第253話 王都での説明
朝になり、しっかり朝食を摂った私はライザさんを急かし、王都へと向かう事にした。
ライザさんが背中に背負った『小型ハウス:特別仕様の1人乗り』に乗り込み、ヘルメットを被ってHANS(ショルダー・サポート込み)を装着。
6点式シートベルトを締めて身体を固定して合図を送ると、ライザさんはフワリと浮かび上がる。
「じゃ、まずは上空10000mまで上昇するよ? エリカちゃん、防寒魔法と気圧シールド展開してね♪」
ライザさんが言うと、私は防寒魔法と気圧シールドでライザさんを覆う。
「じゃ、行っくよ~♪」
言ってライザさんは、一気に10000m上空まで上昇。
「んぎゅにゅぉおおおおおっ!!!!」
私は垂直方向からの強烈な縦Gを食らい、意識が遠退く。
が、失神寸前に高度10000mに達した様で、私は辛うじて意識を保った。
のだが……
「じゃ、王都に向かって全速力、行っくよ~♪」
ビュゴッ!
言ってライザさんは、マジで全速力飛行を開始。
「ぎゅにゅわをぉおおおおおぅっ!」
私は一気にシートに押し付けられ、全身の骨がミシミシと音を立てる。
更に十数秒後、ドォンッ! と大きな音と共に衝撃が全身を襲う。
こ…… こいつ……
音速を超えやがったな……
「フンフンフ~~~ン♪」
ライザさんは鼻歌(?)を歌いながら気軽に飛んでるが、防寒魔法と気圧シールドを展開しただけの私は強烈な加速Gと音速を超えた際の衝撃をマトモに食らい、意識は朦朧……
更に王都に到着した時の急減速で全身にダメージを食らい、王宮に到着した直後に救護室に運ばれて蘇生魔法を掛けられたのだった。
何でそんな大袈裟の事になってるかって?
考えてみて欲しい。
例えばだが、F1でアクセル全開の高速コーナーでコントロールを失い、コースアウト。
タイヤ・バリアに突っ込んだしたとしよう。
高速コーナーって事は、時速250㎞~300㎞で駆け抜ける場合もあるだろう?
実際、ライザさんは音速を超えていたワケだし。
その状態から一気に移動速度0になるんだぞ?
身体が6点式シートベルトで固定されてようが、ヘルメットとHANS(ショルダー・サポート込み)で頭部を保護&衝撃で首が伸びて脛椎を損傷する事を防いでいようが、脳はダメージを受けるんだぞ!?
考えてみて欲しい。
人間の脳が、どんな状態で頭蓋骨の中に収まっているのかを。
人間の脳は頭蓋骨の中に収まっているが、固定されているワケではない。
殆ど頭蓋骨に密着している様に見えるが、実は頭蓋骨と脳の間には髄液と言う液体が在る。
言ってみれば、『頭蓋骨内に満たされた髄液の中に脳が浮いている』状態なのだ。
そして、脳本体は豆腐の様に柔らかい。
まぁ、髄液で満たされた頭蓋骨内で浮いている云々はともかく、豆腐の様に柔らかい脳が、音速を超える高速から一気に停止状態になれば……
当然、進行方向へのGをマトモに食らい、脳は進行方向に向けてひしゃげる様に潰れる。
勿論、脳が潰れるかどうかは状況次第。
当然ながら、低速からの急停止や(超)高速からでも徐々に減速した場合、脳がダメージを受ける事は無い(勿論、限度はあるが……)。
ライザさんはドラゴン形態だったし、高速で飛行出来るドラゴン特有の『急加速・急停止に対応する特殊な』身体構造なんだろう。
知らんけど……
ともかく私は王宮の救護室に運ばれて蘇生魔法を掛けられた後、ライザさんをハリセンでシバき倒してから国王陛下、王妃陛下──大勢の貴族や大臣達を含む──に謁見したのだった。
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謁見の間では、新聞を読んだ貴族達や大臣達が慌てふためき、『チュリジナム皇国が復活するのか?』だの『また大国との戦なのか?』だのと騒いでいた。
そんな中、私はロザミアでミラーナさん達と話し合った内容を国王陛下に伝えた。
「……と言うワケですので、今すぐ元・チュリジナム皇国に対し、何らかの軍事的行動を起こす必要は無いと愚考します。ですのでイルモア王国行動を起こすのは、ある程度元・チュリジナム皇国の状況を見てからても遅くないと思います」
私の進言に国王陛下は少し考える。
その横には、今年10歳になったフェルナンド様も控えており、陛下と同じ様に考えている。
そして、陛下より早く私に聞いてきた。
「エリカお姉ちゃ…… いや、エリカ殿。何故、軍事行動を起こす必要が無いと思われるのですか? 私の知識では理解が追い付きません」
フェルナンド様の言葉に陛下は頷き、私に説明を求める。
それにしてもフェルナンド様、しっかりしてきたなぁ……
私の事を〝お姉ちゃん〟って言い掛けたけど、しっかり〝エリカ殿〟って言い直してたし……
成長してるなぁ……♪
「エリカ殿、フェルナンドに説明してやって貰えるかな? まぁ、余は何となくではあるが、理解しているのだがな。余が説明するより、エリカ殿が説明した方がフェルナンドは納得するだろう」
あぁ、陛下は理解してるんだな。
……にしても、フェルナンド様への説明が、私の方が適してるって…?
「フェルナンドも、エリカ殿が不老不死である事は理解している。そして、それが故にフェルナンド…… だけではなく、誰とも婚姻を結ぶ事が無いと言う事もな」
私は無言で頷く。
「しかし、だ…… 婚姻を結ばずとも、人が人に惚れるのは誰にも止める権利は無い。違うかな? まぁ、権力を持って無理矢理婚姻を結ぶなど論外だし、余が許さんがな」
まぁ、陛下の言いたい事は解る。
なので私は黙って頷き、フェルナンド様に説明を始める。
「まず、いくつかの極小国が手を組み、周囲の極小国を攻める動きを見せています…… が、攻められるであろう極小国が、手を拱いて見ているだけと思われますか?」
フェルナンド様は首を振り、「普通に考えて、何もせずに攻められるだけとは考えられませんね」と言う。
私は大きく頷き、続きを話す。
「フェルナンド殿下の仰る通り、攻められた側は当然ながら抵抗します。そして、周辺国と連携するでしょう。仮に手を組んだ極小国数ヶ国を『小国A』と仮称します。その『小国A』が極小国に攻め込んだとしても、1日や2日で滅ぼす事は不可能でしょう。滅ぼされる前に、攻め込まれた極小国は周囲の極小国に助けを求めるでしょうし、次に攻め込まれるのは自分達の国かも知れないと思えば、協力するのは必然と思います。まぁ、飽くまでも私の想像の域を出ませんが……」
そこまで聞いたフェルナンド様が口を挟む。
「なら、その『小国A』が極小国を併呑していき、嘗ての〝チュリジナム皇国〟並の国を興す可能性も……!」
私は肩を竦め首を振る。
「残念と言うか何と言うか…… その可能性は無いと言えますね。少なくとも十数年から数十年は」
ポカンとするフェルナンド様に、私は続けて話す。
「仮に『小国A』が、極小国の1つを攻め滅ぼし、自国に併呑したとしましょう。その場合、他の極小国は何もしないで傍観してると思いますか?」
「あっ……」
解った様だな。
「当然『小国A』に対して何らかの防衛措置は講じるでしょう。極小国同士が手を組み、それこそ『小国A』より大きな国に成る可能性も否定出来ませんし、小さくとも『小国A』が簡単に勝てる国かどうかは判りません。更に言えば、そんな国が元・チュリジナム皇国のあちこちに興った場合、国土の広さから考えても短期間で収まる様な問題ではないと愚考致します」
私が説明を終えると、フェルナンド様は少し考えてから話し始める。
「仮に『小国A』が周辺の極小国を攻めれば、瞬く間に元・チュリジナム皇国内に知れ渡りますね。そうなれば、他にも同じ様に手を組む極小国が現れても不思議ではありません。そうなれば、次々と小国が形成され、元・チュリジナム皇国内は内戦が勃発…… と言う事ですね」
私は頷き、陛下が口髭を弄りながら後を続ける。
「そう言う事だな。内戦が収まり、国内が安定するまでは外に目を向ける余裕など無いだろう。それに、内戦が終わって大国が形成されたとしても、別の争いが起こる可能性も否定出来んがな」
「別の争い…?」
フェルナンド様の疑問に、陛下は私に視線を向ける。
私に説明させるんかい……
仕方無く私は話し始める。
「……一つの極小国が事を起こし、元・チュリジナム皇国全土を統一すれば起こり得ない問題です。が、どの極小国も似たり寄ったりの規模だと聞いています。ならば、数ヶ国が手を組んで事を起こすのは当然と言えましょう。そして手を組んだ数ヶ国が国を統一した後ですが…… 仮に三つの極小国が手を組んで国を統一したとして…… 統一した国を、どの国の王が大国の王として君臨するんでしょうねぇ?」
フェルナンド様はハッとして陛下を見る。
陛下は『当然だろう』と言った表情でフェルナンド様に笑みを向ける。
「エリカ殿の言う通り、そこから新たな覇権争いが始まるだろうな。そこから一つの国に纏まるのか、いくつかの国に分かれるのかは判らんが、十数年から数十年は国内が荒れるだろうな。ハッハッハッ♪」
笑う陛下は放っといて、私は話を続ける。
「まぁ、一つに纏まろうが複数の国に分かれようが、その頃には国全体が疲弊し切ってる事でしょう。そこから国を立て直し、他国に攻め込める様になるまでには百年単位の年月が必要かと…… 仮に数ヶ国に分かれていれば、更に年月が掛かるでしょうね。なので今、我々が慌てる必要は皆無と言っても過言ではないでしょう。まぁ、万が一に備え、カルボネラ王国、ベルルーシ王国、ブルトニア王国の三ヶ国と、元・ハングリル王国との国境に設置している弩砲や投石機のメンテナンスは定期的に行う事と、国境の警備を緩めない必要はありますが……」
国王陛下とフェルナンド様は納得し、謁見の間に集まっていた貴族達や大臣達に指示を飛ばす。
そして私は、救護室の床に頭部をめり込ませたままだったライザさんを叩き起こし、ロザミアに帰還(普通の速度で)したのだった。




