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異変は突如として訪れる④

だいぶ遅くなってしまいましたが、新年あけましておめでとうございます!

まだ始まったばかりですがこれからも流香たちをどうぞよろしくお願いいたします。



放課後。

「せんぱ~い!」といつものように通る声が私のいるクラスにやって来た。


「……先輩。お友だちさん、どうしたの?」


前の赤い顔はすっかり失せて、普通の顔色に戻ってる。あ~、やっぱり風邪じゃなかったんだ。良かった、良かった。これなら部活に行けそうだね。

一応、相手が秋月でも後輩だから少し心配になってた私。こんなことを本人に言えば……うん、調子に乗るから言わないでおこう。


部活に行く前に私を迎えに来たらしい秋月は、沙希、智花、柚子から発せられている怒りのオーラに目を丸くする。


「いや、何でもないよ?」


とりあえず冷静な私。そりゃあ冷静になりますとも。


「何でもなくあるかぁ――――――――!」


バァンッと、沙希が机に両手を打ち付けた。


「私の可愛い流香に……よくも……。シメル。マジでシメル……」


後半、ブツブツとまるで呪いの言葉のように言っている沙希。冷静にならざるを得ません。

状況がよく掴めていない秋月は、それでも私たちに何かあったのだろうと察し、私に事情を聞いてきた。


「えーと、流香先輩? 何で小林先輩こんなに怒ってんの?」

「秋月楓、私らも怒ってるんだよ」

「そうだよ~?」


秋月が視線を向けると無表情の智花、ニッコリと笑っている柚子が目に入った。


「うわ。こちらさんも相当のようで……」


大半の男子はこの三人の有無を言わさない迫力にビビッていたけど、秋月はただ驚いているだけだった。凄いな秋月。ビクともしていないや。


「んで、どうしたんすか? 流香先輩は怒ってないようだけど」

「いやぁ~、私はタイミングを逃しちゃって……」

「これを見て、秋月!」


バッと沙希は、秋月の鼻先に先程の紙を見せた。

え!? ていうか沙希、秋月に見せる気!?


「何すか、コレ」


秋月は沙希に見せられた紙を受け取り、微かに眉を動かした。


「ちょ、ちょっと沙希! 秋月にわざわざ見せなくてもいいよ!」


私は無関係な秋月にまで嫌がらせを受けていることを知られたくなくて、沙希を止めようとしたけど遅かった。秋月は書いてある内容を全部読んだみたいで、ハイッと沙希に紙を返す。

う~ん……、あんまり色んな人に見られたくないんだけど。まぁ、見られてしまったのだったらしょうがないので、私は諦めることにしました。


「私たちが怒っている理由分かった!? 今日、流香の机に入ってたんだよ! しかもだよ? チビだのブスだのバカだの、合間に言われてたみたいだし!」


「何でずっと一緒にいたのに気付かなかったの私!」と頭をぐしゃぐしゃにして悔しがっている沙希を落ち着かせようとしている間に、智花が秋月にあることを要請した。


「秋月楓。普段は私らが流香の側にいるけど、部活している時は違うから、あんたが流香を見てくんない?」


へ!? 智花? 何を言ってるの?


「お願いね~。もしかしたらもっと酷い目に遭わされるかもしれないし~?」


ゆ、柚子まで! 何で? どうして二人共、秋月に私を頼んでるの!?


「了解っす。さ、じゃあ行こうか先輩! ぶ・か・つ」


って、ちょっと! すんなり了承ですか秋月! え~~~~~~~~? 

何だろう、この展開は。別に秋月は部活が一緒ってだけで、ただの後輩だし、関係ない気がするんだけど……。


秋月に腕を引かれながら、教室を出る私たちに沙希は再度、秋月に勧告した。


「秋月! 流香の事、頼んだからね! ……本当に……ムカツク!」


「???」


ピタッと止まった秋月の背中にぶつかり、ちょっと打ってしまった鼻を擦っていた私。だからこのあと、彼の声しか聞いてなかった。


「俺も……ムカツイてっから」


サーッと沙希たちから血の気が引く音が聞こえた気がした。

え、あれ? 沙希たち……何でそんなに青い顔してんの?

さっきまでの怒りオーラは何処に行ったのか。沙希たちは秋月を見て……怯えて……いる? 秋月がどうかしたのかと私も彼の顔を見上げて見てみたけど。


「先輩、行こ?」

「???」


ニコッと笑っている秋月がいる。

あれ、あれれ? 私の気のせいだったのかな?


「秋月……アイツ、ただもんじゃあない……ね」

「うん……」

「何~、今の顔~~」


既に私たちが去った後の教室で、沙希たちがこんなことを言ってるのを私が知る由もない。


私はその後、普通に部活して帰った。あ、勿論いつもの如く、秋月にちょっかい出されてヘトヘトに疲れましたが。





本日も晴天なり! 朝見たテレビの占いコーナーも、運勢が良かった! とりわけ恋愛運! ……って、今はそんなことを言っている場合じゃない。私は今、自分が置かれている状況を何とか打開しなければならなかった。


「これ…酷い……」


クラスメートの一人がポソッと言う。うん。私もまさか学校に来たらこんなことになっているとは思わなかったです。


「ぐぅ~~! 無理だ真山。俺らじゃ何ともなんねーよこれ」

「沙希たちが先生を呼びに言ってるんだよね? これ……何か道具でやられたのかな?」

「ベッコベコだな~、見事に」

「次、俺。くっ! あー無理。歪んでるから外れねーよ」

「……ありがとう、もういいよ。先生が来るまで待ってるから……」


えっと、一体何が起きたのかと申しますと。廊下にある体操着とか教科書を入れる私のロッカーがですね。扉がボコボコに壊されてて、開かない状態になっているんです。

流石に、これは効くなぁ~。涙が出る程じゃあないけれど、でも……ショックです。


何人かの男子が力ずくで開けようと頑張ってくれたけど、ビクともしない。扉が開けられない程、ボロボロにされたロッカー。そこまで恨まれるようなことを私、したのか……な?

何もしていないつもりだったけど、それは『つもり』で実際何かしたのかもしれない。じゃなきゃあ、こんなことにはならないもん。

どんどんと暗い気持ちになっていく私を他所に、女子たちによる黄色い声が聞こえてくる。誰か来たのかな?


「せんぱ~い! 何だよー。今日先に行くなんてさびしーじゃんかよー」

「……あ、今日、日直だったから……。メール……したでしょ?」


黄色い声の正体は秋月だった。元気のない私を認めると、秋月は一年生のくせに二年生をドカドカと退かしてやって来る。そして、私が立ちすくんでいる場所。私のロッカーの前まで来ると、一言呟いた。


「ここ、先輩のロッカー?」


コクンと、力なく頷く私。秋月の声はとても静かだった。どんな顔をして言ってるのか知らない。そんなの見る余裕、今はないから。


「ひっでーよなー。ここまでするかフツー?」

「しないよ! あんまりだよ! 真山さん? 元気出して?」

「教科書とかどーする? もう授業始まるし、先生に言って……」

「おい」


突然。秋月は、まだ扉を開けようとしてくれている男子の肩を掴んだ。


「ちょっと、どけ」


余りにも低い声で秋月が言ったから、その男子は自分の方が年上なのにも関わらず、「はい!」と言って立ち退く。


……秋月?


――バキッ


私と、私の周りにいたクラスメートたち。そして、少し離れて野次馬に来ていた他のクラスの子たち全員が一瞬、言葉を失った。中には唾を呑み込んでいる人もいる。

それは、無理もないことだった。今まで何度も開けようとしていたロッカーの扉が、留め具ごと外れたからです。

秋月の、たった一回の引きで。


「先輩、開いたよ!」


優しい笑顔で私に顔を向ける秋月。


「あ、秋月。その……」

「ん? これでロッカーの中の物出せっから。担任に言ってさー、空いているロッカー使わせて貰いなよ」

「う、うん……。秋月……凄いね」


へへっと頭を掻いて照れる秋月。秋月……背は高いけど、結構細身の体格なのに。見かけによらず、どれだけ力があるのか。そりゃあ今までだって、私を軽く抱き上げてたりしたけど、その比じゃあないでしょう、これは。何人もの男子が開けられなかったのに、たった一回引いただけで開けちゃうなんて……。


「秋月、ありがとう……」


私は驚きをまだ隠せなかったけど、素直に秋月へお礼を言った。


「いいよ、こんぐらい。また何かあったら言って? 俺、すぐ来るから」


――トクンッ


不覚にも私の胸が鼓動する。だって、余りにも秋月が。優しい目で。優しい声で。言ってくれたから……。

普段はフザケテて、不敵な笑みで私をからかってくるのに。こういう時にそんな顔して、ズルイよ。ちょっと、ときめいちゃったじゃあないですか。私、あっくんが好きなのに。


「流香ー? 先生連れてきたよー?」


沙希たちが工具を持った先生を連れてきた。でも、その時には既にロッカーの扉が開いてて、沙希たちも先生も物凄く驚いていたけれど。私は自分に動揺していて、それどころではなかった。初めて、あっくん以外の男の子に胸が高鳴ったから。


「お前が開けたのか? 秋月」

「そっすー。じゃあ先輩! また後で遊びに行くね」


呆然としている先生をそっちのけで、秋月は私にニコッと笑顔を向けると、そのまま自分の教室に行ってしまった。


「と、とりあえず真山。こっちのロッカーをこれから使いなさい。あと、一限目の先生には言っておくから、このまま職員室に行って、話を聞くからな?」

「……はい」


私はロッカーの中身を移動させた後、先生と一緒に職員室に行った。職員室の一角にある先生たちの打ち合わせスペースで、私は先生に、


「大丈夫なのか?」「何か心当たりあるのか?」「前にもこんな事があったのか?」


と色々聞かれたけど、あまり話した内容をよく覚えていない。ボロボロになったロッカーも、すでに頭から離れつつある。

私にとって、あっくん以外の。それもよりによって、秋月に。心が動いたことの方が衝撃的だったから。


十二年という長い時間の中で、たった一人だけの人をずっと想ってきた。それ以外の人は本当に興味なかった。

怖くて。あっくん以外の人に興味を持つのが。本当は凄く怖いんです。

自分の気持ちに変化が訪れるのが、怖くて仕方がない。

あっくんとずっと一緒にいたいという、幼い頃からの私の願いが崩れるような気がして。今までの関係も崩れるような気がして。

些細な出来事がきっかけで、これまで築き上げてきたものが、跡形もなく消えてしまう。そんな気がしてなりませんでした。それだけ、私にとってあっくんが全てだった……。


「真山? 聞いているのか?」

「は、はい! すみません」


考え事を中断して我にかえる。どうやら、私は先生との会話中に無言になっていたみたい。


「……お前もショックだったんだろう」


先生は私が無言になったことを、ロッカーの件で茫然自失したと思ったらしい。


「まだ一限目が終わっていないから、このままここでゆっくりしてるといい。今、お茶を持ってこよう。他の生徒には内緒だぞ?」


そう言って、先生は給湯室に向かって行ってしまった。本当は別のことを考えてたなんて、今更言えない。

少々バツが悪くなった私は、先生が持って来てくれたお茶をすすりながら、今度はロッカーの事を考えることにした。

一体、誰なんだろう? 廊下でのすれ違いと、机の中に入っていた紙。多分……いや、きっと全部同じ人がやったんだろうけど、私には皆目見当もつかない。

だからこう思ってしまう。実際、私が何か不評を買うような事をしてるんだったら直接言いに来ればいいのに……、と。


じんわりと目に涙が浮かんできた。やりきれない気持ちで胸が一杯。どうすればいいんだろう……。




一限目終了のチャイムと共に、私は先生にお茶のお礼を言って、職員室まで迎えに来てくれた沙希たちと一緒に教室へと戻った。

授業中、皆は私のことを、とても心配してくれてたみたい。沙希は少し涙ぐんでいるし。智花は励ますかのように、優しい微笑みを。柚子はギュッと、私を抱き締めてくれた。

そんな友人三人を見て。私はさっきまで、気落ちしていた感情が再び浮上してきたのを感じた。


あぁ……。私、大丈夫だ。こんなにも私のことを気にかけてくれる、素敵な友人たちがいるから。これから先、またどんなに酷い嫌がらせをされても平気だと、心の底から思った。

一人じゃない。私は決して、一人ではないことを、友人たちは教えてくれた。ありがとう、皆。

そう、これから先、何が起きるにしても私は『一人』じゃない。

色んな意味で。


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