Avsnitt 9 元の関係以上を目指す
「虜にして」
思わず顔が熱くなる感覚に見舞われた。
なんかすごいことを言われた気がする。言った当事者は笑顔だし。外国じゃこれが普通なのか。
つくづく日本人とは感覚が違うと思うけど。でも、希望はあった。
勝手に思い込んで、このまま放置だったら終わってただろう。その点でエメリが食い下がることで、危機を回避できたのはある。意外と日本人に近い感覚を持ってそうな。虜、なんてのは別にしても。
家の前で別れを告げ各々自宅へ。
「Hej då」
「ヘイ?」
「じゃあね、って意味」
「ああ、じゃあまた明日」
別れのあいさつも、いろいろあるみたいだ。ちょっと口元が緩む感じになる。
家に入ると母さん。やっぱ気付くんだね。
「元気になってるじゃない」
表情が明るくなってるそうだ。
「誤解だったとか?」
「別に」
「照れなくてもいいのに」
「照れてない」
見透かされてるし。親ってのはこういう時、面倒臭い。なんで気付くのかって話しだ。
翌朝からまた一緒に登校することに。
玄関を出るとエメリが待ってる。なんかいいな、こんな雰囲気。
「God morgon」
「おはよう」
「美術部はどうするの?」
「すぐ戻るとカッコ悪いし」
吹奏楽部を少し続けてみて、楽しいようならそのまま。エメリと一緒に創作活動をしたくなったら、戻ってもいいかも。
すでに気持ちはエメリと一緒の方に傾いてるけど。それでもさすがに、すぐやめるのもポリシー無さ過ぎる。暫くは吹奏楽部で頑張ることにした。
「二年になるまで続けてみるのもいいと思う」
「まあそうなんだろうけど」
「上達したら聴かせて欲しいかも」
「まだ全然無理だけどね」
やっぱ楽しい。こうしてエメリと会話してるのが。本気で好きになったんだろうな。この気持ちに気付けたのは幸か不幸か。頑張らないとエメリを振り向かせるのは無理。どうすればいいかなんて分からない。
でも、部活も勉強も頑張って、アピールすればいいんだろう。
それと。
「休みに出掛けるのって、ありかな?」
「Vill du dejta mig?」
分からん。でもすぐ説明してくれて「デートしてくれるの?」って。「してくれるの」じゃなくて「して欲しい」なんだけど。
「そう思ってくれても」
「どこに行くの?」
「自然豊富な場所。人工的でもいいのかな」
「Bra」
また、なんか意味が。
「えっと」
「いいね、ってことだよ」
植物公園とか森林公園がいいのかも。自然が好きって言ってたし。
通勤通学で混雑する電車に乗り、ドア付近より少し奥に入って話をする。
海外では「デート」は、その人を見極めるための行動でもあるとか。今後、きちんと付き合う上で大丈夫かどうかを見るそうだ。
日本では付き合ってることが前提だけど、その前段階でもデートはするらしい。
学校最寄り駅に着き下車すると、エメリの女子友だちから声が掛かる。
「今日は一緒なんだ」
「仲良さそうだったのに、別行動してたから喧嘩でもしてた?」
「Lite missförstånd」
「日本語で話してよお」
ちょっと行き違い、だそうだ。まあそうなんだろうな。俺の一方的な思い込みだったし。
放課後、一緒に帰るのかと思ってエメリを見ると、何やら手に封筒を持って見つめてる感じ。
女子の友だちが「初めて?」とか「やっぱ目立つから」なんてことを言ってる。
「エメリはまだ帰らない?」
声を掛けるとこっちを見て「海斗。これもらった」とか言って、封筒を見せてきた。
「なにそれ?」
「草柳、書いたことも受け取ったこと無いの?」
「え?」
「ラブレターじゃん」
マジか。
やっぱ美人だから好意を持つ男子も居るよな。別に好きになるのが俺だけってわけが無いし。ただ、今まで無かったのは勇気が出なかったとか。
それにしても、いつの間に渡したんだろう。
「話しだけ聞いて断っていいんだよ」
「一緒に行ってあげようか?」
ありがちな気のする会話。告白の場に関係ない第三者。女子ってなんでか、よくつるむんだよなあ。
結局、ふたりが連れ添って、たぶん告白される場所へ行ったんだろう。俺には少し待っててと言い残して。
「ライバル出現って奴か?」
クラスの男子が茶化してくるし。
「居ない方がおかしい」
「そうだけどさ、取られたら、なんて思わないのかよ」
「他に親しそうな男子を見てないし」
「なんだよ、余裕噛ましてんなあ」
校内に居る時は女子と話しをしてるか、俺と話しをしてるか、どっちかが多い。他の男子と楽し気に話をしてるのを見てないし。部活でも相手はほぼ俺だった。
最初の頃は、男子は遠慮したり気が引けて、仲良くなり切れなかったんだろうな。
その分、他の男子よりアドバンテージはありそうな。
「なるようにしかならない」
「俺も立候補しようかな」
「無理だと思う」
「なんでだよ。やってみなきゃ分かんねえだろ」
立候補したければすればいい。別にまだ付き合ってるわけじゃないし、誰と付き合うかはエメリが決めることだし。
でも。
十分くらい待っていたら、何やら不穏な会話をしながら戻ってきた。
「付き合うんだ」
「積極的だったから」
「だよねえ。草柳とは違う」
「草柳涙目になるよ」
えっと。どういうこと?
「あ、狼狽えてる」
「マジで泣きそうになるんじゃないの」
思わずエメリを見ると、堪えていたのか噴き出すように笑ってるし。他の女子も笑ってる。なんで?
「Jag skojar」
「冗談だっての。マジになってるし」
「ちょっと揶揄っただけ」
なんか、女子って意地悪い。エメリもそこは一緒なんだ。
「Ska vi gå hem?」
「あ」
「帰ろうか」
ぶすっくれてたらエメリが俺の手を取った。急に来るからびっくりするし。でも、これも初めてで、ちょっと照れ臭い。
「Snälla gör ditt bästa för mig」
「え?」
「私のために頑張ってね」
これを見てた女子も男子も、やたら冷やかしてくるし。
「俺も言われたいぜ」
「もう夫婦でいいんじゃない?」
「仲良過ぎ」
「羨まし過ぎるっての」
国際結婚かあ、とか言ってるアホが居る。無視だ無視。そもそもエメリは日本国籍取得してる。国際結婚じゃ無いだろ。
エメリを見ると笑顔だ。気にしてないのか、喜んでるのか、その辺はさっぱり読み取れない。
ただ、ひとつ頭の中をぐるぐる。「私のために頑張ってね」ってのは、エメリも期待してるんだろうって、そう思うことにした。頑張ればきっと彼女になってくれると。
靴箱の前で一旦は離れる手だったけど、校舎を出ると再びエメリと手が繋がった。
ちょっと、いや、かなり照れる。
「Jag har hopp」
「え?」
「希望持っていいんだよ」
はっきりは言わない。でも、気にしてくれてる。頑張るなら報いてくれるってことだろう。
何を頑張ればいいのか、今のところ分からないけど。
勉強も部活もか。自己アピールは必須だと言ってたし。好きなら行動で示してってことだと思うことにした。
電車に乗っている間も手は繋がってる。嬉しいけど恥ずかしい。
ただ、以前よりずっと親密になれた、そう思う。
「海斗。デートはいつ?」
催促されたのか。エメリの方が積極的な気もする。
「あ、そうだなあ。次の休みとかは」
「Vilken tid? あ、時間ね」
「九時でいいかな」
「Ser fram emot det」
なんでエメリはスウェーデン語になるのか。意味分からないんだよなあ。
と思っていたら「楽しみにしてる」だそうで。日本語で言えば楽に通じるのに、あえてスウェーデン語を噛ましてる。
「あのさ、エメリはなんで始めから日本語使わないの?」
「語学の勉強?」
「えーっと、つまり」
「海斗とはね、SvenskaでもJapanskaでも話せるといいなって」




