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2月2週目 新月①

 2月2週目になると、待ちに待った、あのイベントが発生する。

 ドラゴンの、孵化である。



 俺はリザの部屋で、じーっとその時を待つ。

 待つこと5日目。今日も今日とて訓練などをこなし終えた後は、リザの部屋で待機している。

 ドラゴンにとって孵化を見られることは恥ずかしいことでも何でもないようなので、一切遠慮しない。逆に期待されていることが嬉しいらしく、リザの機嫌は割といい。上機嫌とまではいかないが、俺を邪険に扱う事は無い。大人しくしている分には歓迎されているようだ。

 うるさくすれば、さすがに怒られるよ? 二回ほど怒られて、反省した。

 今では置物のように静かにしている。


 子供が生まれるタイミングにはばらつきがあり、ランダム要素が加えられている。配合が遅かった俺の場合は、勿論後半にテーブル(乱数域)が存在し、前半は待ちぼうけを食らってしまった。

 待っている間は暇なので、思考領域で外部と回線をつなげてお喋り――本体(猫アバ)は無言のままだが――に興じている。他所はすでに孵化を終えた所もあり、わが子を自慢する友人たちの話を聞きに徹していれば、時間が経つのも早い。

 合間を見繕ってレースにも参戦しているが、集中力が微妙に、いや、かなり足りていないので、ランクはオープンまででお茶を濁しているのが現状だ。

 もちろん反省など、一切していないけど。

 パヴァだってそわそわしているし、身が入らないようなのもご愛嬌であった。



「(で、そうやって甘えるのよ~)」

「(1歳児達(プチパチとパタパタ)は、もう甘えてこないんだけどね。来月まで心の準備を万全にしないと)」

「(もぅ。すぐにそうやってそうやって水を差すんだから)」

「(ごめんごめん。でも、可愛がれるうちに可愛がっておかないと、後悔するよ?)」

「(その時は、次の子を可愛がるからいいの)」

「(はいはい。でも、愛情は公平にね?)」


 本日チャンネルが繋がったのはメリー嬢。

 あちらはすでに孵化を終えて、幼竜が愛らしさを振りまいている最中だ。幼竜との触れ合いを幸せそうに語るメリー嬢はちょっと幼く感じるほどである。その幸せオーラ全開なのは羨ましいけど、延々と聞かされるのは辛い。暇つぶしとはいえ、方法は選ぶべきだったと後悔している。

 後で自慢し返すため、今は(にん)の一文字だ。こちらの卵が孵化したら付き合った時間と同じだけ、自慢してやる……っ!!


 お互いに砕けた感じでポンポン言い合っているが、知り合って1週間という短さを考えると、メリー嬢が喋る相手に飢えるほどのボッチプレイヤーだったように思えてしまう。

 もっとも、こっちには知り合いらしい知り合いもいないようだし、それもしょうがないと思うけど。

 以前話に出てきた「友人」? そんなのカウントしないよ。



 そうやって日常会話をしていると、リザの方から、何かが割れる音がした。

 ピシ、パキ、と、薄く硬質な物が割れる音。

 その音に確信をもって、リザの抱える卵へ首を向ける。

 卵にはヒビが走り、表面から小さな欠片がポロポロと床に零れ落ちていく。ヒビは次第に大きくなり、最後に大きな穴が開いたと思うと、そこから小さなドラゴンが飛びだしてきた。


 卵から孵ったばかりの生き物は表面が濡れていたりしわくちゃだったりするのだが、ドラゴンはそんなことないらしい。

 生まれてきた幼竜は、全長2mに届くかどうか。サイズこそ小さいが、大人のドラゴンをそのまま小さく、ややデフォルメしたような姿をしている。

 鱗の色は母親(リザ)と同じ夜明け色。暗く深い藍色をしている。角などの形状からも母親似であるのは間違いなく、ステータス画面からもサンダー・ドラゴンであると表示されている。プチパチのような純血種でなく半純血種(ハーフ)なので、多芸な子に育つだろう。


 そして、スキルの所に「継承するスキルを選んでください」というメッセージがあった。

 親が獲得したスキルの中から選べるようである。

 ただし、これにはいくつか制限がある。

 親が、自力獲得したスキルであること。そして、上級に分類されるスキルまでであること。

 最上級スキルのような難しいスキルの継承はできないし、純血種固有スキルを継承し続けることもできない。

 継承は便利な分、ある程度はバランスを取ってあるのだ。


 俺は継承できるスキル一覧の中から、サンダー・ドラゴンとストーム・ドラゴンの純血種用スキルを選択する。この辺りは選択肢が無いともいえるので、迷う事は無い。

 選んだのはサンダー・ドラゴンの≪紫電の鱗≫とストーム・ドラゴンの≪創嵐≫のふたつ。

 どちらも癖が強く、いきなり使いこなすのが厳しいスキルではある。だが、それでもこの場で獲得しないともう手に入らないスキルで、半純血種最大の利点を捨てることになる。

 選べたスキルの中では≪能力強化・スピード大≫などの方が使い勝手がよく有効なのだが、それは後から取ればいいだろう。涙をのんで我慢する。


 あとは名前の選択だが……新月(シンゲツ)としておく。レース用の名前に漢字を使うことはできないが、幼名のときぐらいは使えるようだ。とりあえず、これでいいだろう。



 生まれたばかりの幼竜、シンゲツはまず母親の胸に飛び込む。

 そんな我が子に、哺乳類じゃないのでミルクではなく、いきなり普通の食事を与えるリザ。……母鳥が雛に虫を餌として与える動画を見たことがあるが、焼き肉を与える母ドラゴンと言うのも、なかなかシュールだ。

 ついでに言うと、産まれたばかりにもかかわらず、いきなり空を飛ぶ幼竜と言うのもどうなんだろう? ヨチヨチ歩きとか、そんなのを期待する俺が間違っていたんだろうか? いいんだけどね? どこか違和感があると言うか、腑に落ちないものがある。


 微妙な気分で親子の触れ合いを眺めている俺。

 やがて満腹になったのか、新月は母親の胸の中から部屋を見渡し、キョロキョロしている。なかなか好奇心旺盛なようだ。

 そんなことを考えていたら、新月の視線が俺に固定された。

 あ、と思う間もなく、新月は俺のところに突撃してきた。

 人間だったら尻尾を含めて2mの新月は自分よりわずかに小さいと思えるサイズなんだろうけど、猫アバの俺にしてみれば自分の3倍程度のサイズの巨獣に匹敵する。反応が遅れたため、物の見事に吹っ飛ばされてひっくり返ってしまった。

 新月はそんな俺に構うことなく興味をぶつる。腹に鼻先を押し付け、前足に引っ掛け、俺を掬い上げる。いきなりお手玉のように放り上げられた俺は、空中で一回転し、頭の上に腹から着地。思わず肺の中の空気を履きだし、「ぐへっ」と潰れたカエルのような声を上げた。

 その後も何が楽しいのか、体を上下させてリフティング。俺はサッカーボールの代わりに遊ばれることになった。


 責めるようにリザを睨み、母親によるイエローカードで何とか新月から解放される俺。

 叱られた新月は、それでもなお俺の方をロックしていて、お気に入りのおもちゃを見つめる目でこっちを見ている。



 ……メリー嬢に幼竜自慢をするのは、話のストックができてからでもいいよね?

 決して、「幼竜と一緒に遊んだ」ではなく「幼竜が俺で遊んだ」ネタを話すのに抵抗があるわけじゃないぞ?

 ホントだよ?

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