Avsnitt 20 説得を試みたようだ
中間考査対策は思うようには進まなかった。
少しでも点数向上なんて目論見は、エメリの「Fikaしよう」の前に脆くも崩れ去ったのだ。勉強始めて一時間もしない内にだもんなあ。それを何度も。
夕方になって「じゃあ帰るね」と言って、にこにこ笑顔で自宅へ戻ってたけど。
夕飯の時に母さんがなんか言ってるし。
「ちゃんと勉強したの?」
「できてない」
「何してたの? まさか如何わしいこと」
「無い。ほとんど世間話」
如何わしいことができるほどに、互いの距離は縮まってないと思う。俺はともかくエメリにその気はないだろうし。
ちょっと残念。
翌日、朝からしっかり雨降り。昨日は天気が崩れなかったけど、今日は違ってどんよりした空からは、大粒の雨が降り注いでる。
玄関を出ると傘を差して元気なエメリが待ってるし。
「Tjena!」
「シェーナ」
「Det regner」
「雨降ってるね」
駅に向かって歩き出すけど、傘が邪魔で距離を取るしかない。腕組んで、なんてのはさすがに無理。
なんて思ってたら。
「一緒にってないの? 日本の言葉に相合傘ってあるでしょ」
相合傘ねえ。片方が持ってないならあると思うけど。
「あるけど、ふたりとも傘持ってたらやらないと思う」
「Verkligen?」
「変だと思うけど。傘持ってるのに」
「でも、寄り添っていたいとか無いの?」
ないわけじゃない。ただやっぱ変だと思う。
自分の傘とエメリの傘を見る。男性用の傘の方が大きいな。女性用だとふたりは無理だろうし、どっちかの肩が盛大に濡れる。
「じゃあ、エメリが傘畳んでこっちに入るとか」
嬉々として傘を畳んでこっちに入り込んでるし。ついでにがっつり腕組んでる。体の密着度合いもすごいな。べったり寄り添って、エメリの距離感って少し壊れてない?
ただ、やっぱ身長差。なんか締まらないんだよなあ。
「Vad hände?」
「えっと、なんでもない」
なんか俺を見てる。
「気にしても仕方ないのに。私は気にしてないよ」
気付いたんだ、言葉にしなくても。外国人も多少は表情から理解するのかな。
「北欧の人はね、特に身長髙い人多いから。アジア系は高くないよね。人種間の差だから気にしても仕方ないでしょ」
生物学にベルクマンの法則とかある、とか言い出した。
「恒温動物は寒冷地では体重が重いって言う法則。その結果体格も大きくなってる」
「人間にも当て嵌るの?」
「Jag vet inte」
わからないらしい。でも、法則はともかく体格差があるのは事実。あくまで平均の話だから例外はもちろん存在するし、例外の説明を求められても、それは不可能だとか。
人種間で体格差が生じる理由には、他にも様々な要因があって、ひとつの法則を当て嵌めて説明するのも無理だそうだ。
電車に乗ると女子がね、やっぱり数人集まってくる。
けど、今回はエメリが手で制してる。俺とエメリの間に割り込もうとしたから。
少し動揺してるけど、自分たちが如何に余計なことをしてるか、少しは理解した方がいいと思う。
短い時間で簡単に説明してるけど、たぶん理解しないんだろうな。理解力が無いんじゃなくて、良かれと思ってしてることだから。
「ありがた迷惑って言葉があるでしょ」
誰が誰と付き合うか、それは当人の問題であり、他人が首を突っ込むのはおかしいって。
「お門違いって言葉もあるし」
うちのクラスの女子はエメリから見ても変だと。俺から見ても変だと思う。やってることがいじめに等しいと言われてるし。
でも、反論しようとして意味不明なこと言ってるし。
「人の恋路を邪魔する奴は、ってのもあるでしょ」
日本にこんな言葉が多いのも、お節介焼きや干渉する人が多いからだ、とか言ってる。だから無粋な存在に対しての言葉も多くなると思うそうだ。
自立した個人が存在しないから、他人に必要以上に干渉しようとする。つまり同じように染まれと。
「結局、朱に交われば、って言葉になるんだよ」
欧米では個は個。集団で行動することはあっても、過度な干渉はしない。あくまで個を尊重するから、いちいち首を突っ込まないのだとか。
日本の集団は、悪い面ばかりじゃないのは理解するけど、この場合は本気でうっとうしいからやめて欲しいと。
「嫉妬もあると思う。でもそれで私がみんなに良い印象を持つか、と言えば持てない」
むしろ日本人の醜い部分ばかりが強調されて見えるそうだ。
なんか気まずい雰囲気になってる。
日本人って馴染もうとしない人は排除するんだよね。このままだとエメリもクラスから排除されるかも。他人を尊重しないのが日本人。あくまで集団に馴染ませることが目的だし。学校の教育も集団教育。個の主張なんて認めないし。認めると統率が取れないから面倒臭いんだろうな。
結局、いまだに軍隊式。だから制服が当たり前に存在する。
学校最寄り駅に着くと、電車内の光景が繰り返される。
ただ、ここで救世主が現れた。
「あたしの目から見ても、あんたらおかしい」
吹奏楽部の先輩からのひと言。偶然同じ時間帯になった、というより、エメリと話がしたかったらしく、待ち構えていたそうで。
そうしたら揉めてるから首を突っ込んだと。
先輩が場を取りなすことで、今は収まった感じがする。
「いじめは禁止。自分たちのやってることは、いじめと同じって自覚した方がいいよ」
ガキだ、と言われてるし。
一年違うだけで、こうも違うのか。それともクラスの女子がたまたま、レベルが低すぎるのか。
俺が一切口を挟まなかったことに関しては、これで反論したらシカトされただろうって。たぶんそうだと思ったから、エメリには悪いけど傍観してた。俺だけならともかく、エメリも同じようにシカトされるし。
醜いなあ。本気でクラスの女子が嫌になってる。
教室に入ると女子連中はさっさと席に着く。
いつもはエメリにたかってるけど、今日は通学途中のこともあって、本気で不満そうだし。
これ、今日からシカトされるかも。俺とエメリだけ。
先輩の言葉なんて聞く気ないだろうし、エメリの言い分も聞く気ないだろうから。
なんかイライラとモヤっとした気分でテストを受ける。
各科目のテストが終わると、エメリの周りに誰も行かない。やっぱりね。
俺が傍に行くと両手を挙げて「これがお手上げって奴だね」って。
「なんかごめん」
「なんで謝るの?」
「俺のせいだから」
「Nej。Svartsjuka grumlar bara flickans ögon」
嫉妬で目が濁ってるそうだ。俺に対しての嫉妬心があるんじゃないかって。特別優れた容姿を持たないのに、外国人の美少女と思ってる相手と付き合ってる。なんか悔しいし面白くないし、ってのがあるんじゃないかって。
「イケメン? じゃないと許せないんでしょ」
俺が気に病む必要は無いし、むしろ被害者だそうだ。
自分たちの理想像を勝手に押し付けて、それに合致しないと排除する。実にくだらないと。
ここまで日本の女子が子どもっぽいとは、思っても無かったそうだ。見た目だけが幼いのかと思ったら、思考までが幼児のまま。だから幼く見えるんだろうなって。
「欧米と同じ男女平等は当分、望めそうにないね」
差別意識も根強い。しかも同族に対してだから、救いようがないとも。
単一民族だけで構成された社会。他民族を多く抱える社会。こうまで違いが鮮明に出ると、さすがに呆れるそうだ。
「Muren är hög」
「なにそれ」
「壁は高いなって」
ベルリンの壁より強固そうで、壊すのは容易じゃなさそうだね、だって。
意外とサバサバしてるし。
ただ、この結果、男子がエメリの周りを取り囲む機会が増えた。
邪魔だった女子が離れたから近寄れる。




