第248話 エリカと有名税?
「エリカちゃ~ん♪ 久し振りって言う程でもなぁが、久し振りじゃねぇ♪」
と、プリシラさんが首を変な方に曲げたサミュエルさん引き摺って、満面の笑顔で診療所にやって来た。
をいをい…
てかサミュエルさん、顔色が紫になってるんですけど…?
「何があったのかは敢えて聞かない事にしますね… とりあえずですけど、パッと見た感じ… サミュエルさん、首の骨が折れて死ぬ寸前って感じですねぇ… 通常の治療費の銀貨1枚に加え、緊急蘇生処置の代金… 金貨2枚を請求しますね♪」
「ちょっ! ちょっと待ちないっ! サミュエルが死にかけてるんはどうでも良いんじゃが、蘇生処置の代金が金貨2枚!? 何でそがぁに高いんね!?」
いやまぁ… 緊急だし、死にかけてる人を蘇生するって言う重大事案だし、それぐらいは払って貰わないと…
そもそも緊急蘇生処置を施すとなれば、それなりに多くの魔力を使うし(私にとっては微々たるモンだが…)…
なによりサミュエルさんをこんな状態にしたプリシラさんには、それなりに責任を負って貰わないとな…
私が説明すると、プリシラさんは渋々ながら治療費を払い、サミュエルさんはギリギリで死地を脱したのだった。
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「サミュエルさん、本当に死ぬ寸前でしたね… プリシラさん、いったい何を──」
「それ以上の詮索は必要ありませんよ。まぁ、私が思うに、またサミュエルさんが何か手抜きをして、それにブチ切れたプリシラさんがハリセンを使うのを忘れてハンマーとかでサミュエルさんをブン殴ったってトコでしょうね。事実、首の骨が折れてましたし、頭蓋骨も陥没骨折してましたから…」
夕食時、私の話を聞いたアリアさんは…
「相変わらず、ハリセンを使う事を忘れてるみたいですねぇ… いつだったか、エリカさんがハンマーを使う前に深呼吸をして気持ちを落ち着け、ハリセンを使う様にって散々言ってたのに… プリシラさん、頭に血が上ったら何も考えられなくなってしまうんでしょうか…?」
と、あり得なくない仮説を述べる。
私は固い表情で頷くしかなかった。
が、一応のフォロー(?)は入れておく。
「まぁ、それはプリシラさんの職人としてのプライドとでも言うんですかねぇ… 絶対に許せない部分をサミュエルさんが侵害してしまったんじゃないですか? ほら、私だって問題のある言動や行動をした人をハリセンでブッ飛ばす事があるでしょう?」
「その殆がミラーナさんですけどね…」
私の隣で食事しているミラーナさんは、固まってしまう。
まぁ、事実だしな…
「で… でもさぁ… モーリィさんやライザちゃんだってハリセンを食らってるじゃんか… そりゃ、アリアちゃんが言う様に、アタシが食らうパターンが殆どだってのは理解してるけど…」
理解してるんなら、少しは自重しろよ…
余計な一言を言ったり、余計な行動を起こしたりするから私にハリセンでブッ飛ばされてるんだろうが…
「いや、確かにそうかも知れないけど… そんなにハッキリ言わなくても…」
ハッキリ言わないと理解しないだろうが、あんたは…
「あぅ…………」
夕食もそこそこに、ミラーナさんはフリーズしてしまったのだった。
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「ところでエリカちゃん… 新聞って知ってるよな…?」
翌朝…
立ち直ったミラーナさんが、朝食の席で私に聞いてくる。
新聞なんて、当然ながら前世から知ってますよ?
さすがに前世の事は言えんけど…
私は頷き答える。
「勿論、知ってますよ? 社会情勢一般または特定分野の出来事を報じ、対象とする層の中で読まれる事を前提に刊行される紙媒体の事ですよね? まぁ、発行元がヴィランですし、ロザミアに伝わるのは数日~十日前後はズレますけどね…」
ミラーナさんも同様に頷き、少し呆れた様に続ける。
「ま、数日~十日前後のズレが起きるのは仕方無いだろうな。なにしろ各地からヴィランに情報が集まり、それから発行されるんだから… で、まぁ、新聞に関してはエリカちゃんが言った通りの認識で間違い無い。その上で、だ… この記事を見てくれ…」
ミラーナさんが新聞を開き、指差した記事を読む。
勿論、診療所のメンバーも覗き込む。
そこには…
『ロザミア在住のエリカ・ホプキンス魔法医が、王都ヴィラン及び各地の魔法医達に講義と指導』
との見出しが大きく書かれていた。
そして内容はと言うと…
『エリカ・ホプキンス魔法医の指導に依り、王都ヴィランの魔法医達の医学知識が大きく向上か? また、魔力容量が少ないと言われていた地方の魔法医達の魔力容量も大きく増え、地方での治療活動の活性化も見込まれる。今後のエリカ・ホプキンス魔法医の活躍に期待』
しかも、ご丁寧に私の写真付き。
その大きさたるや、紙面の4分の1を占めるデカさ。
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はぁあああああっ!?
「ミミミミミ、ミラーナさん!? 何なんですか、この記事は!? それに、こんなにデカデカと私の顔写真付きで! しかも〝ロザミア在住〟って、私の所在地まで公表しちゃってるし!」
「わぁ~… エリカちゃん、一気にイルモア国中に顔と名前が知られちゃったねぇ…」
「これまではロザミアとヴィランぐらいにしか知られてなかったんだよねぇ… まぁ、マインバーグ侯爵様の領都の『メリルマート』と、ルグドワルド侯爵様の領都の『フィクセルバート』では、奥様達のかんこうへんだっけ? それを治した事で、多少は名前が知られてるかもだけど…」
「いや、チュリジナム皇国… 今は崩壊しちゃってるけど、あの国との戦で負傷した子爵様が居たじゃない? 確かフェルニック子爵様だっけ? あの人の治める街、タルキーニだったかな? そこでもエリカちゃんの名前ぐらいは広まってるんじゃない? フェルニック子爵様、かなりエリカちゃんに感謝してたみたいだし…」
ライザさん、モーリィさん、ミリアさんが口々に言う。
まぁ、確かに…
その程度の数の街で、私の名前ぐらいは広まるだろうなってのは思ってたよ?
でも、こうやって新聞に顔写真が掲載されるなんて、夢にも思わないじゃん!
そもそもあの時点では写真自体が発明されてなかった…
いや、発明されてたかも知れないけど、そんな事は私に知らされてなかったし!
……知らせる必要ありませんよね、そうですよね……
てか、この新聞に載ってる写真って、間違い無く〝キャサリン様とアンドレ様が結婚された時の記念写真〟から切り取ってますよね!?
私、写真の使用許可出してないんですけど!?
これって、肖像権侵害ですよね!?
訴えますよ!
…えっ…?
〝肖像権侵害〟って何だって?
肖像権ってのは、は自己の氏名や肖像をみだりに他人に公開されない権利なんだよ!
スポーツ選手が活躍してる場面とかなら、元々顔や名前が知れ渡っているから問題にはならないけど、私は一個人である上に、顔はともかく名前は一部の街でしか知られてないんだぞ!
それをフルネームで、しかもハッキリ・クッキリ写った顔写真を掲載しやがってぇえええええっ!
肖像権侵害でこの新聞の発行元を訴えてやるから、覚悟しとけよぉおおおお!
「えぇと…… エリカちゃん…? そのしょーぞーけんしんがいって何なんだい? アタシも王家の長子って事で法律についても勉強はしてたんだけどさ… 初めて聞くんだけど…?」
「へっ………?」
私は思いっ切り間の抜けた返事をミラーナさんに返す。
そして、肖像権と、それを侵害する事に対する弊害を説明したのだが…
「あぁ… なるほどなぁ… エリカちゃんの言いたい事は理解出来るし、納得も出来る。けど、写真自体が発明されて間が無いし、そもそも肖像権って考えがイルモア王国には無いんだよ… いや、写真自体が普及してない国に、そんな考えは無いだろうな…」
と、淡々と話しながら朝食を口に運ぶ。
……おいっ!
「まぁ、写真自体が世に広まり、エリカちゃんの言う〝肖像権〟とやらが問題になるまでは、国家としても動けないだろう… ってのがアタシの考えだし、父上も同じ考えだろうな… ま、今は我慢して貰うしかないってトコかな?」
言いつつバクバク朝食を平らげ、ミリアさん、モーリィさん、ライザさんを伴ってギルドへと出掛けてしまった。
ちなみにルディアさんは気不味そうな表情をしてたものの、仕事があるからとミラーナん達とトモニにギルドへ。
残ったアリアさんは…
「名前と顔が全国(イルモア王国内)に知られた事は………… 有名税とでも思っておきましょう♪」
何の慰めにもなってないわいっ!




