Avsnitt 11 競争相手にならなかった
付き合ってるのか、と問われれば、まだそこまで至ってない。他の男子よりいくらかリードしてても、その差は大したことは無いんだろうな。つまり、いつでも誰かに先を越されて取り残される。
なんて考えてたら、周りの女子連中が先に言い出すし。
「無理とか言ってたよ」
やっぱあの言い方だと、勘違いして受け取るよなあ。俺だけじゃないんだよ。日本語の複雑なニュアンスまでは、いくらエメリでも理解しきれてないんだろう。
「そうか。じゃあ俺が立候補しても」
「するのは自由だけど、相手にするとは限らないよ」
「でもさ、草柳よりはいいと思うぜ」
「うっわ、自信過剰」
当事者のエメリを放置して女子とやり取りしてるし。
声掛けてきた男子。身長は俺より高い。まあいわゆるイケメンで、確か運動部に所属してたっけ。成績がどうかは知らないけど、自信があるってことは、それなりにできる?
エメリの前で「誰とも付き合ってないなら、お試しで俺と付き合ってよ」だって。
自信のある奴って遠慮なく誘うんだな。
「Du missförstår det positiva」
「えっと、なんて?」
「Om du övervinner språkbarriären」
「あの、できたら、日本語で」
周りの女子を見て俺を見て、日本語で教えろって感じだけどさ。あいにく俺もさっぱり分からん。当然だけど女子も誰ひとり分かってない。
エメリは表情硬いし、どう見ても好意を持ってる印象じゃないなあ。
そうなると。
「遠回しに断られてるんじゃないの?」
「日本語で答える気が無いんだから、諦めた方がいいと思うよ」
「けどさ、草柳より俺の方がいいだろ?」
「そうだね。普通に自信過剰じゃ無かったら、いいと思うけどね」
エメリの周りに居る女子から言われて、なんか少し自信喪失状態?
「ああ、そうなんだ。俺で駄目なら草柳じゃ話しにならねえだろ」
「そうかもね」
「でもさ、草柳と一緒の時に一番笑顔出てるよ」
だから俺を見ないで。しかもなんかイラっとしてそうな。悔しそうだし。
きっとなんでこんな奴が、とか思ってんだろうな。いいんだよ。お隣さん同士ってのもアドバンテージになってるんだから。話をする機会も多いから、自然と互いを知ることも増える。
「外人って趣味悪いのな」
「言うに事欠いて」
「なんか、見損なった」
「顔だけ良くてもねえ」
憤懣遣る方ないって感じだなあ。
でも、エメリを悪く言っても仕方ない。あ、俺も否定的に捉えたんだった。外人とか思って差別的に見て。やっぱコミュニケーションは大事だな。
舌打ちしながら離れてるし。
「感じわるっ」
「いくらスポーツ得意って言ってもねえ」
「残念だよね。本性見たりって奴?」
「草柳の方がまだいいかも」
まだ、ってことは本来は眼中に無いんだよな。いいけど。エメリひと筋ってことで。
自信過剰男子が居なくなると、女子連中が「さっきなんて言ってたの?」と。
「積極的を勘違いと、言葉の壁を乗り越えてって」
「あーなるほどー」
「言葉の壁って、努力必要だよねえ」
「いい断り文句だよね」
理解できない程度に残念な奴だった、とか言ってディスってるし。女子って何気に残酷。
強引と積極的は違う。相手のことを考えないのが強引、ってことなら、そうなんだろうな。自分の都合だけなんだから。
言葉の壁かあ。そんなの乗り越える自信は無いな。英語ですら厳しいってのに。
それでも覚える気はあるし、それで親密になれるなら。
「英語ができればスウェーデン語って、そんなに難しく無いんだよ」
エメリがなんか言ってる。英語?
「なんで?」
「文字に起こすと分かるけど、Missförstårはね、Misunderstandになるの」
出だしの文字は一緒。「Positiva」はまんま「Positive」ってことらしい。英語と似た部分も多いのと、文法的にも近いものがあるそうだ。
だから英語ができればスウェーデン語は、労なく覚えて使えるんだとか。
「あ、だからか。スウェーデン人に英語が得意な人が多いの」
「そうだよ」
「そう言えば駅もStationでスペルまで一緒だった」
「読み方が少し違うだけだからね」
ステーションなのかスタフーン、スタショーンだったような。
そうやって考えると高校の英語でも、ちゃんとやってれば、スウェーデン語もマスターできそうな。
「めざせTrilingualだよ」
「トリリンガルってスウェーデン語では?」
「Trespråkig」
「じゃあスプロークバリエーレンって」
簡単でしょ、だって。「SpråkbarriärenのBarriärは英語のBarrierになるの。Språkは英語のLanguageだけどね」だそうだ。
ついでに「Över-」は英語の「Over」と同じ。
なるほど。こうやって解説されると、理解も及び易い。
思わぬ形で勉強になった。
放課後、部活動ではエメリと離れるけど、帰りの時間を合わせるってことで。
「やっぱ美術部に戻ろうかな」
「まだ始めたばっかじゃねえか」
吹奏楽部の部室で思わず零れた本音。
最低限形になるまで頑張ってみろと、先輩に言われたけど、そうじゃなくて、エメリと一緒の活動がいいなとか。
吹奏楽部、基本はひとりで練習。初日は先輩が見てくれたけど、以降は自力で学んでいく必要もあって。意外とスパルタだなあ。放置、とも言う。
部活が終わる際にサックスを持ち帰っていいか聞くと。
「家でも練習しないと上達しないだろ」
いつ言い出すのかと思ってたそうで。
ケースに入れて持ち帰ることに。それと教本もバッグに入れて。
部室をあとにすると校門前に行く。
「Låt oss sedan gå hem」
「えーっと」
「じゃあ帰ろうか、だよ」
荷物を背負ってるのを見て「それ楽器?」って。アルトサックスって言ったら、今度聴かせてとか。まだ無理だっての。ろくに音も出ないんだし。
荷物はあるけど手は空いてるんだよな。せっかくだから、前みたいに手を繋いでとか、思ってたら。
「積極的にって言ったよ」
「あ、えと」
「繋ぎたくないならいいけど」
繋いでいいなら喜んで繋ぐ。
エメリの手に添えるようにして握ると、軽く握り返して来てくれる。ああ、これいいなあ。気持ちも繋がった気になるし。
改札を抜ける際には一旦手が離れるけど、電車に乗るとまた手が繋がる。
「美術部に戻ればいいのに」
「二年生になるまで続けてみればって」
「Du fick det till nominellt värde」
「あの。意味」
額面通りに受け取ったのかと。
と言うことは、本音では戻ってきて一緒にってこと? だったら今すぐとか言いたいけど、入ったばっかりで抜けるのもなあ。ここは我慢してもう少し活動した方が、吹奏楽部の先輩とか先生の印象もあるし。
「半年は続けてみるつもり」
「Hmm」
ちょっと活動してても寂しいな、とか言われても。
「海斗が居ないからね、話し相手が」
「俺も吹奏楽部だとまだ馴染めてない」
「絵はみんな褒めてくれるけど」
少々張り合いが無いらしい。一番見てもらいたい相手が俺だそうで。光栄だけど、あれか、エメリも実は俺のことを好きだとか。口には出さなくても思ってるとか。
都合よく考えすぎか。反応を見るのが楽しいんだろうし。
エメリの横顔。車窓に流れる景色を眺める、そのきれいなブルーアイ。結構、忙しなく瞳が動いてるんだよな。
で、見てるのに気付いてこっちを見ると。
「Den har ögon, näsa och mun」
「いやあの。意味が」
「目鼻口は付いてるよ」
「えっと」
前に同じこと言われたから、先回りして言ってみたとか。あれはちょっとした冗談で。
意外とお茶目だ。




