Avsnitt 5 日本語の表現は奥深い
言葉を覚えようよ、なんて言われても素直に頭に入ってこない。
「スウェーデンに遊びに行った時、役に立つよ」
「行けるかどうかも分からん」
「そう? あ、でも確かに時間は掛かるね」
時間もそうだろうけど、金の問題が大きいと思う。北欧への旅費を一度調べてみたら、仕事して夏冬のボーナス全部注ぎ込んで、やっと行けるくらいじゃないかと。
物価の話になるとあまりに高額で驚くし。
「高福祉国家って言われてるけど、税金滅茶苦茶じゃないの?」
「代わりに老後も安心して暮らせるよ」
日本は老後に不安を抱えすぎる。だから貯蓄するんじゃないのと。最近では投資も盛んになってて、国を信頼してないんだろうと言ってる。
そのわりに欧州に次ぐほどの高税率だとも。物価は安くても様々な名目で徴税されて、全部足したら相当な額の税を払ってるでしょ、と。
「計算したことないし、分からない部分も多い」
「学生の内から関心持たないから、国が適当に徴収して使っちゃうんだよ」
具体的な税額を把握してないのが大きいらしい。家計簿を税別で記載すれば、差額から納税額を理解できる。漠然と給与明細を見て、店頭で消費税を見てる程度だと、総額でいくら払ってるか実感しないのだとも。感覚的に高いと思っている。
その感覚的に高い税金を政治家が好き勝手に使ってる、その程度の認識。知らないから高いと感じるし、知ってなお高いと感じるのとは違うとも。
ついでに。
「お金を増やすことを教えても、国がどう使うかを教えてない」
「ああ、それはあるかも」
「だから自分がいくら払ってるか知らない。使い道にも関心が無い」
一部扇動する勢力に引き摺られ、消費税が高い、なんて目先のことで反発してるだけだそうだ。
言語の話が税金の話になった。
高福祉国家で高税率な国だと、その辺の認識も日本とは違うのか?
「あ、それで、言葉覚える?」
「いつでも覚えられる環境に居ると、逆にいつでもいいや、になるんだよなあ」
「そうなの? 今の環境を活かそうって思わないんだ」
「なんかねえ」
仮に俺がスウェーデンで生活しなきゃ、とかなれば必死で覚えるんだろうけど。日本に居て外国語の必要性はあんまり感じないし。せいぜい入試の時と就職に必要かもしれない、その程度。外資系や商社とかならまだしも、大企業だって結局日本語。
「ってことかなあ」
「関心ないんだ」
「いや、少しはある。ただ、今すぐってなってないだけ」
なんか、がっかりしてそうな。それでも無理強いはしないんだよな。しても意味無いって理解してるんだろう。
「日本語って便利だもんね」
「なんで?」
「漢字、ひらがな、カタカナ、なんでも表現できる」
それはあるかも。僅か二十数個の文字で表現するのとは大違いだ。外国語では表現しきれない言葉は無数にあるし。
それとは逆にひとつの言葉が、無数の意味を持っていたり。
「例えばね、可愛い、って言葉。Kawaiiで通じるほどに浸透してる」
どんなシーンでも使える便利な言葉だそうだ。英語や他の国の言語では、使い分けが必要になり複数の単語を覚え、組み合わせも理解する必要がある。
「スウェーデン語ならsötで可愛い、なんだけどLilla kostymだと、可愛い服になったりするの。lillaは小さいって意味だけど、前後の文章で可愛いってなったり」
他にも「Hon är förtjusande」が「可愛いでしょ」となるが「förtjusande」は愛らしい、って意味らしい。直訳すれば「彼女は愛らしい」になるが、意味としては先の説明になるそうだ。
「私に言ってくれてもいいんだけど?」
いや、可愛いより美人って感じだけど。
「美人」
「Vacker kvinnaってこと?」
「意味分からんけど、たぶん」
「美しい女性、って意味だよ」
覚える気は無くても、今後もいろいろ教えてね、だそうだ。
教えるには俺もしっかり学ぶ必要あるよな。現状、知らない言葉の方が多いぞ。四字熟語とかことわざとか、一緒に勉強してつくづく思ったし。
「あ、あのね、ソウボウって両方の瞳って奴。あれも英語だとPair of eyesでしょ」
面白くも無い表現だと。単に言葉の説明でしかない。日本語の表現は複雑で奥が深い。だからこそ、興味が尽きないのだそうだ。
「双眸、ね。確かに英訳すると何の情緒も無いな」
「スウェーデン語だとTvå ögonとかBåda ögonenになっちゃうし」
ふたつの瞳、両眼となるらしい。該当する言葉が無いから、意味から宛がうだけ。
それを考えると翻訳家は大変そうだ。文学作品の翻訳なんて、面倒臭いことこの上ないんだろうな。
日本の季節を現す言葉も種類が多く「月冴ゆる」「春暁」なんてやっぱり説明になるだけ。春暁を英語にすると「Spring dawn」「Dayspring」「Dawning」「Aurora」だぜ。なんだそれ、だ。
「春暁ってスウェーデン語でなんて言う?」
「Vårens gryningかな。直訳すると春の夜明け」
暁に該当する言葉は無いらしい。暁の意味を元に似た言葉を当て嵌める。結果、情緒を感じさせない言葉になるらしい。
いろいろ勉強になるなあ。
日本の文化に触れたい外国人が、日本人以上に取り組む理由が分かった気がする。
帰りの道すがら、こんな話で盛り上がった感じ。
盛り上がるんだから、俺も多少は興味が湧いたのかも。でも、率先してとはなってない。話題にされるから付き合う感じかも。
家に帰り自室で思うんだが。
親しい感じはあっても、好き、とかって気持ちは互いに無いのかも。なんとなくお隣さん、ってことで親しくしてる。
ただ、俺としてはもっと距離を縮めたい、そんな気持ちになってる。
美形の外国人彼女。なんかいいよなあ。
いつも通り登校時間になると、エメリと一緒に学校へ向かう。
その横顔を見ると鼻が高い。彫が深い。なんて言うか整ってんなあ。日本人は平たい顔してるってのに。
見てたら気付かれた。
「Är det något i mitt ansikte?」
「あの、日本語で」
「私の顔になんか付いてる?」
「目と鼻と口。って言うのは冗談だけど」
各パーツが美しいとか思ったか、と問われてるし。
「横顔が平面の日本人よりは」
「美の基準なんて人によりけりだよ」
「だろうけど、日本人に無い造りだし」
外国人の男性から見れば、日本人女性はそれこそ「förtjusande」だそうだ。まさに可愛らしい存在だそうで。魅力的に見えるらしい。ただ、それと同時に幼さも感じさせるとか。
「男性は?」
「Åh……微妙?」
「やっぱ魅力無いんだ」
「そうは言わないけど」
メジャーリーガーなんかは、すごく魅力的だし、とか言ってる。あの御仁だよなあ、現役メジャーリーガーと言えば。
誰もが魅力を感じる存在だっての。比較対象に問題大ありだっての。
まあ、分かってはいたが。日本人男性は世界中の女性から見て、あんまり魅力を感じないってのは。もっと単純に言えばモテない。
「背中丸まってるよ」
「仕方ないんだよ」
「Varför?」
「なんでって意味だろうけど、じゃあ、エメリから見て俺ってどう見える?」
可愛い男の子、だそうだ。ダンディとかじゃ無いんだよな。まるっきりガキ扱いだろ。
なんか凹むわ。男としては意識されてないってことで。
「気にしてる?」
「いや、別に。日本人からも相手にされないと、さすがにきついけど」
「日本人同士だとなんだっけ、以心伝心?」
「阿吽の呼吸とか」
自己アピールとか、もっと自分を出す。身綺麗なのは居ても中身が無い。日本人男性は歩いてて勝手に先に進む。女性のことを考えてないとも。




