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守護遣い-騙り探偵と癒しの守護-  作者: 長峰永地


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6/9

ヒメゴモムラ⑥騙し合い

 六


「埋めてあげましょう」

 誠はぽつりとこぼした。

 わざわざ並べた白骨を再び埋める?

 その重労働誰がやると思ってるの?

「かといってこのまま放置するわけにもいかないでしょう?」

 だったらそもそも掘り返すなって話。

 そもそもこの白骨は推定ストーカーだろ?

「だからと言って骨になれば皆ホトケ、神仏に無礼を働くほど怖いもの知らずではありません」

 そんな古風で信心深い言葉が誠から出てくるとは思わなかった。

「はい、私はテキトーな石でも拾ってきます。それまでに埋めて置いてくださいね?」

「石?」

「墓石くらい、乗せてあげてもいいでしょう」

 こちらに振り向くことなく森の中に入っていく。

「おい、灯り!」

 背中に声をかけても、誠はすでに闇の中。

 暗視ゴーグルでも持ってるなら言ってくれれば良いのに。

「うぱっ!」

 あほちゃんが手をぽんっと叩く。

 そうだね、気にしても仕方ない。

 誠に言われた通り、掘り出した骨を再び穴に戻す。

 これって死体遺棄にならないか心配になるが、どうせ見つかりやしないだろ。

 下手をしたら明日にでも僕らはこの白骨のお友達になっていてもおかしくはないんだから。

「うぱっ!」

 そんな風に気が滅入っているとあほちゃんは背中をどんっと叩いてくる。

 わかったよ、今は集中しろってことだろ?

 そんな叩くことないじゃない。

 穴の中に骨を入れ、再び土をかけ直す。

 半分ほどかけたところで後ろの木々がさざめいた。

「うぱっ!」

 あほちゃんの声に振り返るとそこに誠が立っていた。

「お帰り、石見つかった?」

「……」

 返事くらいしてくれても良いのに。

「うぱっ!?」

 振り向いて穴埋めを続けようとしたときにあほちゃんが強引に引っ張り吹き飛んだ。

 木にぶつかり勢いが止まる。

 そこには太い枝を振り下ろした誠が立っていた。

 さすがゴリJK。

 そんなこと言ってる場合じゃないかも。

「身体が、動かない……」

 動いてるじゃない、枝振り回してるじゃない。

「うぱぱっ」

 そーゆーツッコミはいらないって?

 冷静になるタイミングは必要でしょ!

「なんですか、これ……」

 油の切れたブリキ人形のように軋んだ動きをしながら首だけこちらに向けた。

「新しいダイエット方法ー」

「これが直ったら殺す!」

 明確な殺す頂きました!

 誠は再び枝を掴むと片手で持ち上げる。

 バットのようなそれは見つけた場所が場所なら少年たちの憧れ、エクスカリバーになれていただろうに。

「絶対バカなこと考えてる!」

 察しのいい誠はバットのような枝を振りかぶってあほちゃんに向かっていく。

「あほちゃんを殴りに行くなんて!愛護団体に訴えられますよ!」

「状況を考えて物を言ってください!」

 そもそもあほちゃん、動物か微妙だから大丈夫の可能性が高いけどね。

 あほちゃんに振り被ったエクスカリバーは頭を抱えて伏せた上で空を切る。

 しかしふざけてないとするならなんだってんだ?

「助けてください、依頼の内!」

 冗談みたいなことを言う。

 何が起きてるのかわかってないのに。

 今度はずるずる得物を引きずりながらこちらに向かってくる。

「反撃していいー?」

「良い訳ないでしょう!」

 ダメらしい。すでに何度も人様を殴りつけているヤツの言葉とは思えない。

「落ち着け、ゴリさんに殴られる理由は無いはずだ!」

「今ひとつ増えた!」

 誠は先ほどより機敏にこちらに向かって太い枝を振り回す。

 恨みが加わったせいか、さっきより狙いが鋭くなっている、気がする。

「ほら、自分の意思じゃない」

「自由に動くなら1撃で仕留めてます!」

 おっかないことを口走っている。

 もちろん、誠の意思じゃないのはわかっていた。

 それは殴りつけるとき少しばかり狙いが逸れていることだ。

 一応必死に抵抗して致命傷を与えないように逆らっていてくれているらしい。

 そうは言っても重い枝のためかブレて危うく当たりそうになる。

「もう少し上手く外してくれない!?」

「だったら上手く避けてください!」

 卵が先か、鶏が先か。

 殴るのが先か、避けるのが先か。

 いや、殴るのをやめてくれるだけで解決するなぁ?

 しかも誠は僕とあほちゃんを交互に殴りかかっている。

 あほちゃんは左右にバタバタと転がりながら1発も当たっていない様子。

 確かに頑張って外していることがわかった。

 それでも誠は枝を振り続けているためか、汗だくになりながら肩で息をしている。

「いい加減、気付けっ!」

 いや、操られていることは気付いているんだわ。

 だけど殴り続けているから避けているだけで。

 いくら女の腕力とはいえ枝の重量は相当のものなことは想像できる。

 地面をえぐる度に舞い上がる土煙。

 は、言い過ぎかも知れないが泥が跳ねて誠は土塗れになっていく。

 それにしたって誠の体力の続くこと。

 僕とあほちゃんに交互に殴りかかっているのにまだ倒れない。

 正直、スタミナ切れのTKOを狙っていたのに誤算も誤算。

 意外と体力あるな、誠。

 こちらも息が上がり、足がもつれ始める。

「避けてっ!」

 もつれた足で踏ん張りが遅れたタイミングで枝が目の前に迫る。

 とうとうぶつかるかと覚悟した直前、明らかに枝の振り下ろしがこちらを避けた。

 ……いい加減、気付けってそういうことかい。

「あほちゃん!……あほちゃん?」

 事の次第が分かりあほちゃんに呼びかける。

 当の本うぱは優雅にお遊戯しているよ、あの子体力とか関係ないから。

「しまっ……」

 土から出た木の根に足を取られてバランスを崩す。

 その声に反応したのか、誠が振り向いて高々枝を振りかぶる。

「うぱー!」

 こちらの危険を察したあほちゃんは叫び声を上げながら突撃してくる。痛い!?

 あほちゃんの突撃でそのまま木に飛び込んで行き、頭をしこたま打ち付けた。

「やっと、終わった……」

 薄れゆく意識の中聞こえたのは、誠の安堵の声とそして倒れ込む音。

 心配するあほちゃんの声を聞きながら僕は目を閉じるのだった。


 長に報告を終えて再びふたりの様子見に来た弥七は首を傾げた。

 戻ったら、ふたりが地面に倒れていたからだ。

 油断を誘うため?それはないだろう。

 なぜならふたりは弥七の存在に気付いていた様子など無かったのだから。

 念のため、小石を放り投げて反応を見る。

 声すら漏らさない。

 慎重に木々を伝い、真上に。

 かすかに動く胸部で死んでいないことはわかった。

 辺りに残る痕跡から女の方が男に襲い掛かったことは明白だった。

「しかしどちらにしろ都合がいい」

 弥七はふたりを後ろ手に縛ると、その場を離れる。

 あとでふたりを運ぶ人員を送ればいい、うつ伏せて手を後ろで縛っておけば逃げられることも無いだろう。

 本当は足も縛っておきたかったのだが、懐に忍ばせていた縄では手を縛る分しかなかったのだ。

 弥七は首を傾げる。

 なぜこのふたりは同士討ちしたのだろうか。

 ふたりとも生きているため、厳密には同士討ちではないのだが。

 仲が良いとは到底見えなかった。

 しかし露骨な仲間割れをするほど愚かにも思えなかった。

 何かの策を疑ったが、ふたりともしっかり気を失っており、縛る際に何の抵抗も無かった。

 おびき寄せるためなのだとしたら大人しく無力化される訳がないのだ。

 家に戻り、回収を指示した後、ふたりは変わらず地面に寝ていた報告を受けた。

 そして相変わらず意識の無いまま運び込んだことも。

 その何事も無かった報告を受けて一言「そうですか」とだけ返した。

 警戒など無意味だった。

 ただの杞憂、ただの凡人たち。

 この後の処理に念のため立ち会うことになるのはわかっていた。

 ただ、それも無意味だろうと。

 あの男同様、居なくなるだけだろうと。

 その判断を弥七は後に後悔することになる。

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