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今こそ伝える私はあんたの……③


「あ、あら?」


呻く颯太の上でこちらを見上げる沙希。

そんな彼女と同じように、冷や汗を垂らしながら笑いで何とか誤魔化そうとしている智花と柚子。


「あ、あはは……はははっ」

「え、えへへ~」


こちらは例え見つかったとしても、他のみんなと違い、余裕の素振りを見せる哲平くん。


「やぁ、楓。久しぶり」


そしてみんなの下敷きとなり、最後にまた呻き声を発した颯太。


「お、重て~~……。は、早く……どいてく……っ」


もう何の反応も出来ません。

ぽかーんと間抜けにも口を広げ、私は野次馬で来ていた五人を固まったまま見つめてしまった。

だけどそんな中、秋月だけは動く事が出来た様子。

ひょいっ、と呆然としていた私を両腕で抱えると、そのまま屋根から飛び降り、みんなの前に舞い降りる。

いきなりだったので、軽く悲鳴をあげた私。

でも、静かに下ろしてもらった後、ようやく固まった状態から我に返る事が出来ました。

どす黒いオーラは放ち始めた、秋月によって。


「何しにきやがったんだ? あ? テメーら」


あ、あわわわわ~。

相当怒りが込み上げてきてるみたいです。

それと言うのも、秋月にとってこれまでのシチュエーションがみんなに阻害されたと感じているからに他なりません。


「普通、もっと気を使うんじゃねーのか? 今は俺と流香先輩の蜜月だっての。これからもっと先輩といちゃつくはずだったのに、何勝手にぶち壊してんだよこら」


頭にいくつもの怒りマークが浮かび始めたのを私は確認しました。

みんなに邪魔されたとかなり感じてるみたい。

地の底を這うような低い声音で、五人を威圧する秋月。

だけどその彼に臆することなく、友人である哲平くんが口を開いた。


「いやいや、楓。ちゃんと退散するつもりでいたよ? 少なくとも俺はね。だけどやっぱり学校じゃあまずいというのが世間一般常識。弟の真山もいるんだから、そういうのは家に帰ってからした方が安心安全だと思うよ? それよりも、よく『蜜月』なんて言葉知ってたね。そっちに俺は感心した」


いやいやいや! 

いやいやいやいやいや! 

否定の意を示してるけど、こっちがいやいやですよ哲平くん! 

何を言ってるの!? 

まともに聞こえると思ったら、決してそうではありません。

安心安全だなんて、どっかの商品に使われてそうなキャッチコピーをそのまま使わないで下さい! 

しかも自分的に興味深く思ったのが、秋月の語彙が増えたという、まさかのそこなの!? 

もっともらしい事を言って、全然もっともらしくない! 

あわよくば、話題をすり替えようとしています。

それには秋月も気付いたみたい。

すかさず哲平くんに対し、言い返していた。


「あ? 何言ってんだ哲平。そりゃあ嘘だろ。どうせおめーの事だ、暇つぶしに、面白半分で茶々入れにきたに決まってんじゃねーか」

「あ、分かった? 当たり」

「テメ――――っっ! 言い切りやがったなぁ!」


えぇぇえええぇぇぇええっ!? 

私たちの様子を見にきたわけでも、秋月のムチャクチャぶりを止めにきたわけでもないの!?

まだ私は哲平くんの事を、よく理解していなかったみたいです。

正真正銘、楽しくこの場を引っ掻き回すために来た後輩。

どうりで便乗している節があると思ったら、流れに任せてるんじゃなくて、そういう事だったんですか。

それに私は愕然とさせられた。

でも、そんな状況を良しとする人物がここに二人。


「私ら以上の強者がここにいるみたいだね。これは先々楽しみだわ」

「だね~。ねぇねぇ森脇くん、それならお任せしちゃってもいい~? 私たちは見物人って事で~」

「いやぁ~、まだまだ先輩方には負けるよ。けど、高見の見物ならどうぞご随意に」


これからを予測し、何やらうきうきし始めた智花と柚子。

更には要望なんぞもしちゃったりしてます。

しかも、当の哲平くんはにっこりと満面な笑顔で答えているし。

突っ込み所が多くて、もう私だけじゃあ処理しきれません! 

誰か! 誰か助けて下さい! 

そこへ、願ってもない助っ人がやっと復活。

みんなの下敷きになっていた颯太が、張り裂けんばかりの絶叫を発しながら、むくりと起き上がる。


「あほか――――――っっっ! 俺はそこまで認めてねー! そっちがそのつもりなら、こっちだって今まで以上に邪魔してやらぁ――っ!」


い、いや、確かに一人でも突っ込み役が増えれば助かると思いましたが……。

向かう先は、これまでよりももっと混迷を極めると感じざるを得ない弟の発言。

それに私はまたもや愕然とさせられた。

颯太! あんたはおねーちゃんの味方なんだかそうじゃないんだか。一体どっちなの!? 

てゆーかもうこれ以上、突っ込み所を増やさないで! 

そんな颯太を認めた秋月が、哲平くんにプロレス技をかけた後、ゆっくり口を開いた。


「……弟ぉ、テメーも嘘つきやがったな」


じとりと、ねめつけるかのように颯太を見据える秋月。

颯太に対し、言いたい事は山ほどあるらしい。

だけど、どれを言ってもあまり自分で釈然としないのか、その言葉のみに留めた様子。

それを聞いた颯太も秋月と同様。じとりと彼を見据え、言い返していた。


「おめーに『弟』って言われる筋合いはねー」


少し落ち着きを取り戻したのか、秋月にそう答える颯太。

でも、これだけは言ってやるとでも言いたげに、言葉を続けた。


「俺はおめーの『弟』じゃねー。けど、ねーちゃんの『弟』だ。もうねーちゃんが辛そうに泣いてる姿なんて、見たくねーんだよ。それだけだ」


私がいつ、弟の前で涙を見せたのか。

思い当たる節があると言えばあるけど、ないと言えばない。

だけど颯太は、そんな私を影でこっそり見てくれてたんだ。

溜まらず私は弟のそばに駆け寄り、起き上がっただけでまだ座ってる颯太の頭を引き寄せ、抱き締めた。


「颯太……颯太……ありがとう。本当に、ありがとう……」


シスコンだと言われようが言われまいが、私にとって颯太は本当に姉思いの優しい弟。

感謝の気持ちを込めて、さっきは告げてあげられなかったお礼を、私は何度も颯太へ言ってあげた。

それを颯太は、ちょっと照れながらも答えてくれる。


「……ねーちゃんがそうやって笑ってくれたら……俺は別にいい」

「いい子だね、颯太。ありがとう」


抱き締めながら、弟の頭を撫でてあげる私。

弟も、私が心から感謝しているのを感じ取ってくれたのか、はにかみつつも身を委ねてくれる。

そんな私たち姉弟のやり取りを見ていた秋月。

おもむろに近寄ってくると、颯太から私を引き剥がし、果ては弟へ蹴りを入れるという暴挙をとる。

驚いた私はすかさず秋月へ抗議を入れようとしたけれど、彼の顔を見て、思い留める事にしました。

私を抱き寄せながら、少し顔を紅潮させている。

それは苦し紛れではあるけれど、お礼を兼ねた、秋月の照れ隠しだという事が分かったので。


「……まどろっこしいっつーの、ばーか」


ふふっ。

秋月も、颯太には感謝してるんだね。

ちょっと、いえ、だいぶやり方は粗暴だけど、素直に言えないもんだから、蹴りをいれるしかなかったんです。

秋月らしいかも。

ちゃんと颯太にお礼を言えば? 

そう、私は秋月を促そうとした。

けれど、秋月の分かりにくい感謝の気持ちを理解出来たのは、この場で私や哲平くんぐらいだったみたい。

仕返しと言わんばかりに、秋月の背中を思いっきり沙希が蹴りを入れてきた。


「何してんのこの馬鹿。弟くんは、あんたのためにしてあげたんでしょーが」


どかっ、と。

背中に上履きの底を押し付けたかと思えば、そのままぐりぐりと擦り付けている沙希。

はたから見たら、女王様といった風情の貫禄を身に纏わせています。

その行動にぎょっとしたのか、流石の哲平くんも秋月のフォローをしようと割って入る。


「い、いや。小林先輩、これは楓なりの……」

「黙んな赤毛。こいつにはね、いつか言ってやろうと思ってたから、今言わせてもらうわ」


ピシャリと哲平くんを遮った親友。

それを今度は秋月本人が、くる~りと首だけ沙希に向けると、不気味な笑みを溢して逆に促し出した。


「へー? 真っ向から俺に喧嘩売るってか。……上等じゃねーか」


ひょおっ! 

とてつもない怒りが、秋月の全身という全身から滲み始めてます。

私が焦ったのは言うまでもありませんね。

絵柄はまさに竜虎の激突。

キシャーという雄叫びと激しい稲妻が、どこからともなく出現したのを認めざるを得ません。


「ほほほっ。あんた如き、恐るるに足りないわ。あれほど私が流香を泣かせるなって言ったのに……小者風情が、調子づくなっての」

「その小者相手に、テメーは足蹴ってか? 随分と手が込んでんじゃねーか、なぁ?」

「アホじゃないの。手を出すまでもないって事よ。寧ろ、足を出したあげた事に感謝しな」


一歩後ろに下がって二人を見れば、それはそれは見目麗しき美少女と美少年のやり取り。

だけど、交わされてる会話はこれまで以上の喧嘩越し。

怒涛のように火花を散らし、睨み合っている沙希と秋月を見た私は、何とかこの場を収めようと懸命になる。

でも、私程度じゃあこんな状態になった二人を上手く止められません。

事態を重くみた哲平くんが、とっさに機転をきかせてくれなければ、です。

ただ、その機転が新たな混乱を呼ぶものではありましたが。

うっかりもいいとこですね。もう私、冷静に突っ込んじゃいますよ。


「小林先輩。とりあえず、足だけは下ろしておいた方がいいと思うよ? じゃないと、その位置から真山にパンツ丸見え」

「は?」


急に振られた颯太は、秋月に蹴られて未だ座りこんでたものの、何やら気付いたらしい。

「あ」という掛け声を、無条件で溢していた。


「沙希ちゃん、めっちゃ見えてる」

「~~っ!? ~~~~……っ! ……っ! っ!」


淡々とした颯太の感想が、見事険悪になった雰囲気をぶち壊してくれました。

でも、それは沙希の失態を露見させるもの。

みるみるうちに顔を真っ赤にさせた沙希は、声にならない声を発しています。

いつも気丈な彼女でも、流石に女の子。

こればかりは恥ずかしさで、秋月を相手にする余裕がないんですね。

私は弟に向かい、とりあえずたしなめる事にした。


「……颯太。そこは例え見えていても目をそらし、黙ってあげるのが親切なんだよ?」


身内に姉がいるんだから、少しは女心ってものを理解しておきなさい。

だけど弟はそんな私の注意にどこ吹く風。

けろっとした表情で、何の事はないと言ってのけてくれました。


「え? だってたかが下着だろー? 誰でもはいてんじゃん。たまたまなんだから気にする必要なくね?」

「…………こいつ、新手のガキか?」


その感性が信じられないとでも言いたげに、秋月も堪らないといった面持ちで、颯太へ突っ込みを入れていた。

うん。まさか秋月にも突っ込みを入れられるなんて、弟の感覚は姉の私にもよく分かりません。

でも、見られた沙希はそれ所じゃあないみたいです。

落ち着いている颯太とは裏腹に、あまりの恥ずかしさで悶絶していた。


「ぁぁあああっ!」

「だっせー」


またもや入った秋月の突っ込み。

仕舞いには誰もいない場所へさっさと移ろうと、私の手を引き始める。

って、ちょっと待った! このまま放置ですか!?


「先輩、とりあえずどっか行こ? ここじゃあ続きが出来ねー」

「は? 続きって何?」


手を引かれつつ、疑問に湧いた言葉をそのまま秋月に投げ掛ける私。

それを智花が代わりに答えてくれた。


「続きは続きだよ、流香。あんたも今更何言ってんの」


呆れたように言ってきた智花。

同じく、柚子も合の手を入れてくる。


「もう次の授業始まってるしね~。終わるまで、どこか二人でしけこんできて~?」


し、しけこむ? 

え、授業が始まってるんなら尚更、それこそ急いで行かないとまずくないですか? 

私は分かってて来たけど、みんなはそうじゃないでしょう? 

疑問が続いている私に、「さぁさぁ」と友人二人は送り出そうとしているけど、あんまり従えません。

踏みとどまっていると、興味深げに哲平くんが横槍発言をしてきた。


「なるほど、やっぱり血の繋がった姉弟ってわけだね。飲み込みが悪すぎる」


はい? 

え、私のみならず、颯太も含めて飲み込み悪いの? 

それってどういう事? 

秋月にも会えた事だし、普通はこれからちゃんと授業を受けようって思うんですけど。

そう思ってるのは私だけ? 

でも、本当にそう思っているのは私だけみたいでした。

「早く!」と急かしてくる秋月。

そんな秋月はすっかり眼中無しで、颯太へ「本当は見てないよね!?」と問いただしている沙希。

その沙希に、がくがくと体を揺さぶられてる颯太。

やれやれと肩をすくめる智花と、にこにこ満面のにやけ顔でこちらを見てくる柚子。

そして、それらを何やら客観的に考察し始めた哲平くん。

当然の事ながら。

この人数で。

このメンツで。

すんなり教室へと向かうわけありません。

分かっていた事なのに、秋月と無事再会出来た事で、すっかり私は忘れていたんです。

このまま落ち着いて先を進めないのが、『私たちの性分』だという事を。


「授業中なのに、やけに屋上から騒がしい声が聞こえてくると思ったら……くぅおるぁぁあああ! お前ら! こんなとこでサボって、何してるんだぁぁあああっ!」


きゃぁぁあああぁぁぁああっ! 

せ、先生に見つかった! 

しかも、よりにもよって生徒指導を兼ねてる『あの』体育教師に! 

やけに舌を巻きながら屋上へと怒鳴り込んできた先生に、一部の人間を除いて私たちは背筋を凍りつかせた。

最悪の場面です。

いくらこちらに正当な理由があったとしても、この先生に話は通じない! 

罰せられるのが、目に見えてます! 

そうはいかないと私たちは、先生の喝から逃れるために、慌てて屋上を脱しようと試みた。

ま、とある人物は、真っ向から先生に挑む気満々でしたが。


「るせーぞ、このゴリラ! テメーが遮ってんの分かんねーのか!? でけぇ図体をさっさとどけろごらぁっ! こちとら、先輩と二人っきりになりたくて仕方がねーんだっつーの!」

「あっ、あ、ああ、秋月!? な、何でお前が学校に……っ!? いや、それよりも貴様ぁ! 教師に向かって暴言吐くとは何事だ!」

「黙れっつってんだゴリ! おめーなんざぁ、とことんどーでもいいっ! 俺と先輩の愛の旅路は、誰にも邪魔させねぇ!」

「うん、馬に蹴られてなんとやらってね。とういうわけでずらかろうか? 行くよ、楓」


流石は中学時代、悪逆の限りを尽くしたと言われる秋月と哲平くん。

見事なコンビネーションで体育教師を翻弄し、転ばせ、あっという間に逃げ道を確保してくれました。

その活路を、私たちは急いで通り抜け、一目散に逃げ出していく。

バタバタと階段を駆け下りる様は、まさにコメディそのもの。

逃げ果せたはいいとしてすっかり顔もばれてるから、この後直ぐに訪れるだろう出来事に、いささか不安が過ぎります。

いえ、この後だけじゃあないですね。

こんな展開は、今だけに留まらないはずです。

これからも、この先も。

ずっとこんな感じで、私たちは過ごしていくんだろうと思わせられる。

なんせ、ドタバタの根源である秋月が、再び私たちの下へ帰ってきてくれたわけですから。

いつもメチャクチャな態度と行動で、普通だった私の日常を振り回してくれる秋月。

あまつさえ、私の身近な人たちをも巻き込むその存在感。

うん、計り知れないです。

最早予測不可能! 

でもそんな彼がもたらしてくれる日常こそが、私にとって、何よりの日常にもなりました。

かけがえのない、楽しい一時。

大切な空間。

どこへ行っても、私たちの周りは賑わいが絶えないと思う。

それは、秋月が私のそばにいてくれるからですね。


ふと私は、逃走しながらも不謹慎に笑みを溢してしまった。

また今度は、一体どんな事が起きるんだろう? 

秋月と一緒にいると、どんな出来事が待ち受けているんだろう? 

そう、期待に胸が膨らんでいくのを、感じざるを得ませんから。

そんな私のささやかな問いを、まるで見透かしていたのかのように。

手を引いてくれる秋月が、おもむろに声をかけてきた。


「俺と一緒に行こう! 先輩!」





≪完≫


とういうわけで、これにて『先輩!!』は完結となります。

長かったですが、ここまで読んでくださりありがとうございました。

感謝感激で涙ちょちょ切れます。

ここまで長い物語を書いたのは初めてなので拙い箇所も多々あったかと思いますが、かなり考えて悩みもしたものの、精一杯、自分の持てる想像力を最大限に駆使したつもりです。

ぜひ、ご感想いただけたら嬉しいです♪


ここで完結となりますが、まだまだ小話はあるので引き続きSSや短編などを投稿しようと思っています。

あと、一応絵が描けるので挿絵も載せていけたらなーっと。

キャラデザも。

ちょっとまた時間をいただきますが、今後とも『先輩!!』をどうぞよろしくお願いいたします!

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