Avsnitt 10 あいさつは基本だから
語学の勉強とか言ってる。
でも、ちゃんと順序立てて覚えないと、いつまでも頭に入らないって気も。
その点を尋ねると「聞いて覚えるスウェーデン語だよ」だそうで。学校の授業じゃないのだから、スペルや文法がどうのこうのより、耳で覚えてしまえってことらしい。
都度説明はするから、だそうだ。
「どの国の子どもも、いきなり文字は書けないよね。でも耳で聞いて覚えていく。だったら知らない言語は耳で覚えて、あとで文字を覚えればいいと思う」
なるほど。会話する時は筆談じゃない。一理あるのか。
ついでに今どきはスマホで簡単に翻訳できる。多少おかしな部分はあっても、だいたい通じるのだから、聞き取る能力を磨いた方がいいらしい。
聞き取れれば話すことも苦じゃなくなるだろうとも。
「日本だと幼い頃から英語をやってる。なのに私たちほどに流暢じゃない」
教育の方法が合って無い可能性が高いそうだ。
特定の年代から上になると、英会話がからっきしな人も多い。何年もやってきたはずなのに、スウェーデン人と比較したら天地ほどの差があると。
スウェーデン人はネイティブに次いで、英会話が得意なのだそうだ。
「あとね、面白いって言うか、なんでそうなったの? って言うのがあるの」
聞けば「Bed」「Bag」が「ベット」「バック」として書かれたり、言われてたりすると。
正しくは「ベッド」「バッグ」なのに。
「発音し難いから、発音しやすい言葉に置き換えちゃうんだろうなって」
「あ、それはあるかも」
「聞き取れない、話せない。それだと上達は無いんだよね」
「だから聞いて覚えろと」
高齢者ならそれでも理解はするけど、若い人でも同じミスをしている。そうなると学校教育に問題があるとしか思えないそうだ。
実際に通ってみて馴染めるわけ無いなと。優秀な生徒はそれなりに発音できる。そうではない生徒はやっぱり、いろんなところで躓いてるらしい。
だったらあれだ、エメリの期待に応えたいと思うし。
「頑張って覚えるよ」
「分からないことは、どんどん聞いてね」
家の前まで来ると「Ha det så bra」って、また新たな言葉だし。
「ごきげんようとか、さようならだよ」
これも別れのあいさつだそうだ。意味は「良い一日を」だそうで。
しかも略せるとかで「Ha det bra」とか「Ha det」に短縮しても通じるらしい。「Ha det bra」は直訳すると良いものを持ってる、になるらしいけど。意味分からんな。
「Hej dåはね、誰にでも使えるあいさつ。単にHejで済ませることも多いんだよ」
気軽に使える「Hej」は出会った時、別れる時、どっちでも使えるそうだ。
「なんでもありな気がしてきた」
他にも言ってたなあ。
「Vi sesも親しい人に使うあいさつ」
「またね。って奴だっけ」
「そう。あとね電話で使うのはVi hörsって言うの」
ニュアンスとしては「じゃあ」となるそうで。使い分けが必要なのか。
笑顔で手を振りながら家に入るエメリだ。見送って俺も家に入る。
家に入ると母さんが「聞こえてたよ」とか言ってる。しかもにやにやしてるし。
「勉強熱心」
「使えた方がいいから」
「美人だから力も入るでしょ」
「そうじゃない」
何が面白いんだか知らんけど「見捨てられないよう、努力しなさいよ」だそうだ。
外国人から見て、日本人男性に魅力が無いのは承知してるそうで。だからこそ、コミュニケーションで躓かないように、だってさ。
伝えるべきことはしっかり伝える。聞くべきことはしっかり聞き取る。特に日本人男性が苦手な部分であり、日本人同士ならば伝わることも、外国人には伝わらないのだからと。
「お父さん見てれば分かるでしょ」
「ああ、そうかも」
「家の中でちっとも会話が無いんだから」
「確かに」
単語が時々零れる程度で会話らしい会話が無い。母さんが一方的に話してて、適当に相槌打つのが父さんだな。どうせ右から左なんだろう。俺の親世代でさえもそれだ。外国人から見たら退屈な人種だろうなあ。
頑張ろう。
あ、そうだ。
「母さん」
「その顔」
「少し」
「小遣いはね、何かを達成したら増額なんだけど」
何も無しにほいほい金は出ない。それは理解するけど、今回は待ってるのもあるし、一緒に出掛けたいのもあるし。
次のテストである程度の点数を取る、って約束したら出してくれるか?
「テストの点数」
「受験の時の基準でいいの?」
「そこから少し上積みする」
呆れ気味だけど、前払いでと言ったら。
「女の子に入れ込むのもいいけど、ちゃんと勉強してよ」
「エメリと居れば勉強になる」
「スウェーデン語?」
「英語も得意だから、どっちも」
交渉の結果、臨時で小遣いゲット。デートの原資ができた。
あとは行き先を決めて次の休みに。なんか一気に楽しみが。
翌朝、家を出るとしっかり待ってる。なんかいいな、これ。
「Tjenare」
「えっと」
「こんにちは、とか日本語のよお、って意味だよ」
「こんにちは、はともかく、よおって、ずいぶん砕けてる」
友だち相手によく使われる言葉だそうだ。目上の人に使うと、場合によっては失礼になるから、エメリ相手に使うのがいいと。
「他にはTjenaもあるの。ねえ、とか、やあ、って感じ」
二回連続で使うと「ねえねえ」になるそうだ。
「Tjena tjena,Var tar du din dejt?」
「ねえねえ? で?」
「どこでデートするの?」
少し馴れ馴れしい感じだけど、そんな感じの話し方だと、より身近な雰囲気になるなあ。
女子がよく使う言葉だし。一層親しくなった気もするし。悪くは無いのか。
あ、そうか。デートの行き先。まだ決めて無いけど、あんまり遠出はできないし、近場で自然を感じられる場所。
「生田緑地とかどうかな?」
「どこにあるの?」
「川崎市多摩区」
「よく分からないけど、連れて行ってくれるなら」
自然の豊富な場所で日本の古民家もある、って言ったら興味津々になった。
「楽しみにしてるね!」
実にいい笑顔だ。
あそこは入園料とか掛からないし、飯代と電車賃だけで済む。古民家を見るのに三百円で済むから、小遣いが少なくてもなんとかなるな。
「天気がいいといいな」
「そうだね。あ、そうだ」
スマホで先の天気予報をチェックしておく。
電車に乗りながら傍で覗き込むエメリが居て、なんか距離が近くなったような。ただなあ、身長、俺より高いから上から覗き込まれてる。
身長、あと五センチでいい、伸びないかなあ。
「一応晴れ予報が出てる」
「雨じゃ無かったらいいよ」
「まあそうだね」
学校最寄り駅で下車すると、やっぱりクラスの女子が集まってくる。
最初に教えてもらったあいさつしてるし。「グッモロン」とか。まあ、朝だからそれでいいんだろうけど。
俺だけ「シェナーレ」とか、より親しい関係性とか思ったり。
なんて思ってたら「親しい人の間ならTjenareってあるんだよ」と。俺だけじゃないのか。
まあ、女子連中とは仲良さそうだし。
そうなるとみんな親近感を込めて「シェナーレ」とか言ってるし。実に平和だ。
「他にはいつでも使えるあいさつで、HejとかHejsanがあるから」
俺は昨日教えてもらった。でも「ヘイサン」は教えてもらって無いな。
どっちも同じ意味で気軽に使えるそうだ。
午前の授業が終わり昼休みになると、食堂にぞろぞろ。
すっかりエメリを中心に人が集まるようになった。距離を取ってた連中も、近付くようになって、男子もまた例外なくって言うか。
「エメリ、草柳と付き合ってんの?」
それ、前にも誰かに聞かれてた。
気になって付き合いたい奴が増えたんだろう。いつも傍に居る俺が気になるみたいだ。




