↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/30

Avsnitt 20 説得を試みたようだ

 中間考査対策は思うようには進まなかった。

 少しでも点数向上なんて目論見は、エメリの「Fikaしよう」の前に脆くも崩れ去ったのだ。勉強始めて一時間もしない内にだもんなあ。それを何度も。

 夕方になって「じゃあ帰るね」と言って、にこにこ笑顔で自宅へ戻ってたけど。

 夕飯の時に母さんがなんか言ってるし。


「ちゃんと勉強したの?」

「できてない」

「何してたの? まさか如何わしいこと」

「無い。ほとんど世間話」


 如何わしいことができるほどに、互いの距離は縮まってないと思う。俺はともかくエメリにその気はないだろうし。

 ちょっと残念。


 翌日、朝からしっかり雨降り。昨日は天気が崩れなかったけど、今日は違ってどんよりした空からは、大粒の雨が降り注いでる。

 玄関を出ると傘を差して元気なエメリが待ってるし。


「Tjena!」

「シェーナ」

「Det(デ) regner(レンナー)」

「雨降ってるね」


 駅に向かって歩き出すけど、傘が邪魔で距離を取るしかない。腕組んで、なんてのはさすがに無理。

 なんて思ってたら。


「一緒にってないの? 日本の言葉に相合傘ってあるでしょ」


 相合傘ねえ。片方が持ってないならあると思うけど。


「あるけど、ふたりとも傘持ってたらやらないと思う」

「Verkligen(ヴェルクリゲン)?」

「変だと思うけど。傘持ってるのに」

「でも、寄り添っていたいとか無いの?」


 ないわけじゃない。ただやっぱ変だと思う。

 自分の傘とエメリの傘を見る。男性用の傘の方が大きいな。女性用だとふたりは無理だろうし、どっちかの肩が盛大に濡れる。


「じゃあ、エメリが傘畳んでこっちに入るとか」


 嬉々として傘を畳んでこっちに入り込んでるし。ついでにがっつり腕組んでる。体の密着度合いもすごいな。べったり寄り添って、エメリの距離感って少し壊れてない?

 ただ、やっぱ身長差。なんか締まらないんだよなあ。


「Vad(ヴァー) hände(ヘンデ)?」

「えっと、なんでもない」


 なんか俺を見てる。


「気にしても仕方ないのに。私は気にしてないよ」


 気付いたんだ、言葉にしなくても。外国人も多少は表情から理解するのかな。


「北欧の人はね、特に身長髙い人多いから。アジア系は高くないよね。人種間の差だから気にしても仕方ないでしょ」


 生物学にベルクマンの法則とかある、とか言い出した。


「恒温動物は寒冷地では体重が重いって言う法則。その結果体格も大きくなってる」

「人間にも当て嵌るの?」

「Jag(ヤー) vet(ヴェッ) inte(インテ)」


 わからないらしい。でも、法則はともかく体格差があるのは事実。あくまで平均の話だから例外はもちろん存在するし、例外の説明を求められても、それは不可能だとか。

 人種間で体格差が生じる理由には、他にも様々な要因があって、ひとつの法則を当て嵌めて説明するのも無理だそうだ。


 電車に乗ると女子がね、やっぱり数人集まってくる。

 けど、今回はエメリが手で制してる。俺とエメリの間に割り込もうとしたから。

 少し動揺してるけど、自分たちが如何に余計なことをしてるか、少しは理解した方がいいと思う。

 短い時間で簡単に説明してるけど、たぶん理解しないんだろうな。理解力が無いんじゃなくて、良かれと思ってしてることだから。


「ありがた迷惑って言葉があるでしょ」


 誰が誰と付き合うか、それは当人の問題であり、他人が首を突っ込むのはおかしいって。


「お門違いって言葉もあるし」


 うちのクラスの女子はエメリから見ても変だと。俺から見ても変だと思う。やってることがいじめに等しいと言われてるし。

 でも、反論しようとして意味不明なこと言ってるし。


「人の恋路を邪魔する奴は、ってのもあるでしょ」


 日本にこんな言葉が多いのも、お節介焼きや干渉する人が多いからだ、とか言ってる。だから無粋な存在に対しての言葉も多くなると思うそうだ。

 自立した個人が存在しないから、他人に必要以上に干渉しようとする。つまり同じように染まれと。


「結局、朱に交われば、って言葉になるんだよ」


 欧米では個は個。集団で行動することはあっても、過度な干渉はしない。あくまで個を尊重するから、いちいち首を突っ込まないのだとか。

 日本の集団は、悪い面ばかりじゃないのは理解するけど、この場合は本気でうっとうしいからやめて欲しいと。


「嫉妬もあると思う。でもそれで私がみんなに良い印象を持つか、と言えば持てない」


 むしろ日本人の醜い部分ばかりが強調されて見えるそうだ。

 なんか気まずい雰囲気になってる。

 日本人って馴染もうとしない人は排除するんだよね。このままだとエメリもクラスから排除されるかも。他人を尊重しないのが日本人。あくまで集団に馴染ませることが目的だし。学校の教育も集団教育。個の主張なんて認めないし。認めると統率が取れないから面倒臭いんだろうな。

 結局、いまだに軍隊式。だから制服が当たり前に存在する。


 学校最寄り駅に着くと、電車内の光景が繰り返される。

 ただ、ここで救世主が現れた。


「あたしの目から見ても、あんたらおかしい」


 吹奏楽部の先輩からのひと言。偶然同じ時間帯になった、というより、エメリと話がしたかったらしく、待ち構えていたそうで。

 そうしたら揉めてるから首を突っ込んだと。

 先輩が場を取りなすことで、今は収まった感じがする。


「いじめは禁止。自分たちのやってることは、いじめと同じって自覚した方がいいよ」


 ガキだ、と言われてるし。

 一年違うだけで、こうも違うのか。それともクラスの女子がたまたま、レベルが低すぎるのか。

 俺が一切口を挟まなかったことに関しては、これで反論したらシカトされただろうって。たぶんそうだと思ったから、エメリには悪いけど傍観してた。俺だけならともかく、エメリも同じようにシカトされるし。

 醜いなあ。本気でクラスの女子が嫌になってる。


 教室に入ると女子連中はさっさと席に着く。

 いつもはエメリにたかってるけど、今日は通学途中のこともあって、本気で不満そうだし。

 これ、今日からシカトされるかも。俺とエメリだけ。

 先輩の言葉なんて聞く気ないだろうし、エメリの言い分も聞く気ないだろうから。


 なんかイライラとモヤっとした気分でテストを受ける。

 各科目のテストが終わると、エメリの周りに誰も行かない。やっぱりね。

 俺が傍に行くと両手を挙げて「これがお手上げって奴だね」って。


「なんかごめん」

「なんで謝るの?」

「俺のせいだから」

「Nej。Svart(スヴァルツ)sjuka《シューカ》 grumlar(グルンラル) bara(ボーラ) flickans(フリッカンス) ögon(エーゴン)」


 嫉妬で目が濁ってるそうだ。俺に対しての嫉妬心があるんじゃないかって。特別優れた容姿を持たないのに、外国人の美少女と思ってる相手と付き合ってる。なんか悔しいし面白くないし、ってのがあるんじゃないかって。


「イケメン? じゃないと許せないんでしょ」


 俺が気に病む必要は無いし、むしろ被害者だそうだ。

 自分たちの理想像を勝手に押し付けて、それに合致しないと排除する。実にくだらないと。

 ここまで日本の女子が子どもっぽいとは、思っても無かったそうだ。見た目だけが幼いのかと思ったら、思考までが幼児のまま。だから幼く見えるんだろうなって。


「欧米と同じ男女平等は当分、望めそうにないね」


 差別意識も根強い。しかも同族に対してだから、救いようがないとも。

 単一民族だけで構成された社会。他民族を多く抱える社会。こうまで違いが鮮明に出ると、さすがに呆れるそうだ。


「Muren(ムーレン) är(エル) hög(ヘッグ)」

「なにそれ」

「壁は高いなって」


 ベルリンの壁より強固そうで、壊すのは容易じゃなさそうだね、だって。

 意外とサバサバしてるし。


 ただ、この結果、男子がエメリの周りを取り囲む機会が増えた。

 邪魔だった女子が離れたから近寄れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。