【おまけ】楓くんの独白
おまけです。
楓目線の短編。
今まで俺にとって、他人なんざどうでも良かった。
見かけでしか判断しねー。
気に食わなければいちゃもんつけてくる。
力を示せばとっととお手上げ。
誰も本当の俺の事なんか分かろうとしなかったし、理解をしようと見せかけて、腹ん中じゃあテメーの事ばっか押し付けてきやがったからな。
だからこそ、俺は他人を拒絶していた。
うざくて堪んねーっつーの。
あ、哲平は別な。
あいつはどっちかってーと同士みたいなもん。
変に頭の切れる奴だから、あいつも他の連中から浮く存在だったしな。
そんな俺だったけどあの日、運命の人に巡り合う事が出来た。
東楠へ入学早々、どっから噂を聞きつけてきたのかしんねーけど、上級生の奴らが体育館でやってた新入生歓迎会をさぼってる俺に喧嘩を吹っかけてきやがったのが始まり。
あ? トーゼン、返り討ちにしてやったっつーの。
あいつら如き、負ける俺じゃねー。
つーか寧ろ、その程度でよく俺に喧嘩しかけてきやがったたなと思った。
てんで弱ぇーでやんの。
だけど、そのせいで俺は極限まで機嫌が悪くなった。
高校に入ってからも、俺の周りは前と大して変わりねーと感じたからな。
そんな時だ。
俺の視界に、流香先輩が入り込んできたのは。
「辛いの?」
たまたま通りがかった桜が舞う校庭の片隅。
本当なら綺麗に見えんだろーが、俺には全くそんな風に映ってこなかったからつい見上げていた。
一片一片舞う花弁。
淡い桜色に見えるはずが、何故か灰色にしか見えない。
そんな俺が、猿の着ぐるみを着て、部活勧誘するために校庭を駆け回っていた先輩にとって辛そうに見えたみてーだ。
とことことやってきたらしく、見上げたままの俺の制服をくいくいと引き、聞いてくる先輩。
だけど流香先輩が放ったその一言こそ、俺にとって、何よりも投げ掛けて欲しい言葉だった。
ハッと我に返った俺。
誰が言ってくれたんだとすかさず振り返った後、ずっと下の方で俺を見上げてくる先輩と目がかち合う。
途端、俺の視界は一気に色が帯び始めていくのを感じた。
嘘じゃねーぞ。
灰色にしか見えねー桜が、流香先輩を見た瞬間、ちゃんと桜色に見えたんだかんな。
そんな桜が舞う中の流香先輩がこれだ。
テメーらちゃんとよく聞いとけよ!
きゅるんとした大きな目。
ぽってりぷにぷにと柔らかそうな頬っぺた。
思わず食いつきたくなるちっちゃな口。
肩までかかる茶色の髪が、ゆらゆら風に揺られてそんな流香先輩の顔を覆っている。
んで、ちまっとした身長。
そして何故か、猿の着ぐるみ姿。
それがちょこんと俺の制服を掴んで、すぐそばに立っていたんだ。
いいか!?
ちょこんと立っていたんだぞ!?
分かるか!?
衝撃なんてもんじゃねーぞ。
雷が俺に落ちてきたのかと思った。
なんつー可愛いもんがここにいるんだと思っちまった!
冗談抜きで一目惚れだ。
あの言葉をかけてくれたのが、まさかこんなに小さい人だとは思ってもみなかったんだかんな。
それっつーのも、まるで俺の心を読み取ってくれたみてーに流香先輩が、俺に声をかけてきてくれたからだけどな。
「大丈夫? 何か辛そうだけど?」
衝撃的過ぎて、固まってる俺にまた聞いてくる流香先輩。
確かに辛かった。
それが俺の本音だ。
どいつもこいつも上っ面だけで接してきて、どんなにこっちがイラついてても、障らぬ神に祟り無しぐれーの感じだったしな。
けど、んなもん全部吹き飛んだ。
今ここに、そんな俺を汲み取ってくれる人と巡り合えたわけだかんな。
この人になら、本当の俺を見て貰えるかもしれねーと。
実際、流香先輩は俺の思ってた通りの人だった。
俺が体調悪くて辛そうにしていたんじゃねーと分かると、にっこり「良かった」って微笑んでくれた。
どストライクだぞ、マジで。
俺にとっちゃあ女神や天使の微笑みより、何倍も輝いて見えた。
俺の素性なんて知らねーのはあっけど、裏がなく、純粋にそうやって笑ってくれた人は初めてだったしな。
「それだったらもし良ければ……」って渡してきた演劇部のチラシも、宝物のように見えた。
この人と繋がれる場所があるっつー証なわけだし。
当然、この俺が見過ごすわけねーだろ。
遠くにいる部長から、「真山! お前の猿はそんなものか!? 違うだろう!? 真の猿に目覚めるのだ!」と言われて、恥ずかしそうにもじもじと可愛い仕草しながらも「ウキィ!」と根性を見せた、そんな先輩のそばにいてーかんな。
だからじゃねーけど、流香先輩が俺のせいで怪我を負っちまった時は、死にたくなる程落ち込んだ。
ぜってー大事にしたい人だったから。
いつでも、どんな時でも。
ありのままの俺を受け止めてくれた先輩。
やさぐれてた俺の心を解きほぐし、救い出してくれた先輩。
そんな流香先輩を俺は心の底から愛していたから、余計に駄目だと思ったんだよ。
俺がそばにいたんじゃあ、流香先輩は幸せになれない。
どんなに先輩の事を想っていても、過去に色々としでかした俺がまた傷つけちまうかもしれねー。
そう思ったから。
だけど流香先輩は、やっぱり流香先輩だった。
どんなに傷ついても、打ちのめされても。
俺の事を想って、また一緒にいられるよう自分から迎えに来てくれた。
テメーの過去すらケリがつけらんねー、どうしようもねー俺なのに、先輩はまたそこからも俺を導いてくれたんだ。
マジで、嬉しくてしょーがねー。
今度は幸せ過ぎて死にそうだ。
まだこの世はくだらねー奴ばっかで、うざってー世界だけど、もしそんな世界に神だか仏だかがいるっつーんなら、俺はそいつらに感謝してーよ。
俺に、流香先輩を引き合わせてくれてありがとなって。
今、流香先輩は先輩の部屋で俺に後ろから抱えられながら、情報誌のページをめくっている。
夏休みにどっか行こうっつって守られなかった約束を果たすために、今度の週末遊びに行く予定の場所を決めている最中だからだ。
「秋月、どこにしよっか?」
くるって振り向いてきた先輩が、楽しそうに俺へ聞いてくる。
そんな愛しい流香先輩を見たら、押さえらんねーのは当然だろ?
振り向いた拍子に先輩の唇へ、俺は自分の口を重ねた。
んで、真っ赤な顔をした先輩に「先輩とならどこでもいい」って答える。
可愛い~~。
マジでやべ~~。
まさかまたこうやっていちゃいちゃしながら先輩と過ごせるなんて、俺は夢にも思わなかった。
けどこれは夢なんかじゃねー。
現実だ。
確かに流香先輩は俺の腕の中で頬を染め、でもにっこりと笑いかけてくれる。
これからはちゃんと幸せにすると、俺が決めたのは言うまでもねーだろ。
確約してやるよ。
先輩に、「惚れさせた責任を取りなさい!」っつって言われたしな。
責任?
勿論取るっつーの。
つーか最初っから、俺はそのつもりだかんな。
もう離さねーよ。
いくら先輩がやっぱり駄目っつっても、逃しやしねー。
こんなに愛している人は、先輩の他にいねーから。
流香先輩、覚悟しとけよ?
ちっと離れてる間にも積み重なった、俺の先輩に対する愛。
これからも遠慮無しに、全力で受け止めてもらうかんな!
大好き、流香先輩。
んで、これからもずっと愛してるぜ!
先輩!
≪完≫




