Avsnitt 16 人の好みは千差万別
失礼極まりない女子だけど、そんなの関係無いとばかりに、しっかり腕を組むエメリが居て。寄り添って歩くから少し歩き辛いけど。でも、いいなあ、この感じ。
「日本には馬が合うって言葉があるでしょ」
「あるけど」
「でもねえ」
容姿がいくら優れていても、性格が合わなければ意味が無い。互いに尊重できる関係性でなければ、早晩揉めるだけで不幸になる。
容姿の優れた人と相性が一致するか、と言えばさに非ず、だそうで。
勉強ができる、スポーツが得意だの、文武両道だとしても趣味じゃ無ければ、心は惹かれない。
「でしょ?」
「そうだけど」
女子が俺を見てる。
納得はしないんだろうな。日本の女子の価値観なんて所詮上辺だけ。上手に取り繕ってる奴がモテる。容姿で劣れば眼中に無いんだから。
これでなんで外国人にモテるんだろう。いいとこ無いと思うけど。まあ、幼く見えるって言うか、いつまでも若く見えるのかもしれないけど。
それって、幼児性って言い換えられそうな。
「Folk är folk. Det finns ingen redogörelse för smaker」
なんて言ってるの? と俺を見て聞かれても。
エメリも日本語で話せばいいのに、って思うけど。
「人は人。蓼食う虫も好き好きって、ことわざにあるでしょ」
ちなみに「Det finns ingen redogörelse för smaker」の意味は「人の好みは説明できない」ってことらしい。英語で「蓼食う何某」を言う時に使う言葉らしい。
それをスウェーデン語に訳したとか。
ことわざの勉強、一所懸命やってるもんなあ。覚えて英語やスウェーデン語に無いか、調べたりしてるし。真面目なんだよ。自分を高めることに余念がない。同じ高校生とは思えないな。
ここで長倉先輩がぼそっと呟いた。
「草柳。悪くないと思うけどな」
クラスの女子だけじゃなく、エメリも先輩を見てる。
「キラキラしたものに目を奪われるんだろうけど、両の眼はしっかり見開かないとね」
見えるものも見えなくなるよ、と含蓄のあるお言葉。
さすがに先輩の言葉だと、誰もモノが言えないみたいだ。日本って縦社会だよなあ。
エメリが「見る目ある」だってさ。事の本質を見抜く目は、自らが学ばないと身に付かないと。その点で先輩とは意気投合できそうだって。
「じゃあ、いい友人になれそう?」
「なれると思う」
「なになに? あたしのこと?」
なんか嬉しそうな。エメリにいい友人になれる、と思われて喜んでるんだろう。
一年しか違わないのに、先輩って大人の考え方できるんだな。一部子どもっぽいとこ、あるみたいだけど。
昇降口のある靴箱前で先輩とは分かれる。
「帰りも一緒にね」
「Ja」
価値観が一致すれば仲良くなれるんだろうな。
教室に向かうけど女子がなあ。なんかちょっと距離取ってる。
「いいの?」
「Vad?」
「クラスの女子。引いちゃってる」
「Det kan inte hjälpas」
仕方ないそうだ。
少しの苦言で距離を取る程度なら、初めから仲良くなろうと思わない方がいいと。そんな考え方で外国人と上手くやれるわけが無い。スウェーデン人は争いは好まないが、親しい間柄になると議論を戦わせることも多いそうで。
それで疎遠になるような付き合い方じゃないらしい。
「言いたいことは言う。相手の言い分も聞く。どこに問題があるのか分からない」
ちなみに「det」は「it」で「kan inte」は英語の「can not」と同じで「hjälpas」は「be helped」なのだそう。助けられる、それの否定形。だからどうにもならない、仕方ないとなる、そうだ。文法上は英語と一緒。覚えやすいでしょ、だって。
「手伝ってもらえませんか? も同じになるよ」
スウェーデン語では「Kan du hjälpa mig?」になり英語では「Can you help me?」になる。並びが一緒。「kan」は「can」、「du」は「you」で「hjälpa」は「help」で「mig」は「me」だと。
ついでに「är」は「is」に当たるそうだ。「Det är」で「It is」になると。
「英語と同じ感じなのが多いんだね」
「英語ができればスウェーデン語なんて楽勝だよ」
その逆もしかり。だそうで。
とは言え、スウェーデン語には独自の文法もあるとか。そこはしっかり学んだ方が良いそうだ。元がゲルマン語派に属するからだとか。
「また教えるね」
「Vänligenでいいのかな」
「Enkel uppgift. ja. rätt svar」
お願いします、って言って、お安い御用(直訳で簡単な仕事)だって。で、正解だそうだ。
少しずつでも会話ができるようになってる。まだ短いフレーズしか話せないけど。
昼休みになると、やっぱり女子が集まってくる。
「人の好みにケチ付けたら怒るよね」
「人それぞれだし」
少しは反省したのかな。自分の価値観だけで否定したら、軋轢しか生まないからね。もう少し大人になってくれれば、気にもならなくなるでしょ。俺も言われていい気分じゃないし。言わないけどね、そんなこと。エメリが言ってくれてるから。
食堂に連なって行くと長倉先輩が、ひとり連れてきて「彼女もいいかな?」とか言ってるし。増えてるじゃん。
「二年、江口榛香。よろしくね」
エメリと握手しようとして手を差し出してる。その手を見てるエメリだけど、手を出して握って「Trevligt att träffas」って。
「あれ? 日本語あんまり話せないの?」
「ペラペラ。だけど時々こうなるみたい」
「Jag är bra på japanska. Jag studerar ordspråk」
「あの、意味……」
わざとやってる。エメリは時々ちょっと揶揄うんだよなあ。
意味はなんとなく分かる。でだよ、俺の方を見るエメリが居て、分かってるなら訳してあげたら、って感じなんだよね。
「えっと、日本語得意です、ってのと、ことわざの勉強中、だと思います」
「分かるの?」
「少しは。入学してずっと一緒なんで」
「へえ、なんかすごいね」
すごくない。隣同士で毎日なのに覚えるのに時間掛かりすぎ。
長倉先輩が「家が隣同士なんだって」って言うと「お隣さんなんだ、いいね」だって。
「付き合ってるの?」
出た。もはや定番の質問。
「Ja」
「ヤー?」
「はい、って意味です」
もう完全に肯定してる。いいんだ。俺喜んじゃうよ。なんなら踊っちゃうよ。
それにしても、この先輩もじろじろ見てくるし。なんで女子って、値踏みする感じで見るんだろ。これで見た目が、なんて話だしたら友だちにはなれないんだけど。外見に囚われる人って、好きじゃないみたいだし。
「勉強できそうだね」
「はい?」
「分かります? 海斗は勉強得意なんです」
あれ? そっち? エメリが喜んでるし。
やっぱあれだ、エメリはわざとスウェーデン語で話して、相手を見てるんだな。表情とか見て、質問に対する答え次第で親しくなれるかどうか。
外見で判断したら親しくはなれない。とりあえずクリアしたのかな。
先輩特権ってことで、エメリの両隣に陣取る長倉先輩と、新たに加わった江口先輩。
クラスの女子は対面と先輩の隣。対面ってことは俺の両隣りに座ってるのも居る。
先輩が話の中心になって、エメリに質問攻めだった。
もともと俺の隣に居た男子。別のテーブルに移動してるし。追いやられちゃったんだね。女子って何気に残酷なんだよ。もう少し強引さがあった方が、弾かれずに済むんだろうけど、やっぱね、遠慮するんだよなあ。
そして、冷静に見て思った。
俺の周り全部女子。過去に類を見ない状況。
好意を抱いてるのはエメリだけなんだけど。




