↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/30

Avsnitt 12 お試しデートをする

 デート。

 昨日の帰り掛け、エメリに教えてもらった言葉は「Dejta(デイタ) med henne(ミェ ヘンネ)」って奴。

 彼女とデート、って意味らしい。

 どこで使うのかって話しだけど。


 そして今日、ついにお試しデートの日がやってきた。

 朝から少し緊張気味で、ちょっと落ち着けない。朝食もそこそこに服を選んで、粗末な感じや幼さが無いように、気遣ったつもりだけど。エメリから見てどう見えるかは分からない。


 九時に待ち合わせだから残りあと十分。

 鏡を見て髪型を気にしてみたり、ささやかながらも髭と言うか、産毛が少し硬くなったような。剃り残しが無いかチェックもする。

 よし、出掛けよう。忘れ物は無いよな。


 玄関先で靴履いてると母さんがなあ、なんか笑ってるし。


「何がおかしい?」

「気合入ってるなあって」


 面白がるだけかよ。


「どこに行くんだっけ?」

「生田緑地」

「まあ、自然が好きだって言うなら、いいんじゃないの」


 お金も掛からずリーズナブルなデートコースだとか。高校生なんだから、身の程弁えたデート先で安心したって。

 これがネズミの国で一日遊び倒す、なんてなると、高校生程度で贅沢だと。

 行く気無いんだよね。興味無いし。夢の国と言いながら、金で夢買ってるみたいなもんでしょ。


「いってくる」

「いってらっしゃい。何時頃帰るの?」

「五時くらいには」


 家を出るとエメリも丁度家を出たところだったみたいで。


「Tjena(シェナ)」

「へ、へい」


 笑ってるし。ちょっと緊張入って発音も変になっただけ。

 あと、ちょっとドキッとした。いつもは制服姿。今日はそれなりにお洒落したんだろうか。オールネイビーカラー。デニムジャケットに、ボーダーのカットソーにデニムのパンツスタイル。なんか大人っぽく見えるし、でもカジュアルでマジで足長い。スニーカーを履いてきたってことは、歩くことが前提なんだよね。

 傍に寄ってきて、腕を見たと思ったらグイッと掴まれ、そのままエメリの腕が絡んできて。腕組んでるし。マジで?


「あの」

「Idag(イダーグ) är(エル) speciell(スペシエル)」


 スペシエルって発音からスペシャルってこと? つまり特別。


「今日は特別、って意味でいいのかな」

「Bra(ブラー)! 分かるようになってきたね」


 ブラーって言ってるけど、褒めてもらったってことでいいのかな。


「褒めてくれた?」

「もちろん」


 褒めてもらえたってことで。

 しっかり腕組んだまま電車に乗り、最寄り駅の向ケ丘遊園で下車する。生田緑地なのに生田駅で下車すると遠い。しかも住所まで生田じゃなくて枡形だし。

 まだ九時過ぎでも新宿方面は混雑してる。小田急線は混雑が激しいのがネックだな。


 下車して駅を出るとロータリーを通り、広い通りをひたすら進む。凡そ十一分ほどで生田緑地入口に到着する。


「Är det(エル デ) en park(エン パルク)?」

「パルク……公園って言うか、まあ自然公園って感じかも」

「古民家って言ってたけど」

「あるよ、中に入ると茅葺屋根の家があるから」


 古民家って言った時の食いつき方がね。やっぱ興味あるんだなあ。

 公園入口のビジターセンターを横目に、先へ進むと左手に古民家がすぐ見えてくる。


「入園料が必要だけど」


 ここは自分で払って、なんて考えてたら。

 さっさとお金払ってるし。


「あの」

「Vad(ヴァー)?」

「入園料」

「Åh(オー)。自分で払うんだよ」


 日本では男子が奢る、なんてのが普通みたいでも、スウェーデン流では自分の分は自分で支払う、が当たり前だそうで。男女同権ってことは男性が負担するわけじゃないと。デートでも飲食でも自分の分は自分で。

 割り勘でさえも厳密に計算するそうだ。


「だからね、日本の男女同権って変だなって」


 奢るのが当たり前の同権なんて無い。都合よく利用してるだけだから、日本に男女同権が根付かないんじゃないかって。

 とりあえず日本民家園の園内に入ると、立派な建物が目に入る。


「Oh(オー) häftigt(ヘフティット)!」


 思わず「すごいねー」と感心してる。

 ずっとここにあるのか、って聞いてるけど、他所から移築されたんだよな。


「元は別の場所にあったものを移築したんだって」

「いちく?」

「えーっと……リコンストラクト、で良かったんだっけ?」

「Åh, rekonst(リコンスト)ruera(リエラ)がいちくなんだね」


 通じたのか?

 外観を見て屋内では、じっくり細部まで観察して、関心の度合いがすごく髙い。

 木造建築ならスウェーデンも同じだと思うんだけど、造りが違いすぎるんだろうな。


「日本の今の家よりいいね」

「手間掛かってると思うから」


 土間があって式台に上がり靴を脱いで、畳の部屋に入ると中を見てため息吐いてる。


「風情って言うんだっけ?」

「間違ってないと思う」

「なんで、こんなにいいものが今に受け継がれないの?」

「分かんないけど、この手の木造住宅って火災に弱いし」


 あっと言う間に延焼するだろうし。職人とかお金とか建設効率とか、いろいろあるんだと思うけど。

 詳しくは知らない。


 このあとも、茅葺屋根の家を見て「fantastisk(ファンタスティスク)!」って言ってるし。英語かと思ったらスウェーデン語でも、似たような言葉なんだそうで。

 佐地家の門を見て「武家屋敷」とか言って喜んでる。


「時代劇で見る奴だね」

「まあ、あるかも」

「江戸時代?」

「これは、そうみたいだね」


 この日本民家園は宿場、信越、関東、神奈川、東北の住宅をエリアごとに展示してる。最初に宿場を見て次に信越の住宅を見ると、合掌造りの家にまたも感動してるし。

 まあ日本人でもなんかすごいなあ、って感想持つくらいだから。

 でも、何がすごいって、全部移築されたってことで、全部実際に使われてた家ってのがね。ここに昔住んでたんだなと思うと感慨深いかも。

 エメリもすごい喜んでるし、日本文化にじかに触れた感じがするんだろうな。


「屋根が低いから頭ぶつけそう」

「屋根だけど屋根とは言わなくて軒って言うんだよ」

「あ、そうなんだ」


 甲州から移築された切妻屋根の広瀬家住宅は、軒がやたらと低い。くぐる感じで家の中に入ってる。

 エメリの興奮もすごいなあ。こんなに喜んでもらえるなんて。


 興奮冷めやらぬ中、昼ご飯にしようってことで、白川郷の合掌造りの旧山下家に入る。

 ここは古民家の中で唯一の蕎麦屋。結構お客さん入ってるし、座卓を前に座るとエメリの視線がうろうろ。


「落ち着かないみたいだね」

「だって、ここで食事できるんだよ」

「他はあれだけど、ここはいいみたい」

「座布団が無いとお尻痛いよね」


 まあ、座布団はあるから痛くは無いけど、板張りの床はね。他に座敷席もあるけど、人が多すぎるから板張りの部屋で。

 注文して少しすると蕎麦が出てきて、箸を上手に使うエメリが居る。でも、やっぱ持ち方が変。器用に蕎麦を摘まんで食べてるけど。


「美味しいね」

「うん」

「日本の伝統食」

「そうなのか」


 食事を済ませると、やっぱり会計は別々。自分の分は自分で、ってのが徹底されてる。

 少しの間、食休みをすると、次は緑地内の自然散策。

 春は桜もすごいんだけど、今の時期はすでに終わってる。六月になれば花しょうぶとか、アジサイが見られるんだけど、今の時期はなんも無いんだった。

 それでもエメリにとっては楽しそうだ。


「森の中っていいよね」

「そうだね」

「鳥もたくさん居るみたい」

「野鳥の森には何種類も居るんだって」


 あちこち散策して、時々立ち止まって休憩して、深呼吸したり伸びをしたり。

 ひと通り見て回ると美術館とか科学館もあるけど、それはまたの機会にってなった。自然を満喫するのが目的だから、だそうで。


 生田緑地をあとにすると、すでに時間は午後四時を回ってた。


「元気いっぱい出た」

「そう?」

「楽しかったし、感動できたし」


 お試しデートは高評価だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。