

 明らかに紙の質が違う。

 挟まっていた物か。

「……写真?」

 拾い上げてひっくり返すとそれは白黒の写真。

 写っているのはひとりの女性。

 その人物に血の気が引いていく。

 昼間、堂々とふんぞり返っていた小娘、その人そのままが写っていた。

 そんなわけありえない。

「最近流行りのモノクロ加工?」

 写真の古い手触りで加工じゃないのは自分が1番わかってる。

「おや、ネズミが1匹」

 女の声が背後から聞こえた瞬間に身体が動いた。

 入ってきた側はダメ、右は壁。

 左は襖で仕切っているだけ、ぶち抜く!

 走って襖を蹴飛ばすと確かに抜けられた。

 しかしそこは三方壁で囲まれた広間。

 くそ、追い込まれた!

「人の家をそんなに壊さないでくれます?修繕にかかるお金出してくれるわけでもないのに」

 唯一の逃げ道に立つのは黒い着物を着た年若い女。

「別にここから出してくれるなら下ろして来ますけど?」

ATMがどこにあるか、わからないけどさ。

「ここから歩くと3時間ですね、でも心配しなくても良いですよ」

 にっこりと微笑む娘。

 その笑みが余計に体温を下げた。

「つまり、ここから出す気はない、と?」

「お判りなのにわざわざお聞きに?」

 長は笑みを崩さない。

「どうせ帰す気が無いなら教えてよ。……アンタいくつだ?」

 質問にぴくりと眉を動かす。

「女性に年齢を聞くなんて、無礼では?」

 どうやらビンゴだな。

「冥土の土産くらいいいだろう?」

 手に持っていた白黒写真を投げる。

 ひらひらと長の足元に滑り込むが、一瞥もくれない。

 そこで視線をズラしてくれたら逃げれたのによ。

「頭が良い人は、好きなんですけど」

「僕も人に害を与えない美人は好きだよ」

「あら、私のことですか?」

 見た目だけなら合格、だけど条件が違う。

「質問に答えてくれよ。アンタ、いくつだ?」

「答えましたよ、女性に年齢を聞くのは無礼だと」

 長はぽんっと手を叩く。

 物陰に隠れていた男が4人、姿を表した。

 手には刀や斧、火縄銃を……おい!ひとつおかしいだろ!

 いや、全部おかしいけれどさ!

「ネズミの駆除、お願いね」

 長の声と共に雄たけびをあげて突っ込んでくる男たち。

 あーもう!

 まず刀で突いてくる。

 切っ先を見て身体をズラして刀身を左右から挟みこむ。

 刃が折れる。折れる!?

 舞っている刀身を見たら茶色い錆が浮いている。

 手入れが甘い!

 折れた刀身を膝に突き立てる、まず1人!

 続いてきたのは斧男、猫目と被ってるんだよ!

 振り下ろされた斧を躱すと畳を叩き割る。

 振り上げられる前に踏みつけて、そのまま踏み台にしてこめかみに膝を叩きこむ、2人目!

 火縄銃2丁とか、時代がバグってるだろ。

 だけどそんな古いもので大丈夫か!

 まずひとりが引き金を絞る。

 炸裂音と火花が視界を一瞬白くする。

 だけどまっすぐ来るなら突きと変わらん!

 刀と同じ要領で身体をひねる。

 背後から壁にめり込む弾丸の音。

 慌てた相手の腕から銃を奪うと熱を持った銃身を首元に押し付ける。

 首を焼かれて息も漏らせない男にフルスイング。

 想定外の使い方に部品がバラバラになって舞い散った。

 3人シバいたところで4人目を睨む。

 怯えた目とロマンも無い見つめ合い。

 2秒も経たず悲鳴をあげて逃げ出していった。

 おい、根性はどこに置いていった、情けねぇ。

「……後で罰を与えませんと」

「罰より前に僕に褒美をくれないかね?」

 乱れた息を隠しながら尋ねるが長は表情を崩さない。

 目の前で3人倒されたにも関わらず、だ。

「そうですね、何が欲しいですか?」

 余裕を崩さない長に、頭に血が上っていく。

「アンタは、いくつだ、クソババア」

「無礼がすぎるぞ、若造」

 長の声が一気に低くなる。

 笑みは変わらない、だか目が笑ってない。

「そっちのが似合うぞ、醜い内面が表に出ててよ」

 男をはべらせて襲わせて、自分は高みの見物する俗物にはね。

「言葉が過ぎますよ。選ばれた私に向かって」

 選ばれた?自意識がムサシタワーより高いこって。

「そう、私にひれ伏すのは当然、なぜなら私は神に選ばれてこの立場を得たのですから」

悦に入る長の言葉を聞いてると恐怖よりも下らなさが勝る。

 炸裂音、後ろからだ。

 振り向く間もなく目の前の長の肩から一筋の鮮血が吹きあがる。

「大人しくしてください!」

 誰が来たのか声を聞けばわかる。

「無事ですか!無職とあほの子!」

 せめて自営業と言って!?

「うぱー!」

 ほらあほちゃんも文句言い出した!

「というかその火縄銃どっから持ってきた!」

「親切なおじさんが持ってきてくれたのでシバきました!」

 さすがゴリ、追い剥ぎも様になっている。

「助けに来たのにそんな言いぐさ!」

 言ってねぇよ!思ったけど!

「たった2匹の虫で何ができる……」

「うぱー!」

 あほちゃん、抗議も空気読んで!

 長は肩を抑えながらこちらを睨みつける。

 世界一そそらない上目遣いだこと。

「観念してください!あなたの身柄を拘束します!」

 火縄銃の銃口を定めたままじりじりと近寄っていく誠。

 しかし長は喉を鳴らした。

「ふふふ……身の程を知らぬ下賤な者がっ」

 ぞわっと産毛が逆立つのを感じる。

「ヤバい!避けろ!」

 言葉より早く身体が動いていた。

 すでに僕より前にいた誠を抱きつく形で突き飛ばす。

 その数瞬あとに黒い何かが通過する。

 ……これは、髪の毛か?

「……せ、セクハラは不問とします」

 当たり前だ、助けたんだぞ。

「勘の良いネズミだこと」

 天井を貫いた黒い束がしゅるしゅると長の元に戻っていく。

「……化け物じゃねぇか」

「選ばれた証、ですよ」

 長に目を向けると長かった黒髪が伸びて畳にまで垂れている。

 幾重にも束になり、蛇のように畳を這う黒髪。

「選ばれた……?」

「冥土の土産、欲しいのでしょう?」

 今までの作り笑顔と違い、本当に、本当に嬉しそうな笑みがどの表情よりも怖気が募る。

「この国も豊かになりました。食べ物に困らない、子も死なない。でもそんなのはほんの最近のこと」

 なんの話だ?

 こちらの疑問も気にせずに長は続ける。

「お腹って減るとなんでも食べるんです。雑草、木の皮、土までなんでも……でも限界もある」

 こちらに脅威を感じていないのか、天井を仰ぎながら両手を上げた。

「手を土まみれにしていた、でも無理だった。そんな時に神の思し召しがありました。恵みの雨、たくさんの雨」

 その当時を思い出すように恍惚な声で自らの頬を撫でる長。

「本当なら水も汲めずに流れてしまう。でも私は選ばれた。神が足を付けて窪みを作って下さった」

 直前に自分で土を食ってたことを忘れてる。

 空腹のあまり現実と妄想の区別が付かなかった時の偶然じゃないか。

「それとあの写真に何の関係が」

 そんな飢饉の起きるような時代の人間が今まで生きている理由にはならない。

「近くの社にお供えされていたの。若返りの秘術が」

 長の言葉は止まらない。

「選ばれた者は生き続けなければならないでしょう?だから私は続けたの。何年も、何十年も、何百年も」

 あるんだよな。

 この世と別の世界の境界を越えてしまったナニカ。

 そしてそのナニカに見入られてしまったダレカ。

「長!ご無事ですか!」

 壁の一部が開き、猫目が駆け込んでくる。

 そんな仕掛けあったのかよ!

「あぁ弥七。痛い、痛いわね」

 こんな状況で更に増えるのかよ。

「誠!逃げ……」

「うぱーん」

 振り向くとそこにいたはずの誠が忽然と消えている。

 ふざけんな、囮にしやがって!

「長、この者を捕まえます」

「痛い、痛いから」

 次に起きたことは時間を止めるには充分だった。

「食べさせてね」

「え?」

 長の言葉の直後、髪が弥七の四肢に絡みついていく。

「長?長!いったいなにを!」

髪を振り解こうと弥七が手足を振り回しているが軽く左右に揺れるだけ。

「いただきます」

「嫌だ!いや」

 長の後ろに引っ張られていく弥七。

 汚い悲鳴。

 重なる頭と頭。

 鈍い音。

 一切消えてしまう、男の声。

 何かを砕く、耳障りな音。

「ごちそうさま」

 髪が身体を放り投げると、壁にべしゃりと張り付いた。

 数瞬のあと、ズルズルと垂れてくる首のない身体。

「……身内だろ」

「ただの働きアリでしょ?」

 長の身体は先ほどより若く、いや幼く縮んでいる。

「でも、労働力が減っちゃうのは問題よね」

「リアおじも食っておいてよく言う」

 座敷牢を抜け出した時に見た死体。

 その死体も首から上が無くなっていた。

「だって簡単な処理もできずにネズミを紛れ込ませたでしょう?」

 微笑みながら出てくる言葉が、胸にヘドロを溜めていく。

「冥土の土産、充分よね」

 長の言葉をきっかけに畳の髪の毛が一気に伸びる。

 走り出すのは同時だった。

 畳に突き刺さった斧を引き抜き這ってくる髪に振り下ろす。

 部屋に響く金属音。

 髪の毛の勢いが衰えるどころか寄り集まってこちらに迫る。

 抵抗する余裕もなく四肢が絡めとられ宙に浮いてしまう。

「これ以上抵抗しないで。面倒でしょう?」

 腕の締め付けが強くなると手にしていた斧を落としてしまう。

「……僕を食うつもり?腹下すぞ」

「お腹壊すくらいたくさん経験してるから」

 ゆっくりと更に浮いていく身体。

 身動きは取れない。

「……情けないなぁ」

「なにが?」

 独り言に反応するとは思ってなかった。

「結局僕は化け物には敵わないか」

「口が過ぎるわよ」

「でも、境界を越えてるよな。あほちゃん」

「なにを言って」

 ぱつんと。

 ひとつの束が弾けた。

 まるできっかけのようにぱつんぱつんと次々に僕を縛っている髪が弾けていく。

「なにが起きてるの!」

「うぱー!」

 縛られた髪の周りを駆け回るあほちゃん。

 ハケを持った手で髪を撫でつけるとその部分がちぎれていく。

「なにをしているの!」

 全身の拘束が緩むと力尽くで拘束から抜け出して距離を取る。

「そんな、私の髪を切れるわけが」

「切ってないよ、癒したのさ」

 切れた理由を教えてあげると僕と長の間にあほちゃんが腕を組んで仁王立ち。

「癒し?意味がわからない。ただの人間にそんなこと」

「見えないか、だからお前は凡人だって言ってるんだ」

 僕の言葉に長は顔を歪める。

「その理由が堂々と姿を見せてくれているのに」

「うぱうぱ」

 あほちゃんは鷹揚に頷いた。

「理由ぅ?」

「偶然を勘違いして自分を中心にして。たまたまの力に酔いしれた。お前はのぼせ上った、ただの凡人だ」

 その時、長は初めて身を引いた。

「だが、見えないだろ。あほちゃんの姿を」

 長は目の前にいるあほちゃんを見ることができない、それはすでにわかってる。

「あほ、え?」

「当然だ、お前程度の存在が知覚できるほど小さな存在じゃないんだよ」

「うーぱ!」

 仕上げだからね!緊張感!

「ふざけないで!私は、選ばれた……!」

「この者に蝕まれた魂よ。×××の力を持ってあるべき場所へ癒されたまえ」

 ぼぅっと。

 空中に炎が灯る。

 次第に大きくなり、ある形にまとまっていく。

 炎のドクロ。

 次々と、次々と生み出されてまとまっていくしゃれこうべ。

「なんなの……このドクロは」

 長の周囲に炎が集まり、そして。

「いやあああ!!」

 炎のドクロが長に食らいつく。

 髪に、服に、肉体に。

 まるで長を食うようにくまなく襲い掛かる。

「熱い!苦しい!どうして……どうして!」

 逃げ出すこともできずに火だるまになっていく。

「今までどれだけ犠牲にしてきた。踏みにじってきた。その報いの結果だ」

「うそ!私は選ばれて……弥七!助けなさい、命令よ!」

 弥七と言われたドクロも、他の炎と同じように長の身体を貪っていく。

「先に裏切ったんだ、仕方ないだろう」

 ひとつの炎がこちらに近寄ってくる。

 他の炎は長を蹂躙しているのに一切襲う気配がない。

 じっとこちらの目を見るとまるでお辞儀をするように頭だけで俯く。

 そして長に向かうことなくそのまま外に出て行ってしまった。

「なんだったんだ、今のは」

「いやぁ!たすけて、たすけ……」

 火に塗れてもう限界だろう、半分焼けた顔をこちらに向けた。

「……ひっ!なんで、そんな、ものが……ばけもの……」

 僕と、あほちゃんを見ながら言葉が消えた。

 炎に包まれたヒトを見ながら倒れ込む。

「……力、借りると、キツい……」

 すでに指先すら動かない。

(逃げないと、このまま、焼かれて……)

「うぱー!うぱー!」

 ゆさゆさを身体を揺するあほちゃん。

(大丈夫ですか!あほの子!手伝って!)

 反響する言葉が耳に入りながら僕の意識は消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ