愛恋の火 1
三カ月が経過した。
陽光が雪を溶かし、爽やかな風が森を流れ、草木は春が来たことを教えあい、競い合うようにしては花達がその美しさを咲かせ、森に住む小鳥達も喜びの歌を奏で、獣達もまたのそのそと動き始めている。樹海に住む森の民達は来るべき謝肉祭の準備をしていた。祭りは樹海にある全集落が合同で参加し、年に四回、季節の節目に行われる。ちなみに春は謝肉祭、夏は納涼祭、秋は収穫祭、冬は聖誕祭となっている。いま準備している謝肉祭には森の民の男が成人になる儀式を執り行い、狩りの無事祈願をしていた。謝肉祭は三日間あり、その日程は初日に料理大会、二日目は試験、最終日はパーティーとなっている。その祭りには交流のある人間族も来ており、行商人も続々と広場に集まっては屋台の準備をしていた。もちろんアルフレッドとイェオーシュアもこの祭りの準備に追われている。そうした中、アルフレッドはある密かな決意をしていた。それは彼女と出会ってから三ヶ月もの間、胸のうちに秘めていた静かなる熱情を伝えようとするものである。
かくして謝肉祭が始まった。初日に行われた料理大会は下馬評通り、ドンカスターとベルベットの一騎打ちだった。ドンカスターの華麗な包丁さばきに度肝を抜かれ、かたやベルベッドの絢爛な飾り付けを見て観客は魅了されている。熾烈極まる二人の壮絶な闘いの結果は僅差でベルベッドに軍配があがり、喝采が起こった。
「今年こそイケると思ったんじゃがのう……」
「おふくろの味に勝るもんはないさね」
「それはそうじゃな! ほっほっほ」
五年連続で優勝するという快挙を成し遂げたベルベットの偉業を讃え、ドンカスターは彼女に永世料理名人の称号を与えた。そうして二日目にはいよいよ弓の試験が行われた。別室には伝統的な狩人の衣装を着たアルフレッドを含んだ五人の受験者が今や遅しとその時を待っている。
試験の内容は以下の通りである。
赤い毛糸で編み込んだ、直径三十センチのボールがある。射手がかけ声を出すと十メートルほど離れた場所からボールが左右一個ずつ飛ばされる。そのボールを射るというものである。一連の流れを三回やり、ボールは合計六つ投げられる。そのうち一つでも当たれば合格となる。なお、ボールを飛ばす人は公平を期して射手からは見えないようになっている。
くじ引きが行われ、アルフレッドの出番は三番目になった。そのあとに腕に包帯を巻いた試験官が試験内容の説明と弓の重要性や狩りの心構えなどを教えていた。
「……、以上である。なにか質問は?」
「もし一個も当たらなかった場合は?」
「それぞれの集落で後日また追試験を行うので安心して欲しい。しかし、出来れば一人漏れなく合格して欲しいと願っている。他に? ……、では試験を始める前に手本を見てもらう。本来なら私が手本を見せるのだが、狩りの最中、猪に不覚をとってしまった……。代わりに他の先生を呼んできた。紹介しよう、アージェンティーク先生だ」
ノックの音の後に長い銀髪を白帯で後ろにまとめ、頭に白い鉢巻きをして、空色のブラウスに白の長いスカートを履き、首から教師の証である紫色の編み込んだ紐を垂らしたイェオーシュアが部屋に入ってきた。そうして彼女がアルフレッドに気づいて小さく手を振ると、彼は驚いて口を開けていた。それを見て彼女は微笑んだ。




