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守護遣い-騙り探偵と癒しの守護-  作者: 長峰永地


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14/25

クビキリトウゲ⑤

 五


 目の前に現れたソレは拳を振り上げて探偵さんを吹き飛ばしていた。

 話を聞いていた紫の炎が本当に武者の姿になったのは驚きですけど、こうも強いとは。

 顔を殴られて2、3回転がり、木にぶつかった。

「誠、逃げ……ろ」

「うぱー!」

 そのままぐったりうなだれてしまう。

 手に持っていた刀はみるみる消えていく。

 あほの子、看病は任せた。

「そこの鎧武者!銃刀法違反ですよ!」

 腰のホルスターからトンファーを引き抜く。

 私の声に反応したのか、ゆっくりとこちらを見ている。

 見ている?見ているはず!

「今ならコツンで極楽です、抵抗するなら……容赦しません!」

 もちろん、こんなのハッタリ。

 このおもちゃで祓えるのなんて力も持ってない浮遊霊くらい。

 はっきりと実体化している怪異になんて、時間稼ぎが関の山。

「時間を稼ぎます、逃げてください」

 勝手に付いてきた、断ったのにも関わらず巻き込まれた。

 言いたいことはたくさんありますが!

「文句は生きて帰ったら!」

 こちらから間合いを詰めるなんてしない。

 する意味がない。

 武者は肩の高さまで刀を横に構えている。

「舐めてるんですか……!」

 大きく横に腕を開き、攻撃するとは思えない姿勢。

 しかし、違いました。

 その姿勢から急に駆けだして、腕を身体の後ろに回して。

(見えない!)

 迫りくる身体で腕を、刀身を隠している。

 間合いが取れない、取らせてくれない。

 だったら!

 半身に傾けてトンファーを腕に這わせる。

 これで狙えるのは。

「予想通りっ!」

 ちらりと光った横からの紫。

 腰を落とすと涼しい風が頭の上を吹き抜けた。

 そんなので冷汗は拭えませんけどねっ!

「くぉんのっ!」

 しゃがませて頂いたお礼を致しませんと。

 腰だめ、突撃。

 大丈夫、このトンファーは固いはず。

 ややアッパー気味に胴当てに肘から叩きこむ。

 よろめいたのはこちら。

 もっとうどんを食べておけば良かった。

 あっちはあっちで殴られたことなど意に介していない様子。

 2歩距離を取る。

 横目で後ろを見ると、一米さんがごそごそ背負ってきたリュックを漁っている。

「まだいる!」

 ふざけるな、時間稼ぎの意味がまるでない!

「アンタ、バカですか!」

 それ以上の思考は向けられない。

 逃げろと言った、それでも聞いてもない!

 だから野次馬は嫌いなんです!

「御意見申すーー!!」

 ……は?

 この素っ頓狂な声、目の前の武者さんの声ですか?

 そんなわけないでしょう。

「某、一米柚希と申すー。貴殿、当地領主、佐竹陸衛門殿とお見受けいたすー。平に、平にして御意見奉りたく存ずー!」

 いきなり時代錯誤な名乗りを上げて、一米は土下座をしている。

「アンタ、何をして」

「ボクにしかできないことがあるって言ったでしょう?下がって下さい」

 後ずさりながら目線を落とすと、一米さんの頭の上には抜き身の短剣。

 鞘が手前、刃も内側。

 更に柄は左側。

 敵意の無いことを示す所作、なのかな?

 一米さんの後ろに下がり、所作を合わせる形で私も平伏。

 このまま、介錯とかありませんよねぇ。

 じゃり……じゃりと近寄ってくる足音。

 そしてどさりと腰を落とした。

「面ヲ……上ゲイ……」

 重く、くぐもった声。

 許可が降りて頭を上げると、一米さんはまだ頭を下げている。

「意見……無クバ……」

 武者がゆらりと刀を持ち上げる。

 その動きに合わせるように一米さんは頭を上げた。

 顔を合わせた瞬間、武者が刀を地面に突き立てた。

 切っ先から床走りする紫の炎。

「貴……様ァ……!」

「お見受け通りでございます。某は一米柚希……貴殿を討ち果たした米澤半兵衛の末代の一にてございます」

 はい?

 ここで仇の末代なんか出てきちゃったら!

「貴殿の所業、検めさせていただく。この地を治めた知のままに、自らを討ち取った米澤半兵衛、その子孫。憎い怨敵が連なる者たちを大義を以て討ち取った。相違ないか」

 紫の炎は不安定に揺れる。

「然……リ」

 武者は震えながら、見下ろしながらも立ち上がろうとはしない。

「あい、貴殿の言い分確かに聞き遂げた。……某を斬れ」

 何言ってんの、この子!?

「ちょっと!アンタが斬られたって」

「ボクにしか、できないこと、です」

 そういうと一米さんはこちらを向いて微笑んだ。

「その怨み、わが身ひとつで虫が良いのは重々承知、しかしてこの平静の世、血も薄くなり貴殿の怨敵はすでに力なき平民の身分。故にこの天誅、某の命を以て鎮めたもう!」

 この子、本気だ。

 最初から、このために付いて来てた。

 紫の炎は刀を掴んだ。

「貴殿ノ意見……」

 高く、高く。

 刀が掲げられて、妖しく光って。

「承ッタ……」

 もう私は口を出せない。

 見続けるしか、できない。

「シカシ……」

 武者は言葉を翻す。

 いやに時間が長い。

「首ガ違ウ」

 振り下ろされる閃光。

 その一筋が斬ったのは。

 紫の炎、その本体だった。

「……え?」

 声を漏らしたのは一米さんだった。

「なんで……?」

 死を受け入れた、その命を以て鎮めることにした。

 その覚悟を台無しにする、目の前の自刃。

「治世……」

 首だけになった炎は、更に低い声でこちらにこぼす。

「努……忘レルナ……」

 どさりと。

 身体が倒れるのと同時に、首も消えた。

 私も、一米さんも口を開けない。

 木々のざわめきがようやく耳に入ってくる。

 まだ赤い陽は残っていた。

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