Avsnitt 15 隣人の食卓にお呼ばれ
俺と母さんがお呼ばれすることに。
「今度お礼しないとね」
「和食?」
「あんたがいつも食べてる奴」
納豆、味噌汁、焼き鮭か鯵の干物、ご飯、漬物? 納豆とか臭い大丈夫なのかな。あ、でもあれか、シュールストレミングとか、世界一臭い食べ物あるんだっけ。だったら納豆程度は問題無かったりして。
「朝食べてる奴?」
「夕飯に決まってるでしょ」
「じゃあ、筑前煮とか」
「外国人ってすき焼きとか、てんぷら、寿司とか好きでしょ」
いつも食ってない。
「寿司?」
「それも用意してもいいかもね」
奮発するんだ。エメリの家でどんな食事が出されるか、それも分からない内から。
言いながら、エメリの家に行くと歓迎されてるらしい。日本式のあいさつをする母親が居て、母さんもまた深々とお辞儀してるし。ただ、名乗られても全く理解できないみたい。
「God afton.Välkommen,Tveka inte att äta」
「なんて言ってるの?」
「こんばんは。ようこそ。あとは分からない」
「遠慮しないで食べてって、だよ」
エメリに補足された。俺だとまだ分からない言葉が多過ぎるし。ついでに解説してくれてる。
「Tvekaは躊躇とか遠慮。inteは否定でinte attになって、しないでください。ätaが食べるって意味」
母さんの時は細かく解説するんだ。俺の時は細かい解説無いんだよなあ。
エメリに案内されて食卓に腰掛けると、料理が次々出されてくる。
「予定外だったから、あり合わせのものになってるけど」
「気にしなくていいって」
「これ何?」
「Pitepaltって言う肉団子ですよ」
これ以外にも「Skaldjurssoppa」と言う魚介スープ。「Svamppaj」って言う茸のパイとか「Inlagd sill」とか言うニシンの酢漬けが出てきてた。
ニシンの酢漬けは酸っぱくない。むしろスパイシーな感じ。
「あれ? イケアの定番みたいなミートボール、無いんですね」
「今日は作って無いんですって。その代わりがPitepaltなんです」
「ああ、そう言うことなのね」
母さんはイケアで見たショットブッレを期待したのか。確かに定番中の定番らしいし。
エメリの通訳を介しながら、軽い会話を楽しみ食事が済んだ。
味に関しては、微妙なものもあるけど、概ね食べられなくはない。パイは問題無かったし。
「次はうちで和食をご馳走するから」
「Jag ser fram emot det」
「楽しみにしてるそうです」
「今日はごちそうさまでした」
俺にスウェーデン語でなんて言うの? と言われても。
エメリがすかさず「Tack för matenだよ」だって。
「タック、フェルモーテン」
「Varsågod」
「えっと、意味は?」
「どういたしまして、です」
帰りがけにさっきの「Tack för matenは、直訳すると食べ物をありがとうになるの」だって。物乞いみたいだ。
スウェーデンに限らず外国語に「ごちそうさま」や「いただきます」に該当する言葉は無いんだって。これは海外のどの国にも無い、日本独特のものだそうで。
だからか、エメリはすごく関心があるらしい。
キリスト教は神様に感謝だもんなあ。
「tackがありがとう、で、matenが食べ物」
エメリから少し解説がある。
タックやタッキに関しては、語尾の発音が変わるから、少しだけ注意が必要だとか。
Tack,tackってなった場合はタック、タッキだそうで。後ろに何も付かない場合に、タッキ。後ろに言葉が続く場合はタックだそうな。
「Tack så mycketで、どうもありがとう、だから」
ありがとうには、感謝の度合いに応じた言葉があるとか。
「Tusen tackは感激した場合のありがとう、って感じで」
Tusenは千、っていう意味があるそうで。千のありがとう、ってことらしい。だから感謝感激雨霰の際に使うとか。砕けた表現がタックタッキ。サンキューとかサンクスがタッキになるそうだ。
それにしても、今になって感謝の言葉って。普通は最初に教えてくれそうだけど。
なんて思ってたら、言う機会に合わせて教えるそうだ。
「俺がありがとうって言わないから」
「それもあるね」
「ごめん。感謝の言葉が足りて無かった」
「いいよ。気にしてないし、私も言って無かったし」
もうひとつ、ついでに教えてくれるらしい。
「Nja」
「にゃー?」
「Nejほどに強くないニュアンスでNja」
ネイだときっちり断ってる感じになる。なんとなく要らないって意味の「いい」や「微妙」って感じだとか。日本語はあいまい表現が得意でしょ、だってさ。スウェーデンにもあいまいな表現で「にゃー」があるそうだ。
日本に来て思ったのは「Nja」が猫の鳴き声。向こうではおっさんも「ニャー」と言う。考えたらなんか笑えてきたそうだ。
あ、そうだ。
「いつもありがとう、は?」
「Tack för allt」
「タック、フェル、アールツ?」
なんか笑ってるし。真面目に言ったつもりなんだけど。でも「どういたしまして」って。
玄関先で見送られ自宅へ戻る俺と母さんだ。と言っても隣だけどね。
エメリが「Hej då,Vi ses」って言ってる。すぐに「Bye bye、またね。って使うんだよ」だそうだ。
活用法も少しずつ教えてくれてる。
母さんも勉強になるね、だって。
翌日、玄関を出ると門の前にエメリが居るし。
「Hej Hej」
「ヘイ」
日本語で「へいへい」なんて言うと、不貞腐れた感じになるね、だってさ。
スウェーデンではあいさつなのにと。
そして、やっぱり腕を回して来て、密着度合いが少々高い。ちょっと見上げる感じなのが。俺の身長、もう少し伸びてくれ、マジで。
電車に乗ると、まさかの吹奏楽部の先輩居るし。
「あ、おはよ」
「Hej」
「おはようございます」
帰りの車両を覚えていて、ここに居れば一緒になるかなとか。先輩、そこまでエメリと親密になりたいんだ。外国人に対する憧れが強いのかなあ。
でも、身長差すごいんだよね。俺も低いけど輪をかけて低いから。
見上げながら「部活も一緒だったら良かったのに」だって。
「楽器もやってみたいと思うんですけど、今は絵画に集中したいので」
「無理に誘ったりしないから。代わりに朝はこうして一緒ってことで」
帰りも可能ならとか、休みに一緒に遊びに行こうとか。
「それにしても、草柳君とエメリさんって仲いいんだね。付き合ってるの?」
「Ja」
「えっと」
「肯定」
あの、エメリさん。マジで肯定していいの? 俺、飛び上がるほど喜んじゃうよ。
「Nja」
「え?」
「微妙」
「猫の鳴きまねかと思った」
さっそく目の前で使ってくれてるし。さっきの「はい」はどうなったのさ。なんか、希望持たされて少し落とされた感じ。
でも、エメリの表情。にこにこしてるし。以前と違って「Nej」じゃないのは確かなんだろう。
学校最寄り駅に着くと下車して、改札を抜けた瞬間、エメリの腕が俺の腕に絡んできた。
それを見た先輩の表情がね、やっぱそう言う関係なんだ、ってのがよく分かる感じで。
「草柳君、キスした?」
「inte än」
「あ、の、まだ、です」
俺とエメリを見て「外国人って積極的だと思ったけど」とか言ってる。あいにくスウェーデン人は日本人と一緒でシャイなんだよね。
少し歩いてると、クラスの女子も取り囲んでくるけど、俺とエメリの腕が絡んでるのを見るとね。
「残念」
「美人なのに」
「安売りしすぎ」
つくづく失礼な日本人。評価の基準が見てくれだけ。見た目じゃないって言っても、価値観はそう簡単には変化しないんだよね。
美人はイケメンと付き合う、ってわけじゃないと思うんだけど。
固定観念って奴か。




