愛恋の火 2
イェオーシュアに誘われて試験会場に向かうと、紫紺のローブを纏ったドンカスターが佇んでいた。
「おお! 来たの。じゃあさっそく先生に手本を見せてもらうかの」
イェオーシュアが所定の位置に着いて、それから矢を二本持って構える。そして、
「はい!」
という掛け声を合図に十メートル先の場所からボールが右から左へ一個飛び出した。即座に彼女が矢を放ってボールに命中させ、そのすぐあとに今度は左からボールが飛び出すと、これも命中させた。
「これが一回目になります。二回目を始める時も同じように掛け声でボールが飛び出します。つまり自分のタイミングで挑戦できるってことです」
彼女がまた合図をする。ボールが順番に飛び出し、事も無くこれを命中させる。三回目に入る前に彼女が説明をした。
「三回目はボールが同時に飛び出してきます。一つはさっきと同じように、もう一つは上に高く飛び出します」
言って彼女はまた弓を構える。凛としたかけ声と共にボールが左右から同時に飛び出し、一つ命中させると矢継ぎ早にもう一つのボールが上がりきる前に命中させた。
「これで以上になります。では皆さん、頑張ってくださいね」
受験生が感嘆の拍手を送ると彼女は少し照れながらお辞儀した。
「アージェンティーク先生ありがとう。諸君らは今日晴れて成人になった。これからは自立した大人になる。友と狩りをし、協力し、互いに切磋琢磨し、優秀な狩人になることを切に願っておる……。おなごにモテるためにも是非とも頑張って欲しい」
受験者は皆一様に激しくうなずいていた。
「ではこれより、試験を開始する」
ドンカスターの合図で太鼓が一つ打たれた。
試験は粛々と進んでいった。一人目は一番最初にやるということで緊張したのか、一回目は失敗したものの二回目にボールを命中させた。二人目もまた一人目と同様に成功させると、とうとうアルフレッドの出番になった。所定の位置に向かう途中、イェオーシュアと目があった。彼女は手を胸に当てて"がんばって"と口だけ動かすと、アルフレッドだけがそれを理解して微笑んだ。
所定の位置に立ち、弓を点検する。そして一つ深呼吸すると弓を構え、かけ声を出す。すかさずボールが飛び出してきた。狙いすまして矢を放つが外れてしまう。そして続く二つ目もはずれてしまった。少し緊張していたのだろうか、アルフレッドは持っていた弓を降ろし、気分を落ち着かせるために深く息を吐く。二回目。アルフレッドが弓を構える。一つ目は外れた。二つ目、惜しくも矢はボールをかすめる。小さくではあるが落胆の声が後ろから聞こえてくる。周りには聞こえなかったが、"惜しいのう"とドンカスターがつぶやいていた。
二回目を失敗し、言い知れぬ圧迫感がアルフレッドに押し寄せてきた。彼は三回目に入る前に気持ちを落ち着かせようと目をつぶった。深く息を吸い、吐く。イェオーシュアが手本を見せた三回目をより鮮明にイメージする。ボールは同時に左右から飛び出す。一つは今までと同様に、もう一つは上に高く飛び出す。
――よし、高く上がるボールだけ狙おう!
そう念じてアルフレッドが所定の位置に立つ。矢を一本だけ持って弓を構える。一矢入魂の心構えをドンカスターだけが認めていた。イェオーシュアはただ祈り、見守っている。
「はい!」
ボールが一斉に飛び出した。片方のボールは無視し、高く飛び上がったボールにしっかりと狙いを定める。やがてボールは慣性と引力の狭間に到達し、一瞬だけ空中に留まる。
――ここしかない!
狙いすまし矢を放つ。ひゃうっ、ふつと矢は見事にボールを射抜いた。




