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守護遣い-騙り探偵と癒しの守護-  作者: 長峰永地


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エンキリハイシン④


「きーらーわーれーたー!」

 あほちゃん、コイツ追い出せない?

 昼メシ時のピークタイムが過ぎたところで誠が帰ってきた。

「何も無かったのか?」

 一応、誠も攻撃対象になることも心配していたんだが。

「何もできませんでしたよぅ。空気が死んでましたよぅ」

 コイツの辞書に緊張感って文字が無いのか。

「肉体が生きてて何よりだ」

 そんなことが慰めにならないように昨日余ったゆずサイダーをあおっている。

「久恒の様子は?」

「一言も。こちらも話しかけることはしませんでしたけど」

 あのテンションから女子会トークしてたら嫌だわ。

 1.5のゆずサイダーを飲み干した誠は大きく息を吐いた。

「……本当にツネビさまが原因なんですか?」

「さっきはっきり言い切ってたじゃないか」

「あの流れならそう言わざるを得ないじゃないですか」

 確かにそう。

 僕が配信を止めさせようとした瞬間の攻撃、少なくとも久恒を取り巻く何かが原因と思うのは当たり前だ。

「今回のことで本件はC+に格上げされました」

 その格付け、ゲームみたいだから辞めない?

「私が決めたわけじゃありません」

 表情を見るに誠も納得していないようだ。

「C、ねぇ……」

「何か?」

 前言っていたTierの話なのだろうが、ずいぶんと楽観的に見える。

「……あほちゃんのTier、たしかSだよな」

 誠の顔が一気に曇った。

 頭の回転が早くて助かるよ。

「そう、今回の原因は怪異じゃない。おそらく久恒の傍にいる守護の仕業だ」

「……はい?だって私もあなたも見えなかったんですよ?」

 あほちゃんと顔を見合わせる。

 そう言えばちゃんと説明してなかったな。

「あほちゃん、やって」

「うーぱー!」

 あほちゃんは頭にタオルを巻いて指を立てて印を結ぶ。

「……えと、遊んでる暇は」

「うぱー!」

 再び叫ぶと頭に巻いたタオルだけ残り、あほちゃんの姿が消えてしまった。

 誠は宙に浮かんだタオルに触れた。

「……居ますね」

「正確には、居てくれてるだけどな」

 するすると姿を戻し両手を上げるポージング。

「……なんで見えなくなったんです?」

「普段は見せてくれてるんだよ」

 姿が見えるのも、見えない状態で触れられたのも、全部あほちゃんがしてくれてるから。

 怪異だったらこっちが見る力があれば見ることができる。

 触ることができる。

 捕まえることができる。

「対して守護はこっちの力でどうにかならない」

 もちろん、見るには最低限の力が必要だ。

 ただこちらが見ようとしても守護が見せようとしなかったら?

「その結果はご覧の通り」

「うぱっ」

 あほちゃんは恭しく頭を下げてドアの奥に退場していく。

 半分顔を出して様子を伺っている。

 上手にできたから大丈夫だよ。

「つまりアレですか。今回の原因はツネビさまを守っている守護ということ?」

 誠は片眉だけ上げて尋ねる。

「でも、守護ですよね?守るため、ですよね?」

「その呼び方は怪異と分けるために呼んでいるだけだ」

 別にあほちゃんが守るために僕の傍にいるわけじゃない。

 なんでいるのか、知らないけどね。

「……つまり、ツネビさまにいるのは、悪い守護?」

「どうだろうなぁ」

 身体をソファーの背もたれに預けて天井を見る。

 良いとか、悪いとか。

 そんなの結局こっちの基準だから。

「ただひとつ言えるのは、久恒を好いているヤツがいる」

 そいつが無差別な暴力を持っている。

 その暴力が、こちらのルールを無視している。

 究極それだけのことだが、それだけだから危険すぎる。

「はっきりしませんね、攻撃してくるなら悪意でしょう」

「たとえばだ」

 敵の侵入を防ぐために、幾重にもブービートラップを重ねた住処があるとしよう。

 その作動線は一切見えず、しかも設置者の思惑で毎日変わる。

「この状況で吹き飛ばされたとして、その死は悪意によるものか?」

「それは……」

 誠は口をつぐむ。

 そう、だったら侵入しなければいい。

 踏み入らなければいい。

 踏みにじらなければいい。

 ただ、今回の問題は。

「その住処がどこか誰も把握していない」

 守護と一緒にいるはずの、久恒にも。

「だから、本音を言えば今のままがベターなんだよ」

 ベストではなく、ベター。

 確実に被害者は止まらない。

 でも、範囲はあくまで配信を見た人間に固定される。

 さっきのひっかき傷は、何かを踏んだ結果ならアレで止まるはずだ。

「このまま噂が拡がって久恒の配信に誰も来なくなれば自然鎮火だ」

「それじゃツネビさまが……」

 そう。

 この結果は誰も幸せにならない。

 それにこの考えは僕が望む道を進んだ場合だ。

「僕には配信を見に行く奴らの心理がわからん」

 この想定は僕が描いた青写真に過ぎない。

 噂を知らない視聴者は?

 「ツネビさま」のファンは?

 怖いもの見たさで知ってて来る奴は。

 このまま鎮静化に進むなんて理想論。

 なぜならその噂の根っこ、発端はあの金髪ライバーだけしか共有されていないのだから。

「……仕込みと思う層もいるでしょう。ツネビさまがわざと流している話題作りだと」

 だよなぁ、そうなるよなぁ。

「だから、コイツに文句を言うしかないんだわ」

 隣で寂しそうにしてる切り裂かれたソファーに親指を差す。

 高かったんだぞ、拾い物だから知らんけど。

「……キツくないです?」

「キツいよ」

 追跡不可能、感知無理、即死物理攻撃でしょ?

 紫武者を助っ人に呼んで相討ちしてほしい案件なんだわ。

「でも、仕事を終えてない」

「え?原因は守護が暴れてるって……」

 誠は目を丸くする。

「忘れたのか?僕が受けた依頼は原因の特定。現時点は推測なんだよ」

 どこにいるかわからない守護が今回の原因でした、これでお仕事完了ですー。

 そんなレベルの低いことできるかっての。

「……ありがとうございます!」

 お前が礼を言うなよ。

 問題はまずどうやって探すのか。

 そもそも攻撃後ではあほちゃんの追跡すら逃れる奴だろう?

「誠のところに怪異レーダーとかないの?」

 ストップウォッチを押す仕草で尋ねる。

 その様子を見て、余りにも露骨にこちらを見下した目を向けてくる。

「いいですねぇ、持ってきましょう。投げたら収納できるカプセルもご所望ですかアホンダラ」

 荒れ方が景気良いな、おい。

「しかし、大変な点はまだあります」

 誠は切られたソファーに、気にすることなく腰かける。

「まだ?探すだけじゃなくて?」

 言葉の途中で誠が切られた部分を指さしている。

「……コレ、防げるんです?」

 僕は唾を飲み込んだ。

 見えない斬撃。

 これを防がないと近付くなんて自殺のそれだろう。

 幸いにしてあほちゃんが少しどけてくれただけで避けられる威力。

 直撃を受けなければ死にはしない。

 腕の1本や2本なら生えてくると信じたい。

「生えません、トカゲじゃないんですから」

 まじまじ腕を眺めていると、考えを見透かした誠が自らの額に手を当てた。

「良いですか、今回の仕事ふたりとも無事である。これも条件です」

「なんで」

 今までそんなこと言わなかったじゃないか。

「だって……私たちに何かあったらツネビさま……いえ、久恒さんは悲しむでしょう」

 誠は目線をこちらに向けずまっすぐ壁を見ていた。

 久恒さん。

 ファンだからじゃない。

 ひとりの人間として彼女を守りたいのだ。

「私はツネビさまが好きです。本物を知らず、ニセモノだから楽しく怪異に関わっている、常火ノ命さまが」

 その感覚は僕にはない。

 怪異になんて関わりたくない。

 でも、誠にとっては。

「彼女が神秘を良いものとして発信してるから、本物の化け物を遠慮なくシバけるんです」

「結局シバくのかよ」

 誠はこちらに笑顔を向けた。

「当然でしょう、怪異に人権はありません。どれだけ殴る蹴る暴行をしたとしても、出られるところはありませんから」

 峠でボコボコにされていたことを考えるとポーズだろう。

 素直じゃねぇな、コイツも。

「だったら、できるだけ五体満足で終えないとな」

「もちろんです」

 どちらからともなく拳を挙げた。

 軽くぶつけ合い、笑い合う。

 微笑みではなく、シニカルに。

 まるで共犯者に向けるように。

 そう、ここからは共犯だ。

 ヒトの命をエサにして、わからず屋の守護を引きずり出す。

「そう言えばこの守護……」

 誠が言いかけた時、スマホが鳴った。

 説明をやめ、真っ青な顔で飛びつく。

「なんで……!」

 その理由は聞くまでもなかった。

『私は、常火ノ命……今日も貴様らに感染してやろう』

 唐突に始まった久恒の配信。

 その言葉の意味するところは準備なく開幕のベルが叩かれた事実だった。

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