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守護遣い-騙り探偵と癒しの守護-  作者: 長峰永地


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10/27

クビキリトウゲ①

 一


「かっちゃん、帰ろうよぉ」

「うるせぇなぁ、そんなんだから舐められるんだよ」

「だってここ、ガチで出るんだよぉ?」

「だったらここにおいて行くぞ!」

「ま、待って……かっちゃん?」

「…………」

「かっちゃん、なんか言って……うわぁぁ!?」


 穏やかな日々の重要性は言うまでもない。

 こんな仕事をしているとこうしてゆっくりココアを飲めることがどれほど安らぎを与えるか、言うまでもない。

「あほの子、甘さ控えめって言ったじゃないですか!」

「ぷー!」

 一緒に飲んでいる相手が、暴力ゴリラで無いのなら、という条件が加わるのだが。

「わざわざ来ておいて飲み物に文句付けるなよ、誠さん」

「女の子はウエイトコントロールが男性より大変なんですよ」

 女の……子?

「あほの子、トリカブトは?」

 怖えよ、直接の毒物は。

「警察が犯罪犯すなよ」

 しかも公安なんてむしろ警察の犯罪すら監視する立場だろうが。

「証拠がなければいいのです」

 発想がヤバいんだって。

 せっかくの休日をこんなゴリラさんの相手をしなければならない僕の不幸を誰か癒してほしい。

「何言ってるんですか、スポンサーですよ私は」

 お前が支払うわけじゃないだろうが。

 そこはある意味どうでもいい。

「3日前に退院したばっかりなんですけど?」

 村の事件から2週間。

 あほちゃんとの同期で消耗した体力を回復させるために金づるの資金を存分にしゃぶってしっかり休ませてもらった。

 そのあとすぐにここに来ること無くない?

「えっとですね、今度はG県の峠を攻めてもらうんですけど」

 豆腐を運ばなきゃダメなのか。

「今度は首切り死体が連続です」

 さらっとエグいこと言ったね?

「あなたに溜めても仕方ないでしょう?」

 違いない、どうせ連れていかれるんだから。

「それより、今度は?今度もの間違いじゃなく?」

 前回も被害者の首無かったじゃない。

「村では頭が無かったじゃないですか。今回は首が切れてるだけなので」

 軽く言うことじゃあないのよ。

「僕のところに来るってことは怪異絡み?」

 聞く意味も無いことをわざわざ尋ねたのは、どうにか断る理由を見つけ出すため。

「じゃなきゃ来ません、それに応援が呼べることならさらに」

 つまり、また厄介な状態かい。

 スマホを取り出して『G県 首無し』で検索を掛けると何もヒットしない。

「何もないじゃない」

 誠は大きくため息を吐く。

「規制しているに決まってるじゃないですか」

 権力による弾圧、はんたーい!

「32人」

 唐突に告げられた人数。

 ゴリさん特有のゆるい顔はすでにしていない。

 聞かなかったことにしたい、意味がわからなかったことにしたい数。

「……最初の事件は」

「10日前、です」

 ふざけている様子は、無い。

「は?32?10日で?」

「信じられないでしょう?だから強行手段を検討しています」

 その強行手段が何なのか、僕には見当も付かない。

「それが怪異なことは確定?」

 我ながら間抜けなことを聞いていると思った。

 これが集団失踪や自然災害ならまだ逃げ道はあっただろう。

「頭と胴体が切断された遺体が峠に遺棄されている、これが人の仕業に思います?」

 違うだろうなぁ。

「遺棄された遺体はいずれも峠に放置、頭部と胴体をわざわざ完全切断しているにも関わらず、どちらもその場に放置……こんなこと人間ならしません」

 その通り

 人間であれば見つからないために場所を変えたり証拠を消す。

 今回の事件はそんなことを一切していない。

 それはつまり、そこまでの知能が無いか。

 もしくは、捕まるという存在で無いか。

「無差別で人間を殺めている怪異に人員を消耗させることは無い。上はそう判断しました」

 その判断は妥当だ。

 捜査員を送るのは危険性が高過ぎる。

 前回のことを踏まえると捜査員を死んでも良いと思っている節はあるが、使い捨てる気は無いんだろう。

「それでこの件が終わるならそれでも良いんじゃない?」

 なんなら僕も危なくないし。

 しかし誠はこちらをじっと見つめている。

「宮崎さんなら、逃げなかったでしょう」

 そこ言われると痛いなぁ。

 ムラの事件で犠牲になった先輩はこの子の判断基準にかなり食い込んでる。

 つまり、ここで断ったとしても誠は必ず現場に向かう。

 たとえ自分が死ぬことになったとしても。

「……わかったよ」

 せっかく見つけた金づるをこんなさっさと手放すには惜しい。

「良いんですか?」

「どうせ1人でも行くんだろ?」

 嫌だよ、明日スマホで誠の死体見るのは。

「お見通しですねぇ、さては私に惚れてますね?」

「いってらっしゃーい、あほちゃん砂糖撒いておいてー」

「うぱっ!」

 言われた通り壺から砂糖を取り出して関取よろしく豪快に砂糖を撒く。

「……べたべたになりません?」

「本物じゃないから平気じゃない?」

 気にしたことなかったから大丈夫のはず。

「さて、それだったら向かいましょう。運転はよろしくお願いしますね?」

 誠は車のキーをこちらに投げる。

 そのキーを受け取り、あほちゃんと顔を見合わせる。

「……僕、免許ないけど?」

「……ダサ」

 ついて行かねぇぞ?


「腰、痛ぇ……」

 現場に着くころにはすっかり陽が傾いている。

 カラスの鳴き声が情緒溢れる心地よさ。

「座ってただけの人が何言ってますか」

 コインパーキングに車を入れてきた誠が前かがみに腰を叩いている。

 情報収集を怠ったお前が悪い。

「というか、じゃあ電車でも良かったろ」

 前の時は新幹線で行ったじゃないか。

「仕方ないでしょう、前回はギリギリ経費落とせたんです。2人分の新幹線、高いんですよ」

 そのくせしっかりガソリンは領収書切ってたじゃないか。

「ほら、車なら用途不明でも車に使ったことになるんで」

 本当にコイツ警察官か?

「あぁ!?よそ者がこんなところで何してんだぁあぁ?」

「最近のカラスって言葉喋れるんですね」

 そのセリフ、どっちかって言うと僕の方が似合ってない?

「誰がカラスだコラぁ!?」

「ほら、どっちかって言うとニワトリだよ」

 すぐトサカに来てるんだから。

 なんだかキーキー喚いている男は学生服を短く切って、裾の開いたラッパズボン。

 ブリーチした髪はツーブロックで刈り込まれている。

「服装と髪の時代が合ってない」

 昭和と令和のコラボレーション。

 平成さんが泣いてるよ。

「んめんなごらぁ!?」

 怒った!それはそう!

 時かけヤンキーは手に持った木刀を振り上げる。

「へぇ、結構良い木刀じゃない、振るためじゃなく殴る用だ」

 不用意に近付いて来て高々振り上げている木刀を掴んで引き抜く。

「へ?」

 取られてから気付くなよ、なっちゃいないなぁ。

「……まだやる?」

 ヤンキーに木刀を返してやると青ざめた顔になり高速後ずさり。

「へっ!このくらいで勘弁して〇☆※」

 後半聞き取れなかったのはもう走り去っているからだ。

「後ろ走りであれだけの速度、良いアメフト選手になります」

 誠さん、軽口やめてもらえます?キャラ被っちゃうんで。

「大丈夫です、私の麗しさは唯一無二なので」

 悪いもの拾って食べました?

「おんや、まぁ」

 僕らの背後から聞こえた声に思わず飛びのいた。

 振り向くとそこには、腰の曲がった老婆が佇んでいた。

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