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守護遣い-騙り探偵と癒しの守護-  作者: 長峰永地


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16/27

エンキリハイシン①

 一


 現代社会において、ひとつのモノを共有することは非常に稀である。

 日本ではひとりひとりがスマホを持っていて、好き勝手なことばかりをぴーちくぱーちくさえずっている。

 さえずりの異名を持ったSNSはすでに消えて、今では闘争の殴り合いとインプレゾンビが溢れかえる物に変わってしまった。

 そんなボクシング文化はプラットフォームにおいても遺憾なく発揮されている。

 ひとり1台スマホを持つ、ということはひとりひとりが無責任な言葉を投げられるということだ。

 SNSだけじゃない。

 別のキャラのガワを被り、そのガワも含めてニセモノの電脳世界を楽しむ。

 それを『ハイシン』という形でショーにして、今じゃ1億総配信者と揶揄する言葉も生まれている。

 僕にとってそれは、無意味な諍いを産む幻想に過ぎない。

「うぱー」

「ですよねぇ、浸るのが長いですよねぇ」

「僕は改めて感じるんだ。なんでこんな情報が溢れかえる時代の憩いのひとときに、会いたくもない顔とココアしているのかって」

 峠の傷も癒えて依頼も無く、のんびりと過ごしていた昼下がり。

 用もなく訪ねてきた誠にあほちゃんは砂糖を撒いてココアを出した。

 追い払うのか歓迎してるのかどっちだろうか。

「いいじゃないですか、ここに来るなら情報収集の外出扱いにできるんです」

 ヒトの事務所を喫茶店代わりに使うなっての。

「うぱー」

 あほちゃんがメニュー表を差し出す。

 中に「めだま」と「まぜる」といびつな文字で書いてあった。

「スクランブルで、ケチャップを付けてください。できればトーストはカリカリで」

「うぱぁ!」

 あほちゃんは嬉しそうに背後からコック帽を取り出してキッチンに走っていく。

「モーニング、480円でーす」

「保健所に許可取ってるなら払いましょう」

 あるわけないだろ、ばかばかしい。

「わざわざここまで来たのは本当に休憩だけか?」

 先出しのココアを啜る誠に尋ねると目をぱちぱちと数回瞬きを繰り返す。

「意外ですね、理由が無ければ来てはいけないと?」

 そこまでヒマじゃないだろって話だよ。

「失礼ですね、ヒマではありません。ですが……」

 誠はそこで言葉を区切る。

「こう見えて公務員なんです。上からの命令が無いと、基本的に待機なんですよね」

 耳かきを探して耳掃除をしたい言葉が聞こえてきた気がするな。

 少なくとも村と峠、2回連続で勝手な行動してなかったか?

「うぱぁー」

 あほちゃんが微笑みながらプレートを持ってくる。

 とろとろの半熟スクランブルエッグに、ドレッシングのかかったサニーレタス。三角形に切ったトーストを乗せた立派なモーニング。

「美味しそうですねぇ、これは?」

 小皿に取り分けられた、茶色いディップ。

「チョコだよ、あほちゃん特製」

「……トーストにはギリか」

 パンとチョコは相性が良いからねぇ。

「こんこん」

 いきなり見知らぬ声が聞こえて誠と同時に振り向く。

 あほちゃん?気にするわけないじゃない。

「そんないきなり振り向かなくても。ここ、守護遣いさんがいらっしゃる探偵事務所、ですよね?」

 軽く首を傾げながら丸い目を向けてくる女性。

 横目で誠を見る。

 こちらに目を合わせてすぐに女性に目を戻した。

 誠も知らんか。

「何度かノックしたんですけど。お話の声が聞こえていましたし、カギは開いていましたし……出直した方が?」

「いえいえ、どうぞどうぞ!」

 なんで誠が答えるんだよ!

「せっかくのお食事中にお邪魔では?」

「気にしないでください。ほら探偵さん!お仕事ですよっ」

 お前が取り仕切るなっての!

 誠はプレートを手に取ると、あほちゃんがてこてことココアを持ってくる。

「失礼します」

 スカートの裾を払いながらソファに腰を下ろした女性は目の前に置かれている3つのマグカップを不思議そうに見ている。

「あー!ごめんなさい!私のカップ、置きっぱなしで!」

「でも、おふたつ?」

 それはそう。明らかに今出されたカップだろうよ。

「ほら!ホットとアイス同時に飲みたいときあるじゃないですか」

「お腹、ぐるぐるしません?私はたぶんなってしまうのですが」

 というかそもそもカップふたつともホット用なんだけどね。

 反応を見るにどこかのニセゴリJKみたくあほちゃんが見える能力者ではない様子。

 でも、この子ははっきりとここに来た理由が「守護遣い」を探していた。

「改めまして。久恒くつね美織みおりと申します」

 ぺこりと頭を下げると長いストレートヘアが一緒に下がる。

「え……ツネビさま?」

 あの、誠さん。初対面の方に失礼では?

 誠の呼びかけに頭をあげるとにこりと微笑む。

「あら、視聴者さんですか?」

「うええ!?ほんもの!?」

 おじさん、付いていけないから説明してもらってもいい?

「嘘でしょ!?なんで知らないんですか!?」

 珍しく興奮する誠はスマホ画面を押し付けてきた。

 画面に写るのは、長い髪で顔を隠し、白装束を着てひゅーどろろなBGMを流している動画。

『今回も、黄泉の国から感染しています……常火ノ命……あなたはもう逃げられません……』

 画面を見る。

 目の前の女の子を見る。

 スマホを見る。

「こうしたらわかりやすいですか?」

 髪の毛を前に被せて顔を隠す。

 ご協力どうも。

 そうか、それで誠は頭下げたら気付いたのか。

「えと、成仏のお手伝いなら寺か神社だと思うんだけど」

「こう見えて生きてますので、できればまだお世話になりたくないかなぁって」

 髪戻してから答えてくれませんかね?

「こんな汚いところにご足労いただいてっ!今回は取材か何かですか!」

 お前の事務所じゃないだろうが!

「取材って?」

「これだからモグリは!良いですか!」

 ここから30分、早口オタクと化した誠が目の前におわします『常火ツネビミコト』通称ツネビさまの説明を動画を交えながらたっぷりこってりし続けた。

 ざっくり言うと怪異系配信者らしい。

 で、立ち位置として黄泉の国から蘇ったこの世に怨みを持つツネビさまが神社仏閣を荒らす……という名の参拝してゆかりのある怪異含めて紹介しているとのこと。

 ある意味怪異に対して迷惑系配信者。

 この説明を受けながらその怨みを持つ怪異はどうしてたか?

 にこにこ微笑みながら聞き入ってましたよ。

「そんな妖怪配信者さんが何の用?」

 誠の布教に耐え切って尋ねると、自然と頭を下げている。

 別に誠に対してのファンサでは無いだろう。

「……信じてもらえないかもしれませんが」

「大丈夫です!この人の方が怪しいので!」

 内容を聞く前に答えるんじゃありません。

「実は最近、私の配信で変な噂が流れてしまって」

 変な噂?

「限界オタク」

「逮捕しますよ」

「うるせえ、情報源」

 そんな熱弁するくらいなら何か知ってるだろ。

「ツネビさま、この愚かなる愚者に地に着いたご説明を」

 二重表現だぞ、国語の成績2か?

「配信の外ではできればツネビはお控えいただければ……漏れてしまうの、怖いですし」

 初めて苦笑いを浮かべる久恒。

「じゃ、クツネさん。説明してもらっても?」

「えぇ、実は……私の配信を見ると不幸になると噂が立っていて」

 うわー、どうでも良いー。

 でも、見ているであろう誠がピンピンしてるのはなんでだ?

「私が見てるの、動画だからですかね?」

 すまん、何がちゃうん?

「これだからおじいさんは」

 いを抜けよ、おじは受け入れてやるから。

「ツネビさまは夜になると力が強くなり過ぎて神社仏閣壊しちゃうので。侵略する時は昼間、わざと力を抑えているんです」

「夜間にお邪魔するの、御本尊に失礼ですので」

 なんで怪異キャラでやってるの、この子。

「夜間にツネビさまフルパワーで討ち滅ぼしてきた怪異の話を肴に皆で酒宴を開くのですけど……」

「けど?」

「オンタイムできないので、私はアーカイブ勢です」

 悲しきかな、下っ端公務員。

「つまり、その配信を見てる奴らだけ不幸になっている、と?」

 たしか配信って誰が来てるかわからないんだろ?

 なんでそいつらが不幸になってるってわかるんだ?

「はぁ、これだからご先祖さまは!」

 せめて生存させてくれよ。

「今調べました。ツネビさま、わりと同時視聴されてるんですね」

 うん、地面に埋まっておくから話し進めてくれ。

「ありがたいことに」

 誠はスマホを取り出してその同時視聴とやらを流す。

『いやぁ、ツネビさま今日も絶好調じゃん』

 画面の右下に映っているのは金髪にサングラスを掛けた動くアバター。

 なるほど、こんな感じで他の人の配信を別に見るのが同時視聴っていうのね。

「なにがおもろいんや?」

「エセは怒られますよ」

『ていうかねー、ツネビさま絶対美人だと思うんだよねー』

 正解。

『ブスだから顔隠してる?違うって、バレたら有名税がすげえから隠してる超美人と思うね、俺は』

 ちらりと久恒の顔を見る。

 口元は微笑んでいるが、目はどことなく瞼が下がってる。

「……ごめんなさい、選ぶべきでした」

「いえ、この動画でいいんです……この後ですから」

 久恒の言葉に僕らはスマホの画面に食い入る。

『いやぁ、どこかでオフコラボしたいよねぇ。俺だけツネビさまのご尊顔独占……げほ……え?なに、ち……げほっ!!』

 それきり、アバターが動かなくなる。

 咳込んだ様子、「ち」という言葉。

 久恒は目を閉じて小さく震えている。

「……アバターで良かったです。もし顔出しならアーカイブに残っていなかったでしょう」

 この画面先で起きたことは想像できないわけじゃない。

 だけど、だ。

「コイツの更新は?」

 誠は、コメントしか動かなくなった動画を閉じる。

「この日を最後に止まってます」

「……これだけなら良かったんですけど」

 僕の疑問を先回りするように、今度は久恒がスマホを出す。

 匿名掲示板のまとめスレッド。

 そこには「見たらオワル配信」と書かれていた。

 渡されたスマホをタップして内容を確認。

 書き込みのほとんどは、愉快犯、火付け役。

 しかし、最新に向かうほどに久恒を非難するコメントが減っている。

「……こちらで開示掛けます。捜査情報ですので、対応は早いかと」

 久恒に視線を送ると頷く。

 そのままスマホを渡し、誠にURLを転送する。

「アドレス、悪用するなよ」

「推しの情報は使わない、その矜持はありますよ!」

 結構だ。

 久恒は再び口を開く。

「普通、こういう嫌がらせって減らないんです。勝手に火を点けて、どんどん燃やして。だから無視するしかなかった」

 その行動が現代人の、下品なストレス解消であることは否定できない。

 その下らない憂さ晴らしが自然に鎮まることなどあり得ない。

 もしその数が減ることがあるとすれば、それはおもちゃに興味を無くしたか。

 もしくは。

「自分も死にたくないから」

 久恒は静かに言葉を置いた。

「お願いします、守護遣いさん。この原因を突き止めてくれませんか」

 立ち上がり、深々と下げられた頭。

 その表情は全く見えなかった。

「……どうします?こちらで引き受けることもできますが」

 誠はこっそりと耳打ちをする。

 本音を言えば、全部そっちに丸投げする方が賢い。

 原因は不明、被害は甚大。

 下手をしたら人生ごとBANされる。

「そうだなぁ、そっちに任せるか」

 久恒は頭を上げた。

「そう、ですよね」

「請求書は、そっちに送れば良いんだろ?」

 僕の言葉にふたりの反応は割れた。

 誠はため息、久恒は目を丸く見開いた。

「開示までお待ちを。関連してたら引っ張りますので」

「……本当に、良いのですか?」

 引き受けてもらうために来たんでしょうが。

「放置してたらおちおち動画も見れないからね」

「などと照れ隠しを申しており」

 いらん茶々の請求って上乗せできるのかね?

 実際知らずにいれば良かった。

 でも、知ってしまった。

 こう見えて、原因わからず死ぬのは嫌いなんでね。

「口は悪いですけど、性格も悪いですから」

 なんのフォローにもなってないんですけど?

「ありがとう、ございます」

 久恒はこの部屋に来て初めて気の抜けた笑顔を見せた。

「解決したら、サインお願いしますね?」

 職権乱用はしないんじゃなかったのか?

「もちろん!……おふたつでよろしいですか?」

 誠と同類と見るなら、今から断っても良いのだろうか?

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