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加速する想いと留まる想い④


□□□□□□□





秋月と一通り遊んだ(遊ばれた)あと、私たちは帰ることにした。

今日の部活はお休み。部長と副部長が、今後の部のスケジュール内容を打ち合わせするために、不在だからです。


今日は夕方からゆっくり過ごそう。明日から連休だし、演劇部が本格的に始動したら休む暇無くなるからね。

本当だったら沙希たちと一緒に帰ろうと思ったんだけど……。生憎、沙希は急遽入った委員会で不在。智花と柚子もそれぞれ予定があると言われ、結局……。


「先輩、帰ろっか?」


何故か秋月と二人で帰ることになってしまった。


「……もう何もしてこないでよ?」


さっきまで秋月にちょっかい出され。それを文句言って、追い掛け回したから、かなり体力が減っている私。さらに何かしてきたら、本当に怒るからね?

はぁ~~、全く。とんでもないヤツに懐かれたものです、私も。一人で帰るって言ってんのに、送るって言い張ってきかないし。疲れてるのなら、またお姫様抱っこしてあげるとかフザケたこと言うし。仕舞いには、


「先輩とまだ……一緒にいたい」


と、甘えてくるし。


最近では弟がもう一人、本当に増えた気がしてくる私。それも、とても手のかかる弟が。まぁ、いいんですけどね。とりあえず好意を持たれているみたいだから、無下にするわけにもいかないし。秋月なりに私のこと、気遣ってくれてると分かったし、ね。嫌がらせとか。


「あ、先輩。手、繋いでいい?」

「……あんたねぇ~……」


「はい!」と、ニコニコと差しのべられた秋月の手を見て、私は溜め息をついた。

手を繋いで帰るってこと? そんな、子どもじゃああるまいし。何でよ。


……そういえば颯太も。小学校まではよく「ねーちゃんと手ぇつなぐー」ってせがんできたっけ。


「秋月、私の弟になるつもり?」

「は?」


私の問い掛けに目が点になっている秋月。そして、何だかよく分からないけど思いっきり口を尖らせてきた。


「何で俺が流香先輩の弟になんなきゃならねーんだよ。ちげーよ」


あれ、違うの? てゆーか、ぶすくれてます秋月くん。美形が台無しです。私、何か間違ったのかな?


「だって手を繋ぐって、昔の颯太みたいなこと言ったから」


私が説明すると、秋月から「あの野郎マジでシスコン」と聞こえた気がしたけど、否定できないので聞き流させていただきました。


「そーじゃなくて!」


ぐいっ、と秋月は私の手を無理矢理握ってくる。


「……俺が……その。た、ただ繋ぎてーんだよ」


少し顔を赤くしながら言う秋月。もしかして照れてる?しかも、どもってるし。


「ふふっ、秋月照れてるの? らしくないよ、何か可愛い」


私は正直な感想を思ったまま秋月に伝える。

本当に大きい子どもだなぁ。そんなに手を繋ぎたいんだ? 仕方ない。じゃあおねーちゃんが繋いであげよう、なんてね。


「か、可愛い言うなよ! ……もういい! ……帰ろう?」


ょっと拗ねた秋月に私は微笑みながら、教室から出ようとした。そこへ。思わぬ来客が。


「流香! 今、お前も帰り?」

「あ、あっくん!」

「…………うぜーのが来た」


教室から出ていきなり、目の前にあっくんが現れて私は驚いた。思わず、秋月に握りしめられた手を慌てて離す。

どうしてここにいるの? あっくんがいるクラスは、私のいるクラスと結構離れているから、滅多にこちらには来ないのに……。


珍しいあっくんの行動に、会えた喜びで顔を輝かせる私。

それを見た秋月は、小さく舌打ちした気がしたけど、嬉しすぎて私はあまり気にしなかった。


「テメー、何しに来たんだよ」


ギロッとあっくんを睨む秋月。一度、前に廊下で鉢合わせして以来の組み合わせ。あ、この状況って、もしかしてヤバイかも。


「とっとと失せろ」


あちゃあ。思ってた通り。再び、敵意剥き出しの秋月があっくんに噛み付いてきた。


「アハハハ。お前、相変わらず怖い顔してんな~。そう睨むなって!」


噛み付いてくる秋月をものともしていないあっくんは流石です。爽やかに笑って私の頭をポンポンと叩く。


「ロッカーのこと聞いてさ、心配だからコイツを迎えに来たんだよ。流香、今日一緒に帰ろうぜ? 送るよ」


え? えぇ!? マジでございますか――――――っっ!? あっくんが……私を……心配して迎えに来て、尚且つ! あっくんから一緒に帰ろうって言ってくれましたよ!

思いがけないあっくんからの申し出に、私は最高にテンションが上がる。ある程度、体面は装ったけど。

でもきっと、隠しきれないぐらい、私の周りに嬉しいオーラが出ていたんだと思います。その様子を見ていたらしい秋月が、あっくんの登場で不機嫌だった顔を更に不機嫌にさせた。


――バンッ!


近くの壁に拳を打ち付け、あっくんに向かって唸り声をあげる秋月。いきなりの衝撃音に驚いた私は、ビクッと体を飛び上がらせるけど、あっくんはまだ笑っている。


「何がおかしーんだテメー! つーか流香先輩は俺が送るから、テメーは必要ねぇ!」


ちょ、ちょっとお! 秋月、怒ってる……? って! あっくんに何てこと言うわけ!? 何が気に入らないのか知らないけど……年上に対して、何て口のききかたなのっ!?

ぷうっ、と膨れている私をあっくんは「まぁまぁ」となだめてくれた。秋月も私が怒り始めたのに気付き、大人しくなる。


「……俺が先に、流香先輩んとこに来たのに……」


不平不満をあらわに。何やらぼそぼそと呟く秋月へ、あっくんはうんうんと頷いている。そして何か閃いたようで、私と秋月を交互に見て言った。


「じゃあ、皆で一緒に帰るか!」

「えぇ!?」

「はぁ!?」


ニカッと笑うあっくんに、私と秋月が揃って聞き返してしまったのは当然ですね。何せ、どこをどう転んでも、突拍子もない提案だから。





「え~~~~と……」


何だかおかしな展開になってしまいました。私を真ん中に向かって左側があっくん。右側に秋月。

あっくんの提案で三人一緒に帰ることになったのだけれど、どうにも居心地が悪いと感じるのは私だけでしょうか?


一先ず今は、教室から昇降口に向かう途中。あっくんは他愛もない話で盛り上げてくれるけど、秋月はさっきからずっとだんまりの一点。相当機嫌が悪くなっていると肌で感じる程、右側からビシビシとダークなオーラが出ている気がする。

一体、何でそんなに機嫌が悪くなっているのかサッパリ分からない!

そんな秋月の様子に、全く気付いていないあっくんは……恐ろしい。恐ろし過ぎる、鈍感キング。はためで分かる不機嫌オーラを感知せず、ベラベラと楽しそうに喋ってるんだもん……。


「お前さっきからだんまりだな~? どーしたー?」


あっくんは、ずっと喋らない秋月を気遣って話しかける。それを完全に無視する秋月。


「あれ、何か俺、お前に嫌われちゃったか?」


「アハハ~」と、言ってる内容とは逆に笑うあっくん。


大人だよ……あっくん。秋月があからさまに態度を悪くしているのに、笑って過ごすなんて……。尊敬の意味も含めて、私はキュンとなった。


「『お前』じゃねー。秋月楓様だ。なれなれしく話しかけんな」


逆にこっちは子どもです。目線だけあっくんに向けたと思ったら、またプイッとそっぽを向いてしまう。本当に、あっくんが気に入らないらしい秋月。いい加減、私は注意しなければと思い、秋月に話しかけた。


「秋月、どうしたの? 何がそんなに気に入らないの?」

「べっつに~~?」


――カチンッ


秋月から適当な返事が返ってきたので、私はちょっとイラッとした。


「何、その言い方。秋月、ちゃんと人の顔を見て返事しなさい!」

「ほっとけよ先輩」


――カチンッカチンッ


「ほっといて欲しいんだったら秋月、私たちとは別々に帰ればいいでしょ!?」

「それはヤダッ!」


段々と声を荒げてきた私に、秋月も怒った顔でぶつけてくる。ていうか、これは完全に駄々をこねてる感じですが。


「ヤダって……。だったらその態度を直しなさい! 私はともかく、あっくんが気を悪くしちゃうでしょ!? 折角、あんたも誘ってくれたのに!」

「まぁまぁ、流香」

「テメーは黙ってろ! 俺が今先輩と話してんだよっ!」

「秋月! 目上の人に『テメー』なんて言葉使わない! 何様なのあんたは!?」


ちょっと注意するはずが、感情が高まってとうとう秋月と口論になってしまいました。昇降口にはもうとっくに着いてたけど、立ち止まって私と秋月はギャーギャーとぶつかり合う。

そんな私たちの間に入って、あっくんがとりなしてくれているけれど、ヒートアップしている私と秋月はお構い無しに、益々声を荒げる。


「だいたい何だよ! あっくん、あっくんって! 先輩、コイツのことばっかり庇ってんじゃんっ!」

「当たり前でしょ!? あんたがあっくんに失礼な態度ばかりとってるからじゃないの!」

「へーへー。また、あっくんかよ。そりゃあどーも済みませんでした!」

「謝罪になってない! そんないい加減な謝り方、不愉快!」

「不愉快ってなんだよ! 俺だって不愉快だ! つーか、俺が先に流香先輩のこと迎えに来たのに、何でコイツまで一緒に帰んなきゃなんねーんだよ!?」

「別にいいでしょ一緒に帰ったって! 何なのあんたは!? さっきから子どもみたいなことばっかり言って!」

「子ども扱いすんな! 俺だって色々――」

「篤~~っ!」


一向に終わりそうにない私と秋月の口論に、鈴のような声が被さってきた。同時に、私たちの口論も止まる。

私が途中から入ってきた声に反応して、言葉を詰まらせたからです。


「あ? ……先輩?」


私の様子が変わったので、秋月も口論を中断し、私の顔を覗き込んでくる。


「篤~!」

「お、絵里じゃん」


――ドキンッ


私の心臓がそれまで激しく脈を打っていたのに、一気に収束した。


「……先輩? どうしたんだよ?」


私は秋月の問いに答えられず……。いえ、そもそも答えられる状況ではありませんでした。


――ガバァッ!


「………え?」


秋月が目を大きく見開きながらあっくんを見る。彼の視線の先にはあっくんと、あっくんの腕に絡みついている一人の女子生徒。


「篤、なんか早く終わったから一緒に帰れるよ! 篤も部活、今日ないんでしょう? 久しぶりにデートしよーよー」

「マジで? 何だよ、だったら途中でメールしてくれりゃあお前のこと待ってたのに」

「え? え?」


あっくんと、あっくんに『絵里』と呼ばれた女子生徒を交互に見ながら、秋月は混乱しているようです。そういえば話してなかったっけ。別に秋月には関係ないことだから、話す必要はないんだけれど……。


「あっ、でも悪ぃ~絵里。俺、今日流香を送ろうと思ってたんだよ」


私に指を向けてくるあっくん。それを見た彼女は「あぁ!」と思い出したように声をあげた。


「真山さん大変だったね。大丈夫? 私も篤から聞いて心配だったの」


パッチリとした大きな瞳が私を見てくる。そんな私は、何とか笑顔を作るので精一杯だった。


「ありがとう……倉敷さん……」


このぐらいしか言葉が出せない。笑顔も、いつまでもつか……。


「だったらしょーがないね。幼なじみだもん! 篤、私はいいから真山さんを送ってあげて」


幼なじみ……。

私はもう、この二人から離れたくて離れたくてしょうがない気持ちになった。だから、この場はこれで済ませるしかありません。


「大丈夫だよあっくん、倉敷さん。私、一人で帰れるから。……久しぶりなんでしょう? デートしてきなよ」

「……先輩?」

「え、いいのか流香? ……悪ぃな」


全身全霊で造りあげた笑顔を、私はあっくんと倉敷さんに向けて放ち、彼らを促す。それへ答えるかのように、爽やかな笑顔を返してくれるあっくん。


「じゃあ……バイバイ!」


私は素早く靴を履き変えると、二人に手を振り、走って校門まで向かう。


「待っ、……先輩!?」


私の突然の行動に慌てた秋月が私を呼び止めようとしたみたいだけれど、私は振り返らないでそのまま走った。


振り返りたくない。だって。あっくんたちが仲良さげに、手を繋ぎ始めたのを見てしまったから……。


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