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守護遣い-騙り探偵と癒しの守護-  作者: 長峰永地


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ツミビトビョウイン④

 四


 誠の誤解を解き、結局院長に外まで送って貰うことになった。

 白ちびは院長をビビらせた誠をえらく警戒しているが当の本人と言えば。

「かわいいですねぇ、あほの子!チョコあげましょ!」

「はーなーしーてー」

 こんな調子。

 院長はにこにこしながら振り向いている。

「いいのか、どう見ても嫌がってるぞ」

「普段、人様に嫌がらせしてるんだ。自分がやられても文句いえないだろう」

 このジジイ、食えない。

「にしても、しっかり触れるんだな」

 念のため、幽霊だろ。この白ちび。

「あぁ、その事。栗宮さん、この子が実はボディビルダーの霊って言ったら信じるかい?」

「そんな!?こんなかわいいのに……アレ?」

 あり得ない真実に目を丸くする誠。

 その瞬間に抱きしめている腕からするりと抜けて、院長の陰に隠れてしまう。

「べーっだ!」

「私の愛玩幽霊!」

 誠、お前のじゃねぇよ。

「この子はね、信じて貰えないと触れられない。……生きてるときに何があったんだろうね」

 その院長の表情は、陰が落ちている。

「どうでも良いけどな」

 どうせ幽霊になったら手出しできない訳だし。

「抱かないからー、撫でさせてー」

「いーやっ!」

 院長を挟んでの攻防。

 誠と白ちびのネコパンチ合戦が繰り広げられている。

 なるほど、信じ直せば触れるのか。

「ほら、誠。さっさと帰りたいんだよ、僕は」

 疲れ知らずゴリと体力概念があるのかわからない白ちびのじゃれ合い、放っておいたらどこまで続くのかわかりやしない。

「うぅ、かわいいは罪……確保しないと……」

 お巡りさんこっち……ダメだ、コレがお巡りだった。

「ところで、良いんですか?」

 肩で息をしながら誠が小声で尋ねてくる。

「なにが」

「憑りついているなら、それこそ祓うのも視野に入れないと」

 更に小さく「心苦しいですけど」と続ける。

「そう見えるか?」

 先導する院長と白ちび。

 その2人は笑い合いながら談笑している。

 何も知らない、こんな場所でなければこれからおもちゃを買いに行く祖父と孫にしか見えない。

「……ですけどぉ」

 口を尖らせる誠。

 刹那。

「おや、今日は客が多いな」

 間の抜けた声、駆けだす僕と誠。

 白ちびを蹴飛ばし、誠が抱きかかえた。

「ふぎゅっ!?」

 間に合った!

 白ちびのいたところに跳ねるBB弾。

 違かったら暴行現行犯だった!

「……理解できませんが」

 予想通りの無表情。

 予定通りの再照準。

 片柳は誠にエアガンを向けていた。

「栗宮、確保ご苦労」

「……」

 誠は無言で片柳を見ている。

「どうした?」

「おい!」

 気付いたら片柳の胸倉を掴んでいた。

 ワイシャツのボタンがはじけ飛ぶ。

「……錯乱している、とします」

 この期に及んで!

「あ、え……あんた、あの子を?」

「ご覧の通りです」

 タイミング遅れて理解した院長が片柳と誠をきょろきょろと見比べる。

 次には叫び声を上げながら突撃してきた。

 僕もいるんですけど!?

 とっさのことで僕も片柳も院長の身体に吹き飛ばされる。

「……あなたに危害を加えるつもりはありません」

 突き飛ばされて、尻もちを着いた片柳は、ネクタイを緩めた。

「何が、何が違うというんだ!」

 今までの院長から考えられない悲痛な叫び。

「あの子は何もしていない、ここに居ただけだ!」

 その声は、怒りではなかった。

「なんで、来るんだ!なんで、静かにさせてくれないんだ!」

 白ちびは、害を加えてない。

「あの子はここにしか居られない!来なければ関わらない!」

 外にも、出ていない。

「なんで、なんで被害者面できるんだ!」

 そもそも肝試しなんてしなければ。

 通報なんてなければ。

 僕らはここに来なかった。

 静かに、ここでささやかな幻に包まれて居れたのに。

 しかし。

 ヒトの願いは。

 多くの場合叶わない。

「栗宮、ご老人を確保。こんなところを徘徊していては危険だ」

 まして。

 生きる者と、死んだ者の願いでは。

「栗宮」

 動かない誠に、再び告げる。

 この状況でも告げるのは、音でしかない。

 コイツ、本当にニンゲンか?

「やめてくれ……頼むから……」

 咳込みながら院長は片柳のズボンを掴む。

 丁寧に、わざわざかがんで手を外す。

 その気遣いが恐怖すら覚える。

「お前、いい加減にしろよ」

 ちらりとこちらを見て、また視線を誠たちに戻す。

「あなたでも構いません。このご老人を……」

「いい加減にしろって言ってんだ!」

 気付いたら腹に膝を叩き込んでいた。

 コイツ、鉄板でも仕込んでるのか!?

 完全な不意打ちにも微動だにしない片柳。

「……異常状態による、心神喪失。今回は見逃しましょう」

「ありがとうな!」

 膝の入っている状態でコイツを支えに足払い。

 さすがに倒れてくれてよかった!

「2回目となると、意思を認識せざるを得ません」

 倒れる際も受け身で衝撃を逃がし、すぐに僕を引きはがす。

 転がって距離を取り、ゆらりと立ち上がる。

 その目は誠を、その誠に抱きかかえられた白ちびを捕らえていた。

 間にいる院長も、僕もすでに視界から消えている、そんな目線。

「こんな報告、誰も信じないでしょうね」

 ふぅとため息を吐く。

 コツコツと近付く足音。

 最悪、あほちゃんの……。

 その時、地面が大きく揺れた。

 遅れて緊急地震速報。

『地震です。地震です』

 響くアラームと合成音声。

 壁に手をつく。

 院長は頭を覆い、誠は白ちびを抱きかかえる。

「く……」

 その時。

 ガラリと音を立てて。

 片柳の足元が崩れ落ちた。

「警部補!」

 いち早く気付いたのは誠。

 揺れは治まらない。

 走ることはできない。

 宙に舞う片柳。

 手を伸ばす、ほんの少しだけ届かない。

 駆ける白いモヤ。

 白ちび!?

 開いた穴の傍に駆け寄り、手を伸ばす。

 片柳の手と。

 白ちびの手は重なり。

 そして、すり抜けた。

「……やはり、いないじゃないか」

 その声に初めて温度が通う。

 それきりだった。

 揺れが治まり、僕と誠は穴に駆け寄る。

 下を見下ろすと、片柳が静かに寝ていた。

 頭部から拡がる赤い絨毯。

 その量は終わってしまったことを告げていた。

「なんで……なんで……」

 白ちびは、泣いていた。

 自分を撃った男を。

 助けることのできた男がすり抜けたことに。

「……本部、緊急事態。片柳警部補が先の地震による崩落に巻き込まれました」

 誠は、低い声で通話していた。

「確認のため調査部の派遣を要請。私と同行協力者に負傷はありません。また、隠ぺいを避けるため救命活動並びに調査を中断致します」

 ちらりと僕と、院長を見る。

「片柳警部補の処置にてこの病院に発生する怪異はすべて消滅を確認。事故現場のみ調査してください」

 そこまで告げると、誠は通話を切った。

「……この子、動けます?院長室なら遠いので人は来ません」

 院長は、無言で何度も頷いた。

「急いでください。15分で来ます」

 院長は頭を下げて白ちびと廊下の奥に消えていく。

「……良いのか。僕の監査だろ」

「事実しか言ってません」

 誠はシレっと告げると穴を見下ろす。

「……こんなところで死んで良い人ではありませんでした」

 その言葉は、この男のすべてだろう。

 僕は大嫌いだった。

 誠も苦手だったのだろう。

 それでも、最後まで片柳に反抗しなかったのは事実だった。


 その後、13分で調査隊が到着して、片柳の死亡が正式に確認された。

 しかし地震による突発的崩落による死亡と、その死亡に怪異との因果関係が認められなかったこと。

 誠の報告で片柳による怪異の全消滅が認められたことが確認され、この病院は調査対象から外れたことを後に知ることになった。

 そして。

 片柳の死に顔は、恐怖ではなく実に穏やかだったことが報告された。

 まるで、憑き物が落ちたようだった。

 その誠の言葉は実に皮肉めいていた。

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