第250話 魔法医達に渡す参考書が完成♪ だけど……
「そんなに難しい問題でしたかねぇ…?」
試験に出した問題の書かれた用紙を見ながら呟く私に、アリアさんは何ヶ所かの問題を指差し言う。
「例えばですけど、この問題なんて普通の魔法医には難解なんじゃありませんか? 〝胃腸炎の原因となるウイルスを全て示せ〟ですけど、世界的に見て小児の発症例の殆どがロタウイルスに因るものであるって答えは何人か書かれてました。でも、成人ではノロウイルスおよびカンピロバクターに起因するものが最も多いって事ですけど… 間違い無くと言うか多分ですけど、どの魔法医も〝ノロウイルス〟とか〝カンピロバクター〟なんて聞いた事もないんじゃありませんか? 事実、私もエリカさんに教わるまで知りませんでしたから……」
アリアさんの指摘を受け、講義を受けに来ている魔法医達に〝ノロウイルス〟とか〝カンピロバクター〟の事を聞いてみたのだが……
アリアさんが言った通り、誰も〝ノロウイルス〟とか〝カンピロバクター〟は勿論、そもそもウイルスの存在自体を知らない魔法医が半数を超えていた事が判明したのだった。
テメー等、よくそれで医師を名乗ってたな……
いや、前世の医学がこの世界より遥かに進んでたって事か……
私はライザさんに頼み、その日の内に王都からカメラを購入。
翌日、そのカメラを持って、プリシラさんの工房を訪れた。
私はカメラをプリシラさんに渡し、説明する。
「以前、作って貰った顕微鏡…… アレにカメラを組み込んで欲しいんです。つまり、顕微鏡でしか見れないモノを写真として残したいんですよね。例えばですけど、私が魔法医の為の学術書? …的なモノを書こうと思ってるんですけど、顕微鏡写真… とでも言えば良いんですかね? それを使った学術書で魔法医達が勉強すれば、顕微鏡の受注も増えるで──」
「ウチに任せんさい! そりゃ~顕微鏡にカメラを組み込むんはいたしいけぇ、すぐには出来んと思うんじゃが… たちまちカメラの研究もしたいけぇ、1ヶ月ぐらい待っとってくれんね?」
プリシラさんはカメラを受け取り、まじまじと見ながら言う。
するとサミュエルさんが…
「師匠! ワシにも手伝わせてつかぁさい! ワシも、このカメラとやらに興味が──」
すぱぁあああああんっ!!!!
言った直後、プリシラさんのハリセン・チョップがサミュエルさんの顔面に炸裂。
「おどれはなんもせんでえ~けぇいらうなっ! エリカちゃんに納品する品物は、最初から最後までウチがこさえる! おどれにこさえさせるんは、ウチとエリカちゃんが満足するモンが出来てからじゃっ! それも、ウチが監督しながらじゃけぇの! ちぃとでも手抜きしてみい! そん時ゃあこんハリセンじゃなぁて、こっちの特大ハンマーでおどれのどたまを──」
「そんな物騒なモンで、頭を殴ったら死ぬでしょうがぁっ!」
ずどぱぁあああああんっ!!!!
ずどべちょぉおおおおおおっ!!!!
私のフルスイング・ハリセン・チョップを顔面に食らったプリシラさんは、何回か縦回転しながら工房の壁にめり込んだのだった。
勿論、私は依頼料として金貨10枚を支払い、プリシラさんのダメージ(&壁にめり込んだ際の怪我… と言っても、擦り傷程度だったけど…)を治しておきました。
頑丈だな、おい……
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「それにしてもエリカ殿。このういるすとやらは、なかなかに厄介ですな…」
「確かに… 肉眼で見えないのは仕方無いとしても、血液検査だの鼻や口腔内の粘膜を採取して顕微鏡で検査しないと、何のういるすに感染してるのか判らないと言うのは…」
顕微鏡を代わる代わる覗き込み、感想を述べ合う魔法医達。
そこで私はカバンから1冊の本を取り出し、皆の前に置く。
「エリカ殿、これは…?」
魔法医の1人が本を手に取り聞いてくる。
「私が書いた、ウイルスに関する学術書です。これはサンプルですけど、現在ロザミアの印刷所で同じ物を増刷中です。中を見て貰えば解りますが、様々なウイルスの写真と、そのウイルスが引き起こす病気や症状と治療法について詳しく記した参考書ですね。これを読んで勉強すれば、何のウイルスに感染してるか、どうすれば治せるかが解る様になります♪ 1~2週間もすれば、皆さんに配れると思いますよ?」
私が説明すると、魔法医達の表情がパァッと明るくなる。
「そ… それではこの本を頂ければ、エリカ殿の講義や試験を受けなくても──」
がごんっ!
私の鉄拳制裁でダウンする、アホな質問をしてきた魔法医。
「そんなワケ無いでしょうが! 本を読んでも、内容を理解して正しい知識を身に付ける為の講義は必要だし、それを確認する為の試験は必要に決まってるでしょうがっ!」
私がブン殴った魔法医は、全身をピクピク痙攣させながら白眼を剥いていたのだった。
強く殴り過ぎたか……?
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「フムフム… この写真と説明内容なら、私の講義を受けに来ている魔法医達に渡して実際の治療に活かせますね♪ 勿論、試験に合格すればの話ですが……」
私は印刷所を訪れ、刷り上がった参考書を見ながら笑顔で話す。
満足気な私を見て、印刷所の所長さんは安心したかの様に話す。
「いやぁ~、この写真の精度が素晴らしかったですからなぁ♪ それにプリシラ殿が協力してくれたお陰で、より細かい写真の再現が可能になりましたからなぁ♪ エリカ殿のお役に立てて、我々も肩の荷が下りましたぞ♪」
全身から力を抜き、今にも倒れそうな所長を従業員が支える。
私、そんなにプレッシャーを掛けてたのか…?
「いやまぁ…… 所長は『下手な物は作れないぞ… エリカ殿が不満に思う本を作ったりなんかしたら、殺されるかも知れんからな…』って、ビクビクしながら印刷機を回して──」
「殺すかぁっ!」
すぱぁあああああんっ!!!!
べちょぉおおおおおおっ!!!!
私は所長をハリセンでブッ叩き、印刷所の床にめり込ませたのだった。
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それから10日が過ぎ、ようやく出来上がった参考書がホプキンス総合診療所に届けられた。
待ってましたとばかりに集まる魔法医達。
と同時に診療所のメンバー達も集まり、各々手に取って読み始める。
しかし、連日の講義で少しずつ知識レベルが上がってきている魔法医達や、私が鍛え上げた(?)アリアさんは興味津々で参考書を読んでいたのだが……
「いろいろ詳しく写真付きで説明されてるのは良いんだけど…」
「やっぱり医学知識の無い私達には難し過ぎるわねぇ…」
「何がなんだかサッパリだよねぇ… ライザちゃん、解る…?」
「ボクも何がなんだか… ルディアさんはどう?」
「私もダメね… だって、ウイルスの写真自体、見たのが初めてなんだもの… 基本的な事すら知らないんだから、説明文だって意味不明なのよね…」
ミラーナさん、ミリアさん、モーリィさん、ライザさん、ルディアさんが、それぞれ感想(?)を述べる。
まぁ、予想通りだな。
医学知識の無い人が医学書を読んでも、殆ど理解出来ないのと同じ事だ。
しかも、ウイルスに関する参考書だからな。
全く解らなくても仕方無いと言える。
そんな中、1人の魔法医が質問してくる。
「エリカ殿… この〝破傷風菌〟ですが、私は初めて知りました。これが身体に入ると、どのような──」
「破傷風の説明は講義の初日にしただろうがぁっ!」
すぱぁあああああんっ!!!!
「んぎゃぁあああああっ!」
めきぐしゃぁあああああっ!
私のフルスイング・ハリセンで吹っ飛んだ魔法医(確か25歳の若いヤツで、ネルソン・ブランデルって名前だったか?)はリビングの壁にめり込み、ピクピク痙攣していたのだった。
あぁ…… また修理費が掛かるぅうううううっ……




