第255話 ルディアのクリームシチュー試作&試食 その背後に居るのは……
「……で、結局なんだけどさ、今日の晩メシに出たアレ、何だったんだい? 食った感じ、シチューの一種なのは解るんだけど…?」
パティさん一家を見送り、全員でお風呂に入っているとミラーナさんが聞いてくる。
ミリアさん、モーリィさん、アリアさん、ライザさん、ルディアさんも、質問と同時に視線を私に向ける。
特にルディアさんは真剣過ぎる程に真剣だ。
これ、絶対にレシピを聞いて、ギルドのメニューに加えようと思ってるな?
「まぁ、シチューと言えばシチューです。普通のシチューに比べると、作り方は多少違いますけどね。例えば『ビーフシチュー』だと、赤ワインやトマトをベースに牛肉、ジャガイモ、ニンジン、セロリ、タマネギなんかを、香味野菜を加えて煮込みます。クリームシチューの場合、鶏肉、豚肉等とジャガイモ、タマネギ、ニンジンなどの野菜を煮込み、ホワイトソースを加え、牛乳やスープで|延《の
》ばして仕上げるんですよ」
「「「「「ホワイトソース?」」」」」
私の説明に、全員が首を傾げる。
あ…… 確か『ホワイトソース』って言うか、クリームシチュー自体が日本独自の料理だっけ……
「ホワイトソースはバターと小麦粉を炒めながら牛乳で延ばしたソースなんで、作り方自体は難しくありません。なんなら明日にでも教え──」
「明日ギルドで提供したいから、今すぐ教えて!」
言うが早いか、ルディアさんは私を浴槽から引き揚げ、キッチンへと引き摺っていく。
せめて服を着させろぉおおおおっ!
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「うん…… これなら…… 何の問題もなく…… ギルドで提供…… 出来ますね…… ぶげふぅ……」
「エリカちゃん…… そのゲップ、ちょっと下品よ…? 見た目が子供だとは言え、まるでオッサンみたい……」
「一晩中…… ルディアさんの作るクリームシチューを…… 試食しまくったんですよ…? 何皿食べたと思っ…… てるんですか…? ぐぇえええっぷ!」
私がお腹を擦りながら文句を言うと、ルディアさんは……
「えぇと…… 10皿ぐらい…?」
と、山積みになった皿を見ない様にして言う。
「ンなワケないでしょうがっ! パッと見た感じでも、30皿は超えてま…… げふぅうううっ!」
そんな会話をしていると、ライト・アーマーを身に付けたミラーナさん、ミリアさん、モーリィさん、ライザさんがダイニングに入ってくる。
ちなみにアリアさんは、魔法医らしく白衣を着て(と言っても、私の拘りだが……)入ってくる。
「何なんだよ、この皿の数は…? まさかと思うけど、エリカちゃん一晩中ルディアさんの作ったクリームシチューを食べてたのか?」
「そのまさかですよ…… げぇっふぅっ…… まぁ、不味くはなかったのが救いですけど…… うぇっぷ…… さすがに30皿以上…… 40皿近く試食する事になるとは思いませ…… ぐぇえええっぷぅ……」
私の状態を見て、ミラーナさん、ミリアさん、モーリィさん、ライザさん、アリアさんは……
「「「「「さすがにやり過ぎ……」」」」」
と、非難のジト目をルディアさんに向けていたのだった。
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ルディアさんに向けられた非難のジト目とは別に、ギルドの食堂で提供されたクリームシチューは大好評。
最初こそ物珍しさで数人が注文するだけだったのだが、味の良さと珍しさと肉の量や野菜とのバランスの良さが評判になり、注文が殺到。
ギルドの食堂の看板メニューの一つになったのだった。
「いやぁ~♪ このクリームシチューの濃厚さ、病み付きになるよなぁ♪」
「そうそう♪ ビーフシチューとか普通のシチューも旨いけど、何日かに一度は食いたくなるんだよなぁ♪」
「ボア・ステーキとの組み合わせも最高だぜ? くどいボア・ステーキと、濃厚だけどアッサリしたホワイトソースのクリームシチューとの相性がバツグンなんだよなぁ♪」
等々……
ギルドで作っているのはルディアさんだが、教えた(そして散々試食した)のは私なので、悪い気はしない。
むしろ嬉しいのが本音だな♪
「でも、考えてみると私の作る料理って、結局はエリカちゃんの監修が入ってるのよねぇ…… それも全部……」
言われてみれば確かに……
ルディアさんが故郷で作ってた魚料理も、塩分が多過ぎるって事で私が調整したんだっけか。
中華料理や和食は私が最初から教えたし。
洋食は…… 普通にこの世界に在ったけど、やっぱりルディアさんの味付けが塩分過多だったから私が調整したっけな……
「なら、今日からでもルディアさん自身が考えてみたらどうですか? 料理って、アイデア次第で新しく開発出来ると思いますよ?」
「……そうかもね…… じゃ、すぐには無理かも知れないけど、あれこれ考えながら試作してみるわね♪」
ルディアさんはニコニコ笑顔で答え、その日の夜から何やらノートに書き込み始めたのだった。
十数日後、診療所のメンバーが悲惨な状態になるとは、この時の私は予想もしなかったのであった。
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「ルディアさぁ~ん…… ちょっと勘弁してよぉ~…… いくらボクが大食漢でも、さすがにこれ以上は…… うぐぇえっぷっ!」
言ってトイレに駆け込むライザさん。
ちなみにだが、ミラーナさん、ミリアさん、モーリィさんの3名は早くにギブアップし、さっさと風呂を済ませて部屋で寝ている。
もっとも、3人共に胃の苦しさ(食い過ぎ、と言うか食わされ過ぎ)に耐え切れず、食べた半分以上はトイレで戻してたみたいだけどな……
ちなみに私とアリアさんは、翌日の仕事の関係もあるので早々に退散。
ゆっくりお風呂に入り、充分に疲れを取ってからベッドで熟睡しました♪
なお、ライザさんはその後もルディアさんの新メニュー候補の料理を食べさせられ続け、明け方になってから解放されたそうな……
ドラゴンとしての胃の大きさが災いしたねぇ……
てか、最初から診療所の外に出て、ドラゴン形態で食えば良かっただろうが。
「それ、試食会が始まる前に言って欲しかったな……」
「言っても良かったんですけど、診療所の前でドラゴン姿のライザさんがルディアさんの運んできた食事を食べてたら、それを見た人はどう思いますかねぇ?」
ライザさんは少し考え……
「えぇと…… もしかしてだけど、ボクにエサを運ぶ飼育員って思うとか…?」
「ピンポ~ン♪ てか、ほぼ確実にそう思うでしょうねぇ♪」
ライザさんの出した回答に、私は満面の笑みで応える。
「笑いながら言わないでよっ! てか、そう思われない様にしたかったら、結局ルディアさんの作った料理を普通に食べなきゃいけなかったって事で……」
「そ~ゆ~事です。〝餌付けされてるドラゴンってイメージ〟を我慢するか、今みたいに人間形態で〝苦しいのを我慢して食べるか〟のどちらかしか選択肢は無かったって事ですね♪」
「爽やかに言わないでよぉっ! いくらボクが大食漢でも、限界ってのがあるんだからねっ!」
と、私に文句を言うライザさんだったが……
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翌朝……
「ライザちゃ~ん♪ 次のクリームシチューを作ってみたんで、試食お願いね~♪ あ、エリカちゃんとアリアちゃんは診療所のお仕事があるから一杯だけ。もし食べられるなら、二杯お願いね♪ ミラーナさん、ミリアさん、モーリィさんは、二杯は最低限ね♪ 体力勝負の仕事なんだから、しっかり食べないとダメでしょ?」
思ったより少なめ…… と言うか、普通の食事量に安心する私達。
だが……
「あ、ライザちゃんはドラゴンなんだから、限界まで食べて感想を聞かせてね? 先に言っとくけど、適当な感想はダメよ? ギルドで提供するメニューに加えるんだから、しっかりした感想を聞かないと…… ですよねぇ?」
言ってルディアさんが振り向いた先には、何故かギルドの食堂を切り盛りしているオバちゃんが腕組みし、不適な笑みを浮かべていたのだった。
こ…… 怖ぇえええええっ!




