Avsnitt 21 障害が大きい程燃える
五日間に渡るテストが終了し、週明けからは結果が判明する。
初日と二日目は女子との確執があって、どうにも気分がすっきりしなかった。それでも、男子が気さくに話し掛けられる雰囲気になって、今度は女子が遠巻きに見る感じ。
その姿から受け取る印象は、エメリを理解できないって。なんで俺と仲良くしてるのか、ってことだろうけど。
「放っておけばいいんだよ」
相手にするだけ無駄だと。すでに見切りを付けたそうだ。
自分たちの価値観がすべてだから、そこから外れていれば、受け入れられない程度の話だと。
さすがにクラスの男子も、俺に対する女子の態度や、エメリに対しての態度に文句言ってる。このクラスの女子だけが異常なんだろうって。
「バカしか居ねえよ。悲劇だよな」
「顔さえ良けりゃいいのかって話しだよ」
「イケメンに限るってか?」
「自分の顔鏡に映して言えよっての」
あえて聞こえるように言ってるし。
それを聞いた女子が顔をしかめてるけど、男子も意に介さないって感じで。なんかこのクラスだけ男女が完全に分断した。
テストが終わって休日になると、俺の部屋に遊びに来て、エメリが気分転換に出掛けようと言ってる。
「どこか行きたい場所ってある?」
「自然溢れる場所、かな」
「生田緑地は行ったばっかりだし」
ここからそれほど遠くない、となると。
「神代植物公園は? 公園だけど季節ごとの花も多いし、温室があるから熱帯植物も充実してる」
「いいよ、そこで」
今日はすでに昼過ぎてるから明日行くことにした。
「海斗」
「なに?」
「Lärlingar kommer väl från juni?」
「えっと、何が来る?」
見習いが六月から、来るのかって。
「見習いって……ああ、教育実習生のことか」
「それ、六月からでしょ」
「月曜から三週間だったと思う」
「Bara tre veckor」
わずか三週間ってことに、少し驚いてる感じだけど。
スウェーデンでは二十週の実習期間が、義務化されているらしい。エメリもその辺は良くは知らないそうだけど。日本に来たのが早かったからだとか。
代わりに両親からスウェーデンと、日本の違いを説明されるらしい。
「たった三週間で教師になれるんだね」
「いや、その言い方だと語弊が」
「大学四年間通って、実習が三週間なんでしょ?」
足りるのか、ってことだそうで。
「その辺は分かんないけど、それで教師になってるし」
スウェーデンのやり方が正しいのか、日本のやり方で問題無いのか。それは携わる大人が判断することなんだろう。俺が良い悪いを論じてもなあ。
なんにも知らないんだし。
「Det jag är intresserad av just nu」
「え? 何?」
早口で唐突になんか言ってる。聞き取れないし意味がよく分からないし。
「Jag vill kyssa dig」
「えっと、何がしたいの?」
「Kyss」
一瞬、思考が飛んだ。
もしかして、親密な男女間なら普通のこと。あれか?
「Ditt ansikte är rött」
顔が熱くなってる。それを言われたんだと思うけど。たぶん顔が赤いって。
「マジ?」
「Jag är seriös」
エメリを見ると顔が赤くなってる。でも表情は真剣そのもの。つまり。
「Kan jag kyssa dig?」
「ちょ、ど、どうしたのさ。急に」
体を寄せて顔が近い。じっと見つめてきて「Det var obehagligt, eller hur?」と。
やっぱり意味がよく分からない。
「あの、日本語で」
「不快だったでしょ」
「なにが?」
「クラスの女子」
確かに不愉快だったけど。でも、男子は味方してくれてるし、先輩とかは俺とエメリのことを気にしてない。クラスの女子だけが変。だったら耐えられる。
でも、一歩踏み出せるって部分は、かなり、相当興味あるし。ついにファーストキスとか。
頭が沸騰しそう。
「Jag låter dig glömma, Bara nu」
吐息が掛かりそうなほどに顔が近い。「忘れさせてあげる、今だけ」って言ってる。
透き通るような青い目。その目が俺を見つめて。
踏ん切り付ければ互いに目を閉じて。って閉じた方がいいのか? 普通は閉じるのがいいのか、それとも開けてていいのか。
すごい緊張する。
初めてのキスだと、どれが正解かさっぱり分からない。
なんて思って躊躇してたら、顔が一気に近付いて唇に柔い感触。
ちょっと、いや、かなり心臓バクバク。
顔が離れると「ännu en gång」と囁いた、と思ったらまた顔が接近して唇が柔い感触に包まれた。
「もう一回?」
「えっと」
「クラスの女子が全員海斗を嫌ってても、私はずっと海斗の味方で恋人」
気を使われてるんだ。むしろエメリが女子にハブられてるのに。
確かにあれだけ引き剥がそうとするのは、俺を嫌いだからなんだろう。どんだけ俺のことを嫌いなんだか。嫌われるようなことをした覚えも無いのに。でも、そのせいでエメリまで。
「エメリ」
「Vad?」
「俺もエメリが嫌われても、ずっと、その、あ、こ、恋人、だから」
笑ってるし。なんかスムーズに言葉が出なかった。
で、また顔が急接近して唇に覆い被さる、エメリの唇だった。唇って柔いんだなって、今になって知るとは。
でも、これで一歩前進したんだろう。
互いに支え合っていれば、クラスでハブられても耐えられる。
「En kyss är en hälsning. Jag ska kyssa dig på morgonen, dagtid och kväll」
「エメリ……聞き取れない」
キスなんてあいさつだ、ってのと、これからは朝昼夕方にキスするから、ってマジ?
いくらあいさつとは言え、昼とか学校に居る時間帯。そこでキスは無理でしょ。
「家の前で朝のあいさつ。お昼に授業が終わったら堂々と。帰ってきたら家の前でお別れのキス」
「家の前はともかく学校はまずいでしょ」
「駄目なの?」
「不純異性交遊って言われる」
キスで不純とか意味が分からないそうだ。
まあ、欧米ではあいさつ、とか言ってるし。その視点から見れば意味不明だと思うけど。でも。
「あいさつって、口と口じゃ無いよね?」
「恋人同士なら当たり前なんだけど」
そうですか。そうですよね。欧米だもん。キス程度でぎゃーぎゃー騒ぐのは、日本くらいだろうな。
それでも。
「学校は駄目」
「駄目なんだ」
「先生も煩いし、生徒も」
「じゃあ、そこは日本の慣習に従って、朝と夕方」
そこは譲らないんだ。でも、まあいいや。本音では俺も望んでるわけだし、その先も望んでたりするわけで。まだ早いんだろうけど。
いずれは。
エメリとやっと本当の意味で恋人になれた、そう思える出来事だった。
目の前に障害があると、返って燃え上がるのが恋心なんだ。ってことは、クラスの女子が俺の背中を押してくれた、エメリの背中も押した。そう考えれば悪くないのかも。
夕方になると家に帰るエメリだ。
もちろん、明日の約束はしっかりしてある。
そして早速有言実行って奴だ。玄関先でキスを交わして、自宅へ戻ってるし。
エメリが家に入るのを見届けて、自分も家に入ると母さん、なんでそこに居る?
「ひと皮むけた?」
「なにが?」
「キスくらいできたの?」
なんで母さんには行動が筒抜けなんだよ。どこかで見張ってんの?
「知らない」
「そう。焦らず少しずつだからね」
キス程度ですべてを許すわけじゃないからと。
物事には順番があって、少しずつ距離を縮めて行けばいいって。
なんか恥ずかしいから、適当に相槌打って自室に戻った。
部屋に戻ってベッドに腰を下ろすと、思い出しちゃうんだよ。エメリとしたことを。
ドキドキしてくるし。エメリは平気なのかな。
思わず身悶えしちゃったし。




