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守護遣い-騙り探偵と癒しの守護-  作者: 長峰永地


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3/8

ヒメゴモムラ③若き長

 三


「遠路はるばるようこそ」

 取って食われることを想像して進んで行くと、出てきたのは鬼でも蛇でもなく、美しい女性だった。

 長い黒髪、通った目鼻立ち、痩躯。しかも、どう見ても20代にしか見えない上に権力者。

 黒い、重々しい着物を着ていることでさらに和服美人という完璧さ。

「申し訳ございません、少々取り込んでおりまして」

「こちらこそ、いきなり来たのに皆さんにお招き頂いて」

 当たり障りのない返答をしつつ、周囲に囲まれている圧迫感への皮肉を入れたけど効きやしないだろうよ。

 そう、皆さん。その和服美人と僕たちの間にズラリと並ぶ強面の中年以上のお歴々。

 その偉そうな……失礼、由緒ありそうな女性が鎮座する奥の間からふすま隔ててちょうど二間、畳を縦に並べて6枚分離れているわけだから、まぁ下座も下座。

 全く歓迎するつもりもないし、なんなら視界に入れたくも無いのだろうな。

 僕と誠にはぺったんこな座布団。

 隣に座るあほちゃんには守護をダメにするぽよぽよクッション。

 もちろんあほちゃんだけ特別扱いされているわけではなく、自分で取り出したクッションである。

 どこから取り出したのか気になっている良い子の皆。

 世の中には知らない方が幸せなこともあるんだよ。

(このナマモノ、平然と座ってますけど良いんですか?)

(大丈夫じゃない?信じたくなくて見て見ぬフリでしょ)

 僕だって最初に出会った時は視力検査したくなったもの。

 その視力検査で隠す丸いアレをあほちゃんから渡されて諦めたけど。

「何かございましたか?」

「いえ、なんでも」

 明らかにこの家の主の前でしていたヒソヒソ話は癇に障ったらしく、笑顔のまま声のトーンがひとつ下がっている。

「ごめんなさいね、3日前に祖母が亡くなりまして。そのことで少々ばたついて」

「そんなお忙しいところにお邪魔してしまって申し訳ない」

 お互い歯に衣を着せまくった言葉の応酬。

 少なくとも僕は申し訳ないなんて思ってないし、奥の部屋にいるあの人も言いたいことは言葉にしていないだろう。

 周囲に並ぶおじさんたちの目線で分かってしまう。

 『お前ら、何しに来た?』ってね。

「いえ、忙しいのはすでに終えてます。むしろこれからが大変で」

「と、言いますと?」

 少しでも情報をくれるなら貰いたい。というかあっちが話したそうだから聞いて差し上げよう。

「祖母はこの家の……いえ、村の当主を務めておりました。その後を私が継ぐのです」

「お若いのに村を取り仕切るなんてご苦労でしょう」

 狐と狸だな、と思う。お互い本音なんか言っていない。

 今の会話を意訳するとこうだ。

『だから私に逆らうな』

『小さい村の長程度で調子に乗るな』

 幾分暴力的な解釈だが間違っちゃいないだろう。

 というか、僕の部分は間違ってない。

 その皮肉を感じ取ったのか、ぽんぽんと手を叩いて人を呼ぶ。

 襖を開いて現れたのはここまで案内した猫目。

 見当たらないと思ったら、控えてたのか。

「客人を部屋に」

「かしこまりました」

「そんなご迷惑になるわけには」

 こんなギスギスしたところに居たら胃に穴が開いてしまう。

 そもそも、どこに居たって監視されてるんだからせめて息くらい自由に吸わせてほしい。

「そうは言いましても、もう暗くなってますし。ここら辺、クマが出ますよ?」

「泊まりましょう、そうしましょう」

 僕の言葉より早く誠が提案に頷いてしまう。

(ちょっと)

(どうせ監視されてるなら諦めましょう)

 諦めが早いのか、肝が座っているのか……たぶん後者だな。

 仕方ない、毒を食らわば皿だけでなく家まで食らってやろうじゃない。

「お話は済みました?」

 あっちもあっちで良い根性してる。

「そうですね、クマは怖いですのでお言葉に甘えます」

「國立」

 猫目は女当主に目礼をするとこちらに歩み寄る。

「案内致します。広いので迷わないように」

 目、目が開いた!?

 そりゃ開くか、猫目だと言っても常に閉じてるわけじゃないんだから。

「申し訳ありませんがお荷物はご自分たちで。このように灯りを持たねばならぬので」

 猫目の手には時代錯誤な灯り、ロウソク。

 家の中だというのに電気も通っていないところに泊まらせる気か。

 形だけの歓迎すらなく、電気も灯らぬ廊下を歩き、階段を降りていく。

 すると見えてきた”部屋”は木の格子で組まれた敷居の中。

 壁は土がむき出し、じめじめしていてなんなら”部屋”の中に濁った水たまりがある。

 かろうじてゴザが引いてあって座る場所があるものの、この場所は部屋というよりも。

「座敷牢に見えますが」

「よくそのような言葉をご存じで」

 取り繕いもしないのか。

「来客を牢屋に?」

「招かれざる方々ですので。もちろんカギは掛けませんのでご安心を」

 カギがあろうがなかろうが牢屋に変わりはないだろうが。

「ご不満がおありなら長にお願いします。私は指示にしたがっているだけですので」

 それだけ言うとそのまま出て行く……あ、振り返った。

「あぁ、そうだ。先ほど長もおっしゃった通り、ここら辺は夜に獣が出ます。決して屋敷から外には出ないように」

 ありふれた警告をすると改めて踵を返して階段を登っていった。

「……ですってよ、誠さん?」

「あんな露骨な警告を聞き入れる必要があるのでしょうか」

 いきなり反語を使うんじゃないよ、伝わらなかったらどうするつもりだ。

 しかし、猫目の言葉がなくてもこんな田舎で日が落ちた後に外に出る?

 そんな用事が僕らにはないでしょう。

「お忘れですか?リアおじさんが森の中から出てきたんですよ」

 忘れてないよ、忘れたかったよ。

「……もしかしなくても探しに行くわけ?こんな夜に?」

 聞くまでもないことをわざわざ聞くことは大切だよね。

 他人の考えなんて、口に出さないと伝わらない。

 それはどんなに呆れてしまうようなことであってもだ。

「言うまでもないでしょう、私がここまで来た理由をお忘れですか?」

 自分に付きまとったおっさんの行方を探しに、でしょ?

 鬼が出るか蛇が出るかって思ってこの屋敷に来たけれど、執念深さだけ考えたらこの蛇と一緒に来てた……あいたっ!?

「何やら虫が居たような気がしました」

 その勘の良さ、勘弁してくれない?

 どつかれた頭をさすっているとあほちゃんが腹を抱えて転がっている。

 ちゃんとゴザの上を陣取っているので汚れることはない。

「その爬虫類、よく見つかりませんね」

 残念!ウーパールーパーは両生類です!

 言ったら殴られそうだから言わないけど!

「あほちゃん、隠れるの上手いから」

 だって道端にこんな大きなウーパールーパー歩いてるとこと想像してみ?可愛いでしょ?

「なんだか、独断と偏見の好みが入った気がしますが」

「気のせいだよ」

 この愛くるしさがわからないなんて人生の10%くらいは損してる。

「さて、行きましょうか」

 本気で行くのか、この子は。

「行ってらっしゃい、ふたりともいないと不審がられるから、僕はここに残って……」

「それならおひとりで行ってください、もし行かないなら業務不履行でお金返してくれるなら」

 汚いぞ、理不尽依頼主!

 すっかり忘れていたけれど、コイツ依頼主だ!

「結構大事なんで忘れないでください」

 誠は深いため息を吐いて細い目を向けてくる。

「それでも僕の言うことを聞くって契約だったはず」

「身の安全が保証されるなら、です。ここにいても森に行っても安全度変わりませんよね?」

 そんなわけあるかとツッコみたかった。

 しかしこの座敷牢はあの長と呼ばれる女のお膝元。

 他にも猫目をはじめとした村人の目もある。

 それだったら夜の獣の方がまだマシと思えるのが不思議だ。

 その理由はあのリアカーの生々しい汚れ。

「そういえばあのリアおじさん、どこに行ったのでしょう。あの集団には居なかったようですが」

 見てねぇよ?二間に渡って左右に並んでいたんだから。

「あの場にふさわしくない立場だったんじゃないの?」

 仮に、仮にだ。

 あのリアカーの上に本当に死体が乗っていたとする。

 だがその処理を行なう人間が重要なポジションにいるとは考えにくい。

 罪をなすりつけられるトカゲの尻尾。

 そう考えるのが自然だろう。

「それに僕たちを見た瞬間飛んで逃げたのも気になる」

 正確には「おばばに許可を取ってないと知った時」になるのだが。

「……それって妙じゃありません?」

 誠は僕の言葉に引っかかったらしく、目を下に下げる。

「どうして?無許可に入ってきたよそ者と分かったら態度を改めるのはわかるでしょ」

 褒められた行為でないのだが、ここは長が全部の実権を握っているような村。

 その言葉に従って僕らはじめじめした座敷牢にいるんだから。

「……気にしても仕方ありませんね。行きましょう」

 あ、誤魔化されてくれませんか。

 それとなく話の筋をズラして森の中に入ることを諦めさせようと思ったのに。

「……もしあのリアおじさんが積んでいた物が本当に死体だったら……それって誰なんでしょうね」

 誠の言わんとしていることはこの流れなら嫌でも思い浮かんでしまう。

 行方不明になった誠のフレンド、名前は忘れた。

「仕方ない、ここに居ても状況は変わらないからね」

 猫目に「外に出るな」と言われた。

 純粋に親切心から言っていたかもしれない?

 こんな夜に出かけることを想定して?

 それほど親切な村か?

「そうですよ。出るなと言うのだから、外に都合の悪いものがあるんです」

 先入観がすぎるかもしれないが、その考えに僕も同じことを考えていた。

「あほちゃん、行くよ」

「うぱっ!」

 あほちゃんは元気よく敬礼。

「連れて行くんですか?」

 誠は僕とあほちゃんを見比べて目を細める。

 それは心配というよりも呆れた目線だった。

「忘れたの?この子は守護、僕たちのことを守ってくれるよ」

 そう言いながら僕は重い腰を上げた。

 鬼が出るか、蛇が出るか。

 少し前に思ったことを撤回する。

 ここはすでに化け物の胎の中なんだ。

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