惹かれあう二人 1
記憶を思いだしつつ、アルフレッドはこれまでの経緯を簡潔にイェオーシュアに話していた。村を追われたこと。この集落に着いたのがつい最近のこと。いまは族長の家に寝泊まりしていること。他にも色々と話したいことがあったが遠慮した。長話をして女神に嫌われたくないと思ったからだ。
「ふうん、ドンカスター卿の家に居るんだ」
「うん」
そう返事してアルフレッドがおもむろにおにぎりを手でつかみ、口いっぱいに頬張ってみせる。塩も振っていないので白飯の甘味だけが口の中に広がっていく。
「ねえ」
「ん?」
そう返事する彼の口元に米粒がついている。それを見て彼女は可愛いと思った。
「わたしのお弁当食べる? おにぎりもいいけど、おかずがあるともっとおいしいから」
「うん、食べる!」
米粒がついたまま返事する彼の笑顔を見て、彼女は胸をつまらせてしまった。そうして犬さんウィンナーを渡そうとすると、
「あ、犬さんウィンナー!」
と彼がキラキラと瞳を輝かしている。ふいに彼女の頭の中に電球が光を放った。そして逸る気持ちを抑えつつ、妖しい笑みをしながら脳中に閃いた計画を実行した。
「アーン」
そう彼女が手を添えて、彼の口に犬さんウィンナーを運ぼうとする。
「えっ! い、いや……」
彼が戸惑うのもお構いなしに彼女がなおも続ける。
「はい、アーン」
「あの、その……」
と彼の顔が紅潮するのを見逃さなかった彼女が瞳を妖しく光らせて言う。
「はい、アーン」
ようやく観念した彼が真っ赤な顔して犬さんウィンナーを口にする。
「どう? おいしい?」
アルフレッドは目をつぶり、モグモグと犬さんウィンナーを食べていた。口の中に広がるはいつか食べた母の味、まぶたに映るは母のかんばせ……。それが彼自身を感動させ、喜びとして親しい者にしかしない言葉を口にさせた。
「おいしいお!」
お い し い お。
彼女の精神世界にて、幾度もこだまするこの愛くるしい五文字は"わんわんお"と姿を変えた。そして彼女を逃がさぬよう、周囲を取り囲んではぐるぐると回りはじめる。
「じゃなくておいしいです……」
言いつつ彼が赤面した顔を見られまいとうつむいている。彼女はというと、言いしれぬ衝動を抑えようと悶えている。それとは対照的に、いまや彼の心中では大きな後悔の荒波が押し寄せては返していた。
――ああ……、ぼくは一体何を言ってるんだ! もう十八だろ、立派な大人だろ。それなのに、よりによって初対面の人に……、子供言葉を使うなんて!
そんなふうに彼はパニックに陥っていたが、なんとか落ち着くための態勢を立て直すためにいま必死になって思案している。
――謝らなければ、ごめんなさいって言うんだ。ご、め、ん、な、さ、い……、よし!
彼は勇気を振り絞った。そしてなるべく悟られぬようにと、笑顔を作ってこう言った。
「ご、ごめんお……」
かわいそうに、口の中が乾いて舌がもつれてしまったのだ。もしくは勇気が緊張に押し潰されてしまったのかも知れない。
――終わった。
彼が心の中でそう呟くと、それはいつまでも鉛のように響いて、奥底に沈んでいった。




