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2月3週目 猫村②

 今週もトレセンセールがあるのだが、幼竜を増やす気はあんまりないので、今回は見送ることにした。どちらかと言うと、繁殖・交配用のドラゴンを増やす方が先である。

 まあ、そちらに手を出すのも来月が最短だろうが。

 ……資金の調達には苦労しているんだよ。施設の方を順調に拡張しているが、その他に回すお金が全然足りないのが現状だ。

 最近はドラゴン用医療施設に、食事の質を上げるため牧草地の拡張を行った。次の目標はコースの拡充に厩舎の拡大だ。やりたい拡張を全部終えるのにリアル半年かかるという話だが、ツワモノは勝竜投票券を使いたった2ヶ月で終わらせるとか。俺には無理そうだから諦めた。

 人間、地道が一番である。





 割とどうでもいいが、新月の基本スペックはプチパチ未満、パタパタ以上のようだ。


 3週目になると、新月の体は2mから6mと、一気に大きくなる。成長期らしい。サイズがただ大きくなっただけでなく、デフォルメされて可愛らしかった雰囲気が薄れ、格好良く見えだしている。

 そうやって体が大きくなると性格の方も変わる気がしたのだが、そちらはあんまり成長していない。甘えん坊のままである。是非来月までこのままでいてほしいものだ。願わなくてもそうなるけど。



 新月の孵化絡みで最近は何かと忙しくやや放置気味になってしまったが、この牧場で一番重要なドラゴンはやはり成竜、レースに出るパヴァである。

 基本的に収入と言えばパヴァの賞金であり、次点が風霊牧場の2頭――ファーラカーラとインベティウム――の賞金となり、他は無い。そしてパヴァの賞金は全額俺が貰えるが、他2頭については風霊牧場にいくらか収める必要があり、満額貰えるわけではない。スペック的な差もあり、パヴァが俺の収入源として最重要なのは、否定しようのない事実である。



 俺はトレセンセールに行かず、事務棟にある俺の部屋でステータス画面とにらめっこをしている。

 重厚な机と革張りの椅子。趣味的に強化されたそこは、ヤクザの組長室を思わせる。当然、俺は猫アバのまま椅子に座りコーヒー片手に眉を寄せる。狭い猫の額がさらに狭くなる。

 何を悩んでいたかと言うと、一つの選択を迫られていたからだ。今俺を悩ませる問題は、パヴァに覚えさせる次のスキルだった。

 方向性は決まっているし、順番も考えていたのだが。


「≪急発進(カタパルト)≫のコストが重い……」


 スキルの習得は、レースや訓練で経験値を溜めて、溜めた経験値を消費して任意選択するのが普通だ。

 そして、その消費経験値(コスト)はドラゴンの能力やそのバランスによって上下する。パヴァのスタイルは≪急発進≫向けだし、相性は悪くないはずだったのだが。なぜかコストが重く設定されている。

 スキルツリーが解放され、選択肢として表示されたコストは攻略サイトの示す範囲の中でもかなり高めになっている。上級スキルという事でコストは重めになるだろうと思っていたが、予想をはるかに超える消費量に俺は二の足を踏んでしまった。

 逆に、≪人語理解≫≪スピードアップ≫といった他のスキルは両方とも取得しても≪急発進≫の約半分と、かなり軽い。


 そろそろGⅠに挑みたいので戦力を整える意味でもスキル取得は急務である。覚えたてのスキルを使いこなすための訓練期間も必要だし。

 それで1週間かもう少しは経験値をまた溜め直さないといけないが二つ取ってそちらに慣らしておくべきか、初志貫徹と≪急発進≫を先に取るかで悩んでいるのだ。


 スキルの効果、それによる総合的な戦力向上を見込むのであれば≪急発進≫の方がよいだろう。スタミナ管理に慣れさえすればレースを思う方向に進めることが出来る。

 しかしだ。大器晩成と言うか、後々まで考えると、軽いスキル二つを先に取ることにも意義がある。この二つにはまだ先があり、そちらのスキルツリー解放を優先していった方が何かと便利なのだ。≪急発進≫の先は瞬発力系のスキルで消費するスタミナを抑えてくれるものとか効果は強力かつ便利で欲しいと言えば欲しいが、そこまで重視していないスキルしかない。コストの問題もあり、おいそれ手を出せないのだ。手を出すとしても再来月になるだろう。

 予想外のファクターが、俺の考えを揺るがしていた。


「手堅くいくか……それとも将来を見据えて……」


 瞬発力系のスキル習得に必要なコストだが、能力値の成長で軽くなる可能性も、十二分にある。今は重いが、1週間後には多少軽くなってくれれば経験値の節約にもなる。



 しばらく悩み、俺は理解する。

 結論なんか、出ないと。


 そうと決まればやることは一つだ。サイコロの神様に聞けばいい。

 俺はアイテムボックスから6面体のサイコロを1個、取り出した。

 偶数を≪急発進≫、奇数を≪人語理解≫≪スピードアップ≫に決めて、サイコロを肉球でつかみ、放り投げる。

 地を転がるサイコロはしばらく数字を変えながら転がっていったが、机の端で動きを止める。

 出目は、1だ。軽いスキル二つがサイコロの神様の選択だった。


 俺はその決定に従い、スキル二つの取得を行う。

 そして余った経験値とスキル取得に伴う能力変動により、少しコストが軽くなった≪急発進≫を確認してオープンクラスのレースを選択。



 ここでもう少しスキルツリーの確認を行っていたら、何かが変わったかもしれない。

 だが俺はパヴァと日本語で喋れるという新たな楽しみに目がくらみ、最小限の確認しかしなかった。


 新たにスキルを取った影響はもう一つ。

 スキルツリーの新規解放である。

 ≪人語理解≫を取ったことで会話系の、≪スピードアップ≫を取ったことで能力値強化系のスキルツリーが1段階解放されていたのだ。


 もう一つ付け加えるなら。

 スキルの取得は基本的にプレイヤーが行うけど。ごくまれに、条件が整うとドラゴンが自分で選んでしまう事もあるのだと。


 レアな話だけに無視していた可能性が俺の計算を狂わせる。

 いやまあ、なるようになると思うし、後悔はしてもやり直しはできないんだけどね?

 でも、ある種のお約束を、俺がするとは思わなかったのですよ。

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