ツミビトビョウイン③
三
「もっとやっちゃおっ」
冗談じゃない!
手首から先を吹き飛ばされて白いモヤ、元凶に向き直る。
今度は足に向けて指を差している。
左膝から先が消し飛んだ。
「あほちゃん!」
「うぱぁ?」
肩車していたあほちゃんはのんきにイチゴジュースを啜っていた。
「こら、緊急事態!」
あほちゃんを下ろすために両手で掴んで抱えて……アレ?
抱っこできた。
消えたはずの、右手も使って。
なんだったら左脚の膝から先が消えたはずなのにバランスを崩すことなくしっかり立っていた。
「バレたー!逃げろー!」
ボクにリョナ行為をしてきた白少女は、歓声を上げながら駆けだしていった。
「ふざけんなよ、このちびすけ!」
逃がしてなるか、こんちくしょう!
「うぱぁ……」
心無しかあほちゃんの声が冷たい。
関係非ず!
駆けだした白ちびを追いかけ、廊下を右に左に。
なんでこんなに長いんだよ!
「どーん!」
逃げてる最中に指鉄砲で僕の四肢欠損を狙ってくる白ちび。
腕が飛び、脚が飛び。
胸に穴が開き、頭も狙われた。
外から見たら僕が怪異だろ!
いつの間にか袋小路に白ちびを追い詰めた。
「あれ?あれれ?」
壁をトントン叩いて慌てている。
「もう逃げられんなぁ?」
拳を包んで鳴らし、にじり寄る。
あほちゃんから頭をはたかれた、気にしません。
「いやぁー!ケダモノ!滅されるー!」
自分のアイデンティティを自覚している悲鳴を上げて、白ちびは壁にすり寄る。
「成仏せいや!」
「なぁんて、う、そ☆」
ぐるりと壁がどんでん返し。
コンクリート壁だよな!?
僕らは再び闇の中に吸い込まれていくのだった。
「……ここは?」
先ほどの廊下と違い、窓もない真っ暗な空間。
「あほちゃん、カンテラ」
「うぱっ」
一緒にいるはずのあほちゃんに灯りを出してもらう。
周囲をぐるりと……うん、見なかったことにしたいものが見えた。
目に見えるのは机、本棚、ソファー2台に対面テーブル。
いやぁ、確かに立派なお部屋ですねぇ。
あなたがこの部屋の主でしょうか。
見てはいけない気がしたんですけど、見なきゃダメですか?
豪奢な机、その机に似合いだろう椅子。
だろう?見えてないから仕方ないだろ。
俯いた白髪頭の人間が座ってるんだから。
「……院長か?」
廃れた病院に出る怪異。
その大本は院長の怨念と相場が決まってる。
「だよねぇ、怖いよねぇ?」
くすくすと、今となってはムカつく声が聞こえてくる。
「くーそーがーきー!」
振り返ると、白ちびが対面テーブルに腰かけて脚をぱたぱたしている。
「覚悟は出来てるんだろうなぁ!?」
あほちゃん、大きくため息。
気にしない。
「院長せんせー!患者連れて来たよー!」
その声で背筋が凍る。
やっぱり、この元凶は!
振り向く。
椅子に座る白髪頭を睨む。
睨む。
……どうするんだよ、この間!!
白ちびが僕の脇をすり抜けて、白髪をぺしぺし叩く。
「院長せんせー!起きてー!」
「……ん?買い出しの時間か?」
しばこう、この2人とも。
白髪は両手を伸ばし、背筋を伸ばす。
「ふぁ……うわ!お化け!?」
テンプレ過ぎるんだよ。
「院長せんせ、患者さん連れて来たー」
「んん?あぁ、これは大変だ、緊急手術の必要があるね」
メガネを掛けて、こちらをじっと見ると白ちびににっこり微笑む。
院長と呼ばれた老人がゆっくりと立ち上がると、こちらに歩み寄る。
余りにも隙だらけ、余りにも不用心。
「済まないが、ごっこ遊びに付き合ってくれんか?」
院長はソファーに寝るように促すと、申し訳なさそうに告げた。
「手術だ、手術だー!」
見たら白ちびの服装は看護師服に切り替わり、ぴょんぴょん飛び跳ねている。
「……わかったよ」
実際穴ぼこだらけでケガもない。
やる気があるならもう死んでる。
というか、あほちゃんがのんびりイチゴジュース飲んでる。
てことはやっぱりお遊びだろう。
「オペを始めまーす!」
「メス」
院長が指示を出すと、白ちびが何かを手渡す。
受け取った何かを僕の右手にかざすとみるみる手が戻ってきた。
メスで手は生えねぇよ。
「鉗子」
「はいっ」
再び指示に従う白ちび。
それを左脚に当てると膝から先が戻ってくる。
そもそも、この穴ぼこの身体は消えてない。
ケガもしてなければ、異次元に飛ばされたわけでもない。
ただ、消えたように見せられてただけ。
院長の指示と、白ちびの手渡し。
それが数回繰り返されたら僕の身体はすっかり元に戻ったのだ。
「手術、終了」
「完治だー!おめでとー!」
手放しに喜ぶ白ちび。
「お前のせいだろ」
思わずチョップを入れてしまう。
「痛いっ!院長せんせ!コイツ悪人だった!」
お前のせいだろ、パート2。
「付き合ってくれてありがとね。ええと……」
「守護遣い。でいいだろ、院長」
僕の言葉を受けて、院長はゆっくり頷く。
「まぁ、それでいいか。守護遣いさん」
「で、アンタはここで何を?」
「逮捕、逮捕ー!暴行罪だー!」
チョップを受けた白ちびは院長の後ろから威嚇している。
知らん。
「見ての通り、この子の世話だよ」
白ちびを隣に座らせると、頭を撫でる。
「世話?放っといても良いだろ、死んでるんだから」
「差別だー!」
いちいち噛みついて来るな、この怨霊。
「本来そうなんだが、ここには定期的に人が来るからねぇ」
そうか、元々この病院に肝試ししに来たバカたちからの通報で僕もこんなところにいるのか。
「にしても、わざわざ住んでまで?」
核心をついていいか迷う。
院長もその事に気付いているようだ。
「わざわざ、かね?自分のしたいことをしているだけだよ」
言葉を切ってじっとこちらを見る。
「キミも、そうじゃないかね」
思わず鼻で笑ってしまう。
初対面だぞ、このジジイ。
「……面倒な生き方してるな」
「おや、わかるかい?」
院長はにっこり微笑んだ。
「さ、そろそろ帰りなさい。送っていこう」
「えー、まだ遊ぶー!」
白ちびは駄々をこねるが、院長はゆるりと首を振る。
「この方にはこの方のいる場所がある。それにまた来てくれるさ」
「ほんとー!?」
勘弁こうむりたいんだが?
しかし、あほちゃんは。
「うっぱー!」
「来てくれる?ありがとー!」
いつの間に仲良くなってんだよ。
「……気が向いたらな」
僕の妥協に、院長は再び微笑むのだった。
そんな時、この部屋の扉を規則正しく4回ノック。
「はいはい、今日は賑やかだねぇ」
のんびりと立ち上がり、扉に向かう院長。
……マズい。
気が抜けていたことを言い訳にしない。
だけど、元々脅威はこっちじゃなかった。
「今開けますよー」
「待て!」
僕の焦りを伝える間もなく、院長は扉に手を掛けた。
どっちだ。
ノブをひねる。
扉が開く。
「動かないで」
そこから院長に突きつけられるトンファー。
「ハズレ、か」
ニブイチ、僕の運も悪くなかった。
「無事だよ、離してあげな」
唐突に凶器と殺気を突きつけられ、痙攣を始める院長。
「なんだ、残念」
こちらを見て、にっと微笑む暴力警官、栗宮誠がトンファーを収めるのだった。




