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守護遣い-騙り探偵と癒しの守護-  作者: 長峰永地


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20/26

エンキリハイシン⑤

 五


『私は、常火ノ命……今日も貴様らに感染してやろう』

 突如始まった久恒の配信。

 相変わらずの安いBGM。

 相変わらずのキャラ渋滞。

 そんなことが邪魔なくらい配信をしている事実が終わっていた。

「聞いてたか!」

「そんなわけないでしょう!」

 誠はスマホを取り出し、電話を掛ける。

 配信の続きは僕のスマホに切り替えた。

 何度もリダイヤルしている。

 電話をかけている相手は聞くまでもない。

『私の世界に踏み入る不届き者がいてな。その者たちにちと灸を据えてやろうと思ってな』

 長い髪を垂らしているせいで表情は読めない。

『ゲリラ配信だ!』

『会社サボって良かった』

『相変わらずキモイな』

『胸チラチャンスありがとー』

 コメントは平日の昼間だというのに止めどなく流れている。

「のんきなもんだよ、全く!」

 ……コメントが見れる?

 文字化けしてない、ノイズも無い!

 だったら!

「あほちゃん、追うぞ!」

「うぱー!」

 頭に乗ってたあほちゃんが飛び降りてスマホに手を乗せる。

「2割!」

 これ以上使ってしまうと、重なってしまうと持っていかれてしまう。

「何するつもりですか!」

 何度掛けても繋がらない電話を諦めた誠が叫ぶ。

「アイツはこっちを見ていない!」

 ノイズ、文字化け、そして指さし。

 前回は確実にこちらを意識していた。

 でも今回は。

「今なら潜り込める……!」

 このスマホを通じて、確実にアイツが、あの守護がいる。

「うぱ……うぱぁ……」

 あほちゃんがエラを立て、じんわり汗をにじませる。

 早く、早く糸口を……!

「うぱぁ!」

 あほちゃんが目を見開く。

「……いけ!」

「ぴぃ!」

 あほちゃんは口から火をほとばしらせる。

 スマホに向かって細く走る火。

 それは何かが燃えるようにスマホに吸い込まれていった。

 音を上げて弾けるスマホ。

 バックアップ無事だろうな!

「……追えるな?」

「うぱっ!」

 あほちゃんは大きく息を吐く。

 よろけるあほちゃんを支え、肩車。

「すまん、無茶させた!」

 ちゃんと2割セーブしてくれたんだろう。

 足りない分は自分で引っ張ったか。

「何が、どうなって……」

「車、回せるか?後スマホも」

 近くにはいないだろう、追うには足がいる。

「車だけです!」

 スマホも出せよ、経費だろ!

 すでに部屋を出ている誠から「3分お待ちを!」と声が響く。

 時計、無い、ヨシ!

 ヨシじゃねぇ!

 ゆっくりあほちゃんを下ろすと戸棚から板チョコを渡す。

「うぱぁ?」

「回復、今日でケリつけるから」

 じっとチョコを見つめてあほちゃんはチョコを割ってこちらに差し出す。

 板チョコ全体の2割が僕の分らしい。

「さすがだよ」

 どんな時でもユーモアを忘れない。

 あげるのミルクじゃなくてブラックにすればよかったけどな。

「お待たせ!」

 車を取ってきた誠がビルの前で叫んでいる。

「遅い!」

 チョコを口で溶かしながら味わっているあほちゃんを抱えて階段を降りると、誠がスマホをかざす。

 表示される時間は2:52。

「ここに着くまでの時間です」

 やかましい!

「で、どこに向かえば」

「あほちゃん、よろしく」

 助手席に滑り込むと膝の上にあほちゃんを乗せて、シートベルトを着ける。

「……チャイルドシートじゃないと青切符じゃありません?」

 見えてるのお前だけだっての。

「うっぱー!」

 あほちゃんが身を乗り出しながら指で行く方向を指し示す。

「大丈夫なんですか?追えるの?」

「ちゃんと焼いたはずだ」

 最初の時はこちらへの身隠しが完璧だった。

 今だって本来そうだろう。

 だけど、さっきの油断で話は変わった。

 僕のスマホを犠牲に追わせた炎。

 それが相手に届いたはずなんだ。

「だったーとか、はずーとか。確証何にも無しですか」

 黙らっしゃい、それでも足を動かすんだよ。

「アクセル踏んでるのは私です!」

「うぱ、うぴぴ」

 急な右折指示に勢いよくハンドルを切る。

 法定速度ガン無視のスピードで突っ走る。

「……本当にこっちで合ってます?」

 誠がじんわりと汗をにじませる。

 ハンドルをトントンと指で叩きながらどこか落ち着かない。

「うぴ!」

 あほちゃんがとあるマンションを指さした。

「よし!」

 ようやく辿り着いた!

 しかし誠は露骨に表情を歪めている。

「……ここ、です。久恒さんのお住まいは」

「……だろうな」

 相手が守護である時点で頭の隅には浮かんでいた。

「わかっていたんですか?」

「守護は、守る相手の傍にいるものだからな」

 あほちゃんを抱きかかえ車から降りる。

 そのまま肩車しながら見上げる。

「うぱっ!」

 あほちゃんはマンションの上を指す。

 行くしかねぇか。

「私も行きますよ」

「守れないぞ」

 見えない斬撃、そんなもん防げる保証はない。

「共犯者、でしょう?」

 誠は鼻を鳴らした。

「それに、スマホ無いと配信見れませんよ?」

 やべ、忘れてた。

「今は?」

「まだ続いてます」

 スマホを操作すると相変わらずツネビさまの配信は続いている。

 まだ乱れは無い。

 しかし様子がおかしい。

「……なんでこんなに荒れてるんだ?」

 止めどなく流れるコメント。

 しかしそれが普通じゃない。

『逃げるな』

『奪うな』

『エサが』

『偉ぶるな』

 続くコメント。

 普通のアンチには思えない。

「調査部、徹夜ですねぇ。全員しょっぴいてやります」

 今は誹謗中傷の開示は簡単になったって言うからな。

「……行くぞ」

「はい」


 あほちゃんが示したのは屋上に繋がる階段。

 当然カギが。

 ちゅいんっ!

「開いてますね、不用心な」

 煙が立つ方向に目を向けると銃を握った誠。

 遠慮なく打ちますね?

「全く、警察が来たらどうするのか」

「安全基準未達で再検査でしょうか」

 息抜き終了、扉を開ける。

 見渡す青空、誰もいな……いや。

 僕たちが足を踏み入れた瞬間に闇が落ちる。

 光を遮る、暗い繭。

 そこを這うなにか。

 1もなく2もなく。

 4つあってもまだ半分。

 身体を支える8つ脚と、その中心に拵えられた黒い胴。

 こちらを捕らえるモノは脚と同じく8の眼球。

 見下ろすは、やっと掴んだ糸の主。

「……でっかい」

 誠は若干、いや完全に引いている。

 どしんと屋上に降り立つは胴が人の頭ほどある、巨大なクモだった。

「誠、殺虫銃は?」

「バカ言ってる場合ですか!」

 誠のツッコミと同時に左右に飛んだ。

 屋上の扉がバツ印に吹き飛ぶ。

 クモの前脚2本が振り下ろされ、斬撃を飛ばしてた。

「鉄まで切れるのか」

「アレはアルミでした!」

 心の底からどうでもいい!!

 左右に割れた僕らをクモは睨む。

 狙いを定め、僕に向かって高く飛び上がり、上空から脚を振るう。

 ふざけんな、クソ!

 屋上を踏み込む、横っ飛び。

 抉れる屋上、川の字に寝れるね!

「誠、狙え!」

「対人用!弾の無駄です!」

 じゃあなんで持って来たんだよ!

 飛び上がり、張り付くように繭を駆ける巨大クモ。

 制空権は向こうさんですか。

 唯一の救いは斬撃にも予備動作があること。

 脚を振り上げ、振り下ろす。

 そうそう、あんな風に……おバカじゃないですの!?

 3度目の斬撃をどうにか躱し、誠と固まる。

「勝てそうです?」

「勝てそうに見えるならあいつから眼をわけてもらえ」

 8つもあるんだからひとつくらいくれるだろ。

「嫌ですよ、虫の眼なんて使えないでしょ」

 そういう問題ですかねぇ?

 しかし、じれったい。

 近寄って来ず、遠くからちまちま脚を振り下ろすだけ。

 る気があるのにる気が無い。

「気を付けて、まだ攻撃隠してるハズです」

 誠が小声で告げる。

「糸や毒があってもおかしくは……」

 クモの十八番と言ったら本来そっち。

 飛ぶ斬撃がイカれてるんだわ。

「違います、相手を殺す時は細長い何かを使うはずです」

 コイツは何を言ってるんだ?

「被害者は鋭利な針状の何かで脳を貫かれてるんですから」

「……は?」

 思わず、完全にクモから目を逸らす。

 考えが止まっていた、明らかな隙だった。

 それでも攻撃が来なかった。

 誠に渡された資料、バツ印しかなかった。

 死因が書かれていなかった。

『きゃあああ!?』

 その時、場違いな悲鳴が響く。

 誠のスマホ、つまり久恒の配信画面から。

 その声が聞こえた瞬間、事態は一変した。

 クモが身を翻し、自ら作った繭を切り裂き、青空に飛び出していく。

 ボロボロと闇が崩れ、光を取り戻していく。

「……急ぐぞ!」

「どこに!?」

 決まってる。

「本当の原因を潰すんだよ」

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