Avsnitt 17 対価は義務を果たして
五月下旬。
エメリと初めて出会ってから二か月近く経った。エメリの部屋でいつもみたいに、ことわざの勉強中だったけど。
そろそろ日本の風物詩である例の奴が。
「中間考査がある」
「Testa?」
「五日間午前中だけなんだけど」
「Finns det ingen klass?」
授業は無いのか、って無いんだよね。テスト期間中は。
それを言うと。
「日本の学校ってテストが多いよね」
「多いのかな?」
「Grundskola、あ、日本で言う義務教育期間だけど」
スウェーデンでは基礎学校に九年間通う。
その基礎学校に在学中、何度もテストがあったことは無いと。三年、六年、九年の時にナショナルテストがあるのだとか。
高校は通って無いから知らないらしい。
「何のためにやってるの?」
「進捗状況とか、学力レベルの評価とか、だと思うけど」
「でも、落ち零れた生徒に何もしないよね」
そう言えば点数が取れなくても、学校は何もしてくれないなあ。高校は違うかもしれないけど、義務教育中は落ち零れたら放置だし。
自発的にやる生徒なら、そもそも成績を維持向上させる努力はするし。
落ち零れた生徒を平均まで引き上げるなら、テストの意義もあると思うけど。
「確かに意味不明だ」
「日本はテストのための勉強になってる」
日本の高校に入ろうと思ったら、入試があって少し戸惑ったとか。
「スウェーデンに入試テスト無いから」
「無いんだ。いいなあ」
評価次第で行ける学校が決まるとか。日本とは違うなあ。
「じゃあ、あれかな。スウェーデンの学生って、あんまり成績良くないの?」
「OECDベースの総合ランキングなら、日本のひとつ下だよ。八位だから」
二〇十九年の数字だから、今がどうかは分からないとは言ってるけど。
バカみたいにテストテストテストで、毎回評価を下されるから、余計なプレッシャーばっかりだ。
トリリンガルのエメリに対して、バイリンガルでさえ多くは無い日本。数字に出ない部分で差がある気がする。何を目的にしてるんだろう、日本の教育って。
「所得ランキングだと日本より上」
可処分所得ランキングでも上だそうだ。つまり税金を引かれた残りの額でも負けてる。高福祉国家で税金髙い物価高い、そんなイメージのスウェーデンに、可処分所得も負けてる。つまり日本は税金が高すぎるのに福祉は脆弱ってこと。
「総合住宅ランキングはスウェーデンが九位。日本はね二十二位」
ウサギ小屋とか安普請って言われるわけだ。
「なんか、いろいろ差があるなあ」
「でも、日本にはいいところもたくさんある」
「そう?」
「ご飯が美味しい。水は日本と同じで質がいいから、水道水も飲めるよ」
食が世界に誇れる文化なのは、世界中で日本食がブームだってことで、分かるには分かる。
「サブカルチャーがすごい。アニメ、コミックはスウェーデンと比較にならないし」
日本人が知ってそうなのは、長くつ下のピッピだったかなあ。
「治安がいい」
「ああ、それはあるかも」
スウェーデンも欧米で比較すれば治安はいい。それでも近年移民の増加に伴い、スリや置き引きが多発しているとか。夜中のひとり歩きができないわけじゃないが、日本のように路上で寝る、なんてのはあり得ないそうだ。
「すごいよね。繁華街の路上で寝てるんだよ」
「まあ、あれはねえ。酔っ払ってるだけだし」
「身ぐるみ剥がれるよ」
「そう言うのは聞いたことが無いな」
時々財布を盗まれることはあるだろうけど。概ね治安はいいよなあ。
じゃなくて、中間テスト対策を少し、と思って言ったんだけど。ずいぶん横道にそれたなあ。
「中間テストなんだけど」
「Morgondagen kommer att sköta sig själv」
「えっと、何?」
「明日は明日の風が吹く、だよ」
慌ててやるのは高校入試だけでたくさんだそうだ。
授業を真面目に受けていれば、早々ひどい点数には至らないだろうって。
「あ、Fikaにしよう」
休憩するの好きだよなあ。日本人と違ってあくせくしないんだもん。
部屋を出て行って少しすると、いつも通り「Kaffe」と、それ何?
「hallongrottorとChokladbollarだよ。これも定番のおやつ」
ラズベリージャムのクッキーとチョコボール、だそうだ。
ちなみに「hallon」はラズベリーで「grottor」が洞窟なんだって。
そう言えばIKEAにもあったような。定番の菓子類は結構並んでたし。
「手作り?」
「självklart!」
「あの」
「もちろん! だよ」
何でも作るんだなあ。
暫し、フィーカと称して寛ぐ時間を過ごす。
「そう言えば、アニメとか見るの?」
「見るよ」
「何見てるの?」
「今はS〇Y X FA〇ILYとかKA〇UYA-SA〇Aとか、前はセー〇ーム〇ンとかよく見てた」
海外で定番中の定番と、日本で流行ってる奴か。海外でもウケるんだな。ついでに「DA〇E A LI〇E」もわりと好きなんだそうだ。あれって、海外でもウケがいいのか。典型的なオタアニメだと思ってたのに。
そう言えば美少女戦士のコスプレ、外国人女性がよくやってるんだっけ。日本人より似合ってるのがなんとも。もともと金髪なら違和感ないよなあ。しかも足長いし、体形もスリムだし、アニメから飛び出してきたみたいだし。
エメリは興味あるのかな。
「コスプレって興味ある?」
「好きな人は好き。私は、それほどでも」
俺を見つめてる。別に見たいわけじゃないんだけど。
ただ、似合いそうだから、やってるのかなとか、そう思っただけだし。
「衣装、用意してくれたらしてもいいよ」
「え、マジ?」
「似合うと思ってるでしょ」
「まあ」
とは言え、衣装代なんて出せるわけがない。あれってレンタルとかあるのか?
「用意できたらってことで」
「作れば安上がりだけどね」
そのうち気が向いたら、コスプレしてもいいらしい。作るにしても買うとか、借りるにしても金は掛かるわけで。それが趣味であればともかく、そうでもない状態だから、お金は掛けられないって。まあ当然だよなあ。
休憩終了で中間テスト対策したい、と思ってもエメリにやる気なし。
「言ったよ。明日は明日のって」
「でもさあ、俺の場合切実な問題があって」
「Vad?」
「小遣いの増額の対価」
高校生でもバイトは可能。でもバイトで成績落としたら意味がない。楽なのは成績向上を対価に小遣い増額を迫るもの。
むしろその方が高校生らしい要求だと思う。って言ったら。
「バイトしないの?」
「夏休み中なら」
「じゃあ、それまでは」
「中間テストの成績で」
学生の本文は勉強。だったら、テストで好成績を残すことで、義務は果たしたことになる。
要求を通すなら、相応の対価は必要だし、って言うと。
「真面目なんだね」
「まあ一応」
「私も真面目だよ」
「知ってる」
ことわざの勉強に余念がない。四字熟語にしても同様。言葉を知ると表現できる範囲が広がるし、ことわざや四字熟語は含蓄もある。
だからこそ知りたい欲求が強いんだろう。
「bara lite」
「Mer」
「あ、生意気にSvenskaで返してきた」
「ちょっと、って言うから、もっとって」
なんとか押し通して中間テスト対策をすることになった。
これで成績向上すれば、エメリとのデート代を捻出できる。俺のためでもあるけど、エメリと楽しい時間を過ごしたいから。
言う気は無いけどね。
あ、でもあれか、外国人は言葉にしないと、意思が通じないんだっけ。きっと理解してくれるなんてのは、日本人だけかもしれないし。
「あのさ」
「Vad är kvar?」
「いや、あの、何かって、エメリとね」
デートしたいから頑張るんだ、と説明したら、笑顔が眩しくなった。




