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守護遣い-騙り探偵と癒しの守護-  作者: 長峰永地


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2/9

ヒメゴモムラ②来るんじゃなかった

 二


「お客さん、すみません。乗せられるのはここまでですわぁ」

 タクシーの運転手がここまでと言った場所は木々が立ち並ぶ1本道。

 こんな何もないところが目的地なわけ当然無いんだけど。

「ここまでって、森の真ん中ですよ?」

「こっから先は地元の人間は入らないんですわぁ。何されるかわかったものじゃないんで」

 つまり、それをわかってた上で乗せてきたってこと?

「すみませんなぁ、ここまで4,860円、お願いします」

 え?金取るの?

「これで」

 隣に座っていた依頼人、栗宮誠は樋口さんを差し出した。

「はい、140円のお返し。ありがとうございましたー」

 受け取るだけ受け取って、運転手は僕らを下ろしてさっさとUターンして行った。

「なんで払ったの?」

「あそこで揉めても時間の無駄です。運転手の登録番号は控えたんで、あとで組合に連絡を入れて差し上げます」

 初対面でわかっていたけど良い性格をしていらっしゃる。

「まぁ、因習村ってわかりながら尋ねたのはこっちなんだからあまりひどいクレーム入れてやるなよー」

 思いやる必要は全くないけれど、この娘は釘を刺しておかないとあることないこと言いかねないことは依頼を受けたときに充分分かった。

「そんなひどいことはしませんよ。目的地の途中で放り出した上に金まで取ってったってことしか」

 事実だけどさ!言い方ってモノがあるでしょう!

「ところで、これからどれくらい歩くのか分かります?」

 運転手の悲運を語る口はすでに終わったらしく、木に挟まれた1車線道路の先を眺めていた。

「文明の利器があるじゃない。スマホで調べれば……アレ?」

 圏外?木に囲まれている程度で?

「こっちも同じなんです。気持ち悪いったらありゃしない」

 誠は手に持っていたスマホをこちらに見せてくる。

「これもヒメゴモムラの呪いでしょうか」

「滅多なこと口にするものじゃないよ」

 自分のストーカーに罰を与えるためにわざわざ身辺調査までした子だ、度胸が違う。

 ここが地元運転手をしてでも客を捨てて逃げ帰るその村の境界だというのに強い言葉を使う。

「呪いなんてそうそうお目に掛かるものじゃない。ねぇ、あほちゃん」

「うぱ?」

 ごめんね、チョコブレイクの最中だったか。

 あほちゃんは顔をチョコまみれにしながら、包み紙も丁寧に舐めている。

「……その両生類、連れてきてたんですね。というか今までどこに?」

 人様の相棒を両生類呼ばわりとは失敬な。こんなに見た目が愛くるしいウーパールーパーだというのに。

「リュックサックの中で小さく丸まっててもらった。せっかく人も居なくなったから出てきても良いかなって」

「うぱぁー」

 あほちゃんは腰をトントンと拳で叩きながら狭かったと訴えてくる。

 誠はすでにあほちゃんから興味を失ったのかスマホと進む先を見比べてため息を吐く。

「こんなことならもっとラフな服持って来れば良かった」

 誠はすでにJKスタイルから着替えを済ませていた。

 ロングジーンズに長袖のシャツにカーディガンまで羽織るフル装備。

 この暑いのに、長袖?

「買いに戻るかい?」

「時間の無駄なので。最悪籠でもしてもらいます。都合よく担ぎ手は2人……人って数えていいのかな」

 担がねぇよ?自分で歩かせるからな!

「あんれまぁ。アンタたちどこの人?」

 第5次矜持口戦が始まりかけたその瞬間、のんびりとした声が木々をすり抜けてくる。

 森の中からリアカーを引いたおじさんが手ぬぐいで汗を拭いながら現れたのだ。

「あのそれは……」

「私たちT都から来ました。この地域は非常に珍しい植物が自生しているらしく。夏休みの自由研究に……ですよね、教授」

 打ち合わせの無かった役回りも曖昧に頷いておく。

 よくもまぁそんな口からでまかせがつらつらと。

 そうは言ってもここに行方不明になったストーカー探しに来たっていうよりも全然いいか。

 リアカー男はじっとこちらを見ながら汗を拭った手ぬぐいをパンっと弾く。

「そんなこと聞いたことねぇけどな。まぁ森を荒さんでくれたらいいんだけども……おばばには話通してるか?」

 おばば?誰だ、そいつ。

「いえ、その方はどなたでしょうか?」

 誠もここは誤魔化すことなく素直に相手に聞き返している。

 身内じゃない相手がいる問いには正直に。こういう基本ができていること、俺じゃ無ければ見逃しちゃうだろうね。

 しかしその基本のせいだろうか、リアおじの顔色はみるみる曇っていく。

 具体的にはこちらを視界に入れないようにして森の中に消えていった

 リアカーを置いて、である。アイデンティティーを失ってしまって良いのだろうか。

「あの人……」

「そうだよね、リアおじがリアカー無くしたらただのおじ……」

「そんなバカ言ってる場合ですか?」

 包み隠さず罵倒されましたか?今。

「横柄な態度もそこまでだよ。あまりに失敬なことを言うなら出るところに」

「出れると良いですね、この場所から」

 誠はおじが捨てたリアカーの中を覗き込み手招きをする。

 中に転がっていたのは土の着いたスコップ、そして……。

「トマトジュース」

「この状況で冗談言います?それに赤くないじゃないですか」

 血液って時間が経つと鉄分が酸素と結びついて黒くなるんだ。これを覚えておくと人生の危機で役に経つかもしれない!具体的には内臓に穴が開くと便が真っ黒になるぞ、覚えとけ!

「健康上手遅れな豆知識披露しないでください。この染みは茶色いじゃないですか。ただこれが醤油なわけないでしょう?」

 辞めてくれたまえ、現実から目を逸らそうとしているというのに!

「うーぱぱ」

 あほちゃん!憐れむように肩を叩くのは辞めて!

「その両生類の言う通りです、この茶色いのはカラメルソースじゃありません」

 そんなこと言ってたの!?

 というかなんで何言ってるのかわかるんだよ!?

 ……さて、そろそろ真面目に証拠を調べますか。

「完全に乾いている所を見ると今さっきという訳ではなさそうだ」

「これだけの量が触れても濡れない程乾いてる……それこそ3日くらいかかりますよね」

 3日、3日ねぇ。

「キミの想い人が行方不明になったのって」

「恋仲じゃねえよ、しばくぞ」

 なんでだよ、こんな森の中に来た理由だろ!?

「30代の顔も知らない人を好きになる?私が?そんな情報を本心から言っているのだとしたらもう一人行方不明が増えてしまいそうな気がしますけど。さっきの言葉は聞き間違えということで良いですか?それとも実際に空気を振動させた言語でしょうか」

 ……怖いよ、普通に。

「幻聴じゃない?」

「ですよね、とりあえず行方不明者が減って何よりです」

 目が笑ってないなぁ。

「ところでそのおっさんフレンドのチャットってそんなにキモいの?」

「えぇ、あまりに怖気がするので消しちゃいました」

 チャットを消した?

 ストーキングやハラスメントの明確な証拠を?

「過去を振り返っている場合じゃないですよ、どう見ます?コレ」

 その通り、この目の前にあるリアカーの中身はどう考えても死体を埋めて来た帰り道。

 仮にこのリアカーの乗客が誠の探していたフレンドだとしたら、こんな不衛生な乗り物に自ら乗るわけがない。

「とんでもないところに連れてきてくれたものだ」

「そのことを分かってて依頼を受けてくれたんでしょう?ところでおじさん」

「なんだゴリさん」

(拳のめり込む音)

「この村、名前調べても出てこなくて。私が調べられないってそこそこのことと思うんですが」

ちょっと待って、鳩尾に強い衝撃があって答える気にならないから。

「早く答えないとデジャヴが起きますよー」

 鬼か、コイツは。

 あほちゃん、もうちょい上。とんとんするところ、右側。

「そうだよね、こっちの世界の人じゃないと知らないよね」

 普通の人と言いかけたけど物を頼んでる人に正拳突き決めるヤツを普通と言いたくはない。

 そこ、メリケンサックを装備しない。

 どっから出したのよ、その凶器。

「前置き、長いですよ」

「説明セリフなんで、軽くでいい?」

 返事を待たずに僕は語り始めたー……以下説明。

 ヒメゴモムラは姫篭村と書きその端は室町にまで遡ると言われている。

 今の日本から想像できないくらい室町時代の時世は乱れており、村は武士によって蹂躙されるのが常だった。

「残ってるじゃないですか」

「だから怖いんでしょ」

 武力が正義の時代、そんな常識の世界から続く村。

 それなのに法を犯してそうな調査能力を持っている誠が調べられない時点でその村の異常性は明らかだった。

「つまり、因習村」

「誠ちゃん、めっ」

「うぱっ」

 その因習村の入り口で言うんじゃありません。

「……そうですよ、人様が住んでいる場所を貶めるものじゃありませんよ」

 いきなり背後から聞こえた柔らかな声。

 飛び出す誠、掴む首根っこ。

 ひとりで逃げようとするんじゃないよ。

「おやおや、そんな分かりやすく逃げなくても。あなた方から来たのでしょう?」

 恐る恐る振り返ると、そこに立っていたのは和服に身を包んだ猫目の男。

 明らかに胡散臭い雰囲気を醸し出して、絶対に信用してはいけない匂いをまき散らしている。

「あなた、裏切りますか?」

 誠さん!?空気読んで!?

「味方になるかも分かりません」

 このお兄さん良い人かも知れない!

「いやぁ、課題の収集で歩いていたらこんなところに迷い込んでしまって」

「最寄り駅からまっすぐタクシーで、ですか?」

 なるほど、こちらの動きは把握済みってことね。

 タクシーの運転手か、リアおじから聞いたのか分からないがわざわざ出向いてきたのは歓迎するつもりはないだろう。

「ところでリアおじって戯曲の題名みたいですよね」

 血の気が引く音って本当に聞こえること始めて体験した。

 ”リアおじ”ってのはさっきリアカーを引いたおじさんが居て、そのリアカーを置いて行ったから仕方なく付けた名前。

 テキトーに付けた名前がすでに知られている。

 なんならその「リアおじ」という呼び方は、周りに誰もいないときに言っているのだ。

 知っていることをわざわざこちらに伝える意図は何なのか。

 そんなこと、警告以外ないじゃないか。

「それではお客人、こちらへ。長がお待ちです」

 猫目は穏やかに笑いながら振り向いて進んでいく。

 歓迎されているわけがない、だが付いていくしかない。

「鬼か蛇か。それで済めばいいですけど」

 誠の言葉に腹をくくり、男の後を付いていくのだった。

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