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守護遣い-騙り探偵と癒しの守護-  作者: 長峰永地


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クビキリトウゲ②

 二


 気配もなく声をかけてきたご老人。

 もしこの人が暗殺者だったらすでに僕はこの世にいない。

 あほちゃんはボクシンググローブを取り出してファイティングポーズ。

「あの、良いですか?」

 誠は緊張感の無い顔でこちらを見ている。

 まずやられるのはコイツから、その仇を討つために……。

「絶対あほなこと考えてるでしょ?」

「うぱ?」

 たぶんあほちゃんのことは呼んでないかな?

「お2人さん、わざわざこんな田舎になんの用かえ?」

 こちらの情緒など関係なくじろじろと遠慮なく観察してくるおばあさん。

「私たち、フリージャーナリストでして。最近この近くで起きた事件について調べに」

 息を吐くように嘘を吐きやがる。

 今回も警察であることは隠すのか。

「あぁ、だから五郎に話聞いてたんね」

 五郎?あのヤンキーか。

「いえ、彼はいきなり」

 そうよねぇ、僕らを見ただけでいきなり絡んで来たからねぇ。

「おんやまぁ。あん子だけよ、話聞けるんは」

 のんびりした口調で妙なことを口走る。

「彼がなにかありました?」

 誠が良い顔して話を進めてくれるから今回楽でいいなぁ。

「勝幸と山入って、帰ってきたのあん子だけさぁ」

 ……は?何言った、このばぁさん。

 誠の背筋も瞬間伸びる。

「それでは後であの子にも話を聞かないといけませんね」

 緊張を悟られないようにだろう、あくまで気の抜けた声で話す誠。

「おばあさん、帰ってこなかったってのは、その?」

 ぼかして話したことの核心を聞く。

 この緊張は演技じゃないだろう。

 コイツは、血生臭いことに関わるには甘いんだ。

「あぁ、首切られてたぁ」

 たった一言。

 その一言で一気に引き締まる。

「五郎が勝幸と山入ってな、最近危ないって言ったんだが気にせんでなぁ」

 子どものありがちな度胸試し。

 そのことで永遠の子どもになっちまったわけか。

「それはそれは……」

「最近、物騒でなぁ、みんな言っとるよ。陸衛門の祟りだぁって」

 リクエモン?

「おばあちゃん、その陸衛門って誰です?」

「おんやまぁ、びびらんかぁ。そっかぁ、よそ者には陸衛門もわからんかぁ」

 地味に馬鹿にしてますな、このおばば。

「そなら知らんでええ。雑誌もええけど命あっての物種だかんな」

 おばばはそこまで言うとゆっくりと振り向いて去っていく。

 腰の曲がる年齢の歩き、追いつけない訳がない。

 しかし僕も誠も背中に声をかけることなどしない。

「これ以上、何も聞けそうにありませんからね」

 誠は警戒を解くとひとつため息を吐いた。

「同感だ」

 そもそもずっとよそ者扱いしてきてたし。

「でも、変なこと言ってましたね」

「陸衛門の祟り?」

 まさか青いタヌキ6号機じゃあるまい。

「それが今回の原因ですか」

 地方に根付く都市伝説、考えたら妥当か。

「調べる必要無くなったのはありがたい」

 だからといって何か情報が増えたとは言い難い。

「ネットで調べてみましたけど、ヒットしませんねぇ」

 誠はスマホで調べるが「陸衛門」の情報は何も出てこなかったようだ。

「結局、出たとこ勝負になるのか」

「ですねぇ」

「うぱうぱ」

 三者三様、緊張感が無いのは全員だけれど。

 村の時に比べたら、少しだけ気が楽な部分がある。

「油断したら、死ぬ」

 そのことがわかっているのだから。

「あの、私は死ぬことは仕方ないと思いますけど、死にたいわけじゃないのです」

 僕だって別に死にたいわけじゃない。

「だけど、今回の方が下手したら死ぬでしょ」

 村の出来事は行方不明調査、今回は39人の死者が出てる。

「32です、盛るのやめましょ?」

 とりあえず大勢の人が死んでるのは事実でしょ。

「それじゃ、行きますかぁ。ここに居ても話が進みませんし」

 誠は目線を奥の山々に移す。

「もう夜だけど、行くの?」

「昼でも夜でも変わらないでしょう?夜の方がちゃんと出てくれそうですし」

 そういう神経の図太さ、今後苦労しそうなんだけど。

「調査です、出てくれないと困ります」

「違いない」

 足元でアリと格闘していたあほちゃんを肩車してのんびり歩き出すのだった。

「……陸衛門……?」

 こちらを見ている視線には気付いていた。

 しかし村人Fくらいの立ち位置と放置していた。

 その人物が、今後の僕らの運命を大きく動かすことは、その時には気付いていなかった。


 現場の峠に着くころにはすでに陽は地平線に沈みかけている。

「あほの子、私を担いでくれても良いんじゃない?」

「ぱ?」

 露骨に嫌そうな顔をするんじゃありません。

 そもそも誠のお付き合いなんだよ、こっちは。

「しかし、なんでこんな山奥なんですかねぇ」

 都内からずっと車を運転していた誠は相変わらず、しかしわざとらしく腰を手で打っている。

「人里で怪異が出るのも嫌でしょ」

 ただでさえ首すっ飛ばす危険なヤツなんだから。

「この規模ですら別にそこまででも無いんですよねぇ」

 芝居をやめた誠は、背筋を伸ばして歩き始める。

「なんて?」

「今回の怪異、Tierで言ったらCくらいなんですよね」

 冗談じゃない、46人死んでるのに?

「32人です、勝手にどんどん釣り上げないでください」

 そうでもしないと精神バランス保てないんだっての。

「なんでこのレベルでそんなTier低いんだよ」

「なぜ?怪異だと明確にわかるからです」

 誠はこちらをまっすぐ向いて足を止める。

「こちらに入ってくる怪異情報は多岐に渡ります。嫌な噂程度、都市伝説まがい、そして直接攻撃系」

 今回の峠は明らかに直接攻撃系だろうな。

「つまりヤバいってことでは?」

「逆です、逆。100%怪異だから対処が楽なんです」

 言っていることが繋がらない。

「そもそも、私たちのところに上がってきている時点でバレているわけですよね」

 その言葉で少しだけ腑に落ちた。

「つまり、露骨過ぎた、と?」

 誠は端的な説明に頷く。

 怪異が怪異たりえるのは、正体不明であり、原因不明だからこそ恐怖の対象になる。

 今回の峠はやり過ぎた。

 明確な超常現象でないと起こりえないことと核心するほどに。

「ですね、人間が行なったことであれば色々手続きが必要でしょう?令状取ったり起訴書類作ったり。対して怪異ならぶっ飛ばせばいいので」

 公僕とは思えねぇ単語を吐きやがる。

「でもCは言い過ぎだろう?人が死んでるんだから」

「Cですよ。しかも下位」

 この感覚のギャップは埋めとく必要があるか?

 そんな僕の懸念を察したのか、誠は言葉を続けた。

「見た瞬間怪異ってわかるでしょ?だからC。そもそもBなんて10年規模、Aは歴史書レベルです」

 なるほど、このTierはつまり。

「処置のしやすさ、ですか」

「ええ。ちなみにこの前の長はCにもなりません」

 あれは怪異というよりヒトの歪みの結果だから納得の位付けだな。

「ちなみにこのあほの子を当てはめるならSですね」

「うぱぁ」

 あほちゃん、照れてる場合じゃないっすよ?

「なんでじゃい」

「存在が知られていなかったからです。もちろん、報告にあげてませんので登記されることはありませんが」

 このことの礼を言っておくべきか?

「あの、そのありが……」

 言葉をそこで止める。

 誠は背中を向けた。

「気付きました?」

「言われるまでも」

「うぱー」

 あほちゃんは僕の頭によじ登る。

 まだギリギリ陽は落ちていない。

「明るいうちから出るなんて聞いてないけど?」

「境界を踏んだか」

 僕と誠は背中合わせで辺りを見回す。

 何が変わったのかわからない。

 だけど明らかに変わっている。

 しかし、何も起きない。

 起きないことが異変なくらい重い空気。

 陽が完全に、落ちる。

 その瞬間に視界の端に入ってくるぼんやりした存在。

 現実にはあり得ない。

 紫色の炎が。

 先ほどまで無かったハズなのに。

 気付くが早い、それは誠を突き飛ばす。

「がっ……」

「誠!」

 うめき声をあげてピクリとも動かない。

 しかしそんな心配をしている場合ではなさそうだ。

 改めて炎を見ると鎧に身を包み、刀を携えた武者が立っていた。

「露骨過ぎるだろ」

 被害者の首を飛ばしたであろう得物を高々振り上げている。

 一閃。

 振り下ろされた刀は、一筋地面を抉っていた。

「炎じゃないのかよ!」

 地面への切れ味は焼き切っている様子ではなく、明らかに鋭利な物理が働いている。

 目を戻した瞬間、その眼前に顔当ての面。

 気付いたら鳩尾に柄がめり込んでいた。

「……っ!」

 声も出せず、その場に倒れ込む。

 髪を捕まれ、こちらの顔をまじまじ見つめる鎧武者。

 そのまま首を落とされることを覚悟した。

「……違ウ」

 くぐもった、しかしはっきりと聞こえた声。

 それだけいうと、僕から離れて誠に同じことをしている。

 再び「違ウ」と声を漏らすと、そのまま炎は消えていく。

「……なんだったんだ、今の」

 手に持った刀、時代錯誤な鎧姿。

 原因である怪異。

 その怪異に僕らは手も足も出なかった。

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