第245話 王都ヴィランでの水痘治療… etc…
ライザさんとモーリィさんを、完成したばかりのホプキンス総合診療所のダイニング・ルームの床にめり込ませた翌日。
私は木工業者のグランツさんに修理を依頼。
「エリカちゃん… もう診療所を壊しちまったのかい…?」
と、呆れられた。
わざと壊したのではないし、一部だけなので誤解を解く為に事情を説明すると…
「なるほどなぁ… まぁ、気持ちは解らなくもないんだがね… せめて床にめり込ませる様な威力のハリセンを使うのは控えた方が良いと思うぜ…? 今までは自分達で適当に直してたらしいけどさ、これからは入院患者も使う場所なんだから、それは出来ないだろ? 俺が言うのも何だが、業者に修理を頼んだら修理費だってバカにならないんだぜ? 俺が言うまでもなく、エリカちゃんなら解ってる事だろうけどな…」
グランツさんの苦言に、私はハリセンでシバき倒したモーリィさんを差し出し…
「確かに診療所のダイニング・ルームの床を破壊したのは私とアリアさんです。それは否定しません。ですが、その原因を作ったのはライザさんとモーリィさんです。ですが、ライザさんは私をヴィランまで運んで貰う必要があるので、今回の修理に従事させる事は免除してます。一応ですけどね… なので、私が王都から戻るまでは、モーリィさんを好きな様に使って下さい」
と、伝えた。
グランツさんは…
「了解した。てなワケで、今からモーリィちゃんは診療所の修理が終わるまでは俺の元で働いて貰う。エリカちゃんの言う通り、診療所の床を破壊したのはエリカちゃんとアリアちゃんだが… その原因を作ったのはモーリィちゃんだそうだからな。遠慮無く、こき使わせて貰うよ♪」
と、にこやかに言い、モーリィさんは…
「なんでぇ~っ!? 原因を作ったのは私だけじゃないじゃん! ライザちゃんだって原因じゃん! なんで私だけぇ~!?」
と、喚き散らしていたのだが…
「モーリィさんの言いたい事は解りますけど、ライザさんは私をヴィランまで運んで貰う必要があるんですよ? 国王陛下からの手紙で、ロザミアで流行してた〝水痘症(水疱瘡)〟がヴィランで蔓延してるのはモーリィさんも知ってるでしょう? そもそも、その話が原因… と言って良いかは判りませんけど、その話を儲け話にしようとしたから、私とアリアさんが2人をハリセンでブッ叩いたんですからね?」
私が睨みながら言うと、モーリィさんは納得したのかグランツさんと共に診療所の2階へと消えていった。
そして私は…
「それじゃ、ライザさん。早速ヴィランに向かいましょうか♪」
と、ライザさんと連れ立ってヴィランに向かったのだった。
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ライザさんが王宮の中庭に降り立つと、例の如く衛兵に囲まれるが…
私がライザさんの背中の小屋から姿を現すと、やはり例の如く全員が敬礼して出迎えてくれる。
そして…
「おぉっ! エリカ殿、来てくれたか! それにしても、こんなにも早く来てくれるとは! 途中の街や宿場町で足止めされ、遅れるのは覚悟していたのだが…」
「本当にのぅ… しかしエリカ殿、途中の街や宿場町で〝流行り病〟は蔓延しておらなんだのかな?」
と、捲し立てられたのだが…
「へっ? いや、途中の街や宿場町は、すっ飛ばして来ましたから… まぁ、様子を見る為に降りはしましたよ? その上で必要な指示を出して、少なくとも私が帰りに治療活動を行えば問題無い状態にしてからヴィランに来ましたから♪」
私が説明すると、国王陛下とランジェス大公は安堵の表情を浮かべていた。
すると…
「それなら安心でありますな。では、早速でありますが、エリカ殿には中央広場に赴いて頂き、〝流行り病〟の治療に当たって貰いましょう」
と、マインバーグ伯爵が微笑みながら歩いてきた。
なので…
「マインバーグ伯爵様、ご無沙汰しております♪ では、すぐにでも治療を始めたいので、治療所まで案内して頂けますか?」
私も伯爵に対し、満面の笑みで応える。
すると、国王陛下が軽く咳払いし、伯爵の胸に輝くメダルを指し示しながら言う。
「まだロザミアには連絡が届いていなかったであろうから知らないのも無理はないが… つい先日、彼は伯爵から侯爵に陞爵してな、現在は侯爵となっているのだ」
へっ?
いや、確かにマインバーグ伯爵は、前のハングリル王国との戦・チュリジナム皇国との戦での戦功で、侯爵に陞爵寸前って話は聞いてたけど…
あれから結構な月日…
って言うか、結構な年月が経ってるぞ?
その上で、今のタイミングで陞爵って、少しばかり遅いんでないかい?
「まぁ、少しばかり遅かったかも知れぬがな。ただ、このタイミングで陞爵し、その上で〝流行り病〟を終息させた立役者の1人として名を馳せさせれば、侯爵としての箔が付くであろうとの考えなのだよ」
私が疑問に思ってる事を察したのか、簡単にではあるが説明する国王陛下。
勿論、私は祝辞を述べました。
そして私は陛下の思惑を理解し、マインバーグ伯爵…
いや、マインバーグ侯爵を伴って、中央広場に設けられた治療所に向かったのだった。
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時は夕刻…
1000人は治療したと思うのだが、未だに治療を待つ患者の列は減る様子を見せないでいる。
「さすがは王都… と言って良いのか分からないけど、患者の数がロザミアとは比較にならないなぁ…」
私が治療の合間にボソッと言うと、すぐ側で患者の整理をしているマインバーグ侯爵が感心した様に言う。
「ロザミアでの〝流行り病〟の状況は存じていないのであるが… 確か、ロザミアの人口は3000人ぐらいであったかな? とは言え、患者の数はそれなりに多かったのではないか? エリカ殿は、それらを治療してからヴィランに来たのであろう? ここヴィランでの活躍を見ても、さすがとしか言えぬぞ♪」
まぁ、前世の知識で治療法とか知ってるからなぁ…
「ところでエリカ殿… 前回ヴィランで多くの傷病人を治療した時は、頑張り過ぎたのか夕刻には倒れていたと陛下から聞き及んでいるのであるが… 今はまだ平気なのであるか?」
そんな事もあったっけな…
私はマインバーグ侯爵に向かって笑顔を見せ…
「前回は治療に夢中で自分の事を考えていませんでしたし、重傷・重症患者も多かったですからね。でも、今回は自身に回復魔法を掛けながら診療してるんで問題ありません♪ で、この〝流行り病〟… 正しくは〝水痘症(水疱瘡)〟って言うんですけど… この病気、感染力が強いのは発疹が出る1~2日前から発疹出る当日までは感染力が高いとされているんです。ですが、2歳前後~12歳前後の小児や児童は軽症で済む事が多いですし、実際の患者も2歳前後~12歳前後の小児や児童が殆どですからね。まぁ、付き添いで来ている親御さんの中には、罹患した事が無かったのか、何割かは潜伏期の人も居ましたけどね」
「せんぷくき…? それはつまり、病状が現れていないだけで、実は病気に罹っている… と言う事であるか?」
私が説明すると、マインバーグ侯爵は理解してくれた様だが…
「まぁ、そ~ゆ~事ですね。ちなみに感染力… 他人に病気を移す力とでも言えば解りますよね? その力は中程度… 麻疹に比べると弱いんですが、ムンプス(流行性耳下腺炎:おたふく風邪)や風疹よりは強いってトコですね。通常なら重症化する事は少ないですが、妊婦さんは注意が必要です」
続いての私の説明に、マインバーグ侯爵の表情は一気に険しくなる。
「それはつまり、妊婦が罹患した場合… 妊婦自身や胎児に悪影響を及ぼすと考えて良いのであるかな…?」
大正解。
事実、妊娠中に水痘に初感染した場合は非妊娠時よりも重症化しやすく、妊娠末期では肺炎の合併が増加するのだ。
また、胎児と水痘の関係では、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が経胎盤的に胎児に移行して影響を与える事があり、特に妊婦が妊娠20週までに水痘に罹患した場合には子供に先天性水痘症候群のリスクがある。
影響は感染の時期により異なるが、感覚神経の異常、視覚原器の障害、頸髄と腰仙髄の障害、中枢神経系障害などの症状が起きる事があるのだ。
と、細かくマインバーグ侯爵に説明したのだが…
さすがに情報過多だったのだろう。
マインバーグ侯爵は、その日の治療が終わるとダッシュで王宮へと駆け込み、王宮勤めの魔法医達に私が話した内容を聞き捲ったらしい。
当然、私を超える知識を持った魔法医は1人として居なかった為、翌日は中央広場での治療を中止して、私を講師としての臨時講習会が開かれたのだった…
ヴィラン中に広まった水痘症(水疱瘡)の治療させろよ…




