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加速する想いと留まる想い①

どのくらいの文字数だと読みやすいんですかねー?

未だ手探りです(;゜Д゜)






「何ですぐ俺に言わなかったんだよー! 信じらんねー!」


昼休み。私は一人の男子生徒に両肩を捕まれ、思いっきりガクガクと揺さぶられていた。


「沙希ちゃんも知ってたんだろー!? 何で俺に黙ってたんだよーっ!」

「だってさ、あんた絶対に取り乱すと思ったから」


うん、その通りです。呆れながらこちらを見ている沙希のご指摘違わず、見事に取り乱しまくっています。その証拠に、折角ワックスで整えていた茶色に染めた髪は乱れ、制服のネクタイもずれてきた。


「ねーちゃん! 嫌がらせ受けてんだったら、真っ先に弟の俺に言うのが普通じゃんかっ!」


いえ、それは普通ではありません。


「相変わらずのシスコンっぷりだねー、あんたの弟」


嘆息する沙希。見慣れた光景とは言え、ますます呆れているようです。


「お恥ずかしい限りです」


私も認めざるを得ない。


「俺はシスコンじゃない! 姉思いの弟なだけ!」


それを、シスコンと言うのではないでしょうか?

まだ私の肩を掴んで揺さぶっているこの男子生徒は、今までの会話でお分かりの通り。私の弟、東楠高校一年生の真山颯太まやま そうたです。


朝の出来事を何処からか聞き付けて、心配で来てくれたみたいだけど……。


「もういい加減に離しなさい、颯太! 私は大丈夫だから。周りの人に迷惑でしょ!」


廊下のど真ん中で大騒ぎする弟に、今困っています。


「やだね! 何で俺を除け者にしたのか、納得するまで離さねーからな!」


こんな状態になるから話さなかったのに。しょうがない。ここは姉としてガツンと一発!


――ガツッ


あれ? いやいや、私ではないですよ? この『ガツッ』は。


「テメー、先輩に何してんだ」


私の背後から伸びてきている腕が、颯太の頭を鷲掴みしている。そして、もう一本の腕が私を包み込むように覆ってきた。首だけ動かして後ろを振り返ってみると。うわっ! そこにはメチャクチャ颯太を睨んでいる、秋月がいた。

秋月! いつの間に来ていたの!?


「あ、秋月、ちょっと待って!」

「イデデデデデデッ……ッッ!」


ミシミシと、颯太の頭が軋む音がしてきた。かなりの握力で、頭を掴まれているようです。


「あ、秋月。イ、イテーよ! ……アダダダッ! 勘弁! マジで勘弁!」

「うるせー、先輩に何すんだコラ。これ以上、先輩に近付くんじゃねー」


秋月は、私が絡まれていると思ったのかな? なんせ両肩を鷲掴みにされ、ガクガクと揺さぶり、一方的に問い詰められてるわけですからね。

私を助けようとしてくれている……ように見えなくもない状況。確かに、困ってました。でもこのままじゃあ! このままだと弟の……颯太の頭がへこむ! 


私は秋月の制服を掴んで、必死に止めようとした。


「待って、秋月! この子、私の弟! お・と・う・と!」

「え……弟?」


パッと手を離し、秋月は私と颯太を交互に見る。相当痛かったのか、颯太は秋月の視線に気付かず、涙目になりながら頭をさすっていた。

良かった。一先ず、弟の頭を潰されずに済みました。


「先輩、本当に弟? 似てなくない? 身長が……ププッ……先輩の方が、イデッ!」


よーし、今度は私が秋月の足を潰す番です。

私と颯太を見比べて、吹き出した秋月の足を、思いっきり踏まさせていただきました。そうですよ。どうせ私たちは似ていませんよ。颯太は私と違って、スクスクと育ちましたから。

秋月に負けないくらい、背が高い颯太。よく、間違われます。どちらが長子か。知らない人に、


「あら~、お嬢ちゃんいいわね~。お兄ちゃんと一緒?」


と、言われるのがしょっちゅうです。


あんたなんかに言われなくても、私と弟の身体的特徴差は歴然だと分かってますから! まだ笑いを止めないようなら、もう一回足を踏まさせていただきますけど宜しいでしょうか? 

私は、踏まれてもなお腹部をよじりそうになっている秋月に対し、冷ややかな視線を向けた。


でも、私の反撃はどうやらそこまでの様子。ふと、横から絶妙なタイミングで、親友の声が割って入ってくる。


「てゆーか私、気になってたんだけどさぁ~」


ずっと今までのことを傍観していた沙希が、おもむろに口を開く。そして、私と秋月を見てニヤッと笑った。


「あんたら、いつまでそうしてんの?」

「あ――――――――っ!」


痛みから復活したのか、颯太が最高に大きな声で叫んだ。その張り裂けんばかりの絶叫に、廊下を歩く生徒たちが一斉にこちらを見る。


「てんめ~秋月ー! 何、ねーちゃんに抱き着いてるんだよー!?」


はっ!

私も今になってようやく、自分の置かれている状況に気付きました。秋月に、背後から羽交い締めにされている私。そしてそれを秋月は、何てことでもないように、私の頭にあごを乗せてリラックスしている。どうりで颯太が叫んだあと、こちらを見ている生徒たちの視線が痛いと思いました。こんな、大勢の生徒が行き交う廊下で……私たち……なんて姿なの!?


「だって流香先輩、抱き心地が良いんだよな。ついつい」


黙れ秋月――――――っっ! 何を言ってるのこいつは!? セクハラ以外、何者でもありません! 恥ずかしい! 沢山、人がいるのに! 公衆の面前で吐き捨てるのは、それだけなの!?


「離して秋月ー!」

「やなこった。せっかく先輩が、俺の腕の中にいるんだぜ? 見す見す逃すかよ」


ジタバタと秋月から逃れようと暴れている私に、秋月はニヤッと、いつも通りの不敵な笑みを浮かべた。


「先輩~。昼休みが終わるまで……このまま抱かせて?」


本当に、何を言ってるんですかこいつは。はたから聞いたら、何て恥ずかしい台詞を言うの!?


「待てゴラー! させるかぁー!」


颯太は必死に、私から秋月を引き剥がそうとし始めた。でもこれ以上は騒がないで颯太! もっと目立つから!


「おーい、私も混ぜて~。てゆーか、流香は私の親友だから。つまりは私のもの! 一年のクソガキどもに渡すか!」


沙希まで乱入。もう収拾がつかなくなりました。


「小林先輩、俺にケンカ売ってる?」

「沙希ちゃん! 俺とこんな奴を一緒にすんなよ!」

「……いー度胸だな、弟。」

「テメーに弟呼ばわりされる、覚えはね――――っ!」


混戦状態となった場で、私は三人に揉みくちゃにされながら、最早諦めの境地にいた。駄目だ。私じゃあ、この三人を止めることは出来ません。

最終的には秋月と颯太の隙を見て、私を引っ張り出した沙希の勝利にとなりました。

だけど、急に真面目な顔をした沙希に、私たちの動きは自然と止める形に。


「分かってないわけ? あんたたち。ものすっごぉ~く、こわ~い顔をしてこっちを見ている子たちがいること」

「???」


私と颯太は、きょとんとした顔で辺りを見てみたけれど、そんな人たちは見つけられなかった。

怖い顔をしている人? そんな人、一体どこに……。


「知ってたよ。一年の女三人。二年が一人。三年も二人ぐらいいたな。あとちらほら」


なに!? 一体、いつ確認をしたのかと疑う程、秋月の口からすらすらと数字が盛り込まれた言葉が出てきました。これには私のみならず、親友も目を丸くせざるを得ないみたい。


「秋月、あんた気付いてたんだ?」


沙希は驚いた面持ちで秋月に問い掛ける。それをシレッとしながら、秋月は答えた。


「当然。んなことだろーと思ってたってーの。……挑発してみたら、見事引っかかってきやがった。顔はもー覚えたし」

「な、なんの話? 二人とも?」

「え? え? 話ついてけねーんだけど?」


何かを確信したらしい沙希と秋月は、未だに困惑状態である私たち姉弟に向かって、「はぁ~~っ」と長い溜め息をついた。


「んだよ、その溜め息!」


二人に、というよりも、秋月に対してカチンときたのか、颯太は憤慨している。私はそんな颯太とは反対に、二人から話を聞こうと思った。

だって、沙希は妙に深刻なそうな顔をしているし、秋月は苦虫を噛み締めるような顔をしているから。


「あのね流香。私、あんたから色々と話を聞いてるから変な考えとかないし、そもそも興味もないから何も思ってなかったんだけど……」


後半はちょっと言葉を濁しながらも、沙希は私に伝えなければと感じたのか、ハッキリと言ってきた。


「あんたに対する嫌がらせ、コイツのせいだわ」


ピッと沙希が指を向けた先は…………秋月? 秋月に目を向けると、耳の裏をぽりぽりと掻きながら、まだ渋面な顔をしている。


「……女って、うぜー」


そう独りごちる秋月は私と目が合うと、何とも言えない顔をした。


「俺のことほっとけよな。どいつもこいつも」


再び深い溜め息をつく秋月。


「あ~~」


颯太はようやく合点したという顔で秋月に詰めよる。それは私にとって、知られざる秋月の一面。いえ、実際には知っていました。でも、これまででは到底知る由もなかった、後輩の実状を垣間見るもの。


「お前とねーちゃんのこと、俺のクラスの女子たちがバカ騒ぎしてたっけ、『秋月くんと一緒にいる女は誰!?』って。つまりはあれだろー沙希ちゃん? コイツのファンが、ねーちゃんに嫌がらせしてるって言ーたいんだろ?」


え? 颯太の、単純だけれども分かりやすい説明に、私は仰天した。それってつまり。


「ちょっと颯太! それどういうこと!?」

「どういうことって、ねーちゃん。そういうことだよ。秋月はさー見た目こんなじゃん? かなりモテんだよ。だけど普段、仏頂面してっから誰も近寄れないみたいでさ~」


え? え? 実状へ付け足すかのように知らされた、新たなる事実。それに対し私は、更に驚愕を覚える。

秋月って、いつも笑ってるんじゃないの? モテそうだとは私も前から思っていたけれど、颯太から聞いた新たな事実に、私はますます驚いていた。


「秋月、笑わないの? いつも私と一緒にいる時は笑っているのに」


私は颯太に聞きながら秋月を見た。


「えっと、その……」


どもり始めた秋月を遮り、更に颯太は続ける。


「そうだぜ~? いっつもこうムスッとしててさぁ~。男でもあんまり他の奴等とは馴れ合わないし。一匹狼ってやつ? あ、でもツルんでる奴らもいるけど。それでも、あんまり笑ってないよなー?」


颯太は「だろ?」と、秋月の顔を覗き込んでいるけど、当の本人は自分のことをペラペラと喋られて機嫌を損ねたのか、そっぽを向いている。


「だけど、流香と一緒にいる時は楽しそうだよねー?」


ニヤニヤとしている沙希に突っ込まれて、更に不機嫌になる秋月。

つまりは私は、そんな普段の秋月が私に対して特別とも言える態度をとっていることに、不評をかっているんだ。それが嫌がらせの原因。

そんな……。私はこれといって、秋月には何もしていない。むしろ、からかわれている立場なのに。


だけど、周りから見たらそうではないみたいです。あまり他人と関わらない秋月が、私と一緒にいる。笑っている。楽しそうにしている。秋月に好意を持っている人から見たら、妬みや嫉妬にさいなまれる可能性は、なきにしもあらずです。

嫌がらせの原因を、私はここでようやく理解した。そりゃあ、嫌がらせされるね。


「先輩、俺……」

「ん? どうしたの秋月?」


私の目の前に立ちすくんでいる秋月を見ると、また、あの淋しそうな顔をしていた。どこからともなく、悲しみの雰囲気も出しているような気さえする。私に対して何か言いたそうに口を開いては閉じ、また開く。言葉に出来ない感情が、彼の中に渦巻いているようにも見えた。


「その、ごめん。先輩。俺のせ……」

「秋月!」


秋月が発した声を遮り、ビシィと私は彼に指を向けた。

ちょっと言わせていただきます。

名前を呼ばれ、秋月はいつの間にか廊下に落としていた視線を上げる。意を決したように、私の次の言葉を待つ秋月。整った口唇を一文字に引き締め、神妙な面持ちの秋月は真っ直ぐに私を見た。

だから私は彼にこう言う。


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