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守護遣い-騙り探偵と癒しの守護-  作者: 長峰永地


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22/27

エンキリハイシン⑦

 七


 救世主よろしく、その場に現れたクモの背中を見る。

 脚2本は針で貫かれ、背中にはヨコシマに刻まれたひっかき傷。

 おそらく針の突撃を躱した時に付けられたものだろう。

「クモ!」

「クモ……?」

 ふたりはそれぞれ声を漏らす。

 誠は身構え、久恒には見えていない。

 クモはちらりと久恒を見る。

 そして尻から糸を出すと僕ら3人を繭で包んだ。

「おい、お前!」

 まさかひとりで戦うつもりか!

『お、お前……妾の城を!壊しおったな!』

 女王の叫びに応えるように左右から爆弾蜂が突っ込んでくる。

 クモは前脚を振るう。

 あの飛ぶ斬撃……いや、これは。

「糸か」

 爆発の閃光にきらめいた細い細い光の筋。

 背中から見たらこんなにはっきり……いや、細すぎる。

 光の反射でかろうじて見える細い糸。

 次々に突撃してくる爆弾蜂は、クモの振るう糸で次々に爆発させられていく。

『また、幾度も妾の邪魔を!』

 叫びに呼応し、3匹の蜂が突撃。

 1つ爆ぜ、2つ爆ぜ。

 心地の良い3連花火……にはならなかった。

 糸の斬撃で胴体が割かれた蜂は、勢いのままクモに向かい滑空した。

 その胴には太い針。

 予想外の突貫攻撃に反応の遅れるクモ。

 胴から割かれた頭が繭にぶつかる。

 頭だけの蜂を目を合わせている時に強烈な光が部屋を包んだ。

「……閃光弾か!」

 そんな真似までできるのか!

 左右に頭を振るクモ。

 迫りくる蜂、しかし躱せない。

『いくら眼の数が多かろうと、見えなければ意味も無かろう』

「クモ!」

「クモの子!」

 クモはギリギリのところで致命は避けている。

 閃光で目前まで視野が潰されたか。

『邪魔もここまでよのう?さんざ、妾の食事を邪魔してくれおって!』

 クモの後ろ脚に蜂が針を刺す。

 即座に糸を振るい、薙ぎ払うも床に打ち付けられてしまう。

 糸で針を折る。

 しかし残る脚は前4本。

『良い姿になったのう、地を這うモノよ』

 蜂の高笑いが耳障りだ。

「クモの子を助ける手立ては?」

 誠は残弾を改めて確認して伺う。

 ……無理だ。

 有効打を打てるのはあのクモだけ。

 だが眼を潰され、数では圧倒的に負けている。

 窓から飛び降りる?

 マンション8階、むしろ生存率下がるだろ。

『今まで妾のエサを熟成させてくれた礼を言わねばな?』

 女王は繭を見てぎちぎち笑う。

『お前の目の前で食ろうてやったら良い褒美だろうて!』

 蜂の言葉に前脚を振るいまくるクモ。

 当然の如く、兵隊にすら糸は当たらない。

『あぁ、そうであった。お前には見えないのだったな』

 ……クズが!

 あの糸を、的確に振るえれば。

 だが、どうする?

 こちらの指示が間に合うほどこちらとダンスしてくれる気は無いだろう。

「……あの蜂と、戦っている者がいるのですね」

 床に目を伏せていた久恒が前を向いている。

「……あぁ」

「その者は、私を守ってくれていたのですね」

 その目は蜂を見ていない。

「あぁ」

「その者は、眼が見えないのですね」

 しかし視点も定まっていない。

「目の前だけは」

「わかりました」

 僕の言葉の途中、久恒はゆるりと立ち上がる。

 そして自らの手で繭を割って前に出た。

「ツネビさま!何を!」

「いや」

 叫ぶ誠の肩に手を置く。

 久恒の足はしっかりと。

 しかし、背中越しでもわかるほど震えている。

「あと2歩……そこ!」

「ありがとうございます」

 久恒は声を受けてクモの目の前に背を向けて座った。

「……クモちゃん、でいいのかしら。私を守ってくれていたのは」

 目の前に久恒がいることに気付き、じたばたともがく。

『ほほ!エサが自ら捧げに来たか』

「ありがとう、そしてごめんね?気付いてあげられなくて」

 じりじり迫る女王蜂。

「ツネビさま!」

「静かに!」

 久恒とクモの会話の邪魔だ。

『ではの』

 女王の口が大きく開かれた。

 久恒の眼前に迫る口。

 しかし。

「臭いぞ、下郎」

 久恒が低い声で告げる。

 そして手を上げ、横に薙ぐ。

『ほほ、何を……ぎぃ!?』

 その動きに合わせるように、女王が真横に吹っ飛んだ。

「何を?それこそ何を言っている?」

 久恒の後ろで、久恒と同じく脚を振っているクモ。

「私は、常火ノ命。黄泉の国から貴様に感染……いや」

 声に震えは、もはや無い。

「下賤なる者を駆逐するために地の底から出でた化身である」

『お、まえぇぇ!!』

 久恒、いやツネビの啖呵に女王は金切り声を上げる。

「あなたの眼になります。……任せますよ」

 飛んでくる蜂の群。

 ツネビゆるりと腕を上げて。

『たかがエサに!』

 ジグザグと。

 そして点滅と通常と。

 不規則に飛び交う無数の蜂。

「遅い」

 飛び交う蜂へ腕を振るい続けるツネビ。

 点滅には手を開き近付く前に。

 通常には指を立てて斬撃を。

 指示に合わせ糸を変えるクモ。

 信じられない速さ、正確さ。

 見えている以上の明確さ。

『なぜ!なぜぇ!』

「うるさいぞ?」

 爆ぜる。

 ちぎる。

 気付けば蜂の数はみるみる減っていき。

「私に手の内を晒したのが愚策よの」

 残る弾は、あと2匹。

「蜂を冠するなら、せめて弾幕くらい用意せい」

 有ったけどさぁ、そーゆーゲーム!

『もうよい!消す!』

 2匹の蜂がめきめきと。

 身体が歪み、針そのものに。

 腕を越える太さの処刑針。

『死ねぇ!!』

 咆哮。

 絶叫。

 雅なる振舞いなど剥がれ落ち。

「奥の手か」

 対して。

 静かに言の葉を紡ぐ常火ノ命。

 左右から形ある殺意が挟み来る。

 両の手を肩から大きく開き。

 迫る殺意。

 髪がはらりと二束落ちる。

 しかしそこまで。

 乙女の柔肌、傷付けるに能わず。

 ぴたりと止まる歪んだ感情、その固まり。

『な、なんだと!?』

「知るがいい」

 離れ離れの両掌を向き合わせ。

 連らなるように針は動いて。

「巨大化した化生は、負けるとな」

 似つかわしくない終いの言葉。

 祝わぬ祝詞、締めの段。

 最期を告げる柏手ひとつ。

 左右の針も祈りを捧げ。

 最後の願いが女王陛下を貫いた。

『か……ひゅ……?』

 絶命の言葉もなく。

 女王としての位も無く。

 ただの虫として崩れゆくのだった。

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