Avsnitt 12 お試しデートをする
デート。
昨日の帰り掛け、エメリに教えてもらった言葉は「Dejta med henne」って奴。
彼女とデート、って意味らしい。
どこで使うのかって話しだけど。
そして今日、ついにお試しデートの日がやってきた。
朝から少し緊張気味で、ちょっと落ち着けない。朝食もそこそこに服を選んで、粗末な感じや幼さが無いように、気遣ったつもりだけど。エメリから見てどう見えるかは分からない。
九時に待ち合わせだから残りあと十分。
鏡を見て髪型を気にしてみたり、ささやかながらも髭と言うか、産毛が少し硬くなったような。剃り残しが無いかチェックもする。
よし、出掛けよう。忘れ物は無いよな。
玄関先で靴履いてると母さんがなあ、なんか笑ってるし。
「何がおかしい?」
「気合入ってるなあって」
面白がるだけかよ。
「どこに行くんだっけ?」
「生田緑地」
「まあ、自然が好きだって言うなら、いいんじゃないの」
お金も掛からずリーズナブルなデートコースだとか。高校生なんだから、身の程弁えたデート先で安心したって。
これがネズミの国で一日遊び倒す、なんてなると、高校生程度で贅沢だと。
行く気無いんだよね。興味無いし。夢の国と言いながら、金で夢買ってるみたいなもんでしょ。
「いってくる」
「いってらっしゃい。何時頃帰るの?」
「五時くらいには」
家を出るとエメリも丁度家を出たところだったみたいで。
「Tjena」
「へ、へい」
笑ってるし。ちょっと緊張入って発音も変になっただけ。
あと、ちょっとドキッとした。いつもは制服姿。今日はそれなりにお洒落したんだろうか。オールネイビーカラー。デニムジャケットに、ボーダーのカットソーにデニムのパンツスタイル。なんか大人っぽく見えるし、でもカジュアルでマジで足長い。スニーカーを履いてきたってことは、歩くことが前提なんだよね。
傍に寄ってきて、腕を見たと思ったらグイッと掴まれ、そのままエメリの腕が絡んできて。腕組んでるし。マジで?
「あの」
「Idag är speciell」
スペシエルって発音からスペシャルってこと? つまり特別。
「今日は特別、って意味でいいのかな」
「Bra! 分かるようになってきたね」
ブラーって言ってるけど、褒めてもらったってことでいいのかな。
「褒めてくれた?」
「もちろん」
褒めてもらえたってことで。
しっかり腕組んだまま電車に乗り、最寄り駅の向ケ丘遊園で下車する。生田緑地なのに生田駅で下車すると遠い。しかも住所まで生田じゃなくて枡形だし。
まだ九時過ぎでも新宿方面は混雑してる。小田急線は混雑が激しいのがネックだな。
下車して駅を出るとロータリーを通り、広い通りをひたすら進む。凡そ十一分ほどで生田緑地入口に到着する。
「Är det en park?」
「パルク……公園って言うか、まあ自然公園って感じかも」
「古民家って言ってたけど」
「あるよ、中に入ると茅葺屋根の家があるから」
古民家って言った時の食いつき方がね。やっぱ興味あるんだなあ。
公園入口のビジターセンターを横目に、先へ進むと左手に古民家がすぐ見えてくる。
「入園料が必要だけど」
ここは自分で払って、なんて考えてたら。
さっさとお金払ってるし。
「あの」
「Vad?」
「入園料」
「Åh。自分で払うんだよ」
日本では男子が奢る、なんてのが普通みたいでも、スウェーデン流では自分の分は自分で支払う、が当たり前だそうで。男女同権ってことは男性が負担するわけじゃないと。デートでも飲食でも自分の分は自分で。
割り勘でさえも厳密に計算するそうだ。
「だからね、日本の男女同権って変だなって」
奢るのが当たり前の同権なんて無い。都合よく利用してるだけだから、日本に男女同権が根付かないんじゃないかって。
とりあえず日本民家園の園内に入ると、立派な建物が目に入る。
「Oh häftigt!」
思わず「すごいねー」と感心してる。
ずっとここにあるのか、って聞いてるけど、他所から移築されたんだよな。
「元は別の場所にあったものを移築したんだって」
「いちく?」
「えーっと……リコンストラクト、で良かったんだっけ?」
「Åh, rekonstrueraがいちくなんだね」
通じたのか?
外観を見て屋内では、じっくり細部まで観察して、関心の度合いがすごく髙い。
木造建築ならスウェーデンも同じだと思うんだけど、造りが違いすぎるんだろうな。
「日本の今の家よりいいね」
「手間掛かってると思うから」
土間があって式台に上がり靴を脱いで、畳の部屋に入ると中を見てため息吐いてる。
「風情って言うんだっけ?」
「間違ってないと思う」
「なんで、こんなにいいものが今に受け継がれないの?」
「分かんないけど、この手の木造住宅って火災に弱いし」
あっと言う間に延焼するだろうし。職人とかお金とか建設効率とか、いろいろあるんだと思うけど。
詳しくは知らない。
このあとも、茅葺屋根の家を見て「fantastisk!」って言ってるし。英語かと思ったらスウェーデン語でも、似たような言葉なんだそうで。
佐地家の門を見て「武家屋敷」とか言って喜んでる。
「時代劇で見る奴だね」
「まあ、あるかも」
「江戸時代?」
「これは、そうみたいだね」
この日本民家園は宿場、信越、関東、神奈川、東北の住宅をエリアごとに展示してる。最初に宿場を見て次に信越の住宅を見ると、合掌造りの家にまたも感動してるし。
まあ日本人でもなんかすごいなあ、って感想持つくらいだから。
でも、何がすごいって、全部移築されたってことで、全部実際に使われてた家ってのがね。ここに昔住んでたんだなと思うと感慨深いかも。
エメリもすごい喜んでるし、日本文化にじかに触れた感じがするんだろうな。
「屋根が低いから頭ぶつけそう」
「屋根だけど屋根とは言わなくて軒って言うんだよ」
「あ、そうなんだ」
甲州から移築された切妻屋根の広瀬家住宅は、軒がやたらと低い。くぐる感じで家の中に入ってる。
エメリの興奮もすごいなあ。こんなに喜んでもらえるなんて。
興奮冷めやらぬ中、昼ご飯にしようってことで、白川郷の合掌造りの旧山下家に入る。
ここは古民家の中で唯一の蕎麦屋。結構お客さん入ってるし、座卓を前に座るとエメリの視線がうろうろ。
「落ち着かないみたいだね」
「だって、ここで食事できるんだよ」
「他はあれだけど、ここはいいみたい」
「座布団が無いとお尻痛いよね」
まあ、座布団はあるから痛くは無いけど、板張りの床はね。他に座敷席もあるけど、人が多すぎるから板張りの部屋で。
注文して少しすると蕎麦が出てきて、箸を上手に使うエメリが居る。でも、やっぱ持ち方が変。器用に蕎麦を摘まんで食べてるけど。
「美味しいね」
「うん」
「日本の伝統食」
「そうなのか」
食事を済ませると、やっぱり会計は別々。自分の分は自分で、ってのが徹底されてる。
少しの間、食休みをすると、次は緑地内の自然散策。
春は桜もすごいんだけど、今の時期はすでに終わってる。六月になれば花しょうぶとか、アジサイが見られるんだけど、今の時期はなんも無いんだった。
それでもエメリにとっては楽しそうだ。
「森の中っていいよね」
「そうだね」
「鳥もたくさん居るみたい」
「野鳥の森には何種類も居るんだって」
あちこち散策して、時々立ち止まって休憩して、深呼吸したり伸びをしたり。
ひと通り見て回ると美術館とか科学館もあるけど、それはまたの機会にってなった。自然を満喫するのが目的だから、だそうで。
生田緑地をあとにすると、すでに時間は午後四時を回ってた。
「元気いっぱい出た」
「そう?」
「楽しかったし、感動できたし」
お試しデートは高評価だった。




