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守護遣い-騙り探偵と癒しの守護-  作者: 長峰永地


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4/9

ヒメゴモムラ④暗闇の対面

 四


 深く、真っ暗な森の中。

 先頭を歩くのはあほちゃん、手にはカンテラを持ってぽてぽてと歩いている。

 カンテラの灯り以外周囲は闇に包まれている。

「緊張感……」

「うぱっ?」

 そもそもあほちゃんにシリアスを求めるのが間違ってるんだって。

「それより、こんな堂々と灯り付けて大丈夫なんですか?」

「平気平気。この灯りは僕らにしか見えないから」

 僕の言葉に首を傾げる誠。

 そもそもの話、あほちゃんが持つこの灯りはこっちの世界の物じゃない。

 あほちゃんが住んでいる世界から引っ張ってきた光をカンテラに込めているとかなんとか。

 本人の談なので僕も理屈は分かってないけど。

「なんでも良いですけど。それよりまだですか?」

 自分の感情に素直なことで。

「場所、しっかり覚えてるわけじゃないからね」

 今、目指しているのはリアおじが出てきた森の中。

 1回しか見ていない上にもう完全に日が落ちて真っ暗。

 更に戻っているのも歩いてきた大通りではない。

 用心のため森の中を歩いているんだから今どこを歩いているかも微妙にわからない。

 大体の方向は分かるけど、ちゃんとした場所までどれくらいかは時の運だよね。

「そんなテキトーで見つかります?それに……」

 誠はそこで言葉を切る。

 急な無言に振り向くと左右をちらちらと見ていた。

「こんな夜でしょう?虫とかクマとか出たら……」

 先に出てくるのが虫であるあたり、緊張感というものが無いのはお互い様かもしれない。

「大丈夫、あほちゃんのカンテラがあるから」

 自分のことを呼ばれたからか、カンテラを掲げ腰に手をやって見せびらかす。

 何を隠そうこのあほちゃんのカンテラ、虫除けとして抜群の性能をしているのだ!

「……なんで虫除け?」

「ほら、副産物としてなのよ」

 そもそもあほちゃんが掲げているカンテラの中の炎はこっちの世界にある炎じゃない。

 そんな物を普通に感じるのはどうやら人間だけで多くの生物はこの炎の異常さに気付くようだ。

「それって人体に悪影響無いんですか?」

「少なくとも僕は身体壊したことないな」

 ちゃんと使っているのを見るのも初めて、という話はしない方が良いだろう。

「うぱーぱ」

 あほちゃんは指を立てて振っている。

「そうだね、ちゃんと調整してくれてるもんね」

 あほちゃん曰く「死にはしない」と言っている。

 むしろ聞かなかった方が安心できた。

「うぱうぱー」

「はいはい、肩車ねー」

 あほちゃんは歩くことに飽きたのか、こちらに手を伸ばして膝にしがみつく。

 このままでは歩けやしないので抱きかかえて肩に乗せた。

「ピクニックじゃないんですよ、全く……」

 誠は不満げだったが離れようとはしない。

 それはそうだろう、曲がりなりにも虫除け獣除けの力がある近くから離れたい人は居ない。

 まして誠は一応、いーちーおーうー女の子。

「邪心を感じました」

 そういう勘だけ良いのは勘弁してほしい。

「んー、方向は合ってたみたい」

 急にそんなことを言い出したのは話を誤魔化すためではない。

「そんな適当言い出すと言うことは、やはり邪心が」

「これを見てよ」

 今にも殴りかかりそうなオーラを纏った誠の目線を下に下げてもらう。

 同じ幅で引かれた2本の溝。

 溝の幅は自転車のタイヤより少し太い程度だった。

「車……でもこんな細い?」

「リアカーだよ、たぶんね」

 今は行方の知れないリアおじのアイデンティティ、リアカーの轍。

 これがあると言うことは間違いなく近くに目的の場所がある。

「……どっちだと思う?」

 問題はこの溝の向きがどっちか分からないこと、なんだけど。

 あいにくと足跡は残っていない。

 靴の後でどっちに進んだか見比べることはできなかった。

 誠は無言であほちゃんを抱えて降ろし、溝にカンテラの光を当てる。

 沿って溝を見比べているとものの20秒ほどで立ち上がった。

「こっちですね」

 それだけ言うと誠はあほちゃんを抱えたままズンズン進んでいく。

 僕も慌ててふたりの後を追いかけていく。

 こんな状況で暗闇に置き去りにされたらたまったものじゃない。

「どうしてこっち?」

 誠が見ていたのは溝だけ。

 それなのにこんな自信満々に歩き出す理由を聞きたかった。

「仮にリアカーで運んでいたのが死体だったのなら、人ひとりで引っ張るのは大変ですよね。舗装された道路ならいざ知らず、こんな木の根も浮いているような森の中。スムーズに進めると思います?」

 リアカーを引いていたのは僕らが見た限りあのおじさんだけ。

 そりゃすんなり引っ張れるわけもない。

「あの溝、何回も引っかかるようなわずかなえぐれ方をしていました。つまりその方向に進めば良いんです」

 言われてあほちゃんが照らす道をよく見ると確かに折り返した蚊のように途中溝が二重三重に刻まれているのが残っていた。

「でもならなんでこっち?もしかして帰り道かもしれないだろ?」

 確かに進んだ方向は分かる。

 ただ、その進行が行きなのか帰りなのかは判断できない。

「あなた本当に探偵ですか?帰りはそんなに苦労しないはずですよ。積み荷がなくなっているんだから」

 そう、僕らと遭遇したリアおじは空のリアカーを引いていた。

 名前がいくらリアおじとはいえ、趣味でリアカーを引いているわけじゃないだろう。

 リアカーの使い方は楽に荷物を運ぶため。

 帰りに空だったというのなら、行きは何か積んでいた。

 その何かを捨てるために。

「つまり、重い状態で引っ張っている方向に進めば良いんです」

 ぐうの音も出ない正論。

 というか、この調査に僕要らなかったんじゃないか?

「いざというときの壁がないと困ります」

 堂々と壁って言った!?

「あのなぁ……」

「ここです」

 誠がぴたりと足を止めた。

 そこは確かに土がむき出しになっていたがそれまでにも似たような場所は何度か通って来た。

 それなのになんでここ?

「足の感覚でわかります。こんなに柔らかいのはなんででしょうね」

 それは簡単。

 固い土を掘って埋めなおしたからだ。

「掘り返す?」

「もちろん……でも、道具が」

 確かに荷物は置いてきてしまった。

 まぁ、その荷物の中にスコップなんかあるわけ無いんだけど。

「あほちゃん、任せられる?」

「ぱー?」

 明らかに不満顔。そりゃ好き好んで土まみれになりたいわけないよね。

「スコップあるなら出してくれてもいいよ」

「ぱっ!」

 秒で出てくるスコップ。

 どこから出したのかは聞きませんよ。

「この両生類、本当に両生類ですか?」

 だから守護だって。

「さ、キリキリ掘ってください」

 誠は腕を組んで、スコップに触れようとすらしない。

「うーぱ」

 あほちゃんまで!?

 取り出したスコップの柄をこちらに向けてくる。

 はいはい、やれば良いんでしょ、やれば。

 差し出されたスコップを受け取り、地面に突き立てる。

 柔らかい。

 こんな暗い中歩いていて、足の感覚だけで分かるくらいだ。

 少しズレた場所にスコップを当てると急激に固くなる。

 柔らかい部分と固い部分がこんなにはっきり分かれている。

 つまり、ここを掘って埋め直してすぐと言うことだ。

「なんだ、罰にならなそうですね」

「罰ってなんだよ!?」

「こんな乙女を真夜中連れまわしている罰?」

 お前の依頼だろうが!

「というか、乙女?見当たらないけど」

「うぱっ!?」

 僕の言葉にあほちゃんは木の上に駆けあがっていく。

「てーい」

 気の抜けた掛け声とは裏腹に、僕の腹に打ち込まれた衝撃は誠が乙女でない証明じゃなかろうか。

「ほら、早く掘らないと夜が明けますよー」

 コイツ、悪魔なんじゃなかろうか。

 ゆっくりと起き上がるとスコップを取って再び地面に突き立てる。

 掘り返された部分が明らかに違うので分かりやすい。

 わざわざ掘られていないところを苦労してひっくり返す必要などない。

 その成果はすぐに出てきたからね。

「あほちゃん、灯り」

 カンテラを近付けるとそこにあったのは白いかけら。

 土を掘り返せば次から次へと形の違うかけらが出てくる。

「まだ掘らなきゃダメ?」

 何が出てきているのか、そんなことは誠にもわかっているはず。

 それでも誠は頷いた。

「どうせなら、全部」

 返答はそれだけ。

 腕を組んだまま、姿勢も崩さず。

 少しばかり地面を掘って僕よりも高くなった目線で見下ろしていた。

 辺りはカンテラの光しかない。

 表情も読み解けぬまま、黙々と穴を掘り返す。

 以前掘った穴と思われる場所は全て掘り返した。

 そこから出てきた大きなかけらも。

 他にも細かなかけらが大量に土に塗れているが、こう暗くては全てを見つけることはできなかった。

「あほちゃん、シート出せる?できれば黒い方が良い」

 白いかけらをあほちゃんが出したシートの上に並べていく。

 誠は相変わらず無言。

 大きなかけらを並べるだけでも、いや掘り返している時点でこれが何なのか判断はついていた。

 見つかったかけらを大まかに並べていく。

 これは”腕”これは”脚”

 かけらの太さでなんとなく並べる。

 埋められた以外、綺麗な形をしていたのも幸いした。

「……クロ、ですね」

 並べられた白骨を見下ろしながら誠は低い声でそう言った。

 成人男性を思わせる白骨。

 これを見て1番注目するべきところはあえて口に出していない。

 それならばと僕もあえて口には出すまいよ。

 その白骨遺体に、頭の骨だけ無いなんて。

 この人物の正体を詳しく調べる方法はこの場には無い。

 しかし僕らにはその心辺りがあった。

 3日前にヒメゴモムラに行くと言い残し、行方をくらませた成人男性。

 宮崎太一。

 誠とゲームを通じて知り合ったストーカー。

 その人物との初対面が、顔も合わせることなく終わってしまったことは実に残念なことだった。

 何も言わぬ彼を見下ろしながら、嫌な気配で振り返る。

 当然、そこには何もないのだけれども。

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