↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/30

Avsnitt 17 対価は義務を果たして

 五月下旬。

 エメリと初めて出会ってから二か月近く経った。エメリの部屋でいつもみたいに、ことわざの勉強中だったけど。

 そろそろ日本の風物詩である例の奴が。


「中間考査がある」

「Testa(テスタ)?」

「五日間午前中だけなんだけど」

「Finns(フィンス) det(デ) ingen(インゲン) klass(クラス)?」


 授業は無いのか、って無いんだよね。テスト期間中は。

 それを言うと。


「日本の学校ってテストが多いよね」

「多いのかな?」

「Grundskola(ギュルンドスコーラ)、あ、日本で言う義務教育期間だけど」


 スウェーデンでは基礎学校に九年間通う。

 その基礎学校に在学中、何度もテストがあったことは無いと。三年、六年、九年の時にナショナルテストがあるのだとか。

 高校は通って無いから知らないらしい。


「何のためにやってるの?」

「進捗状況とか、学力レベルの評価とか、だと思うけど」

「でも、落ち零れた生徒に何もしないよね」


 そう言えば点数が取れなくても、学校は何もしてくれないなあ。高校は違うかもしれないけど、義務教育中は落ち零れたら放置だし。

 自発的にやる生徒なら、そもそも成績を維持向上させる努力はするし。

 落ち零れた生徒を平均まで引き上げるなら、テストの意義もあると思うけど。


「確かに意味不明だ」

「日本はテストのための勉強になってる」


 日本の高校に入ろうと思ったら、入試があって少し戸惑ったとか。


「スウェーデンに入試テスト無いから」

「無いんだ。いいなあ」


 評価次第で行ける学校が決まるとか。日本とは違うなあ。


「じゃあ、あれかな。スウェーデンの学生って、あんまり成績良くないの?」

「OECDベースの総合ランキングなら、日本のひとつ下だよ。八位だから」


 二〇十九年の数字だから、今がどうかは分からないとは言ってるけど。

 バカみたいにテストテストテストで、毎回評価を下されるから、余計なプレッシャーばっかりだ。

 トリリンガルのエメリに対して、バイリンガルでさえ多くは無い日本。数字に出ない部分で差がある気がする。何を目的にしてるんだろう、日本の教育って。


「所得ランキングだと日本より上」


 可処分所得ランキングでも上だそうだ。つまり税金を引かれた残りの額でも負けてる。高福祉国家で税金髙い物価高い、そんなイメージのスウェーデンに、可処分所得も負けてる。つまり日本は税金が高すぎるのに福祉は脆弱ってこと。


「総合住宅ランキングはスウェーデンが九位。日本はね二十二位」


 ウサギ小屋とか安普請って言われるわけだ。


「なんか、いろいろ差があるなあ」

「でも、日本にはいいところもたくさんある」

「そう?」

「ご飯が美味しい。水は日本と同じで質がいいから、水道水も飲めるよ」


 食が世界に誇れる文化なのは、世界中で日本食がブームだってことで、分かるには分かる。


「サブカルチャーがすごい。アニメ、コミックはスウェーデンと比較にならないし」


 日本人が知ってそうなのは、長くつ下のピッピだったかなあ。


「治安がいい」

「ああ、それはあるかも」


 スウェーデンも欧米で比較すれば治安はいい。それでも近年移民の増加に伴い、スリや置き引きが多発しているとか。夜中のひとり歩きができないわけじゃないが、日本のように路上で寝る、なんてのはあり得ないそうだ。


「すごいよね。繁華街の路上で寝てるんだよ」

「まあ、あれはねえ。酔っ払ってるだけだし」

「身ぐるみ剥がれるよ」

「そう言うのは聞いたことが無いな」


 時々財布を盗まれることはあるだろうけど。概ね治安はいいよなあ。

 じゃなくて、中間テスト対策を少し、と思って言ったんだけど。ずいぶん横道にそれたなあ。


「中間テストなんだけど」

「Morgon(モロン)dagen(ダーゲン) kommer(コンメル) att(アット) sköta(スケータ) sig(セイ) själv(セールヴ)」

「えっと、何?」

「明日は明日の風が吹く、だよ」


 慌ててやるのは高校入試だけでたくさんだそうだ。

 授業を真面目に受けていれば、早々ひどい点数には至らないだろうって。


「あ、Fika(フィーカ)にしよう」


 休憩するの好きだよなあ。日本人と違ってあくせくしないんだもん。

 部屋を出て行って少しすると、いつも通り「Kaffe(カッフェ)」と、それ何?


「hallon(ハロン)grottor(グロットル)とChoklad(ショクラード)bollar(ボッラル)だよ。これも定番のおやつ」


 ラズベリージャムのクッキーとチョコボール、だそうだ。

 ちなみに「hallon(ハロン)」はラズベリーで「grottor(グロットル)」が洞窟なんだって。

 そう言えばIKEAにもあったような。定番の菓子類は結構並んでたし。


「手作り?」

「självklart(シェルヴクラーツ)!」

「あの」

「もちろん! だよ」


 何でも作るんだなあ。

 暫し、フィーカと称して寛ぐ時間を過ごす。


「そう言えば、アニメとか見るの?」

「見るよ」

「何見てるの?」

「今はS〇Y X FA〇ILYとかKA〇UYA-SA〇Aとか、前はセー〇ーム〇ンとかよく見てた」


 海外で定番中の定番と、日本で流行ってる奴か。海外でもウケるんだな。ついでに「DA〇E A LI〇E」もわりと好きなんだそうだ。あれって、海外でもウケがいいのか。典型的なオタアニメだと思ってたのに。

 そう言えば美少女戦士のコスプレ、外国人女性がよくやってるんだっけ。日本人より似合ってるのがなんとも。もともと金髪なら違和感ないよなあ。しかも足長いし、体形もスリムだし、アニメから飛び出してきたみたいだし。

 エメリは興味あるのかな。


「コスプレって興味ある?」

「好きな人は好き。私は、それほどでも」


 俺を見つめてる。別に見たいわけじゃないんだけど。

 ただ、似合いそうだから、やってるのかなとか、そう思っただけだし。


「衣装、用意してくれたらしてもいいよ」

「え、マジ?」

「似合うと思ってるでしょ」

「まあ」


 とは言え、衣装代なんて出せるわけがない。あれってレンタルとかあるのか?


「用意できたらってことで」

「作れば安上がりだけどね」


 そのうち気が向いたら、コスプレしてもいいらしい。作るにしても買うとか、借りるにしても金は掛かるわけで。それが趣味であればともかく、そうでもない状態だから、お金は掛けられないって。まあ当然だよなあ。


 休憩終了で中間テスト対策したい、と思ってもエメリにやる気なし。


「言ったよ。明日は明日のって」

「でもさあ、俺の場合切実な問題があって」

「Vad(ヴァー)?」

「小遣いの増額の対価」


 高校生でもバイトは可能。でもバイトで成績落としたら意味がない。楽なのは成績向上を対価に小遣い増額を迫るもの。

 むしろその方が高校生らしい要求だと思う。って言ったら。


「バイトしないの?」

「夏休み中なら」

「じゃあ、それまでは」

「中間テストの成績で」


 学生の本文は勉強。だったら、テストで好成績を残すことで、義務は果たしたことになる。

 要求を通すなら、相応の対価は必要だし、って言うと。


「真面目なんだね」

「まあ一応」

「私も真面目だよ」

「知ってる」


 ことわざの勉強に余念がない。四字熟語にしても同様。言葉を知ると表現できる範囲が広がるし、ことわざや四字熟語は含蓄もある。

 だからこそ知りたい欲求が強いんだろう。


「bara lite(バーラ リーテ)」

「Mer(ミェル)」

「あ、生意気にSvenska(スヴェンスカ)で返してきた」

「ちょっと、って言うから、もっとって」


 なんとか押し通して中間テスト対策をすることになった。

 これで成績向上すれば、エメリとのデート代を捻出できる。俺のためでもあるけど、エメリと楽しい時間を過ごしたいから。

 言う気は無いけどね。

 あ、でもあれか、外国人は言葉にしないと、意思が通じないんだっけ。きっと理解してくれるなんてのは、日本人だけかもしれないし。


「あのさ」

「Vad(ヴァー) är(エル) kvar(クヴァール)?」

「いや、あの、何かって、エメリとね」


 デートしたいから頑張るんだ、と説明したら、笑顔が眩しくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。