Avsnitt 4 学校にも馴染んでる
ダニエラさんは歓迎してるような言葉を発したが、その表情がね。なんて言うか無表情で少し怖い。あまり会うことも無いから、どう思われてるかも不明。父親であるケネトさんとは、もっと顔を合わせてない。
ゆえに俺に対する印象なんて、さっぱり分からん。
だから居座る気は今のところないわけで。そもそもエメリが居なかったら、会話もできないんだから。
「今度、海斗の部屋に行ってもいい?」
「それはいいけど、部屋、汚いよ」
帰りがけ、靴を履いている時にエメリに聞かれた。
部屋に来ても面白いものなんて無い。無いって言うか断りたい。
もうね、エメリの部屋と比較したらゴミ箱だ。母さんが時々掃除してるけど、すぐにものが散乱するし。統一感も無いから比較されると恥ずかしい。
家に帰ると母さんから「仲良くやってるみたいね」だそうだ。
仲がいい、と言えばいいのかもしれない。偶然同じ高校で隣同士だから、頼りやすいってのもあると思う。
これが学校だけの付き合いだったら、きっとこんな状況にはなってないな。
翌日、家を出るとエメリと一緒に登校する。これもすっかりお馴染みの光景だ。
「God morgon」
「おはよう、だっけ」
「覚えた?」
「毎朝聞かされるから」
じゃあ、言ってみてと言われ、カタカナスウェーデン語で「グモロン」と言っておく。
「ぐ、の部分は少し跳ねる感じでいいんだよ」
「跳ねる?」
「ぐっ、って言う感じ」
「じゃあ、グッモロン?」
いい感じだよ、だそうだ。簡単なあいさつ程度は少しずつ覚えてる。
電車に乗ると車窓に目をやりながら、なんか言ってる。
「日本だとValborgが無いんだよね」
「なにそれ」
「ヴァルプルギスの夜、って日本では言えばいいのかな。春の訪れを祝う行事」
「へえ。そんな行事があるんだ」
四月三十日がヴァルボリだそうで。篝火を国中で焚くそうだ。
諸説あるが魔女を追い払う意味と、バイキングの風習が混ざって伝わったとか。
祭りなら日本にも無数にあって、ひな祭りとか端午の節句とか、他にも祭りはいろんな地方でやってるし。って言ってみたら。
「知ってる。ひな祭りはね、PappaとMammaが祝ってくれた」
来日してすぐの頃は右も左も分からず、ただ日本に慣れるので精いっぱいだった。それでも数年も居れば余裕が出てきて、日本の祭りに積極的に参加して来たそうだ。
神田祭で豪華な神輿を見て感動したとか。
「夏祭りは一緒に行こうね」
「いいけど」
「なんか乗り気じゃない?」
「そんなことない」
クラスの連中も一緒に行くんだろう。どうせならふたりきりがいい。無理だと思うけど。
学校最寄り駅に着くと下車して、学校までの通学路を歩く。
そうすると周囲にいくらか人が集まってくるんだよな。
「エメリ、おっはよー」
「グッモロン! エメリ」
「ヒューモルデュ?」
俺より女子の方がスウェーデン語をよく使う。ちなみに「ヒューモルデュ」は「ご機嫌いかが?」とか「お元気ですか?」だそうだ。そんな言葉、普段使わねえだろ。
とは言え、ネイティブじゃないから、みんなまだカタカナ発音。
で、エメリから少しだけ発音のレクチャーがある。
「Hur mår du? だからね。充分通じるけど」
「少し巻き舌がいいのかな?」
「そこまでしなくても通じるよ」
女子とはすっかり打ち解けてる。同性だから気兼ねしないんだろう。クラスの男子とはまだ幾分距離がある感じだ。俺だけ家が隣ってこともあって、かなり親密かも。そこだけは男子連中に勝ってるな。
離れて歩く男子連中。なんか声掛けたそうだよなあ。ただ、真っ先に女子が群がるから、寄り付き難いんだろう。
学校に着き教室へ入るとホームルームまでは、朝読書の時間だとかで各々好きな本を読む。
五分ほど読んでるとホームルームになり、それが終わると授業になる。
席替えでエメリと近かった席も、少々離れ気味で昼休憩までは、ほぼ会話が無い。
真面目に授業受けてるなあ、なんて見てると気付いて、前を見ろとゼスチャーしてるし。そんなとこは真面目なんだよな。
昼休みになると生徒が一斉に食堂へ移動する。
中には購買でパンを買って、教室に戻って食ってる奴も居るけど。
「今日は何かな」
この時間をそれなりに楽しみにしてるのがエメリだな。
女子連中に取り囲まれる前に、俺の傍に来て一緒に食堂に向かう。
結果。
「エメリと草柳って付き合ってるの?」
こう捉えられる。
しかし、付き合ってるのかと言えば、その実感は無いしデートも無い。エメリの部屋で勉強することはあっても。
その質問が出るとエメリは俺を見て「付き合ってるの?」と。いや、その自覚が無ければ付き合ってるとは言えないだろ。
食堂で飯を食う時は俺がエメリの正面に座る。エメリの両脇にはクラスの女子。俺の両隣は空いてるんだが、女子は座らないんだよな。あまり好かれてないのかもしれん。
代わりに男子が座るから、それぞれ男女が向かい合った状態に。
飯を食いながら女子から質問が出てる。
「エメリとかシェーンベリってどんな意味があるの?」
「日本人だと漢字に意味があるから、なんとなく分かるんだけど」
日本人の苗字や名前にも、それなりに意味はあるわけで。そうなると外国人の名前も同じだろう。
少し考えてる風だけど説明してくれた。
「Emelieには優しい、穏やかな、って意味があるの」
苗字に当たる「Schönberg」には美しい山、と言った意味があるそうだ。
ドイツに多い苗字や名前なのだとか。言語としても似たようなものが多いらしい。
「Schönbergはシェーンベルクって、TysklandとかÖsterrikeでは読ませてる」
「えっと、なんて?」
「あ、ごめん。GermanyとAustria」
「ぜんぜん呼び方違うんだね」
まあ、名前とか国名で盛り上がってる。
女子連中も自分の氏名の意味を教えてるし。
「日本はなんて言うの?」
「Japanって言うんだけど、スペルは英語と一緒」
「スウェーデンはスウェーデン?」
「かなり違うかも。Sverigeだから」
全然違うとか言って楽しんでるなあ。
「じゃあ、日本のお寿司はヤーパンスシ?」
「あ、少し違ってJapansk sushiになるの。何々の、ってなった場合はskが付くから」
格助詞「の」は「sk」になるのか。
ちなみに、スウェーデンでも寿司で通じるそうだ。そのほかに「Sashimi」や「Gari」「Wasabi」「Tempura」も通じるらしい。日本の食文化の影響すげえな。これ万国共通語になって無いか?
身近に外国人が居ると、やっぱ外国語にも興味持つよな。学校で習わない言語だし。
午後の授業が終わり、部活動をするのだが、ここでもやっぱり興味は言語だ。
イベントが無い限りは、部員も自由に絵を描いてる。そうなると私語も多めになるし。
昼と似たような話題になって、俺は同じ話を聞かされる。エメリは同じ話をするしかない。面倒だろうなあ。
部活が終わり一緒に帰宅するが。
「同じ話ばっかりで飽きたりしないのか?」
「Nej、せっかく興味持ってくれてるから」
一周すれば違う話題に移るだろうから、それまでは知りたいことに答えるそうだ。
やっぱ、根っこの部分は真面目だよなあ。
「あと、言葉の勉強になるし、スウェーデン語って使う人少ないから」
興味を持って使う人が増えるといいなと。
それもそうか。人口一千万ほどの国で、しかも英語を使う人も多い。スウェーデン国内で公用語として認められたのが二〇〇八年だとか。
それまでは種々雑多だったそうだ。隣国フィンランド語やロマ語なんかも多かったらしい。
「海斗も覚えようよ」




