【おまけ】哲平の楓くん観察日記(土曜の朝編)
おまけその③。
哲平目線による、楓の日常第二弾です。
時系列は期末試験直前の、楓が初めて流香の家に泊まってやらかして、颯太に激怒されて、追い立てられるように帰っていった直後の話になります。
「よっ」
「…………」
こんな土曜の朝っぱらから、人ん家のインターホンをピンポンピンポン鳴らしまくるバカは一体どこのどいつだと予想するまでもなく。
俺、森脇哲平の目の前に、にこにこと満面の笑みをたたえた楓が現れた。
「一体、何の用?」
「オメーに言うことがあんだよ」
そう口にする間もなく、ずかずかと遠慮なく我が家に入ってくる楓。
ま、こいつに遠慮って単語は脳内のどこにも存在しなく、いつも通りのことなので、何も言わずそのまま俺の部屋に向かう友人の後に従った。
やけに機嫌がいいところを見ると、楓的に何かいいことがあったのは明白。
その『いいこと』を誰かに言いたくて、とりあえず手短な俺ん家に来たんだろうけど、今は俺、取り込み中だったりするんだよね。
「……朝っぱらから何やってんだオメー」
俺の部屋に入った瞬間、目の前に飛び込んできたパソコンの画面を睥睨しながら楓は問いかけてくる。
だから俺は間髪入れず、ありのままの現状を答えた。
「エロゲー」
正確には朝っぱらからじゃなく、昨晩からずっとやっているんだけどね。
ちょうどいいとこでお前が来たもんだから、多少間が悪いってのを自覚してもらいたいんだけど?
「土曜の朝だっつーのに、不健康なヤツー」
期待通り、楓に自覚は無し。
逆に非難を浴びせてくるあたりも予想の範疇だよ。
だけど敢えて言わせてもらうね。
普通の男子高生だったらこれぐらい、むしろ興味持ってやっているのが今の世の中だよ。
「今はエロ本以外にもメディアが充実しているからね」
「平面の女相手してんのが不健康だっつーの。リアル相手にしろ、リアルを」
おおっと、楓にしてはまっとうな意見が出たよ。
それは俺も同意するところではあるけど、これはこれで楽しい部分があるというのも理解してもらいたいね。
ま、無理だろうけど。
こいつは今、リアルに熱烈恋愛中だから。
「で? 俺のささやかな楽しみを妨害する理由をもう聞かせてくれてもいいんじゃない?」
「そうだ! ふふん、よ~く耳かっぽじってろよ哲平~」
俺のささやかな楽しみを妨害していないと心底思っているらしく、朝一番に尋ねてきたのを微塵も感じさせないぐらい陽気でハツラツ。
要するに、うざったいテンションで楓は俺に申告した。
「俺、遂に流香先輩の彼氏になった!」
「……脳内じゃあ前からだったよね?」
「ちげーよバカ!」
水を差した俺に一喝を浴びせてきた楓はそれでも気分を害することなく、興奮冷めやらぬといった風情で『ついさっきあったこと』を俺に告げた。
「昨日、先輩ん家に泊まって一緒に寝て告ったら、付き合うの先輩がOKしてくれたんだよ! 分かるか!? 流香先輩が俺の彼女で! 恋人だぞ!? うっひゃあぁ~~~~~~っ!」
「…………全然分からないんだけど」
おかしくない?
どうして真山先輩ん家に泊まって、一緒に寝るなんてシチュエーションが出来て、そこから告白して、付き合うってことになるの?
順番がおかしいでしょ。
というより、メチャクチャ過ぎるよ。
弟の真山だっているのに、先輩ん家で一体何をしたんだお前は。
ハイテンションのところ申し訳ないけど、どう頭を捻ってもその場面が想像することが出来なかったから、俺は素直に祝ってあげることができなかった。
無理もない。
楓が言った内容は、難問中の難解問題に匹敵するぐらい要領得られないものだからね。
「どうしてそうなるの?」って思うのが常人の成すべき当然の反応。
流石の俺も、奇想天外奇天烈奇行に及ぶお前を全部理解してやることはできないよ。
ま、そこはこれまでのように、真山先輩にあますことなく突っ込んでもらえばいいか。
彼女なら、いや、楓と付き合える彼女だからこそできる所業だしね。
「とりあえず、上手いこと無事に事がおさまったってことか」
簡潔過ぎる結論だけど、相手が楓ならこの程度に留めておかないとやっていけない。
そう、これまで行動を共にして得た対応策にすぐ切り替えた俺は、友人の幸せをようやく祝ってやれるところまで落ち着いた。
「おめでとう。これからはより一層、楽しい日々を過ごすことができそうだね」
「ったりめーだ! もう今すぐにでも先輩んとこに飛んでって、イチャイチャしてーぐれーだもん」
はいはい、良かったね。
デレデレに顔を緩ませる楓を見てると、本当に朝っぱらからエロゲーをやっている自分が不健康に思えてくるよ。
一応健全ではあるものの、本物の健全な男子高生の前じゃあ形無しってやつ。
まぁ楓の場合、性に目覚めたのは真山先輩に出会ってからだから、偉そうに言われる筋合いはないんだけどね。
笑っちゃうよ。
今まで喧嘩だけしかしてこなかったやつが恋に震え、人に愛を語ってるんだから。
でも現状を見る限り、あいつの方が健全であるのは確か。紛れもない事実。
やれやれ。
このままパソコンの電源を入れててもどうせプレイできないから、落とすことにしようかな。
そう思った俺は、まだここに居座って真山先輩とののろけ話をするであろう楓に付き合ってやるために、やりかけのゲームを終了させようとパソコンの前に移動した。
だけど、この一瞬の隙があいつを野放しにしてしまったんだよね。
有頂天状態の楓はよからぬことをやりかねない。
まっとうな行動をしたためしがない。
決して目を離しちゃあいけないと分かっていたのに、徹夜で脳みそが若干鈍っていたせいか、その判断を俺は見誤ってしまったんだ。
でへでへと気持ち悪い笑みまで浮かべ出した楓はおもむろに窓辺へ立つと、ガラッと勢いよくガラス戸を開け、高らかに吠えだした。
「流香せんぱ――い! 大好き――! 愛してる――うげっ」
「ちょっと! 朝っぱらから人ん家で何近所迷惑なことしてんの! 止めてよ!」
「これが叫ばずにいられるかってんだ! 離せ哲平! 俺の先輩に対する想いは、まだまだこんなもんじゃねーぞ!」
「だからってなんでそれがうちで叫ぶことになるの!? 自分ん家でやってよ!」
「え、無理無理。俺ん家行くまで我慢できねーし、ここからの方が先輩ん家に近いから、俺の気持ち、先輩に聞こえるかもしれねーじゃん?」
こいつバカだろ! 正真正銘のバカだろ!
何しれっとさも当たり前みたいに、とんでもなくはた迷惑なことを言ってんの!?
そういうのはグッと堪えるもんじゃないの!?
俺も近所も迷惑だけど、当の本人である真山先輩だって迷惑だよ!
かなりの広範囲で、想いの丈を暴露されてるんだから!
どうにかして窓辺から楓を引き離そうと試みたけど、こいつと俺とじゃあ力の差は歴然。
止めることができず、楓は自分の気が済むまで人の部屋から愛の雄叫びを続けた。
多分機会はないとは思うんだけど、もし、真山先輩がうちへ遊びに来たら、今日のことは絶対黙っておかなきゃ。
あの人のことだから、恥ずかし過ぎて卒倒しかねない。
俺自身、もう肩身狭いしね。
今日からご近所さんに、どういう顔をして挨拶すればいいか分からないよ……。
ぐったりとしている俺の横で、スッキリした楓が今度、パソコンに食いついた。
楓が暴走したため未だ電源は落ちておらず、エロゲーの開始画面が煌々と映し出されているパソコン。
それがどういうわけか、友人の興味を引いたらしい。
「なぁ、ここにいるこの娘。ゲームに出てくんのか?」
「登場キャラなんだから当たり前。何? 人のこと不健康だって言ったくせに」
「いや、だって、この娘……」
そう言った楓は、キラキラと目を輝かせながらある一人の攻略対象キャラを指した。
それを認めた俺は、更にガックリと肩を落とす。
なぜなら、その指が示すキャラは真山先輩そっくりのロリっ娘だったからだ。
「そっちで興味持つんかい」
お前、本当にうざすぎる。
うなだれるしかない。
分かりやすいぐらい偏りすぎてる友人の好みに、俺はもうお手上げだよ。
気に入ったのなら、どうぞお前がそのエロゲーやってくれ。
「十八禁っつーことは? はっ! あーんな場面やこーんな場面も出てくるってことか!? 流香先輩そっくりのこの娘が、お、俺の前で……」
「鼻血、キーボードが汚れるから垂らさないで」
何が悲しくて、楓の鼻から零れ落ち始めた欲情の世話をやいてやらなくちゃならないの。
はぁはぁと荒い息づかい状態になった楓はほっといて、寝よっかな。
勿論、別の部屋で。
「なぁ哲平、腹減った。食いながらコレやるから、何か持ってこい」
「飲み物とお菓子もついでに持ってきてやるよ。それで俺の睡眠が確保されるのならいくらでも」
「さんきゅー。よし、俺はコレで勉強する」
期末が近いっていうのに、何の勉強をし始めるんだか。
ま、せいぜい不足がちな知識を頑張って補えば?
真山先輩がどう反応するかは知らないけどね。
「チューって、舐めまわすのもあんのか。へー。先輩やらしてくれっかなー? やりてーなー。あのちっちゃい唇を俺の舌で……」
「独り言はあんまり大きな声で言わないでね。大迷惑だから」
釘を刺したぐらいでどのくらいコイツに効果があるか疑問だけど、流石にそこら辺の常識はわきまえてるのか、大人しく真山先輩似のキャラを攻略していく楓。
まさか、俺が再び起きた頃には完全攻略どころか、その真山先輩似のキャラグッズをネット通販で注文までしてたのには驚いたけどね。
それはまた別の機会にでも。
とにかく、真山先輩と出会って以来、楓はことごとくやらかしてくれる。
二人が付き合うことになっても、まだ当分落ち着かないこと請け合うよ。
コイツがこんな感じだからさ。
「なー哲平、このモザイク、うざってーから外してーんだけど。先輩の肝心なとこが見えねー。どうやりゃあいいんだ?」
「………………そこまであからさまだと、かえって清々しいよね。お見事」
あと一応言っておくけど、それは真山先輩じゃないから。
このゲームのロリっ娘キャラ、『モモ』ちゃんだよ。
止めてくれないかな。
このエロゲーの所有者は俺なんだから、色々とやりづらくなる。
後輩として、真山先輩の武運を心より祈らせてもらう。
あなたには先々も、コイツのこんな部分もひっくるめてお願いしたい。
じゃないと、おちおちゲームすらできないからね。
≪完≫




