第249話 伝染病(感染症)の講師になるには……
私の顔と名前、職業と所在地が王都で刊行されている〝新聞〟にデカデカと掲載され、ロザミアで朝刊として販売された日の夕方。
てか、情報伝達速度が前世と比べて遥かに遅い異世界には夕刊が無いのは勿論、情報自体が集まらなかった日は朝刊すら無い事も珍しくなかったりする。
なので、新聞を定期購入する契約を結んでいるのは、余程金を持て余している金持ちの商家とか、毎日とか即日ではなくとも世の中の情報を早く手に入れたい王族や貴族・大臣クラスだろう。
他に必要としてるのはギルドとか、商業・工業・食堂の組合かな?
ちなみに今回ミラーナさんが新聞を購入して診療所に持ち込んだのは偶然らしい。
なんでも良い依頼を求めてギルドに入った時、偶々目に入った新聞に私の名前が載っているのに驚愕。
大急ぎで新聞の発売所を兼ねている〝定期馬車発着所〟へと赴き、買ってきたらしい。
まぁ、そんな事はどうでも良い。
王都で発行され、ロザミアまで届いているんだから、発行元に発行差し止めを求めたとしても時既に遅し。
イルモア王国の南端近くのロザミアに出回ってる以上、既に全国的に私の顔と名前が広まってると思うべきだろう。
私に出来る事は、ライザさんに手紙を託し、王宮に届けて貰う事だけだ。
その手紙に、私はこう書いた。
『私がロザミアで王都の魔法医達、地方の魔法医達に伝染病(感染症)に対する為の講義及び魔力量を増やす為の鍛練を課している事が公にされている事は、新聞を読んで初めて知りました。それはともかくとして、その新聞を読んで多くの魔法医達がロザミアに押し寄せるのは非常に困ります。仮にそんな事が起こった場合、王都は勿論、他の街等で今回ヴィランで起こった様な伝染病(感染症)が流行したとしても、何の対処も出来なくなる可能性が極めて高くなる事をご了承下さい。
追伸:速報として各地(王都含む)の魔法医達に対し、ロザミア:ホプキンス総合診療所に許可無く来る事を厳禁して下さい』
ミラーナさんは、その手紙を見ると…
「これ… 半分以上脅迫じゃないか…? まぁ、エリカちゃんの考えは解るよ? 魔法医達がロザミアに大挙して押し寄せて、エリカちゃんに教えを乞う… なんて事になったら、日々の医療業務にも支障が出るだろうし、その上で講義だの魔力量を増やす為の鍛練に付き合うだのしてたら、とても他の街(ヴィランを含む)の事なんて考えてられないだろうしなぁ… てなワケだからライザちゃん、頼んだ」
ミラーナさんに言われたライザさんは事の重大さを悟ったのか、手紙を持ってヴィランへ全速力でブッ飛んで行った。
なんかライザさんが視界から消える前に『ドォンッ!』って音が聞こえたけど…
あれ、間違い無く音速超えたよね…?
急ぐのは良いけど、ヴィランを通り越すなよ…?
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なんとかヴィランを通り過ぎる事なく、上手く王宮の中庭に着地したライザ。
例の如く、警備兵に取り囲まれるが…
人間形態に戻ると、その姿を何度も見て覚えていた警備隊長が歩み出る。
「ライザ殿、直接王宮に来られるのはご遠慮下さいませんか…? せめてヴィラン外門に勤めている警備兵に来訪を伝え、許可を得てから王宮にお越し頂きたいのですが…」
警備隊長が困った顔で伝えると、ライザは苦笑しながら頷く。
「ゴメンねぇ~、次からは気を付けるよ。でも、今回はエリカちゃんからの急ぎの連絡みたいでさ… この手紙、大急ぎで王様に渡して貰えないかな? ちなみにボク、他に用事は聞かされてないから、このままロザミアに──」
「ライザちゃぁ~~~ん♡ 来て下さったんですのねぇ~~~♪ エリカちゃんが一緒じゃないのは残念ですけど、お風呂と食事はご一緒にぃ~~~♡」
言うが早いか、ロザンヌがライザにタックルをブチかます(勿論、エリカに比べて体幹が遥かに優れているライザは微動だにしない)。
が……
「確保ぉおおおおおっ!!!!」
マリアンヌの放った投網(材質:ミスリルを編み上げた特注品)に絡め取られたライザ(&ロザンヌ)は、全く身動き出来ないまま、王宮の風呂場へと引き摺られて行ったのだった。
もっとも、ロザンヌはライザに抱き付き満足気だったのだが…
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ライザはマリアンヌとロザンヌから全身を満足するまで洗いまくられ、疲労困憊で食事の席に着いていた。
その様子を見たアインベルグは、申し訳無さそうに話し掛ける。
「ライザ殿… エリカ殿の使い、痛み入る。貴殿の心的疲労を少しでも緩和する事が出来ればと、マリアンヌとロザンヌは同席させなかった。ここで貴殿と食事を共にするのは私だけだ。気を安らかにし、食事を楽しんで欲しい」
アインベルグの言う通り、広い食堂の中で食事の席に着いているのはアインベルグとライザの2人だけ。
ちなみにマリアンヌとロザンヌは、それぞれの自室でベッドにロープ(材質:細い鉄を編み上げた物=ワイヤー)で固定されていた。
その事を聞いたライザは心の底から安心して食事を楽しみ、エリカから託された手紙の内容について話し合った。
勿論、その内容はライザが理解出来る範疇を大きく超えていた(幼稚園児に相対性理論を説明する様なモノ)が、事前にエリカが用意しておいたメモ(予想される国王の質問と、それに対する答え)を読み上げる事で、事無きを得ていた。
そうして食事を兼ねた会談(?)は恙無く終わり、ライザは逃げる様にヴィランから去ったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ご苦労様でしたねぇ… まぁ、これであちこちの街から魔法医達が大挙して押し寄せる事もないでしょうし、一応は安心ってトコですかね?」
私はライザさんを労って言う。
するとミリアさんが…
「だとは思うけど、エリカちゃんの負担を考えるなら、講義を受けた魔法医達に〝講師としての資格〟を与えた方が良いんじゃないかしら? 今の状態だと、イルモア王国中の魔法医達に講義を終えるまで、エリカちゃんの元に入れ替わり立ち替わり魔法医達が講義を受けに来る事に変わりないと思うわよ…?」
と、心配そうに話す。
うっ……
それは確かに……
しかし……
「ミリアさんの言う通りですよねぇ… だけど、その〝講師としての資格〟を与えるには、エリカさんの出す試験に合格するだけで大丈夫なんですか?」
アリアさんが聞いてくるので、私は首を振って答える。
「ハッキリ言って、今の状態だと〝講師としての資格〟なんて無理ですね。他人に教える以上、間違いは許されません。特に伝染病(感染症)は、一つの間違いが命に関わるんですからね? アリアさんは最初の試験で99点、次の試験からは100点を連発してますから充分なんですけど… 他の魔法医達は、最初の試験での最高点が48点… その後の試験でも、誰1人として合格点(100点満点中、95点以上)に達してないんです。アリアさんを除いた最高点は、タルキーニから来たジム・シュレッサーって30歳の魔法医で──」
「30歳かぁ… エリカちゃんも今年で30歳だった──」
「余計な事は言わんで良いっ!」
すぱぁあああああんっ!!!!
がごんっ!!!!
後頭部にハリセンをブチかまし、テーブルに顔面をめり込ませるミラーナさん。
…は放っといて、私は話を続ける。
「どこまで話しましたっけ…? って、アリアさんを除いた最高点は、タルキーニから来たジム・シュレッサーって30歳の魔法医ってトコでしたね。その彼でさえ、3回目の試験で82点です。他の魔法医達は、最高でも66点。こんな状態で〝講師としての資格〟を与えるなんて、怖くて出来ませんよ… ちなみにこれ、出す問題の順番は変えてますけど、毎回同じ設問です。問題は全部で50問で、1問につき1~3の答えがあります。勿論ですけど『この問題の答えは3つ』とかのヒントはありません。答えが幾つ在るかを考えるのも必要ですからね」
私がテーブルに置いた問題用紙を手に取り、真剣に見るミリアさん、モーリィさん、ライザさん、ルディアさん。
ちなみに顔面がテーブルにめり込んでいるミラーナさんと、1回目以降100点満点を連発しているアリアさんは不参加。
なお、問題用紙を見終えた4人は、頭から煙を出してダウンしていたのだった。




