惹かれあう二人 3
「各々方に来てもらったのは他でもない。先日、この樹海にほど近い集落が米帝の軍隊の手によって焼き払われた」
場内は騒然として一時どよめいたが、やがて静まるのを見越した白の法衣を身に着けた族長が発言した。
「世界大戦が起こると予見したエルフの民が干渉せずとしてこの樹海を去ってから百年……。せめて我ら森の民の為にとこの樹海に結界を張ってくれた」
「しかし、エルフの民が去っていった順から結界が弱まり、そこに人間達が侵入、略奪を行っているのが現状です」
そう深紅の外套を羽織った族長が言うと、それを機に他の集長も発言した。
「先の事件について、米帝軍の公式見解はどうなんだ?」
「公式見解もなにも、相変わらず報道規制を張っている。仮に発表があったとしても、また放火犯の仕業として処理するに決まっている」
「政府の見解は?」
「ドルオール卿が動いてくれてはいるが、なにぶん決定権が軍部にあるだけに、あまり期待できない。それに皇帝陛下が崩御なされてからというもの、枢機院での権力闘争のほうで手一杯のようだ」
「立憲政体法に於けるトロイカ体制か……。親シェイン、民族融和政策実現を掲げるドルオール卿、中立の立場を取る米英帝国軍総司令官ルクレール元帥総長、それと保守派のテールノワール首席宰相が第一統領の候補に上がっているともっぱらの噂だが……」
「まてまて、いまは米帝首脳陣の背景を探る時間ではない。これから我々の集落をどう守るかが問題だ」
「その通りだ、この前もシェイン族の集団拉致事件が起こったばかりではないか。ここはやはり我々も集団的自衛権を主張するべきだ」
「だがドルオール卿の手前もある。むやみに主張しても卿のこれまで我々に与えてくれた貢献を無にしかねない」
「しかしだな、現状は我々森の民が戦争の犠牲になっていることも事実だ。実際に他国ではシェイン族を徴兵している。しかも老人達は役に立たないと、その場で殺されていった噂もある」
この発言が出ると、場内は水を打ったように静まり返ってしまった。と、ちょうどその沈黙を破ろうと深紅の外套を羽織った族長が発言した。
「少し議題を整理しましょう。私の得た情報ですと、米帝は近々に露国首都モスクワに対する大規模な進攻作戦を展開すると報告があり、世界情勢もこれにより戦争が終結すると見ております」
続いて白の法衣を纏った族長も発言した。
「世間では厭世気分が広がっており、和平交渉の話も出ています……。問題はこの戦争が終わるまで、いかにこの樹海にある集落を守るか、この点を話し合いましょう」
他の集長達も続々と発言した。
「戦争が終わるまでは交易をいまより少なくしてはどうか?」
「いや、いまある集落をまとめ、いざ軍隊が来ても対抗できるようにしたほうが……」
「仮に集まったとしてもだ、我らだけで対抗できるのか? それに戦争が終わってからのこともある」
「人間達に危害を加えると困るのは我々のほうだ。武力による解決には賛成できない」
「では黙って同胞を見殺しにしろと……」
「そんなことは言っていない! ただ未来を考えれば我らの子供達が……」
「子供達を守るために戦うことの何が悪い!」
「そうだ! 我々森の民は太古の時代から人間達に搾取され続けてきた。その為に我らは冷遇されながらも、いまの時代まで森で静かに暮らしてきた。この森まで取り上げられたら我々は……!」
集長の一人が張り裂けんばかりにそう叫ぶと、場内には死のような沈黙が横たわった。すると議長のドンカスターが一つ咳ばらいをして、それから発言した。




