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守護遣い-騙り探偵と癒しの守護-  作者: 長峰永地


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13/26

クビキリトウゲ④

 四


 ヤンキーはすぐに見つかった。

 近所で買ったネコ缶を開けて、カゴに棒をつっかえて近寄ってきた時にばさー。

「なにか、アホなこと考えてません?」

 ヤンキーを組み伏せている誠が呆れ顔でこちらを向いている。

「うぱー!」

 あほちゃんが呼び方に過剰反応している。

「っめぇら!ふざけてんのか!」

 1番の被害者は地面に組み伏せられているヤンキーか。

「こんなことして警察が許すと思ってんのか、あぁ?」

「はい、こちら」

 誠は躊躇なく警察手帳を取り出した。

「あなたは私に逆らいました、公務執行妨害の現行犯です」

 あまりの暴論に口をパクパクさせるヤンキー。

「栗宮さん、警察だったので……?」

 一米も目を丸くする。

 驚くよねー、僕もまだ信じてない。

「俺はなにもしてねぇだろうがぁ!」

「あらぁ、官警侮辱罪が加わりますねぇ」

 明治時代か?

「ざっけんなよ!」

「私たちはあなたに話を聞きたいだけなので。峠の話を聞かせてくれたら逮捕を取りやめようかと」

「栗宮さん!イカれてますねぇ!」

「お前が逮捕されろよ!」

 ヤンキー君が憐れになってきた、いいぞもっとやれ。

「で、結構真面目な話。キミ、峠からの生き残りなんですって?」

 その表現は戦地帰りなんだよなぁ。

 それまでじたばたと暴れていたヤンキー、野沢五郎はぴたりと動きを止めた。

「……離せよ」

「良いんですかぁ?そんな反抗的な」

「離せって言ってんだろ」

 その声は、誠の動きを止めるのに充分だった。

 静かに、しかし重い。

 それまでの五郎では考えられない程、深い声。

「何聞きてぇんだ、話してやるよ」

 こちらを睨む目は、どろりと濁っている。

「連れが済まないことをした、ほら謝って」

「なんで私が」

「謝って」

「……申し訳ございませんでした」

 誠は不承不承は隠していないものの、しっかりと頭を下げた。

 それに釣られて一米も頭を下げる。

 ヒトには触れちゃいけない傷がある。

 それは他者から見たら大したことないのだろう。

 しかし、本人にとってはそのひとつの出来事で殺し合いに至ることもある。

 僕は外から見てたから気付けたけど、もし一緒になって茶化していたら。

 彼はなりふり構わなかっただろう。

「……で、何話せば良いんだ」

 謝罪は、受け取っていない。

 でも話してくれる。

 話そうとしている。

 断絶寸前に至った相手に手を伸ばしている。

 それは、つまり。

「……僕たちは今、峠の事件を調べている。アレはヒトの仕業じゃない。ついでになっちゃうけど仇討ち、僕らに任せてみない?」

「……けっ」

 五郎は目を逸らす。

 すまんな。

 必ずと言えなくて。


「けーっきょく!あの子に話を聞いてもなんの情報も無かったじゃないですかぁ!」

 年端もいかないヤンキーに深々謝罪させられた誠のご立腹から始まる山登り。

 そういう意味で収穫があったとは言えなかった。

「ですねぇ、彼も何があったかわかっていないようですし」

 一米も今回は同行して付いてきている。

 絶対に危ないから辞めろって言ったのだが。

『ボクしか知らない、陸衛門の苦手な物あると言ったら?』と強引に押し切ってきた。

「絶対僕より前に出るなよ?」

 まぁ、そんな注意もアイツと出会ったらどうなるかわからないけどな。

 陽はまだ高い。

 来るなら、たぶん日没後だ。

 それまでに昨日の場所まで行ければ良いのだが。

「その苦手な物って?ネコが怖いとか?」

「言いますよね、幽霊はネコを怖がるって」

 この遠足気分2人組、守らなきゃダメかぁ?

「でも、なんででしょうね。私たちは両方斬られず、あの子は友だちだけ斬られた」

 五郎から聞いた話をかいつまむと、友だちがいつの間にか斬られた。

 そして彼自身は何もされなかった。

 そう、何に斬られたか、なぜ斬られたかすらわかっていなかった。

「でも、友だちの形見が木刀って……」

 実は僕らと最初に遭遇した時に持っていた木刀、あれは先日首を落とされた友人の遺品だそうだ。

「たまたま掴んで持ってきた、とか言ってたけど」

 それだけできたのは幸いだよな。

 もしかしたら、出てくるのに武器が条件かとも思った。

 だが、違う。

 僕らが襲われた時には何も持ってなかった。

「うぱ?」

 あほちゃんが僕の頭の上から覗き込む。

 手にはチョコひとかけら。

「ありがとう、もらうね」

 少しでも、少しでも体力が欲しい。

「ここ、ですね」

 昨日、僕と誠が気絶していた山道。

 まだ日の入りには少し時間がある。

 周囲を見回し、紫の炎がないことを確認。

「専門家の意見は?」

 一米に促すとゆっくり調べ始めている。

 手にはご自慢のスクラップ。

「陸衛門の処刑された場所がここ、首を晒された場所がここだとして。この峠の位置と照らし合わせると……」

 小声でブツブツ何か言っている。

 しゃがみ込み、地面に目を伏せているため、完全に無防備だ。

 誠と背中を合わせて、見回す。

 その時。

 ぞわりと。

 急激な寒気に襲われる。

「なんでっ」

 僕よりも先に誠が声を挙げた。

 まだ陽は残っている。

 峠を照らす赤い炎。

 その景色にひとつ。

 紫の光。

「来やがった……!」

 日没すら条件じゃないのかよ!

 ゆらり、ゆらりと。

 徐々に形が人型に。

 そして輪郭がはっきりと。

 昨日と違い、更に濃く。

 明確な形で武者と成った。

「下がれ、ふたりとも!」

 心の準備も、身体の準備もできていない。

 そんなこと言っていられない。

 紫武者とふたりの間に差し入ると、頭の上のあほちゃんをトントンと叩く。

「貸して、すぐに!」

「うぴっ?」

 妙な声を上げたあほちゃんはすぐさま僕の頭から飛び降りた。

 上に口を開ける、手を突っ込む。

「動物虐待!」

 言ってる場合か!

 手を引き上げると、柄が。鍔が。刀身が。

 赤く波打つ波紋を宿した刀が姿を現した。

「来いよ、怨霊。恨みつらみがあるかもしれんが、こっちにも生きた恨みを背負ってるんだ!」

 ガラにも無いことを言いながら切っ先を紫武者に向ける。

 自分を鼓舞してもあっちから来る威圧感は微塵も減りやしない。

「……断ツ」

 ゆらりと。

 揺れる。

 紫の炎。

 緩慢に見える炎が目の前に迫るのはすぐだった。

「鳩尾っ!」

 コイツの初手はわかっている。

 急所に向かって一撃昏倒。

 つまり身体を逸らせば!

 ひとつ覚えの柄尻に寄る打撃をギリギリ躱し、その回転を以て刃を薙ぎ当てる。

 響く金属音。

 紫武者は手首を返して刃を立てていた。

 上から刀を押し込まれ、体勢を流してくる。

 一歩、いや半歩で留まった。

 だがその半歩だけで終わっていた。

 目の前に、頭上に刀を振り上げた紫武者。

 刀を上げて、どうにか……。

 ひときわ大きな金属音、なんとか直接の唐竹は免れた。

「おっ……も……!」

 最初こそ衝撃だけだった。

 しかし徐々に増えていく上からの圧。

 支えるも、受け流すこともできず。

「しま……」

 唐突に抜ける膝。

 押し下げられる刀。

 地面に目を取られ、再び上げた視線が捕らえたのは眼前に迫る紫の拳だった。

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