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Avsnitt 7 日本人を理解できない

 よっぽど気落ちして見えたのだろうか。母さんに「失恋した?」とか言われた。

 なんで分かるのか。

 とりあえず、そこは適当に誤魔化して自室に籠る。


 ため息ひとつ。雑然とした室内。エメリの部屋は整然としていて、シンプルで無駄が無い。対して俺の部屋ってまるでゴミ箱。

 心の在り様とか、中身が部屋にも現れるんだろうか。

 ごちゃごちゃ考えず、もっとストレートに、ってのが外国人なら日本人は鬱陶しいかも。


 夕飯の時も冴えない顔してたみたいで「一回二回の失恋程度で落ち込んでどうすんの?」と言われてるし。


「まだ人生始まったばかりみたいなもんでしょ。あたしから見ればよちよち歩きなんだから」


 そりゃそうだろ。親から見れば子どもなんて、いつまで経っても子どもでしかない。


「この先、まだ何十年もあるのに、たった一回で死にそうな顔して」


 母さんも若い頃は何度も恋して何度も失恋してる、なんて言ってるけどさ。その時はどうしても深刻になりがちだけど、本当に息の合う人は、関わろうとするしない関係なく現れるものだとか。

 今の父さんとの出会いだって、本当に偶然でしかないって。


「人に好かれる努力は無駄にならないけど、自分を殺してまでやる必要無いから」


 外国人の恋愛観なんて母さんは分からない。でも、無理に価値観を合わせて、自分がしんどいようなら、やめた方がいいと。日本人同士なら会話を交わさずとも、ある程度理解できる部分はある。

 言葉は大切だけど、それと同じく気持ちが無ければ、言葉自体も意味が無い。

 外国人は気楽に愛してると言うが、軽いと感じるそうだ。言われて嬉しくないわけじゃない。ただ、毎日そんなことを言われて、本当に愛してるのかと思うこともある、らしい。


「日本人なら気持ちは汲めるからね」


 外国人はなんでもストレート。気持ちを汲めないんじゃないのかと。

 言わなきゃ伝わらない。以心伝心なんて理解できるわけが無いんだろうって。


「文学なんかがいい例でしょ」


 複雑で読み取るのも困難な日本の文学。海外の文学なんて実にあっさり。読み取らずとも全部書いてある。だから謙虚や謙遜なんてものもないと。

 日本では謙虚や謙遜は美徳。海外では裏目に出るだけ。

 自己主張の強さが全てなら、日本人と価値観が合うわけが無いとも。


「日本に居て日本の美徳を理解しないなら、外国に帰った方がいいし、郷に入れば郷に従えってのもあるんだし」


 まあ、母さんなりに慰めてくれてるんだろう。

 日本人を理解し日本の文化を理解したいなら、日本人から見て自分勝手な外国人が自らを見直せ、だって。


「あんたは日本人。無理に相手に合わせる必要無いから」


 むしろ日本人のアイデンティティを大切にしろと。

 なんでもグローバルで海外に倣えもおかしい。母さん曰く、主婦目線で見ると身近な部分で、洗濯表示は本当に余計なお世話だそうだ。


「外国人に理解できる表示にしたけど、日本人が混乱するだけ」


 駅の表示を見てもどこを見ても、外国語の表記ばっかり。

 この国に自己は無いのかと。いちいち忖度して外国人に合わせてって、そんな国が世界のどこにあるのかって。日本語で表示してる国なんて存在しない。


「結局、自分を無くしてまで合わせてるのが、今の日本」


 その上、女の子にまで合わせて息苦しくないの、と。

 そうなんだろうけどさ。素のままの自分を受け入れられないなら、結局自分を変える必要があって。変えるには相当な努力も必要だし。


「あんたには日本人の気の利く女性が似合ってる」


 外国人は無理だってさ。

 良くも悪くも典型的な日本人。親もそうだから仕方ないらしい。

 幼い頃に海外で生活でもしていれば、また違った感覚を持っただろう。でも、日本に生まれ日本で育った。そもそも合うわけが無いそうだ。


 食事を終えて部屋に戻る。

 母さんの言ってることは、間違ってはいないんだろう。所詮、俺は日本人だし、外国人と合うわけ無いんだよな。

 少しは気も晴れたけど、なんかまだ燻った感じが。


 翌朝、やっぱ燻ってることもあり、いつもより早めに家を出た。

 まだ顔を合わせるのもしんどいし。こんな気持ちを理解して、なんて言うだけ無駄なんだろうな。外国人には。


 教室に入ると「あれ? いつもエメリと一緒なのに、どうした?」と聞かれるし。

 それだけいつも一緒の行動が多かったってことか。


「金魚の糞じゃ無いから」

「てっきりそうかと思ってたけどな」

「違うっての」


 さっさと気持ちを切り替えて。あ、そうだ。部活もどうせ興味無いから、別のものにした方がいいかも。

 つい言われるがままに入っちゃっただけだし。全然上達してないし。


「あのさあ、吹奏楽部って部員募集してる?」


 吹奏楽部に所属するクラスメイト。時々話をする程度だけど聞いてみた。


「なに? 入りたいの? 美術部じゃなかったっけ?」

「美術はなんか性に合わないから、吹奏楽とか思ったんだけど」

「いつでも歓迎だけど、練習は結構きついよ」


 遊び半分だと迷惑だろうけど、こんな俺でも中学時代はブラバンで、トランペットやってたし。

 少しはできる。上手いわけじゃ無いけどな。


「中学の時、ブラバンでトランペットやってた」

「あ、そうなんだ。じゃあ歓迎するから来なよ」


 美術部には退部届を出して、吹奏楽部には入部届を出す。ちょっと面倒だけど、性に合わないことをやるよりはいい。

 話をしているとエメリが来たみたいだ。一瞬目が合ったけど、すぐに視線を逸らしクラスメイトの方を見る。


 やっぱあれだ、関わらなくなると、ほんとにどうでもいい存在になるんだ。

 ドライすぎるよなあ。女子と会話するエメリの声が聞こえる。気にしても仕方ない。どうせ駄目なんだから。


 昼休みになると、女子と連れ立って食堂に行くエメリだ。当然だけど俺はその輪の中に居ない。いつもは一緒に行動するけど、もう諦めた。一緒に居ても無駄な努力ってあるんだよ。そして外国人は目に見えない努力に気付けない。自己アピールって奴だよな。なんでも積極的に表に出す。日本人にはちょっと難易度高いんだよ。


 食堂に行くとエメリが目に入るけど、向こうはこっちを見もしない。女子と楽しそうに話してるし。

 ひとりテーブルに向かうと、男子が不思議そうに声掛けてくるし。


「いつも一緒なのに」

「珍しいな。喧嘩でもしたのか」

「身の程弁えたとか」


 最後の奴、それが正解だ。俺には所詮無理な相手だった。

 男子数人と一緒に飯を食う。久しぶりだよなあ。なんか気楽な感じもするし、自分を偽ったり変える必要も無い。

 昼が終わり午後の授業を終えると、一旦は美術部の部室に行く必要がある。


 エメリが先に行くのを見計らって、少し時間をずらして部室に行くと。


「今日は出るんだね」

「違う」


 エメリから話し掛けてきた。でも用件が違う。


「Vad är(ヴァーデル) ditt krav(ディット ラヴ)?」


 だから、意味分からんってば。


「日本語で」

「用件は何?」


 まあそうなるよな。


「退部届出すから」

「Varför(ヴァルフェル)?」

「吹奏楽部に入る」


 なんか微妙な表情。眉尻少し下がって困る、って感じもしないでもない。

 こっち見てるから思わず視線を逸らすと。


「Varför(ヴァルフェル)?」

「合わないから」

「なんで? だったら最初に言ってくれれば」


 言おうと思ったけど、エメリが馴染むのに大変そうだから。と言ったら。


「無理して付き合わなくても良かったのに」


 まあ、そう言うよね。お礼より先にそうなるわけで。やっぱ外国人とは合わない。

 イエスかノー、その中間なんて感覚を持ち合わせてない。白黒どっちか、グレーなんて概念すら無いんじゃないの?


「日本人の文化って二択じゃ無いから」


 やっぱ相手を慮るなんて無いんだよね。

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