2月2週目 幼竜③
新月は、パヴァを彷彿とさせる甘えん坊だった。
とりあえず、突撃からのスリスリはリザ、俺、パヴァ、プチパチ&パタパタと一気にコンプリート。所要時間2時間です。自分がやられる分には困った話だが、ドラゴン同士でやっている姿はとてもホッコリしました。
で、その後友人連中に連絡を取り、動画付で自慢をするが、けんもほろろに門前払い。いやおまえら、俺は付き合ってやっただろーがと言ってはみるものの、あの時の俺みたいに相当暇でなければ、ウザい惚気話を聞きたくないというのは間違ってないけどな。
しかし、直前まで付き合わせていた側のメリー嬢まで断るとはいかがなものか。
俺は友人に恵まれなかったようである。
俺は新月を伴い、練習用コースの近くに来た。
幼竜の中でも、特に生まれたては訓練などができない。
しかし、練習風景を見せて、これから何をさせようとしているか教えるというのはアリだ。
教材、お手本となるのはプチパチとパタパタ。年も近いし、やる内容も幼竜用の内容だから、色々と都合がよろしい。
それに、自分たちに弟が――言い忘れていたが、新月は雄です――できたことであの2頭もテンションが高く、後輩に見られているというのがいい効果を生むかもしれないという打算もある。そのあたりは攻略サイトには、何も書いていなかったが。
さて。年長者2頭の準備ができたら、この2頭には競争をしてもらう。どちらが優れた兄、姉か競い合ってもらうのだ。
2頭ともに気合が入りすぎで、入れ込んでいる状態。今にも飛び出していきそうだ。
「用意はいいか?」
「キュゥゥ!!」
「ピィィ!!」
ちなみに「キュゥゥ!!」がプチパチで、「ピィィ!!」がパタパタだ。
今回、俺はどちらにも乗らない。NPCのトレーナーにご足労願った。理由はもちろん、競い合うのだから条件を同じにするため。一応騎手メインの俺が乗ると、補正値が入るから公平じゃなくなるのだ。よって、俺は新月と一緒に観戦モード。
設定したコースは12㎞で直線。天候その他の影響は無しにした。
距離を見ればパタパタは適正範囲だが、プチパチにはやや短い。
しかし、初心者補正の入ったプチパチ相手にパタパタが挑むことを考えると、若干パタパタ有利な設定をする必要もあるのだ。条件は公平です。でも、条件が公平であることと適正が公平であることは違うのですよ。……人はそれを屁理屈と言う。
そうやって誰にするでもない言い訳を頭に思い浮かべていると、2頭の勝負がスタートした。
最初に前に出たのはやはりプチパチ。サンダー・ドラゴンは瞬発力に優れ、加速度で言えばパタパタに勝ち目などない。ついでに最高速度もプチパチの方が上だ。
対するパタパタは完全にマイペースで、12㎞のベストタイムを出すための飛翔をしている。ストーム・ドラゴンの真価は最高速度や加速度ではなく平均的な速度。常に全力全開を出すわけではないので、無酸素飛翔とでもいうべきラスト3㎞を除けば、パタパタにも勝機がある。最高速度の8割程度と、ある程度以上のスピードまで出してもスタミナ消費が少なめなのだ。本来持久戦向きのスタイルのため、現在はスタミナアップを中心に訓練メニューを組んでいる。
直線勝負における駆け引きは、自分のペース配分に他ならない。
だが、プチパチはパタパタをやや意識して飛んでいるのに対し、パタパタはマイペースを崩さないという展開を見せた。これが少し勝負に影響することになる。
もともとが適正距離でないことに加え、最高速度を長く維持するのはプチパチにもできない。開始3㎞を超えたところでパタパタに追いつかれ、6㎞を過ぎたとこではパタパタに追い抜かれてしまう。巡航状態と言うか、全力全開でないときはパタパタの方が早いからね。
まあ、これはそこまで予想外の展開ではない。むしろいつもの事だ。だからか、プチパチの飛翔がパタパタを意識したものからマイペースのそれに代わる。遠目に、雰囲気が変わったのが見て取れた。勝ちにこだわり、自分らしい飛翔をしていなかったのに気が付いたようである。
パタパタが9㎞を先に越えたところでラストスパート。2秒遅れでプチパチが9㎞のラインを越え、やはりラストスパートをかけた。
こうなると2秒のリードだけでは厳しい結果となってしまう。パタパタは健闘し、ベストタイムを0.8秒ほど更新した。だが、パタパタに1.2秒の差を付けられて敗北してしまう。
戻ってきた2頭は、対照的な雰囲気を醸し出していた。
勝ったプチパチはどこか不満を抱え、あまり機嫌がよくない。
負けたはずのパタパタは満足そうで、上機嫌。
勝負の結果とは真逆の雰囲気であった。
レースとしての勝った負けたはプチパチが勝者だが、最初の展開において自分との戦いに勝てたのはパタパタである。事実、自己ベストを更新したパタパタに対し、プチパチはベストには遠い結果となってしまった。プチパチは気合が空回りした分色々と無駄があったようだし、満足のいく飛翔にはならなかったようだ。
体調的な部分はお互いベストだったが、これでプチパチが調子を落としているときにやった場合、パタパタによる逆転もあり得ただろう。それぐらい能力差が絶対とも言えなくなりつつあるかな?
「クー!」
いいレースを見せてくれた2頭のもとに、新月が飛んでいく。
機嫌の影響が多分にあったのだろう。飛び込んだ先はパタパタの方である。体を摺り寄せ、勝負を労っている。
より上機嫌になるパタパタ。不満を溜めこむプチパチ。
プチパチは自己評価が間違っていなかったと勘違いしているようで、素直に新月を誘えないでいる。ちょっと前まではこいつら自身が甘えたり、甘やかされたりする側だったというのに。精神的に成長し、思春期状態になったその在り方は男の意地の、間違った張り方でもある。
それが分かっているから、自己評価敗北のプチパチに俺は声をかけた。
「プチパチ、24㎞を5本飛ぶぞ」
「キュゥ!」
たまった不満は飛んで解消するのが一番だ。
俺はプチパチを伴い、コースに入る。
3本目以降はパタパタも一緒に飛ぶようになり、新月はそれに混ざりたそうに、地上から俺たちを見上げる結果となった。
なんだかんだ言って、飛ぶことに強く興味を覚えた新月を見て。
姉の貫録をみせたパタパタと。
悔しさをバネにさらに伸びるであろうプチパチ。
次の世代がデビューする来月が楽しみなぐらい、うちの牧場の将来は明るいようである。




