惹かれあう二人 2
ご め ん お。
彼女の精神世界で幾度もこだまするこの愛おしい四文字は、いまや金色に輝く天使の羽を生やしたわんわんおの姿に変わり、尊大にして不敵なる笑みを浮かべ、後光を煌めかせつつ九天から彩雲に駕して降臨した。その天使が彼女の頭上を飛び交い、地上では先ほどのわんわんおが四方を囲んでいる。やがて天使のわんわんおは虚空から召喚した弓で矢を放ち、彼女のハートを貫いた。
「じゃなくてごめんなさい……」
そう彼が人生に打ちひしがれたような声で付け足した。それを聞いて彼女はちぐはぐになった意識をなんとかつなぎ止めることができた。
「と、とにかくお弁当食べましょ……、ね?」
「うん……」
彼女がお弁当のフタにおかずを入れ、それを彼に渡す。そうして二人は黙々と食べ始めた。一人は天空で食べていた。もう一人は地底で食べていた。なんというアシンメトリーだろう!
食事を終え、彼女がかばんから水筒を取り出し、彼にお茶を手渡した。
「はい」
「ありがとう……、このお茶おいしいね」
「フフッ、どういたしまして……、ねえ」
「うん?」
「年はいくつ?」
「数えで十八だよ」
「じゃあ今年、成人式だ」
「そうだね」
「だから弓の試験に合格するために練習してたのね……、今度のお祭りは四月だから、あと三カ月か……、よし!」
そう言って彼女は一つ手を叩いて続けた。
「わたしが弓を教えてあげる。どう? いい考えでしょ?」
「うーん……」
「お弁当も作ってあげるから! ね? いいでしょ?」
「う、うん、わかった」
「じゃあ決まりね!」
彼が静かに立つと彼女に向かい、
「よろしくお願いします」
と一礼し、
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
と彼女も返礼すると、ふいになにかを思い出したかのように彼女がまた言った。
「あ、お花を摘みにここに来たんだっけ」
「ぼくも手伝おうか?」
「えっ?」
「お弁当のお礼がしたいんだ」
「あ、ありがとう。じゃあわたしはあっちに行ってみるね」
「うん、ぼくはこっちを探してみる」
それで二人は手分けして花を摘み始めた。
* * *
樹海は小さな山々と森に涌き水でできた湖で構成されており、主に三つの地域に分けられる。それを時計に例えるならば、零時から四時までを一つ、四時から八時までを一つ、八時から零時までを一つというように構成されていて、この三つの大きな集落の回りに複数の小さな集落が点在し、シェイン族が暮らしている。
イェオーシュアとアルフレッドが花を摘んでいる同時刻、樹海に点在している各集長達が臨時集会を開いていた。先のアルフレッドが暮らしていた集落が襲われた件の対応を検討するためである。集会が行われている議場内は扇型になっており、その扇の要に三つの族長席が設けてある。中心の席には紫紺のローブを纏ったドンカスターが、右隣に金髪で深紅の外套を羽織った若い女性、そして左隣に赤毛で白の法衣を身に着けた年配の女性が座っている。それに相対して円卓が置かれていて、各集長がそれぞれの席にじっと座っていた。そして、ちょうどドンカスターが開会の合図の代わりに口を開いたところだ。




