異変は突如として訪れる③
「本当だ。すっごい秋月、弟よりも引き締まってるね」
「る、流香!?」
沙希たちも私の行動に慌てふためいている。
「触ってみる?」という私の問い掛けに「無理!」っと、首をブンブン横に振ってるし……。
触ってみればいいのに、秋月のお腹。
別に見たくはないですけどね。でも、どのくらいなのか気になった私。弟もよく腹筋してるし、そんな身内と比べてみたくて触ってみました。
「いつこんなに鍛えたの?」
まだ秋月を触っている私に、みるみる顔を赤くさせながら、秋月は答えようとする。
「いや、えっと、その……あの……、ちゅ、中学ん時に……」
あれ、何か秋月滑舌悪い。というよりも、どもっている? って、うわっ! 何その真っ赤な顔は!?
「どうしたの秋月!? 顔赤いよ? 風邪でもひいたの!?」
「ち、ちげーよ! お、俺、もう戻んねーと……」
あ、もう少しでチャイム鳴っちゃうからね。一年生のクラスは上の階だし、その前には戻らないと授業に遅れちゃうね。
「うん、早く戻んなさい。あ! 体操着忘れないでよ?」
「お……おう」
顔が赤いまま、秋月は自分のクラスへ戻っていった。本当に風邪じゃないのかな? あんなに耳まで真っ赤なのに。あ、秋月に説明させるの忘れてた。もう行っちゃったから、しょうがないや。
結局、当初の予定が外れ、仕方なく私が沙希たちに、
「なんか、懐かれたっぽいんだよね。何故かは分かんないけど」
とだけ言っておいた。そんな私をジッと見ていた三人は、コソコソと会話する。
「あの子、気付いていないんじゃないの!?」
と、汗をたらす智花。
「そうゆうことだったんだぁ~」
と、顔に手を当てて納得した柚子。
「岡田のこと、鈍感なんてもう言わせないよ」と、私に白い目線を送る沙希。
「???」
ん? 三人が何を話しているのか聞き取れなかった私。なので。チャイムが鳴ったのと同時に、とりあえずその場は次の授業の準備をし始めることにした。
「二年が一年に手ぇ出してんじゃねーよ」
「は?」
教室を移動している最中、私は誰かに耳元でボソッと呟かれた。振り返ってみても、休み時間の校舎はあちこちに生徒たちが点在している。誰が言ってきたのか分からない。何か言われた気がするけど、余りにも小声だっため、最初気付かなかった。
でも、廊下を歩く度に「チビ」「ブス」「バーカ」と正体不明の相手に言われ続け、私は何となく嫌な予想をした。別に面と向かって言われたわけではないから、あくまでも予想なんだけど……。
「どうしたの流香? ……何、その紙」
沙希が私の持っている紙を覗き込んで「あ!」と叫んだ。いつの間にか、机の中に入れられていたと思われるノートの切れ端。
その中身は、それはもう私に対する罵詈雑言のオンパレードだった。
「な……な、な、な、な~何コレ――――――――――っっ!」
沙希の怒声が教室中に響き渡る。それが余りにも迫力があったため、窓ガラスが振動している錯覚さえ覚えてしまう。
「どうしたの沙希!?」
「ちょっと見てよコレ! 流香の机に入ってた!」
ただならぬ沙希の様子に智花や柚子を初め、何人かのクラスメートが私たちの周りに集まりだした。
「はぁ!?」
「え~? 何なのコレ~!」
沙希がつきつけてきた紙を見せられて、智花や柚子もワナワナと震え始める。
「ねぇ……。それってもしかして……嫌がらせ……?」
集まったクラスメートの一人が、恐る恐る尋ねて来る。もしかしなくても、私の予想していた通り、これは『嫌がらせ』だった。
「誰だぁ――! こんなことするヤツはぁ――――! 出てこい、ごらぁ! シメルっ!」
嫌がらせをされた本人である私よりも怒髪天の沙希に、私はすっかり怒るタイミングを失ってしまった。美少女の怒り。想像を絶するほど……怖いです。
「何かしたのか? 真山ぁ~」
男子にも聞かれたけど、私自身、身に覚えがなかったから首を捻る。
「ううん、何もしてないと思うんだけど……」
「あったりまえでしょーがぁ!」
沙希の罵声が男子に向けられた。ビクッと体を震わせる男子。完全に怯えています。さ、沙希、落ち着いて! 余りにも怖さで彼、目に涙が溜まってるよ。
「流香、他に何かされたりしてんの?」
眉間にしわを寄せた智花が尋ねてくる。とりあえず私は、道すがらにチビやブス、バカと言われたことを彼女に話して聞かせた。そうしたら、今度は智花も唸り声を出し始める。
「ちっせぇーことをしてきやがって……」
沙希とは対称的に、智花は静かだけれども底が見えない怒りオーラを放つ。し、しまった! 智花まで!
そんなあわあわとしている私の肩に、ポンッと柚子が手を乗せて来た。ニッコリと笑顔を見せながら……。
「流香~? 相手が分かり次第、私行ってくるね~?」
一番ヤバイのは柚子です。笑いながら堂々と報復宣言してきました!
さ、三人とも怖すぎだから~~。別に直接的被害がないんだから、お、落ち着いて~~!
沙希たちの様子を見て、すっかり怒気が消え失せてしまった私は、逆に、嫌がらせをしてきた相手に対して懇願する。
何処の何方か知りませが、これ以上は何もしてこないで! あなたの身が危険です!




